表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

にいに

 うちには父と母と兄がいる。

 貧しいながらも優しい家族だ。


 狭い2階建ての一軒家で、2階の1部屋に2組の布団を敷き、4人で寝ている。

 布団2組を敷くといっぱいいっぱいの部屋だ。

 1階は、狭い台所と小さな居間とトイレと階段下の倉庫しかない。

 お風呂は2~3日に1回くらい銭湯へ行く。


 ある日、母が泣き続け、父が暗い顔をし、兄が困ったように佇んでいた。


「まぁま、なんで、ないてるの?、どこか、いたいの?」


 母は私を抱き締めるとよりいっそう泣いた。


「まぁま、ないてる、にぃに、こまってる」


 私がそう言うと、母ははっと目を見開き、私の顔をみて、無理矢理笑顔を作った。


「そうね。いつまでも泣いていてはいけないわね」


 母が無理矢理笑顔を作ると兄も笑顔になった。


「にぃに、わらってる」

「そう、笑ってるのね」


 父も母も無理矢理笑顔になり、二人して私を抱き締めた。


 その日の夜から兄は一緒に寝なくなった。



 それから数日後、


「にぃに、いっしょ、ごはんたべないの?」


 いつも遊んでくれる兄が食事の時にはいつも居ないことを不思議に思い両親に訪ねると、母は静かに泣き出し、父には驚かれ、言い含められた。


「にぃには一緒に食べられないんだ」

「そなの。にぃに、おなか、すかないの?」

「大丈夫、にぃにはお腹空かないんだよ」

「そなの」


 子供心に、にぃには凄いんだなと思った。



 毎日が緩やかに過ぎていく。

 それは3歳の誕生日の翌日。

 今日も父が仕事に行き、母が近所に買い物に行く。


「アオイ、一緒に行く?おうちで遊んでる?」

「おうち!」

「すぐ帰るから良い子で居てね」

「はーい」


 母は出掛けた。

 両親が居ないときだけ兄は遊んでくれる。


「にぃに!えほん、よんで!」

「あーちゃん、どれを読んでほしいの?」

「これ!」


 本棚にある本を持ってきて、椅子によじ登り、テーブルに本を広げた。

 椅子の後ろに立って兄は本を読んでくれる。


「むかしむかしあるところに・・・」


 私は兄のお陰で文字を覚え、絵本程度なら読めるようになっていた。

 それでも兄に読んでもらうのが好きで、いつも読んでもらう。


「・・・お姫様になって、幸せになりました。おしまい」

「にぃに、ありあと!」

「どういたしまして。あーちゃん、そろそろお母さんが帰ってくるよ」

「わかったー」


 兄は部屋を出ていき、入れ替わるように母が帰ってきた。


「ただいま。遅くなってごめんね。寂しくなかった?」

「さみしくないよー」

「あら、絵本見ていたの?」

「そだよー」

「読んであげましょうか?」

「だいじょーぶ、ちゃんとよめるよー」

「あら、凄いわね。今度母さんに読んでね」

「わかったー」


 母は笑顔で 台所に買ってきた物を置きに行った。


 私は椅子から降りようとして滑り落ちた。


 ガタン、バタンドタン。


 椅子は倒れ、頭を打ったのか、私はそのまま意識をなくした。

 遠くで誰かが私に呼びかけていた。


 ◇◇◇◇◇


 目が覚めると母に右手を握られていた。

 私は布団に寝かされ、おでこには濡れたタオルが乗っていた。


「まぁま?」

「アオイ!目が覚めたのね!良かった。あなたまで___ところだった」


 母は私を抱き締め声をあげた泣いた。

 言ったことが良く聞き取れなかった。

 母の向こうでは、扉に寄りかかるような兄が少し困った顔をしてこちらを見ていた。


「まぁまなくと、にぃにこまってるよ」

「え?」


 母は少し複雑そうな顔をして私を見つめた。

 そして私に訪ねた。


「まぁまが泣くと、にぃにが困るの?」

「うん!でも、もうこまってない!」


 兄が笑顔になったので私も嬉しくなった。



 ◇◇◇◇◇


「今日またアオイが、にぃにの話をしたわ」

「アオイの中ではカエデがまだ居ることになってるのか?」

「わからないわ。でも、まるでそこに居るかのように話すのよ」

「案外、アオイにはカエデが見えているのかもしれないな」

「そんなこと・・・幸せだったのかしら、あの子は幸せだったのかしら」


 カエデは10歳の時、流行り病であっけなく逝ってしまった。

 その時アオイはまだ2歳半で、理解できない年齢だった。

 アオイは1歳頃に歩けるようになると、いつも兄のカエデについて回っていた。

 カエデも妹のアオイを可愛がり、いつも面倒を見てくれた。

 これが両親の認識だった。


「それにしても、アオイはカエデを覚えているんだな。小さいから忘れてしまうと思っていたよ」

「そうね。もう半年も前なのね。今でも、おはよう母さん。って起きてくるんじゃないかしらって毎朝思うわ」

「そうだな」


 二人は居間で静かに話していた。



 アオイが椅子から落ちたので、母が憧れて買ったテーブルを片付け、座卓に変え(戻し)た。

登場人物


アオイ

花守(はなもり)(あおい)

2歳半

兄から、あーちゃんと呼ばれている


カエデ

花守 (かえで)

10歳(故人)

アオイの兄

基本的にアオイにしか見えない

アオイから、にぃにと呼ばれている


花守 真子(まさこ)

アオイの母

29歳

アオイから、まぁまと呼ばれている


花守 郁男(いくお)

アオイの父

35歳

アオイから、ぱぁぱと呼ばれている



橘 幸男(たちばなゆきお)

父の友人

35歳

赤い車に轢かれかけた人

能力の少し落ちたアオイから、たちばたさんと呼ばれている



鈴木 辰男(たつお)

お隣さんの夫

55歳


鈴木 紅子(べにこ)

お隣さんの妻

53歳

くるくるのお姉さん



寿 一男(ことぶきかずお)

ケーキ屋さんの夫

34歳

ケーキ屋さんのお兄さん


寿 春子(ことぶきはるこ)

ケーキ屋さんの妻

32歳

ケーキ屋さんのお姉さん



ヤス

22歳

お花のお兄さん


アニキ

40歳



8話以降登場


ツカサ

花守 司(はなもりつかさ)

アオイの弟


あやちゃん

町田 礼章(あやあき)

幼稚園の友達


(あね)さん

30歳(初登場時32歳)

赤い花束を貰った人

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ