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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第八話「冒険者界の大型新人」7


 BRアーマー右胸に刻まれたエンブレムの効果は絶大だった。討伐隊長ですら、戸惑いつつも周囲に素早く指示し、兵を下がらせている。モグログ女子達は───


「アニカ、しっかり!」


 スジャータが駆け寄り、なんとか抱き起そうとしている。アニカは意識があるようだが、ぐったりしていて動きもわずかだ。

 キメラ魔人は、実は見た目に反した重さをしている。一見普通の人間と体躯が変わらないように見えても、融合した動植物の重量がしっかり上乗せされているのだ。人間に擬態している時は不明だが、BRアーマーを介して幾度となく接触しているリボリアムはそれを知っていた。

 スジャータもキメラ魔人として膂力りょりょくは相当高い筈だが、アニカの重量には軽々とはいかないようだ。このままでは狙い撃ちされかねないため、リボリアムは前に出て、賊の下級キメラ魔人の融合体───”枯れ木”へと対峙した。


 アニカに肩を貸そうとするも手間取るスジャータ。そこへカイナがさっと森から出て、もう片側を支えようとアニカの腕を取った。


「お手伝いしますぅ。よっ…お!?お、おm……」


 言うにははばかられる事を飲み込みながら背に腕を回した時。ブスブスと背中の毛がカイナの腕に刺さった。


「いっった!?!?」


 慌てて腕を引っ込めるカイナ。スジャータが慌ててカイナを制する。


「アニカの毛は、鋭いトゲになってんのよ。無理しないで。」

「ぐぐぐ、普通の毛かと思ったらぁ……! 」


 袖に血を滲ませながら、首に回した腕は離していない。だが改めて見ると、頑丈そうな甲羅に生えた毛は、手を回して支えられそうな位置には万遍まんべんなく生えている。さすがにどうしようもなさそうだ。……どうでもいいが、「甲羅に生えた毛」だと思っていたそれは、よく観察すると「硬い毛が無数に集まって甲羅になっている」とみなした方が良さそうだった。鋭い棘の毛は、その甲羅のささくれのようなものなのだろう。純度100%の殺意の塊だった。

 どうしたものかとカイナが思っていると、横から兵士がぬっと出て、カイナの代わりにアニカの腕を取った。


「坊主、代われ。鎧ならまだ支えられるだろ。」

「あ、ええ……お願いしますぅ!」


 他の歩兵とは装備が一段豪華な兵だった。おそらく副隊長相当の者だろう。カイナと場所を代わり、背に腕を回す。鎧のお陰か、棘が刺さることは無かった。


「ぐぅっっ……!お、重い……!!」


 その一言にアニカはぐったりしながらも電撃のような衝撃を受けた。

 スジャータと分散していると言っても、人間にその体重を支えるのは厳しいようだ。だがそこは帝国軍人根性で、森の中へ退避を始める。

 運ばれる最中、アニカの眉根は深い皺を刻んでいた。そして一言、小さく呟いた。


「もう死にたいですわ……。」

「「「まだ生きて(な)(ろ)(下さい)!!」」」


 3人同時に叫ばれた。キメラ魔人になってもその辺りは気にしているらしい。

 頑張っているのはその3人だけではない。盾を構えた兵士数人が殿しんがりとして、アニカ達を守っているのだ。彼らにもう張る意地は無い。代わりに矜持があった。命を懸けて自分らを守ってくれた異形の女達を、むざむざ死なせはしないという帝国兵士としての矜持が。



「盾を借せ。」


 丘を挟んで反対側。討伐隊長は部下の一人に呼び掛けた。命令通り持ってきた盾を隊長は受取り、油断なく構えた。


「隊長……?」

「この位置で私は残る。2,3人付け。残りは後方に下がり、撤収準備。」

「りょ、了解!」

「……見せてみろ”特捜騎士”。如何なるものぞ……!」

 

 丘の上で対峙する化け物と鎧の戦士を見ながら、隊長は静かに呟いた。



 リボリアムは、BRアーマーの頭部センサーヘルムに表示された数値を見ながら、油断なく”枯れ木”を見ていた。

 その数値の中で、無視できないものがあった。空気中の魔力が風のように流れている。いや、吸収されている。あの”枯れ木”に。詳しくはわからないが、あのまま放置しておくのはマズいと感じた。

 後方に討伐隊長が避難せず居るので、”枯れ木”を回り込むように走り、距離を詰めていった。

 大きな動きを見せたリボリアムに、早速”枯れ木”は反応する。もはやろくに回らない首を一生懸命回そうとし、しかし回らずガクガクとうごめくだけになっている。そのいくつかの目がリボリアムを捉え、一瞬輝く。大きな爆発が2発巻き起こった!直撃するリボリアム。


「ぐわぁっ!?」


 その『爆破』の衝撃は大きく、地面を削りながら吹き飛んだリボリアムは、よろよろと頭を振りながら立ち上がった。

 先日の因習村で戦いになった時は謎の炎がBRアーマーをすり抜けてリボリアムが負傷したが、それを除けば今まで打撃、斬撃、魔法等、様々な攻撃に対してほぼ無敵を誇っていたBRアーマーが、初めて内部のリボリアムにまでダメージを通したことになる。それがまさか”上級キメラ魔人”と言われる推定幹部クラスや首魁のアイネグライブでなく、ザコ共が変貌した”枯れ木”相手だとは思わなかったが。


「まずいな……仕方ない。……”マノ・ターバイン”!!」


 BRアーマーの腰横にある、小さな風車が甲高い音を立てて回り出す。アーマー各所のランプが点灯し、その機能が起動された。アーマーのマナ・エネルギー消費量を増やし、一時的に出力を強化するブースト機能である。これにより腕力・スピードだけでなく、アーマーを覆う防御魔術も強化されるのだ。

 さらに───


「トライラム・キャリバー……ハイ・プラズマモード!!」


 BRアーマーの左腕、盾のような形状の多機能兵装『ヴァリアブル・トライラム』が変形し、剣の形を取った。次いでその刀身が青白く光輝く。プラズマ兵装の最大出力、すなわちリボリアム最強の武器である。

 この2つの機能は、どちらも多大なマナ・エネルギーを消費する。それに加えこのところの連戦で、アーマーのマナ・エネルギーが満タンまで蓄えられていない。先の「仕方ない」というのはこのエネルギー残量の心配からだが、それを加味しても全力で当たらねばならないと判断する程、あの”枯れ木”は見た目以上に危険な相手なのだろう。


「制限時間10秒……いくぞ!」


 掛け声1つ、再び駆け出す。丘のそこかしこで爆発が起こるが、スピードが大幅に上がったリボリアムにはかすりもしない。2秒と経たず肉薄し、通り過ぎざま左腕を横薙ぎに振るう。


 火花と共に、斜めにズレる”枯れ木”の()。だが、確かに両断したはずのその幹は、半分程ズレたところで止まった。


「ヴぁぉぉオォぉぉぉ!!」

「……何!?」


 リボリアムは、一瞬思考が止まる。”枯れ木”は痛みを感じているようだが、今ので()()()()()()()()事こそが問題なのである。

 ハイ・プラズマモードによる斬撃は、単なる切断ではない。この状態になったトライラム・キャリバーは、超高温の強結合プラズマが剣の表層に固定されている状態であり、接触した物質を諸共もろともプラズマ化=原子そのものを分解せしめる。

 これは『存在抹消攻撃』と呼称される、超文明時代の人類が見出した対魔族用の手段なのだ。

 だが目の前の”枯れ木”はそれを耐えた。斬り口は高温で焼け焦げていたはずだ。だが、強力な再生能力……あるいは魔術によって再生され、命を繋ぐ程度には即時対応してきたということだ。


 ()()の頭達が、一斉にリボリアムを見る。リボリアムはその場から飛び退き、直後に放たれた『爆破』を回避する。センサーヘルム内の残り時間、あと5秒。戸惑っている時間はない、即座に次の攻撃に入った。


「とぁぁっ!!」


 助走をつけて、跳ねる。”枯れ木”ようりも高く飛ぶと、()()はリボリアムを見失った。

 空中のリボリアムは身を捻り、”枯れ木”の直上で左腕を高く掲げた。


「ぜああああああッッ!!!!」


 トライラム・キャリバーが振り下ろされる!対応できなかった”枯れ木”は6つの頭の内3つを両断され、そのまま幹から足まで、激しい火花を伴って両断された。当然、幹には兵士達が持っていた剣や盾が張り付いたり飛び出ていたりしていたが、そんなものは障害ですらないとばかり。斧で薪を割るような、見事な縦一文字であった。

 残り時間が2秒を切る。その場で斜めに2度振り、両断ではなく「だるま落とし」のように部分を切り取った。最初に斬った時と違い自重で勢いよく滑り落ち、再び繋がることはなかった。

 残り1秒、そのまま左腕を振り続け、”枯れ木”の幹はどんどん短くなっていく。枝のように伸びた腕も、そして最後に残った、()()にあった頭の塊を横に斬り飛ばす。

 残り制限時間0秒。左腕のトライラム・キャリバーが光を失い、アーマー各所のランプも消える。

 眼下にはわずかにうめく、寄り集まった頭がある。なんと、この状態でも生きているらしい。だがやはり、プラズマ兵装で斬り飛ばした=消滅した部分は再生しないらしく、脳の一部を失い思考能力がなくなった状態では何もできないようだ。

 やがて呻きが小さくなっていくと、斬り飛ばしていた幹の一つが爆発を起こした。


「……!?」


 規模としては”枯れ木”の放ってきた『爆破』に等しいくらい。結構な爆発だ。それを皮切りに、斬り飛ばしていた幹が次々と爆発してゆく。それが意味するところは……”枯れ木”の死が始まっているのだ

 リボリアムは急ぎその場を離脱する。だがそれは一歩遅く、周囲の幹が、そして最後に残った頭と足が赤く焼け焦げていき───


 ───ドカァァン!!ドカァァァン!!!ドカドカァァァァァァァン!!!!


 立て続けに起こったその爆炎は、上級キメラ魔人の死に際のそれに匹敵した。



「……どうなったの……?」


 スジャータが誰にともなく呟く。……依然、キメラ魔人のままである。

 隣には彼女の相棒、アニカ。こちらもキメラ魔人の姿だ。周囲には兵士達、そしてカイナ。

 彼女らは丘のふもとにあたる森の縁、討伐隊長とその部下たちの近くまで回り込んでいた。その討伐隊長達は後ろ姿しか見えないが、スジャータ達と同じく、行く末を不安げに眺めているようだった。

 誰もが見守る中、カイナは一人背中のバンジョーを取り出し、「ぺれれれん~♪」と静かに鳴らし、穏やかに言った。


「ま……大丈夫でしょう~、あの人なら。……ほら。」


 白い煙が立ち上る中……人影が見えた。

 それは確かな足取りでこちらに向かってきていた。

 煙が引いてゆき、鈍く金色に反射する光が見えた時……歓声が上がった。



    *



 戦いが終わり、リボリアム達と討伐隊長を含めた一部の兵士達は村に帰ってきた。あのキメラ魔人と戦った丘では、現場検証と後片付けの人員が残されている。

 討伐隊長から村長へ、驚異の排除が完了したことが伝えられ、リボリアム達には報酬が支払われた。


「これから帝国には、あのような連中が増えてゆくのか……。」

「そうなると思われます。ただ……。」


 翌日、リボリアム達が村を離れる日。討伐隊長へ挨拶に行くと、なんと見送りをしてくれるという。この場で、討伐隊長がそんなことを切り出した。


「彼女らのように、悪だという自覚無く、組織に与している場合も……。俺としては、危険だと……思うんですが……。」

「皆まで言うな。帝国法を優先するなら、悪事なく捕らえることはせぬ。……我が部下達を庇われた恩がある。……その辺りも含め、領主様にご報告する。」

「お願いします。」


 ………………………………


「じゃ、アタシらも行くよ。」

「リボリアムさん、カイナさん。お元気で。」


 モグログ女子の2人とも、ここで別れることになった。彼女らの上司に当たる上級キメラ魔人に、事の次第を報告に行くのだという。

 リボリアムは、複雑な気持ちであった。カイナもそうだろう。

 なぜなら、その場で殺されるかもしれないからだ。そんな状況にしたのはリボリアムであるが、彼女たち自身の目には、迷いは見られなかった。


「あの……そんな顔しないどくれよ。」

「私たち、むしろ感謝してるんですの。」

「……感謝?」

「結社には、命を救われた御恩があります。それこそ命を捧げてもいいと思っていました。でも、いざ悪事に加担する時になってまで、尽くしたいとも思っていませんわ。」

「そ。アタシたちは今まで、十分いい思いさせてもらったよ。放っぽかれるならそれでよし、殺されるにしても、アニカと一緒なら文句ナシ!……あんたに出会えてよかった、金鎧……リボリアム。」


 いっそ眩しい位の笑顔で、女子2人は笑った。


 去ってゆく彼女たちの後ろ姿を見ながら、リボリアムは行く末を憂いていた。また、次に別の「善良なモグログ構成員」に出会った時、自分はどうすべきなのか。

 帝国はどういう対応をしてゆくのか。

 国の判断は、リボリアムの関与するところではない。だが、国の決定はリボリアムも従うことになるだろう。彼は騎士でもある故に。


 考えても仕方のない事だらけだった。今はただ、スジャータとアニカの無事を祈る事しかできなかった。




                              つづく



=====================================



 ─次回予告─



 華やかな海の町に感動するリボリアム。そこにかつて出会った聖女、シプレと再会した。

 彼女の話す、『奇跡の人』。いまその人物に、モグログの魔の手が伸びる!

 リボリアム煌結不能!その時、冒険者たちが立ち上がった!!


 次回、特捜騎士リボリアム

 『聖女の導き!海底に沈む神秘』


 お楽しみに。



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