あねさん
幼稚園の方でもアオイちゃんの左手には触らない。という暗黙の了解ができたことで平穏無事に過ごせた。
父の仕事も、色々な免許や技能検定を受けて順調に進んでいた。
4月の始め、アオイ6歳の誕生日
いつものケーキ屋さんで父はお金を出して丸いケーキを買ってきた。
娘が取りに来た訳じゃないのできちんと払わせてくれ。と我を通してきた。
ケーキに蝋燭を6本立てて明かりを消して火を吹き消した。
一度で消えなくて何度もふーふーって一生懸命吹き消した。
明かりをつけると、座卓に料理が増えていた。
母が、暗いときに隠していた料理を出したのだ。
「うわー!魔法みたい!お母さん凄い!」
魚の型に入れたご飯を皿に出したチャーハンだった。目がナルトになっている。
「ごちそうだねー!」
両親は少し微妙な顔をした。
母と買い物に行くと、着物美人のお姉さんに会った。
今日はうぐいす色の留め袖だった。
「あ!お姉さん!」
「もしかして、アオイちゃんかい」
「アオイ、知ってる方なの?」
「お花のお兄さんのお花をあげた人」
「???あー!あの、赤い花の?」
「アオイちゃんのお母上かい?」
「おははうえ?」
「はい、アオイの母です」
「その節は花束をありがとうございました。うちのボンクラどもが迷惑かけたようで申し訳ない!」
「いえ、迷惑なんて無かったです。貰いすぎたくらいで……」
「何か、困ったことがあったら相談にでも来てくださいな」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それでは」
「あ、はい」
「おははうえって、お母さんのことなの?」
「丁寧な言い方……かな?」
「そうなんだ」
「アオイ、今の人はどこに住んでるの?」
「幼稚園のそばの大きなおうち。お父さんが知ってるー」
「そうなのね。後で聞いてみるわ」
アオイは買い物についてくると好きなものを買って貰えるのでついてきたのだ。
「これ!これ買って!」
「えーどうするのよ?こんなの買って」
「お弁当に、いれて!」
「毎日いれるようよ?」
「うん!」
アオイが欲しがったのは伊達巻き。
なぜか正月でもないのにこの店では売っている。
そして、当然のごとく、毎日伊達巻き2切れ入りの弁当になる。
それでもアオイは毎度ニコニコと食べるので、最初のうちは、「お正月じゃないのにへんなのー」と言っていた。回りの子供も、なぜかみんな弁当に伊達巻きを入れてくるようになった。
密かな伊達巻きブームはしばらく続いた。
評価をくださった方、本当にありがとうございます。




