表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
6/47

第一話「わんぱく小僧と新英雄(ニューヒーロー)!」6


 暗闇の箱の中。それは始まろうとしていた。


 気のいい小さな友人達には聞き慣れないだろう小さな音が、箱の中でどんどん響いていく。


 暗闇の箱の中で、色とりどりの光が灯っていく。


 今、その友人達がピンチなのだ。今こそ、立ち上がる時なのだ!


 暗闇の箱の中で、双眸がグリーンに輝く。それを合図に、箱が開いた。

 一見するとそれは、奇妙なフォルムの全身鎧(フルプレートアーマー)。鮮やかというよりは無骨な『鈍く光る金色』をメインカラーに、緑や黒のラインがアクセントのように走っている。特に目を引くのが、盾のようなものが一体になっている左腕。細長い三角形といった見た目で、幅は腕より少しはみ出る程度、長さは手首から肩辺りまで。盾としては使いづらそうな見た目であった。


 これこそが、やがて復活する魔族への対抗手段。それは静かに箱から足を降ろし、床に立った。目の前の扉が左右に開いてゆく。


 動きの一つ一つを確かめるようにゆっくりとそれは歩き、扉を越えた。マザーの声が響く。


「ナンバー004。おはようございます。」


「おはようマザー。行ってくるよ。」


「彼らはまだ戦っています。しかしBRアーマーは調整不足の上、ここから出ればサポートは出来ません。頼みましたよ。」 


 ナンバー004ことリボリアムは、外につながる回廊の前に立った。懸念はいくつかある。しかしそれは歩みを止める理由にも、躊躇う理由にもならない。リボリアムの胸に一切の迷いはなかった。


 片足を軽く引き、走るために力を籠めながら言い放つ。


「マノ・ターバイン!」

 リボリアムの鎧、その腰横についた風車が高速回転し、強風をさらに切り裂くような甲高い唸りを上げる。足を踏み出した瞬間、リボリアムは景色を置き去りにした!


 あっという間にボリアミュート近郊の地上に出たリボリアムは、再び甲高い音を響かせ、走り出す。街を見れば城壁は突破され、戦いは街中に広がっている。しかし、人々の声にはまだ勢いがあるようだ。

 

 街の各所で、人々の叫び、戸惑い、悲しみの声が上がっていた。その先頭に立つのは、兵士達である。

 達人でなくとも、戦い方を学んだ者たちは必死に役割を果たそうとしていた。


「さあ急げ!この先へ行けば安全だ!」

「この一団で最後だ、一気に移動させろ!女子供が優先だ!」

「間に合わない、魔獣がそこかしこにいるぞ!」


 まだ市民が避難しきれない状況で、血に飢えた魔獣達が迫る。

 どれも小動物~中型肉食獣程度の大きさだが、数が多い。こちらの兵士は5人、市民を守りながらでは厳しい戦いになるだろう。


 兵士達は陣を形成し、備えた。厄介なのは中型が2体いる事。あれを1体相手取るには3人以上でかかるのが望ましいが、この場には5人しかいない。それでも、やるしかなかった。


 魔獣達は人間の覚悟を待ってはくれない。否、それどころか兵士達の焦りを感じ取り、迷いなく襲い掛かってきた!


「うぉあああ魔獣どもめっ 来やがれ!!」


 人間の兵士とて、こういう時の為に日々鍛えている。面食らいはしたものの染み付いた体さばきで迎撃し、初撃は防ぎきる。しかし魔獣達の攻撃は途切れず、早くも余裕が無くなってくる。

 小型魔獣に噛みつかれるのを無視してでも、中型の攻撃をいなし、少しでも反撃する。


「う、うおおおおおッッ」

 だが、それも限界が来る。


 一人が崩れ、剣を落とす。そこから他の兵士にも魔獣が群がり、動きが止まった隙からすぐさま市民へ牙が迫る。母に抱きかかえられた子供は、群がる魔獣の爪が迫るのを見た……


 その爪が子供に振り下ろされることは、無かった。


 一陣の風と共に鈍い金色の影が通り過ぎると、魔獣達はちり紙のように吹き飛ばされた!


「………!」

 人々は見た。ギャリギャリと石畳を削りながら、その影は足を踏ん張り、ボリアミュートに立った。全身鎧の戦士。


 見慣れない異様な鎧……何者なのかは誰にもわからない。だがその場の誰もが予感した。頼もしい援軍なのだと。


 リボリアムは改めてこの場の状況を一目見て、判断した。腰横の甲高い音はまだ唸りを止めていない。すぐさま踏み込み、足元の剣を素早く拾い、近くの兵士にまとわりつく魔獣を叩き斬る!


「ギャギャアア!」


「お、おお!」

 全て一撃で仕留められる魔獣、それに驚きの声をあげる兵士。彼らも瞬時に理解した。『こいつは味方だ』と。


「ふんっ!とぁっ! ちぇあっ!」


 リボリアムは止まらない。兵士に群がる魔獣、その途中にいる手近な魔獣。すべてを一撃で倒し、瞬く間に状況を改善させてゆく。


「さぁ、今のうちに逃げるんだ!」

 兵士を助け終え、次は周囲の魔獣だ。もう数は多くない。リボリアムは兵士に呼びかけ、避難を促した。


 リボリアムは、兵士に剣を渡す。先ほど取り落とした兵士のものだ。

「それは、アンタが使ってくれ……」

 兵士はそう返すが、リボリアムは首を振った。


「君もこの街の兵士だろう、役目を果たすんだ。俺は大丈夫……さぁ、行くんだ!」

「だ、だが───」

 兵士に剣を押し付け、リボリアムは振り返る。そのほかは小物で、もう数匹しか残っていないが、中型はまだ2体とも健在である。


「ゴルルルル……」


 中型の魔獣が威嚇する。

 リボリアムは足元のレンガを拾い上げた。元々壁材だったものが、襲撃で砕け、拳大の大きさになっている。


 鎧の左腕、『盾』の両端が、手首を基点に左右に開いた。根元から直角に折れ、手首をスライドしV字の形を取った。その先端は、黒い紐のようなもので繋がっている。


「トライラム・スリング!」


 拾ったレンガを紐にあて、引き伸ばしながら叫ぶ。

 ───スリングショット。Y字の棒の先端を弾力のある紐で繋ぎ、石などを飛ばす武器である。弓矢より威力は劣るが、飛ばせる大きさなら何でも武器に使え、単に投げるよりも威力が出る。


 引き絞ったスリングが放たれる!


 ばんっと張る音と、がんっという鈍い音がした。レンガの当たった中型の魔獣は声も上げずよろめき倒れた。

 瞬発力と反射神経に優れた魔獣が、反応もできず顔面にレンガを受けたのだ。周囲の小型魔獣達も何が起こったかわからず、ただビクッとして、倒れ伏した魔獣を見ていた。


 リボリアムが2つ目のレンガを手に取った時、魔獣達はまたビクっとして警戒しだす。

 再びレンガをスリングに構えた時、先手は取らせまいと中型魔獣が突っ込んできた。


 構わずリボリアムは引き絞り、レンガを投射する。中型魔獣に当たりはしたが、肩に当たって弾かれた。これではクリティカルにはならず、魔獣の勢いは止まらなかった。


 中型魔獣は勢いのまま飛び掛かり、肉食獣の象徴、その鋭い牙がぎらりと光る!

 リボリアムは右の拳を握り、魔獣の顔面に叩きつけんと振り抜く!


 ばきっ!


 その拳は魔獣の牙を叩き折り、顎を砕き、大人ほどもあるその巨体を、駆け出した元の位置まで吹き飛ばした!

 それを目の当たりにした小型の魔獣達は、一目散に逃げだした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ