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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第八話「冒険者界の大型新人」4


 ========



 キメラ魔人・スジャータは、ひどく戦慄していた。


「キメラ魔人だったとはな。お前達……どういうつもりだ!?」

「え、ちょ……違、アタシたちは!」


 その混乱を目ざとく把握した者がいた。賊の頭目である。


「今だお前ら、ずらかれっ!!」


 その瞬間、アニカの『爆破ボルムス』で吹っ飛んだ者も、その他負傷していた者も、素早く体勢を整え森の中に駆け出して行った。号令に対し誰もが素早く指示を聞いている、賊ながら見事な退却であった。

 その中で、女冒険者の2人だけは動けずにいた。彼女らは賊を追いたかったが、宿敵の金鎧に目を向けられている今、

それに背を向けるのも躊躇ためらわれたのだ。

 そうして、場には元の冒険者チーム4人だけが残った。リボリアムは残った女冒険者コンビをじろりと睨みつける。


「……き、金鎧!どうしてくれんだ!?」

「と、とにかく事情を話しましょう。……聞いてください、私たち───」

「聞くだけ聞くが、言葉を選んだ方がいいぞ。……俺はもう、お前たちを生かしておくつもりも、逃がすつもりもない。」

「「!!」」


 出会ってから今までに見せたリボリアムの姿からは、想像もできない冷酷な声色と言葉であった。キメラ魔人2人も話でしか聞いたことがないが、それでもいざ対峙した時の異様は2人を震え上がらせるに十分だった。自分達よりはるかに強い立ち位置にいる者達が既に何人も、目の前の金鎧に斬り捨てられているのだ。


「なによ、それ……!」


 絞り出すように吐き捨てるスジャータ。わなわなと、ショートソードを握る手が震えていた。そして───


手前てめえも所詮同じだ!!アタシらの、敵だーーーー!!!」

「スジャータ!?」


 叫びながらリボリアムに斬りかかる鳥キメラ魔人スジャータだったが、当然普通の剣でBRアーマーが傷つけられるわけもなく。防御するでもなく剣を受けたリボリアムは、その腕と首を掴み、スジャータを持ち上げた。


「うぐっ………があ、ぁ……!!…………!!!」


 藻掻もがくスジャータ。首に込められる力は強く、そう間を置かずして手から剣がこぼれ落ちた。


「待って!待ってください!!降伏します!スジャータを離して下さい!!」

「ダメだ。俺に剣を振った時点で、もう交渉の余地はない。」

「お願いします!代わりに、私の命を……!だから、スジャータだけは……!」


 その言葉を受けて、リボリアムの力が少し弱まった。なんとか息をしたスジャータは、アニカに声をかけた。


「あ、にか……にげろ……!」

「リボリアムさぁん?話ぐらい聞いてあげたらどうですぅ?」


 ずっと様子を見ていたカイナだったが、2人の姿にいたたまれなくなったか、助け船を出してきた。


「………………」

「やろうと思えばやれるものをぉ。それができないってことはぁ、あなたも迷ってるんですよぉ。そして迷うなら、命は奪わない方がいいと思いますぅ。」

「……カイナ君。これはそんな簡単な問題じゃない。」


 言いながらリボリアムは、スジャータを降ろし、首から手を離した。スジャータは座り込み、尚もフラつき、アニカに肩を支えられながらぐったりとした。


「いいか2人とも。逃げたら即座に仕留める。」


 2人の異形を見下ろし、言う。アニカは頷いた。そしてリボリアムの二の言を待つ。


「……まず、これから言うことを全て誓え。2人ともだ。1つ、これ以降、無辜の民達を傷つけたり、殺したりするな。」

「はい、誓います。今までも、普通に暮らす人たちを殺したことはありません。」

「よし。……2つ、モグログを裏切れ。」

「……!!」

「決して上の指示に従わない。どんな些細な事でも作戦に参加しない。可能なら縁を切れ。」

「縁を切るのは……無理です。私たちの上役うわやくは、私たちがどこにいるかわかるので……。でも、誓います。指示には決して従いません。」


 と、意識朦朧としていたスジャータが、なんとか声をかけた。


「アニカ……だめ、よ……。結社を……あんたは、もうすぐ……上級にもなれるって……。」

「ううんスジャータ。これでいいの。結社より何より……私はスジャータが大事。」

「あ、アニカ……!」


 相棒の想いと覚悟にうなだれるスジャータ。声色を変えず、リボリアムは最後の宣告をした。


「3つ。これらを破った時。2人とも命を絶つ。」

「……はい。私たちの内どちらかでも、誓いが破られたなら、私たちはこの命を投げます。」

「……アタシも、誓うよ。ぜんぶ、誓う……!」

「…………よし。後で、詳しく話を聞かせてもらう。」


 リボリアムはそこまで言って、ようやく煌結こうけつを解除した。カイナが隣に立ってくる。


「ちょっと厳しすぎるのではぁ?そこまでする必要が?」

「ある。モグログは何度も無差別な破壊と殺戮を仕掛けてきている。領主様とご子息が攫われた時、通りがかった町の人達が魔獣のエサにされた事を、俺は忘れていない。……ここで彼女らを見逃すことで、そういう人が増えてもいいと、カイナ君は言うかい?」


 リボリアムの体験談に、カイナはたじろぐ。キメラ魔人の2人は気まずそうに顔をそむけた。


「う~ん、そう言われたら確かにぃ……。」

「とりあえず、一度戻ろう。こっぴどくやったんだ、賊もすぐまた来ることはないさ。」


 そう言って振り返ると、リボリアムは思わず固まった。村人全員ギャラリーが遠巻きに勢ぞろいしていたからだ。

 冷静になれば、それはそうだ。日中だし、大きな音はしたし、派手に立ち回ったし、見覚えのある2人はバケモノ姿だし、煌結までしたのだ。……こうもなろう。


 どうしよう、と固まっていると、カイナがバンジョーを取り出し、ジャカジャ~~ン!と鳴らした。


「ふふぅん。今度は私が力をお見せしますよぉ。そう……音楽の力をぉ!」



    *



「すっげぇなぁ音楽……俺ちょっと感動しちゃったよ……音楽の力ってすげー……!」

「アタシも……って言うのもなんだけど、あんなん初めて見た……。」

「なんだか恥ずかしいですわ……。」


 てがわれた家で、3人はしみじみとしていた。

 あの後、村人全員ギャラリーの前で「ご説明しましょう!(ババーン!)」とブチ上げて、リボリアムやキメラ魔人2人について有る事無い事歌い上げ、見事な盛り上がりの元に納得させてしまったのだ。

 曰く、リボリアムは今日の賊のような連中と密かに戦っている正義の騎士と。キメラ魔人2人は、賊と同種ではあるが、悪い連中と戦うためにたった2人で立ち上がった勇者だと。

 どちらも当たらずとも遠からずといった所だし、状況が状況なので無暗むやみに否定するわけにもいかず。大いに盛り上がった村人連中には、ちょっとした持て成しまで受けてしまった。今は日も落ちて皆のテンションも落ち着いている。


 ちなみに歌った本人は今もドヤ顔で椅子にふんぞり返っている。


「それでぇ……なんか話とかぁはわぅわぅわぅ……するんでしたっけぇ?」


 遠慮ないあくびを挟みながら気だるげにカイナが切り出した。


「ああ……まぁ……。そうだな。えっと……。」

「……アタシたちはね。そもそも、ああいう賊に堕ちた連中を始末しろって指示受けてたんだ。」


 どう切り出すべきかまだ定まっていなかったリボリアムを尻目に、スジャータが語り出した。


「アタシらは”狩人”。結社に従わない連中の粛清が仕事なの。」

「この村でのことは、実は偶然でしたの。あの賊が元同志だとわかったのは、村長さんの説明を聞いてからでしたわ。」

「そうなのか?」

「ええ。ギルドではその……ただ、割のいい仕事だなって、スジャータと相談してたんですの。」

「そうそう。でも、結局2人じゃ村全体をカバーできないし?ってことで、2人に声掛けたってワケ。」


 女子達によると、モグログが帝国を下したとして、民衆に反発されるようでは本末転倒である。ので、以前から悪評になるような事はするなと全体に周知されていた。しかしそれでも今日の賊のような連中が現れるので、彼女らのような”狩人”が動くことになったのだという。

 正確に言えばこれは、モグログの首魁しゅかいである闘神官ウォリアモンクアイネグライブの思惑とは少々ズレた認識なのだが、女子2人は知らぬ事であった。


「アタシらが農村の生まれっていうのは、本当。でも貧しくってさ~。親に泣く泣く売られちゃったんだ。」

「ひどいところに買われまして……。スジャータと2人で逃げ出して、でも頼れる人なんていなくて……あわや凍死というところで、モグログに助けていただきまして。」


 2人の境遇は、リボリアムとしても十分同情に値するものだった。帝国は巨大で強大だが、理想郷ではない。貧困や災害にあえぐ人々も当然いて、援助が行き届かないところもある。

 モグログはそういった恵まれない人々を取り込み続け、大きくなってきたのかもしれない。───


「アタシらは”キメラ魔人”にしてもらった後は、普段は普通に暮らせって言われたのよね。だけど稼ぐアテもないっしょ?とりあえず冒険者になって。」

「それからは、時々ある昇級試験を受けながら、この力で依頼をこなしていったんです。……人の役に立てるのは、やり甲斐もありましたし。」

「昇級試験?なんだか……意外だな。俗っぽいっていうか。」

「新たに融合するんだよ。魔獣とか植物とかと。一気にたくさん融合すると身体に悪いから、ちょっとずつ増やしてくんだって。」

「モノはアレですけどぉ、そのへんの掟というか、決まり事は結構洗練されてる感じしますねぇ。」


 ───だが、兵士としてそれなりに過ごしてきたリボリアムにはわかる。これは反社会勢力の常套手段なのだ。どうにもならない人間に救いの手を差し伸べ、一生返せない恩を刻み、組織に絶対服従する事を自ら受け入れるようにする。

 特にモグログはわかりやすく力を得られる”キメラ魔人化”という手を持っている。その力を得て、今まで虐げられてきた『世間』に復讐しようという、大義名分を持った連中が暴れ回るのは必然と言えた。


「……あの賊みたいな連中も似たようなもんだったのかもしれない。その中で、君らは正しいと思うことを、してきたんだな?」

「うん……まぁ、ね。アタシらにひどいことした奴らと、同じになるのもシャクだったからさ。」

「でも、リボリアムさんのお話を聞いて、結社にも暗いところがあったと……。ショックでしたが、納得もしました。」

「だね。力も貰って、良くしてもらったけど……いや、正直言えば今でも、あの人を裏切りたくない。けど……そんなひどいこと、やってたんじゃ……。」


 リボリアムとしては、どんな悲惨な背景があっても、同情に値するものでも、モグログ相手に剣を鈍らせるつもりはない。今まで出会った者の中には、とりわけ帝国貴族を憎む者もいた。どうやら帝国そのものにもモグログと因縁があり、かつ正統性を持たせる一因があるようだが……。

 しかし結局のところ、モグログの描く未来が幸せな世界であるはずがない。古の超文明の記録を知るリボリアムは、かつてアイネグライブが語ったモグログの到達点である”魔族復活”がいかに危険であるかをよく理解しているからだ。遥か昔に栄華を誇った超文明は、魔族が原因で滅亡したのだ。


「2人に、無理して戦えとは言わない。だが、俺は必ずモグログの野望を打ち砕く。2人はこれからも、犯罪になるような事はしないようにな。」


 女子2人の目を見て、そう宣言した。2人は神妙に頷いた。

 話がひと段落ついたと判断し、カイナが口を開く。


「それじゃいよいよ?例の賊退治をどうしようかってはなしですけどぉ……どうしますぅ?」

「どうしようか……派遣されてくるっていう討伐隊でも、斬り合いになれば何とかなるとは思うけど。」

「でも、あいつらだって弱いけど『爆破ボルムス』は使えるよ?アタシらのことで、無駄に怪我人や死人を出したくない……。」

「ですわね……。となれば───」

「打って出る、か。」


 方針は決まった。

 なんだかんだで宴で騒いだのもあって皆疲れていたので、細かい部分を詰めるのは明日ということになった。


 ちなみにリボリアムはぐっすりと寝た。モグログの敵だと知られた以上、寝込みを暗殺される危険があるのではとかそういうことは一切頭になかった。

 完全な油断ではあるが……彼は彼女らの人柄を信用することにしたのである。


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