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魔女と呼ばれるまで  作者: 葉山麻代
本編

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16/21

言ってはいけない言葉

 病院の廊下の椅子に座っていると、母の真子が駆けつけてきた。


「アオイ、いったいどうなっているの!?」

「ツカサが車に轢かれそうになって、助けようとしたお父さんも一緒に」

「あんたが一緒にいて、何でそんなことになるのよ!」

「え?」


 アオイに落ち度はない。ましてや、小学校2年生のアオイには責任すらない。でも真子にはアオイにあたる以外、できることがなかった。


「アオイ、2人は助かるのよね?」


 真子は、アオイの両肩を揺さぶって尋ねてきた。


「何か見なかったの!? ねえ、何か見えなかったの!?」

「真っ暗だった。お父さん、真っ暗で何も見えなかった」


 手術室の入り口の明かりが消え、医師と一緒に、ストレッチャーに乗せられた父とツカサが出てきた。


「最善を尽くしましたが、ご主人は」

「え、どう言うことですか?」

「お子さんの手術は成功しましたが、意識が戻るかは五分五分です」

「ツカサ? あなた? なんでよ、なんでなのよー!」


 真子が泣きわめき、アオイはどうすることも出来なかった。


「なんであなたは無事なの!? なんであなただけ無事なのよー!? あなたが代わりに死ねばよかったのに!」


 アオイは何も言えなかった。母親の酷い言葉に、そばにいた看護婦から引き離された。そのまま真子は泣き続け、拒絶されたアオイは1人で病院を後にするのだった。


 アオイは、バスで15分ほどの距離を歩いて帰ることにした。自宅よりも手前に幼稚園や、午時(ごじ)家があり、病院からここまでで4kmくらい有る。アオイがトボトボと歩いていると、午時家の若い集が、アオイを見つけ声をかけてきた。


「アオイちゃんじゃないか! 最近は遊びに来ないのかい?」

「お兄さん、……うわーん!」


 知っている人の顔を見たとたん、アオイは泣き出してしまった。


「何があった? いじめられたのか? とりあえず、(あね)さんのところへ行こう」


 屋敷に入り、すぐさま部屋へ通された。


「アオイちゃんどうしたんだい? 何があったか話せるかい?」

「お姉さん、お父さんが、ツカサと一緒に車に轢かれて、死んじゃったの。お母さんが私の事、私が代われば良かったって言ってた」

「なんだって!」


 (あね)さんは、アオイを抱きしめてくれた。


「アオイちゃんは、何も悪くなんか無いよ。アオイちゃんが無事で、私は嬉しいよ。お母上は、旦那さんのコトがショックで心にもないことを言ったのさ。今頃後悔しているから、落ち着くまで、ここにいたら良いさ」


 アオイがその腕の中で泣き疲れて眠るまで、優しく抱きしめていてくれた。


「ちょいと、誰か詳しく調べてきな」

「へい」


 (あね)さんコト午時 花(ごじ はな)は、一大決心をするのだった。


 調べてきた結果が、続々と届いた。

 アオイが話したよりも、母親が言った言葉は酷かったらしい。そばにいた看護婦が割って入ってわざわざ母親を引き離したと、聞いてきた。また、花守家は、鍵を開けたまま無人であり、留守番を置いてきたと、報告された。


(はな)、あの(むすめ)、どうすんだ?」


 この組の組長である、(はな)の父親から聞かれた。


「あちらが納得したら、いや、納得しなくても、うちで引き取る」

「娘の意思を尊重してやんな」

「勿論。起きたら聞いてみるよ」


 アオイは1時間くらいで目が覚め、自宅へ帰ろうとした。


「帰りたいなら送るけど、帰ってどうするんだい?」

「ツカサが帰ってくるかもしれない」

「弟は入院してるだろう?」

「あ、そうか。家には、誰もいないのか。あ!公園に、リュックとかツカサのおもちゃ置いてきちゃった!」

「何処の公園だい?」

「○○自然公園」


 歩いていける距離ではない。


「あー、誰か付き合ってやんな」

「俺、行って来ます」


 車を出してもらい、公園までやってきた。リュックを置いていた場所には何もなく、困ってうろうろ探していると、管理の腕章をつけた公園事務所の人が、声をかけてきた。


「忘れ物をお探しですか?」

「はい。リュックと、弟のおもちゃを探しています」

「それでしたら、恐らく事務所に届いていますので、入り口のそばの建物で聞いてみてください」

「はい。ありがとうございます」


 入口まで戻り、事務所の受け付けに声をかけると、すぐに対応してくれた。


「あ、やっぱり君のだったんだね。救急車で運ばれた方は大丈夫だったのかい?」

「お父さんは死んじゃった。弟は病院にいる」

「え!?」


 当日中に忘れ物を取りに来たので、てっきり無事だと思い聞いたらしい。


「辛いことを聞いちゃって、ごめんよぅ」


 係員はおろおろし、何度も謝ってきた。


「忘れ物をとっておいてくれて、ありがとうございます」

「あ、うん。元気出してな」


 アオイはお辞儀をして、その場を離れた。


「忘れ物見つかった。ツカサのお気に入りのおもちゃ見つかったよ」

「そうか。探しに来て良かったな」

「うん。つれてきてくれて、どうもありがとう」


 アオイは午時家に戻らず、自宅で下ろしてもらった。


「アオイちゃん! 無事だったのかい?」


 アオイに声をかけて来たのは、お隣の鈴木紅子だった。


「紅子さん、私は無事だけど、お父さん死んじゃった。ツカサは病院にいると思う。お母さんは、知らない」

「アオイちゃんが無事で、良かったよ。お母さんが帰ってくるまで、うちにいたら良いよ」


 アオイには、紅子がアオイの無事を本当に喜んでいるように聞こえた。


「私が無事で、良かったの?」

「当たり前じゃないの!」


 紅子の返答は、なんでそんなこと確認するの?と言わんばかりの答えだった。アオイは、改めて母の言葉が、如何に酷かったのかを思い知った。


「お母さんは、きっと私のためには帰ってこないと思う」

「そんな訳無いよ」

「だって、なんであなただけ無事なのって聞かれた。あなたが代わりに死ねば良かったって言われた」

「え、そんなまさか」

「聞かないかもしれないけど、私は午時さんのお家に行くね」

「あ、うん。お母さんに伝えておくわ」


 呆気にとられた鈴木紅子を置き去りに、家の中に入り、ツカサのおもちゃをおもちゃ箱にいれ、ランドセルなどの必要なものを取り、車に戻った。


「やっぱり、午時さんのお家に行きたいです。お願いします」

「それが良いよ」


 運転してくれた男性は、留守番に残っている人にも声をかけ、屋敷に戻った。花守家は、紅子が留守番をしてくれるらしい。

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