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魔女と呼ばれるまで  作者: 葉山麻代
本編

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12/21

幼稚園の先生

「先生、ありがとございます。お母さんを呼んで下さい」


 アオイは転んで膝を擦りむいてしまい、手当てをしてもらっていた。


「アオイちゃん、もしかして、左手も痛いの?」


 園内に注意事項として知れ渡っている。

 アオイは痛いわけではないが、頷けば呼んでくれるだろうと思ったのだ。


「うん」

「我慢できないくらい痛いの?」

「うん」

「少し待っていてね」

「うん」


 幼稚園教諭は、園長に相談に行った。


「園長先生、アオイちゃんなんですが、また左手が痛いから母親を呼び出して欲しいと言っています」

「え、今週3回目だよね。本当にどこか悪いのか?」

「どうしますか? なだめておきますか?」

「でも親御さんから、必ず来ますからって言われているんだよ」

「私は取り合えずなだめておきますので、園長先生お家へのご連絡をお願いします」

「わかった。連絡してみるよ」


 だかしかし、この日アオイの弟であるツカサの健康診断のため、アオイの母には連絡がつかなかった。


 何度もかけたが連絡がつかず、事務の職員に代わってもらい、緊急時連絡先に指定してある番号にかけてみた。


「はい。鈴木でございます」

「あの、こちら関山(かんざん)幼稚園です。花守葵さんの緊急時連絡先におかけしました」

「え、アオイちゃん、何かあったんですか?」

「お母様に連絡がつきませんで、大したことではないのですが、母親を呼んで欲しいと言っていまして」

「あー、今日は司くんの検診だって聞いています。迎えに行きましようか?」

「お願いしてよろしいでしょうか?」

「はーい。えーと、商店街の先にある幼稚園さんですよね?」

「はい。そうです。よろしくお願いします」


 そしてお隣さんの、鈴木紅子が迎えに来ることになった。


 大分待たされて、アオイはすることがなく、他の園児にぶつからないようにと、部屋の隅に居た。


「アオイちゃん、お迎えが来ましたよ」


 連れられていった先には、園長先生と話す鈴木紅子がいた。


紅子(おねえ)さん」

「アオイちゃん、お母さんはツカサ君の検診だから」

「ありがとございます」


 紅子はアオイに近づき、小声で尋ねた。


「何かあったの?」

「うん。でも」

「急いだ方が良さそう?」

「うん、先生のお母さんがね」

「どうしたら良い?」

「お家に電話してって言って」

「どうにかする!」


 紅子はさんざん考えた挙げ句、アオイが示した幼稚園教諭を捕まえて言った。


「訳は聞かずに、自宅に電話してください」


 ど直球で頼み込んだ。


「え? なんですか、あなたは?」

「とにかくお願い!何でもなければそれに越したことはないから、とにかくご自宅に電話してください」


 紅子の迫力に負け、職員室まで後ずさり、仕方なく、自宅に電話をかけだした。何コールか鳴らしたあと相手が電話を取ったようだ。


「あ、お母さん?」

「た、す、け、て、」

「え、何? お母さん、どうしたの!? お母さーん!」


「ご自宅に救急車を!」


 紅子の声かけに慌てて電話を切り、救急車を要請するために電話をかけ直す。気が動転したまま幼稚園の住所を言い、駆けつけた園長に電話を取られ、職員名簿から自宅住所を説明していた。


「そのままそちらで待機していてください。病院が決まりましたらご連絡差し上げます」

「はい。よろしくお願いします」


 電話を置いた園長は、紅子を見た。


「何故こうなったか、説明してくれますか?」


 紅子が説明できないでいると、アオイの母が到着した。家の戸に張り付けてあったメモを見て、慌ててやってきたのだ。


「鈴木さん、ありがとうござます。園長先生、説明は私がします」


 園長室に、園長と電話をかけた幼稚園教諭、向かいに、アオイの母とアオイと鈴木紅子の5人が座り、扉を閉め、話を始めた。


「ご内聞願います。アオイは、左手で相手の左手を触ると、稀に未来を見ることがあり、今回もそれで、私を呼び出したようです。不在にしており、ご迷惑をお掛けしたことを、ここにお詫びいたします」

「え?」

「あ!もしかして、町田さんの時も?」

「ええ、まあ」

「なんで内緒なんですか? 凄い力じゃないですか!」


 助けられた幼稚園教諭が目をときめかせ、聞いてくる。


「アオイ、それで何度か倒れたんです」

「成る程。以後も左手には触らないと、徹底しましょう」


 園長の決断は早かった。


「ありがとうござます」

「園長先生、ありがとございます」


 コンコンコン。ドアをノックする音がした。


「病院からお電話です」


 職員室に電話が来て、幼稚園教諭は退室した。そのまま病院に行くように、園長から言われていた。


 園長は、退室したのを見たあと、アオイに尋ねてきた。


「アオイちゃん。先生たちには、左手に触らないように言ってあるんだけど、触られたのかい?」

「転んだときにね、先生が後ろから起こしてくれたの。そのときに触っちゃったの」


 アオイの話を聞いた全員が、不可抗力だったと理解した。



 その日のうちに、花守家にお礼の電話があり、入院した母親は無事であり、ぎっくり腰で動けなくなっただけで命に別状はなかったと説明された。アオイが見たのは、電話口でお母さーんと叫んで狼狽えている姿だったらしい。

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