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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
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第一話「わんぱく小僧と新英雄(ニューヒーロー)!」7


 一人佇むリボリアム。無論、ボーっとしているわけではない。周辺の音、熱反応を探知し、次に取るべき行動を判断していた。


 どうやら、兵士や住人は無事に逃げられたようだ。見渡しても他に大きな熱源は無し。つまり人も、警戒すべき魔獣もいない。リボリアムは第一目標である領主邸に向かうべく、走り出した。ただ先ほどと違い、今は腰横の風車が止まっていた。


「マノ・ターバイン、制限時間チェック……あと半分くらい、か……」


 走りながら、ヘルムの中でリボリアムは呟く。彼の視界には外の風景の他、メットの内側に浮かび上がった様々な文字や記号があった。

 そのヘルムの機能は、常に内外の情報を、望むままに得る事ができるのだ。


「アーマー出力、10%。アクティブタイム残り20時間……ぶっつけ本番だが、順調だ。」


 途中、数体の魔獣を撃破し、リボリアムは領主邸前の広場に来た。そこには傷つきながらもなお戦う守備隊と、多くの魔獣が交戦していた。どうやら街にいる魔獣のほとんどは、この場に集まっているようだ。そしてとりわけ目立つ、いつか見たシルエットの大型の魔獣───リボリアムの目には、あの日のサイズコルポスに映った。


 しかし何より目に付いたのは……倒れ伏す馬。あれは!

「ベルカナード!?」


「ん!?なんだ、お前は!?」


 一人の兵士が、見慣れぬ鎧の戦士に声をかけた。リボリアムから見れば先輩や同僚達だが、今ここで名乗っても信用はされないだろう。こういう時は、行動で示す。


「救援だ、すぐに終わらせる!……マノ・ターバイン!」


 兵士の問いかけに簡潔に答え、リボリアムは再び腰横の風車を起動させた。

 踏み込み、真っ直ぐ跳ぶ───進行上にいた魔獣がすべて吹き飛び、血飛沫が上がった!


「おお……!?」


 兵士たちが驚く。目で追うのがやっとの速さで、次々魔獣が屠られてゆく。ここにいるのはほぼ中型の魔獣で、猿に似たものや、先ほどのような肉食獣型、猛禽型のもの等色々いたが、地を滑り空に飛びあがり、左腕で(つぶて)を放つリボリアムの勢いに成す術が無かった。


「よ、よぉし、お前たちあいつに続け!巻き返すんだ!!───おい、あんた!」


 この場の部隊長の檄に隊員達も勢いを取り戻す。次いで部隊長はリボリアムに呼びかけた。リボリアムは部隊長に向き直る。次の言葉を待った。


「あんたは……あのデカイのをやれるか?」

「…………!」

 リボリアムは強く頷き、再び駆け出した。


「すまない……頼む。」 


 腰横の風車は未だに低く唸っている。リボリアムは、立ち並ぶ家ほどもある巨大なサイズコルポス変異体───キメラ魔獣ネガコルポスと向き合った。以前出会ったときには知性らしきものはあまり感じられなかった……が、いま対峙するその視線には、強い憎悪、そして人間を嬲ることを喜ぶ残虐さを感じた。


「…………」


 両者にはまだ距離がある。ネガコルポスは生物としては巨大だがその習性は変わらないようで、体勢を低く取っている。いつでも飛び掛かれるようにも、いつでも尾を振れるようにも見える。睨み合いから先に動いたのは、リボリアムであった。


 ネガコルポスに正面きって突っ込む!一般的な兵士よりも、身軽な達人よりもその速度は速かった。

 だが相対する魔獣は、その速度に対応し得た。


「クォーカカカカカ!!!」


 ネガコルポスは喉を鳴らし、腕の鎌を突き出す。撫でるような一撃に見えても、人間が真っ二つになる威力である。リボリアムはこれを見切り、掴んだ!人間なら真っ二つだろうが、対魔族用に開発されたこの装備ならば傷一つつかない。だが……


「!」


 これはネガコルポスの作戦であった。わざと鎌を捉えさせ、リボリアムの体ごと高く腕を引き上げたのだ。リボリアムは思わず手を放し、着地しようとした。その目前に丸太のような尻尾が迫る!


 リボリアムは成す術なく吹き飛ばされ、家屋のレンガ壁に激突!壁が砕けその姿が消える!強化された魔獣ネガコルポスにとって、腕にしがみついていようが腕から落ちようが、『空中で何もできない状態である』なら、どちらも変わらぬ絶好の攻撃機会であったのだ。恐るべきはその戦術を組み立てられる、キメラ魔獣の頭脳であろう。野生に生きてきた生物に……例え魔獣として知能が優れていたとしても、この「人間的な」ものの考え方ができるわけはない。


「ゴロロ……ココココッココ……!」


 ネガコルポスが喉を高く鳴らす。勝利を確信しているかのようだ。

 だが、対峙するあの鎧戦士も、ただの人間ではなかった。


 ───ガラッガラガラ……


 吹き飛ばされて家屋に消えたリボリアムは、何事もないように再び姿を現した。レンガに突っ込んだ影響で全身薄汚れているが、逆に言えばそれだけであり、吹き飛ばされる前となんら変わらぬ足取りでネガコルポスの前に躍り出た。対するネガコルポスは、先ほどより激しく声を上げた。


 リボリアムは、相手に対し引っかかりを覚えていた。なぜわざわざ、牽制の鎌を突き出したのか?こちらの動きが見えていたなら、普通に尻尾で薙ぎ払えばよかったのでは?


 魔獣と対峙しながら、リボリアムは頭を回す。目の前の魔獣が以前のサイズコルポスと同個体であるなら、その時の体験を記憶しているはず。その体験があの行動をさせたというなら。


 以前リボリアムは生身でサイズコルポスと戦い、尻尾を掴んで振り回して投げ飛ばした。つまり、恐れている。()()()()()()()()()()()()から、わざわざ牽制し、こちらを油断させた。恐れているから、今も『威嚇』している。


「………」


 そう結論付けたリボリアムは、次に取る行動を決めた。すなわち、全力戦闘である。


 鎧の左腕、『盾』の両端が手首を基点に左右に開く!開いた部分が手首を回り込み、内側に移動する。トライラム・スリングの時と同様、その先端同士は黒い紐のようなもので繋がっている。

 さらに、左腕に残る『盾』の中央部分が変形伸長し、それを右手で取りショートスピア……否!それをつがえ、弓矢の形を取った!


「トライラム・アロー!」


 リボリアムが言放(ことはな)つ。狙うは見覚えのある傷痕───。ネガコルポスが身構える。

 互いの視線が交差する。しかして、矢が飛ぶ!


 パガァァン!!


「ギェェェェェェェェ!!!!」

 鋭い破裂音と共に、紫色の鮮血と赤い甲殻の破片が飛び散った!ネガコルポスは自分の身に走る激痛に、たまらず大声を上げた。見えなかったのである。野生の動体視力ですら、捉えきれぬ速度と威力。一体どれほどの弓であればここまでの速度が出るのだろうか?


「ゴァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 だが巨大な魔獣は、尚も怯まず怒りの声に転ずる。以前のサイズコルポスなら、手痛い反撃を受ければ逃げ出していた。それが生存本能というものの筈だ。

 それを無くすほど力に溺れてしまったのか、それとも……それを取り除かれてしまったのか。


 だがその姿をどう思おうと、リボリアムは躊躇わない。


 トライラムアローが再び手首を回り、向きを変える。それは、左腕と一体のようだった盾の時とは逆に……手首から先に突き出るように折りたたまれた。それはさながら剣、あるいは(はさみ)。武器に詳しい物が見たなら、異国の武器パンチ・ダガーと呼ばれる物のようであった。


 さらに胴体、ヘルム、左腕の各所が点灯し、トライラムの『刃』が輝き出す。


「ハイ・プラズマモード……トライラム・キャリバー!」

 

 輝く刃、光の剣。おとぎ話ではよく聞く要素だが、それを実際見た者は果たしているのか。この帝国にも、帝室宝物庫に青く光輝く剣があると言われているが、真偽は不明だ。


 今この場で見ていた兵士も……敵対する魔獣達ですら、その輝きに目を奪われた。


 その異様に、ネガコルポスですら(しば)したじろいでいた。やがて、その事実にこそ怒るように、ネガコルポスは大きくうねり進む!

 合わせてリボリアムも動いた!その左腕に輝きを(たずさ)え……そこでサイズコルポスの眼光が怪しく輝く。爆発魔法だ!


 ドバババァン!!


 金の鎧の各所から大きな火花と煙が噴き出る!だが、リボリアムの迫る速度は一向に緩まない! 

 そして、両者がぶつかり合った!


 先手はネガコルポス。巨躯を捻り、巨大な尻尾で薙ぐ!リーチ・威力・速度すべて最高の一撃がリボリアムの右側に迫る。肝心の光の剣は左手だ。不利であった。


 尻尾が激突する瞬間、リボリアムは大地を踏みしめ、恐るべき尾の薙ぎ払いを止めた!鈍い音が響く。だが、その鎧の戦士は踏みとどまった。

 その右腕で、脇に抱えるように尻尾を受け止めていた。人間一人にしてみれば過剰な程の大質量の一撃をだ。少々広場の石畳が抉れたが、その程度であった。


 だがネガコルポスは即座にもう一手動く。動きの止まったリボリアムに、両腕の鎌が振り下ろされる!上部の2方向から襲い来る鎌に左手側は輝く刃トライラム・キャリバーで受けたが、右手側は無防備であった……果たして、巨大で鋭利な鎌は、その肩口で止まっていた。


「ゴ、ココ───」


 ネガコルポスは、一瞬どういうことか理解できなかった。今まで切り裂けないものなど無かった自慢の鎌が。あらゆるものを吹き飛ばしてきた膂力が。先刻のような牽制ではない本気の一撃が、目の前の小さなモノには如何(いか)ほども通じていないのだ。

 一方リボリアムの左腕側、振り下ろした鎌は、その勢いのままに切り落とされていた。鎌が光の刃に触れると、燃えるように赤く光り、次の瞬間にはすっぱりと無くなっていた。

 ネガコルポスには、どういうことか、理解できなかった。

 

 ヴゥーーーンと、低い音が鎧の戦士の腰元から響く。その瞬間、尻尾を抱える右腕の力がどんどん増し、ネガコルポスはその場から動けなくなった。


 抱えられた尻尾が、凄まじい力で締め上げられ、外せないのだ。 


 「でやぁぁッ!!」

 輝くその左腕が振るわれる。肩口に添えられた鎌がスライスされ、掴んでいた尻尾を深く切断した!


「ギィアオォォォォッッ!!!」


 巨躯を誇る恐るべき魔獣の、悲鳴がこだまする。

 次いで、最後のあがきか尽きぬ怒りか、ネガコルポスは大顎を開き襲い掛かる!


 リボリアムは足を一歩引き、再度踏み込む!

 両者が交差した瞬間、鋭い破裂音が広場に響く!

 

 ネガコルポスは胴体があらぬ方向にねじれ、ドスンと大きな音を立て、地に伏した。


 断末魔の叫びもなく、袈裟斬りに両断された死体がそこにあるのみだった。その断面は火で燃やしたように焼け、変色していた。


 広場の戦いは、終わった。


 ささやかに響く駆動音とともに、トライラムキャリバーから輝きが消え、元の盾のように折りたたまれた。ただ、その中央は部品が足らない。

 リボリアムは、ネガコルポスの胸に刺さったままの『矢』を抜き、再び小さく変形させ左腕に戻した。そしてその腕を、高く掲げた。


「「「うおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!」」」


 兵士たちの歓声が轟いた。それは街中にも伝達し、次第に街中に広がっていった。


 今ここに、新たな英雄(ヒーロー)が誕生した。

 鈍く金に輝く鎧。その奥に光る緑の眼。巨大な魔獣を締め上げる剛腕に、神速の脚力。鋭い鎌も太い尻尾の一撃も、ものともしない強靭な鎧と肉体。

 その左腕は盾であり、弓であり、光輝く剣である!

 遥か古の英知と、星に満ちるエネルギーから生まれた者。悪鬼悪魔と戦う宿命を背負った戦士。



 その名は、リボリアム!




                              つづく



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 ─次回予告─



 謎の結社モグログに攫われた領主サルトラとトマック少年。刻一刻と処刑の時が迫る!

 急げリボリアム、走れ軍馬よ!

 そして朝日が昇る時、君は、真の勇者を見る!


 次回、特捜騎士リボリアム

『モグログの魔手』

 

 お楽しみに。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は未定です。来週中には更新したいとは思いますが、何分遅筆なのでわかりません。

それでも自分なりの異世界メタルヒーローを書いていきますので、お楽しみいただければ幸いです。

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