第九話「聖女の導き!海底に沈む神秘」5
================
「よぉし、いくぞ、モグログ!」
カイナの『セット魔術』、《プレートアーマー》《サークルシールド》の石板で武装したリボリアムが構える。
「ヒャォォ~……また”魔術もどき”か。だが、見たところ特別どうという品ではないな?ただの鎧や盾を手軽に持ち運んでいたという、ただそれだけのものだ。そんな平凡な装備で……クヒャォォ~~、我々と戦おうとはな!」
「ふっ!」
「グッ……!?」
リボリアムはセテンバの横薙ぎに振るった腕を素早く屈んで躱し、倒れる勢いを乗せて斬撃を放つ。その皮膚を斬れはしなかったが、しかしノーダメージではないようだ。1撃では終わらず、2度3度と剣を振るい、防ごうとするセテンバの防御を潜ってその鱗に剣を滑らせる。
相変わらずその鱗に傷はつけられないが、しかしそれは結果論である。リボリアムは追撃の際、目や耳、口内など、セテンバの”急所”と見られる部分を狙っていた。それを防御させることで、リボリアムは攻め続けることができるのだ。
「クヒュゥ~~!?クワッ…!クワゥゥ~~……!」
「セテンバ!……キシァア~~!!!」
「……!」
セテンバを上手く攻めていたリボリアムだが、当然もう1人の敵が大人しく見ているわけはない。
”投げるもの”カタクトリがタックルで割り込んできた。リボリアムは跳び退き、両者の距離が空いた。カタクトリはすかさずその両目を輝かせ、キメラ魔人得意の《爆破》を放った!
───ドガガガン!
「ぐぬぅっ!」
リボリアムは盾を斜めに構え、直撃を回避する。受け流したとはいえ爆発の衝撃は相当のものだ。たたらを踏み、さらに距離が空く。ちらりとカイナを見る。彼は……片手に一枚の石板を、もう片手には束になった10枚弱の石板を、カチリカチリと合わせている。枚数を見るに、まだ時間がかかるだろう。
「クキィー!」
「!?」
カタクトリが腕を振る。ただそれだけだったが、リボリアムは直感的に盾で頭部と胴体を覆った。
───ズゴン!!
「うおわっ!?」
《爆破》程ではないが、さらに後退させられる程の衝撃が盾全体に響く。視界の悪い全身鎧の兜から見ると、鱗鎧に使うような小さい板金がいくつも刺さっているようだった。即座に”投げるもの”カタクトリが、自身を覆う鱗を飛ばしたのだと理解した。そして、貫通力で言えば《爆破》以上に効果的なものだという事も。
小さく貫通力のある物を多数飛ばすことで、「面」での制圧力と破壊力を両立する……通常は魔法・魔術でやる芸当だが、リボリアムの知識で言えば、古の超文明における『散弾銃』という武器に用法が似ていた。これ以上距離が空くのはまずい……だが!
「キシ!キシ!キイィィ~~!!」
───ガキュン!ギャリン!ズギャン!
カタクトリは立て続けに鱗を飛ばし、リボリアムを追い詰める。最初の1発以降はリボリアムも直撃を避け、弾くように凌いでいるが……どうにも効果は薄い。不穏な金属音とともに丸盾がどんどん傷つき、削り取られているようだ。気づけば崖際に追い詰められ、ガラリと足元の石が海に落ちていった。
「く……!うおおっ!」
「キシュゥ……!」
これ以上相手のペースに飲まれまいと、盾で鱗を受けつつも前に出る。カタクトリも負けじと腕を振り続け、鱗を飛ばす。
「……!」
リボリアムの丸盾が大きく破損する。失うのは惜しいが、惜しんで勝てる相手でもない。
カタクトリに肉薄する寸前、横からセテンバが《爆破》で強襲する!これをもろに受け、リボリアムが爆発に包まれる……が!
「ぜぇぇあっ!」
「何!?」
リボリアムは盾と兜を失いつつも、突っ込む勢いを殺さず斬りかかった!
何かしらの横槍が入ることは織り込み済みであり、それに対応できるよう勢いをつけていたのだ。斬撃も下から上に……カタクトリの鱗を逆撫でするように。全て狙い通りであった。剣は果たしてカタクトリの鱗の隙間を縫い、「ざくり」と確かな手応えを持って異形の体に食い込んだ。
「グアアッ!?」
「うぬぬぅぅ……でぇい!」
「アアッ!!」
さすがにただの剣ではキメラ魔人を両断する程の事はできないが。食い込んだ剣で引き斬る事で、明確な負傷を与える事は出来た。まさかのダメージにカタクトリは一歩下がる。最もこの程度の負傷はすぐに治ってしまうだろう。今までの傾向からそれはわかっている。しかし、確かに出来た。生身による剣でも、上級キメラ魔人に一矢報いたのだ。大きな一歩である。
それが気の緩みだったのか。
「クヒャオーッッ!」
「ぐっ!?」
再び横から割り込んできたセテンバの尻尾攻撃で、リボリアムの足が止まった。素早く振り向くセテンバとカタクトリ。両者の視線とリボリアムの視線が交差する。一瞬の事だ。
「「《爆破》!!」」
───ドカカカァン!!
一瞬で、リボリアムは面積の半分以上を失った丸盾を構え、後ろに飛び退いた。土壇場で走馬灯のように思考が加速したのか、反射に近い行動だったのか、それはわからない。だが、命は拾った。そう思った。
「ヒャォォォ!!」
「!?」
バキッ!
「ぐが……ッ!」
爆炎を突き破って突っ込んできたセテンバの追撃により、リボリアムは横に吹っ飛ばされた!その先は───
「うわぁぁーーーーーっ!!」
「リボリアムさぁーーん!!!」
崖……そして夜の海だった。リボリアムは、闇がうねる海に消えていった。カイナが叫ぶが、それ以上の事はできない……。と、背後で「ぐおん」と唸るような音が上がり、ベルカナードMk-Ⅱがカイナの隣に来た。
「あ、べ、ベルカナード……さん?」
「PPP……CPPP」
「……!」
───グォン!!ヒィィーーーーーン……!!
ベルカナードはモグログに向かって、まるで威嚇するかのように音を立てた。身構えるモグログ達に向かい、鉄の馬の眼が瞬いた!
ドドドカァン!!
「ヒャオ……!《爆破》か!?」「キシキシ……」
「…………!」
ベルカナードの放った《爆破》は、互いの視線を分断させる。アイネグライブは油断なく爆炎を見ている。その爆炎がほんの少し不自然に揺らいだ時、素早く前に出て盾を突き出した。
爆炎の先から細かな赤い光弾がばら撒かれ、そこかしこに火花を散らす。ベルカナードの『機魔術』により作成された、牽制に最適なオリジナル魔術だ。
モグログはアイネグライブが構えた盾により無傷だったが、次いで飛び出してきたベルカナードの体当たりを防ぎきることはできなかった。
「む!」「キシャアッ!?」
その体当たりをアイネグライブは盾で逸らしたが、その先にいたカタクトリを撥ね、反対側に走り抜けた。
「主人の後を追うがいい!」
反転して再び突進を仕掛けようとするベルカナード。対するアイネグライブは剣を輝かせ十字を描く!輝く剣は、振るわれた勢いで斬撃を飛ばし、鋼鉄の馬体を切り裂いた。
ズバァァァァン!!
その威力は凄まじく、重い馬体が激しく火花を散らしながら吹き飛び、鋼鉄の騎馬は崖下に落ちていった。
アイネグライブはそれを見届けることも無く、残った子供の方を振り返る。その姿は既に無く、鋼鉄の騎馬が闘っている隙に逃げたのだと察せられた。
「くく……はっはっはっは!」
アイネグライブは高く笑うと改めて崖に歩み寄り、暗い海を見る。
「我らモグログにとり、一番厄介な者が今消えた!」
「闘神官殿!」
「うむ。あの後に及んで変化せぬという事は、やはり鎧を着るだけの魔力が残っていなかったのだろう……あの”鉄の馬”も殊勝な事よ。人が鎧を着て沈めば、どうなるかは明白。しかして残ったあの馬がいくら不死身だとて、もはやリボリアム程の障害にはならぬ!」
「クヒャォォ~……ついに……ついに同志達の仇が取れた……!!」
「聖女は、如何なさいますか。」
「今は捨て置くのだ。指輪とその持ち主さえ手に入れれば、残る聖女を捕えるのも簡単な事……。」
そうして、再び笑い声を上げながら、モグログは夜の闇に溶けていった。
*




