表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
52/56

第八話「冒険者界の大型新人」6



    *



 森に声が響き渡る。それは野獣のようだったり、鳥のようだったり、人の雄たけびのようなものだったりした。

 そこには、追う者と追われる者がいた。


 森の中で、白刃がきらめいた。


「グゲェェ……ッ!!」


 兵士の剣に、また1匹のキメラ魔人が灰になった。

 次には、耳をつんざく爆発音。


「うわぁぁーーっっ!!」


 異形の業たる『爆破ボルムス』がまた数人、兵士を吹き飛ばす。

 双方無傷ではないが、優勢なのは兵士達に見えた。


 賊の頭目が焦りを見せる。いつの間にか数が半数ほどになっている。人間などモグログの、キメラ魔人の敵ではないのではなかったか。人間を超えた肉体に『爆破ボルムス』という魔法。これで勝てない相手などいないと。事実、あの村の駐在兵などは片手間にでも殺せたではないかと。

 実のところそれは都合のいい思い込みである。彼ら下っ端のキメラ魔人程度では、『爆破』を考慮に入れても帝国兵士の基準で言えば中程度であろう。それも1対1で戦った場合である。村の駐在兵を容易たやすく殺害できたのは、彼らが動揺していたのもあるが、大きな要因は集団で襲い掛かったからだ。

 もちろん、融合を重ねれば重ねる程実力は大きく伸びるが、上級キメラ魔人の基準である4体の融合までには多大な資質が必要である。


 そんな言い訳がましいことばかり考えていたが、気づけば周囲が開けた丘まで来ていた。これ幸いと頭目は高所に部下たちと陣取る。周囲が見渡せるここでなら、弓でも兵士でも、いくらでも撃てると。

 実際には最初からここへ来るよう包囲・誘導されている。リボリアム達から提供された情報を元に、討伐隊も勝つための作戦を立ててきているのだ。


「ちきしょうあいつら……!大勢で来やがって!」

「くそ、くそ……!」


 気が楽になった頭目とは対照的に、部下達の表情は暗い。10人以上いた仲間達が、今では6人しか残っていなかった。ただの人間にここまでコテンパンにされれば自信も無くすだろう。頭目は檄を飛ばした。


「落ち着け!ここなら、弓矢も兵士も『爆破ボルムス』で簡単に落とせる!粘れば人間どもなどすぐに疲れるが、俺達はキメラ魔人だ。その気になれば2日でも3日でも眠らず動けるんだ。」

「あ、ああ……はい!さすがお頭!」

「ググゥ~~~~~!」


 沸き立つキメラ魔人の賊達。実際言っていることはその通りだ。キメラ魔人は最下級でも並の人間を上回るが、特に再生力やスタミナは劇的に上がる。頭目の作戦も間違っていない。ただ、彼らは依然いぜん、甘く見ていた。帝国兵士を。そして戦場の現実を。


 討伐隊が森の中で包囲を完了した。この位置なら簡単に『爆破』に見舞われることもない。

 隊長が包囲完了の報告を受けると、続けて指示を出した。


「よし。これより弓兵による攻撃を開始。事前に打ち合わせた通り、散発的に撃て。」

「はっ!」


 合図の後、ひゅんと1本の矢が賊に飛ぶ。


「! カァッ!!」


 賊の目が光り、矢が爆発した。余裕の笑みが賊に浮かんだその時、別方向からまた矢が飛んで来た。

 慌てて反応した1人が『爆破』を放つ。この矢も撃ち落された。

 だが再び矢が飛んでくる。しかもさっきと今の2方向から同時に。また別の賊が『爆破』で撃ち落とす。

 再び矢が飛ぶ。発射タイミングがバラバラで、賊達は慌てたせいで2人同時に『爆破』を撃ってしまい、1つの矢に2人分の『爆破』が当たり、飛んでくる矢より『爆破』の回数の方が多くなってしまった。時間差で放たれていた次の矢は、その間を縫ってキメラ魔人の一人に刺さる。


「ぎゃあっ!」

「怯むな!撃て撃て、撃ち落せ!じきに矢が尽きる!」


 頭目が叫ぶ。なりふり構わず自らも迎撃する。すべては討伐隊長の作戦通りであった。

 矢はほとんど落とされるが、それ以上にキメラ魔人の魔力は減っていく。その間、多少の手傷を負わせられれば儲けものという算段だ。リボリアムからの話に聞いた通り、弓矢での攻撃は異形の賊に対し、有効とは言い難かった。今回持ってきたのは森での取り回しを考慮したショートボウで、矢も強力なものではない。せめて弩があればとも思ったが、元より作戦というのはそういった不測の事態をある程度考慮して立てるものだ。今はこれで十分と言えた。


 しばらくし、討伐隊の矢が尽きた。異形の賊達は1人につき数本ずつ矢が刺さっているような状態だが、大したダメージにはなっていない。


「うう……痛え……。」

「ちきしょう、何人いるんだ。」

「弱気になるなよ、確かに痛えが、何のことはねえ。俺達は人間を超えたんだ。こんな傷すぐにでも治る。」


 呻く賊達だが、身体は健在。矢が尽きたらしい兵士共は、もう身一つで来るしかない。そうなれば……。


「……カカカ……どうやら本当に矢が尽きたらしいな。見ろ、1人でノコノコ出てきたぞ。」

「おお……クシャシャシャ、お頭、オレにやらせてくれ……」

「いいぞ、やれ。」

「……クシャアーーーッッ!」


 ───ドガァァァン!!


 賊の1人が一睨みすると、盾を構えた兵士が爆発に吹き飛ばされ、森の中に消えた。その光景に賊達は大笑いした。

 ……だが、やがて同じように盾を構えた兵士が、四方八方からにじり寄ってくるではないか。異様な光景だった。

 これが、討伐隊の次なる作戦。徹底的に魔法を使わせ、賊どもに遠距離攻撃の手段を失わせるつもりなのだ。『爆破』を受けた兵士が森まで吹っ飛んだのも、爆発の威力を真っ向から受けないためだった。


 その光景を、森の中……兵士達よりさらに後方で、リボリアム達はずっと見ていた。


「……すごいですねぇ。攻め方が的確です。」

「心配してたアタシが言うのもなんだけど、これアタシらいる?」

「あの隊長さんが有能なんだろう。部下もよくまとまってる。」

「私、いずれはこの国と戦うつもりでしたけど……これを見ちゃうと……。」

「ね……。」


 元モグログの2人は若干青ざめている。もう2人に帝国と戦う意思はないが、さりとてキメラ魔人であることは変わらない。何かのきっかけで追われる身となった場合、悲惨な運命を辿るかもしれない。


「戦争って怖いんだな……。俺も兵士が人間相手に戦うところは見た事なかった。今回なんかキメラ魔人相手だってのに、全然押してるもんな。いくら下級とはいえ……。」


 その完璧な統率と連携に、リボリアムも舌を巻く。魔獣相手が主であるリボリアムの地元、ボリアミュート守備隊とはまた違った強さだ。


 このままいけば順当に討伐隊が勝つだろうと思われたが、気づくとキメラ魔人達からの『爆破』が止んでいた。ついに魔力切れかと思われたが、そうではないらしい。頭目を中心に皆が集まって、背中合わせに密着している?


「……な、何ですの……?」

「あいつら、もしかして……!」

「「?」」


 元モグログ女子2人が、何かを悟ったようだ。


「なんだ?奴ら何をしようとしてる?」

「たぶんあれ、”融合”だ……で、でも……」

「儀式の手順を踏んでいません、それに、キメラ魔人同士でなんて聞いたことも……あんなことしたらどうなるか……!」

「なんだって!?」


 いかにも禍々しい事をしようとしているらしい。そもそも彼女らの言うキメラ魔人の儀式……”融合”とやらも十分リスクがあるとの事だが、そのリスクを軽減するために”手順”は存在するのだという。それを知らぬ連中ではないだろうが、それでも断行したということは……敗北を悟った故の最終手段か。

 異形の賊どもの肉体は、徐々に境目が無くなり……やがて人としての形も無くなっていく。

 異様な光景に、討伐隊の兵士たちも後退している。凄まじい魔力の奔流が、あの賊達に集まっている。それはやがて物理的な力を伴って、兵士たちの剣や盾も引き寄せられ、吸収されていった。


「まずい、俺は行く!みんなここにいて!」

「は、はいい、お気をつけてぇぇ……!」

「ア、アタシ達は……」

「無理するな、あんなのもう、君らにだってどうしようもないだろ!」


 カイナ達を置いて、リボリアムは駆け出した。自分の剣も引き寄せられてはたまらないので、剣帯ごとカイナに預けている。

 賊どもはもう、動物がしていてよい姿ではなくなっていた。それは奇しくも”枯れ木”に見える。それぞれの足で立ち、胴が細長く伸び、行き場のない腕が揺れ、吸い込んだ剣や盾がサボテンのように生えているようだ。そして……もはや理性があるかも怪しい6つの頭部が、頂点に密集していた。

 それぞれキメラ魔人だった時の皮膚はそのままなので、妙に色とりどりの”枯れ木”であった。


「みんな!!逃げろぉー!!!」


 飛び出たリボリアムが叫ぶ。それにいち早く反応したのは、あの討伐隊長だった。


「む……奴は……!」


 討伐隊長はその姿を確認するや、すぐさま前に出た。


「貴様!何しにここへ来た!」

「討伐隊長殿……!はっ、戦闘の意思はありませんでしたが、森に来るなとは言われておりませんでしたので、不肖ふしょうながら、討伐隊の威力を拝見したく、密かについてきておりました!!」

「ぬけぬけと……!邪魔だ、く消えよ!!!」

「そういうわけには参り……」


 2人が言い合っていると、”枯れ木”の目がギョロリと向いた。


「危ない!!」


 ───ドドドゴォォォン!!!


 リボリアムは咄嗟に討伐隊長に飛び掛かり、地面に倒れ伏した。その瞬間、先程までの『爆破』より強力な爆発が数回巻き起こった。

 一目でわかるその威力は、リボリアムの見てきた”上級キメラ魔人”が放っていたそれよりも数段強かった。


「……普通の兵士の手に負えるもんじゃない。ここは任せて!!」

「な、何を」

「いいから!!」

「ふっふざけるな!!……お前達、剣を取れ!!さっさと切り」

「ほらまたやばいって!!!」


 言うが早いか、リボリアムは討伐隊長を抱えて走り出す。2人を狙う6つの頭が、次々『爆破』を放ってくる。視界が悪いのか直撃こそしなかったが、どかんどかんと容赦ない爆風がリボリアムの身体を叩いていた。


「!……ま、まずい!」


 リボリアムは気づいた。討伐隊長の指示を聞き、部下の兵士達がちらほらと……おっかなびっくりではあるが、森から出てきていたのだ。

 それに気づいたのか、”枯れ木”がそれぞれ視線を向け───


 ドガドガガガガァン!!!


「……!!」


 ”枯れ木”は広範囲に『爆破』を放ったはずだが、やはり狙いはつけ難いのか、当たったと思しき場所は2箇所。その2箇所には……モグログ女子の2人の姿があった。キメラ魔人としての姿で。


「く、ぐ……!」

「うっうう……!!」


 それを目にした討伐隊長も「奴らは……」と目を見開いた。状況は悪い。彼女らはリボリアムの指示に従わず、飛び出して兵士を庇ったのだろうが……。それはいいが……。

 スジャータは自分の『爆破』で対抗したのだろう、庇った兵士ともども倒れてはいたが、外傷はなさそうだった。アニカは間に合わなかったのか、その背ですべて受けた様子だ。服の背中側はほぼ無くなっており、甲殻のようなものが見えている。リボリアムの知識で言えば、超文明時代に存在したアルマジロやセンザンコウが近いか。

 彼女らに庇われた兵達は……これも怪我らしい怪我はしていないようだ。だが、反応はよろしくない。


「あの女子おなごら……!賊どもと同じ化け物か!」

「同じじゃあないんです!いや、同じ……は同じだったんですが、あの子らは裏切って人間の味方になったというか……」

「信じるとでも思うか!ええ、離せ!」


 状況はどんどん悪くなる。異常な力を見せる”枯れ木”、自棄になりつつある討伐隊、今にも剣を向けられそうな女子2人、愛馬の機嫌もよろしくない。

 リボリアムは決断した。


「……”煌結こうけつ”!!」


 一瞬の黄色い閃光。

 その一瞬で、その場の全員の目が、黄金の鎧騎士に集まった。


「”特捜騎士”リボリアム……現着!!」


 リボリアムが『煌結』のキーワードを発した時、0.7±(プラマイ)秒でBRアーマーの装着が完了される。

 では、そのプロセスをもう一度見てみよう。


「”煌結”!!」


 キーワードの入力が確認された時、ベルカナードMk-Ⅱの機魔術レプリ・マジ『エクォ・ファット』が起動、内部に搭載する超圧縮物質『アーマーシート』が、一気に波動粒子はどうりゅうし化される。それは黄金に瞬く煌結現象ポジフラッシュを伴って、リボリアムの体に合わせ『BRアーマー』として再物質化されるのだ。


 アーマーの右胸に刻まれたエンブレムが、主張するようにきらめく。

 そのエンブレムの意味が分かる者達は、残らず戦慄した。帝室の皇族以外ではごく限られた者しか使用できない、王冠を模した意匠。簡易的なその形は戦士階級を意味する。その意匠を持つ者は、かの『近衛銃士ピストリア』しかいない。つまり───


「ほんもの……だったのか……。」


 呆然と呟く討伐隊長。リボリアムは内心冷汗を流していた。また『煌結』を拒否されたらどうしようもない所だった。彼の愛馬は一応最低限空気を読んでくれたらしい。

 ひとまずは、希望が見えた。


「みんな聞いてくれ!!そのキメラ魔人は味方だ、どうか助けてやってくれ!!!」


 力の限り、リボリアムは叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ