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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
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第一話「わんぱく小僧と新英雄(ニューヒーロー)!」5

    *


 無人となったマザー基地。「窓」には、ベルカナードに乗り、街の近郊へ繋がる通路を駆けるトマックとジンナが映っている。


 この基地は、所在のある大森林から、何本もの地下通路が通っている。その内のいくつかがボリアミュート近郊や大森林表層部にも繋がっており、普通に森を抜けるよりも近道になる。

 トマックたちがサイズコルポスに襲われた時、リボリアムがいち早く現場に追いつけられたのも、この通路を経由していたからだ。


 二人を乗せた馬はやがて通路の端に到着し、床が上にせり上がると、外へのドアが開いた。ボリアミュート市街へは目と鼻の先。通路の出口は、城壁から見える大岩だった。


「こんなところに通じてたのか……。」

 トマックは呟く。

 マザーはあえて自分たちにすべてを語らなかった。聞かれたら答えるのだが、曖昧な質問にはそれなりの返答しかくれなかった。トマックとしても、何をどう聞いたらいいのかわからなかった。


 気にはなるが、今は街に向かうのが先決だ。トマックは手綱を打ち、方向転換した。


 街では、兵士達と魔獣達が激しく戦っていた。城壁の各入り口付近では大型の魔獣がひしめき合っているが、兵士達はそれと互角に戦えているようだ。


 ただ、城壁の中からも争う物音がしている。人とは違って城壁を軽々と越えてくる魔獣もいるので、街の中も乱戦が起こっているのだろう。


「魔獣があんなに……どっから入るの?トマック」

「……魔獣が来てない門もあるはずだ。そっちを通ろう。」


 城壁外を大きく迂回してみると、トマックの言うとおり魔獣がいない門があった。ジンナにはなぜだかわからなかったが……トマックも貴族の子。軍略なども習っているのである。


 街中にさっと入ったトマック達は、まずはジンナの家に向かう。ジンナママは無事だったが……


「あらぁジンナ、帰ったの?怪我無かった?」

「ただいまママ、どっこも平気!」

「そう、なら安心。トマック坊ちゃま、ありがとうございます。」


 街が魔獣に襲われているにしてはだいぶ呑気な出迎えだった。ジンナとトマックが信用されていた……と捉えるべきか。以前からのんびりした人だとはトマックも思っていたが、街が結構な襲撃を受けてるのにペースが変わらないのは、呆れを通り越してむしろ感心した。とはいえこの辺りにはまだ破壊の形跡がないので、焦る理由もないか。他の家も戸を閉め切り、魔物の侵入を拒んでいることだろう。


「じゃあなジンナ。騒ぎが大きくなってきたら、そっちも避難するんだぞ。場所は衛兵詰め所だ。」

「うん、トマックも気をつけてね!」


 ジンナと別れ、トマックは領主邸に馬を向ける。ここまで来ればもう目と鼻の先だ。


 領主邸では、大型の魔物が兵士達と激しく戦っていた。


「あれは、サイズコルポス!?」

 記憶に新しい凶悪な魔獣がそこにいた。


 しかし、トマック達が出会ったそれよりも大きく、図鑑に記されるそれとは色も特徴も異なり、角がそこかしこから生えていた。だが、一点……


「あの傷……」


 暴れ回るそれの、胸元にある傷に見覚えがあった。リボリアムと戦ったサイズコルポスは彼の機転により、自分の爪で自分の胸を刺してしまった。そこにあった傷と一致していたのだ。

 つまりあの異形のサイズコルポスは、リボリアムがかつて撃退した個体ということだ。確かにとどめは刺していなかったが、それにしてもあんなに変異するものだろうか?


 疑問はあるが、今は領主邸の中を確認するのが先だ。戦いは兵に任せるのが最前───と、そこまで思った時、見慣れぬ怪しい人物達が領主邸から出てきた。つまり、敵だ。


「キキキャキャキャ……兵士の諸君、我らがキメラ魔獣を相手にしてこの奮闘、尊敬に値する!しかし、領主殿は既に我らが手に落ちた。」


「……!」

 トマックは物陰で歯噛みする。周囲の兵達は動揺するも、士気は落ちていない。


「嫡男のご子息がどこかにいるはず。我々はそれを確実に探し出す。この目的が達成されれば、撤収してもよい。潔く剣を納めるがよかろう。あるいは……そちらがご子息を差し出すというならすぐにでも……いかがかな?キキキャァァ~……!」

 男はそう告げ、不気味に口元をゆがめた。


 兵達は何もいわず、各々に剣を構え、眼光がぎらりと光る。ひとたび号令が掛かれば、猛然と突撃するだろう。引き絞られた弓矢の如き迷いのなさであった。


「帝国兵士を舐めるな!」

「「「ぅおおおおおーーーーー!!!」」」


 その場の部隊長が叫ぶ!それを合図に兵達は雄叫びを上げ突撃した。


 魔獣の目と身体の各所から閃光が迸る!その瞬間、兵の鎧が、地面が、所々に突然爆発が起こり、雄叫びは悲鳴に変わった。


「「「「ぐああああああぁぁぁ!!」」」」


 トマックは「ああっ」と声を漏らす。にわかには信じられない光景であった。一体いかなる魔法か、少なくともサイズコルポスがあんな技を使う筈はなかった。普通のサイズコルポスならば。


 まとまっていた兵達は皆そこかしこで倒れ、うめき声を上げていた。

 圧倒的な魔獣の威力を見て、トマックは覚悟を決めた。


「そこの男、待て!!」

 ベルカナードと共に、場に躍り出た。


「!?ぼ、坊ちゃ……!?」

「トマック様…!」


 慌てたのは周りの兵士だ。トマックは領主サルトラ、その嫡男マサキに次いで護衛対象である。


 兵の戸惑いにかまわず、敵の前に出て馬から下りる。

 敵も少々面食らったようだが、落ち着いて問いただした。

「キキャァァ……アナタは……?」

「ヴァルマ辺境伯が嫡男、トマックだ!貴様先ほどの言、本当だろうな。」

「キャハァァ……もちろんですとも。」


「い、いけません……!トマック様……!」

 部隊長が懇願する。だがトマックはこれ以上の被害を望むところではなかった。


「……それなら俺は従おう。どこへでも連れて行け。」

「それは賢明ですな、さすがは領主殿のご子息だ。さぁ、こちらに……」


 手招きする男。トマックはそれに従い……


「てやぁぁ!!」


「むっ!」

 トマックは腰のナイフを抜き、男の喉元に切りかかった!男は難なくかわし、トマックの手を捻り上げる!


「ううう、痛ててっ!」

「ククカカキキャァ~~……!いいお覚悟だトマック殿よ!」


 それに反応して、トマックの忠実な愛馬、ベルカナードが唸りを上げた!

「ゴルルルハッッ!!」

「ぬ!?」


 主人の危機に身を捻り、渾身の後ろ蹴りを放つ!ベルカナードは老いたとはいえ元は軍馬であり、敵を殺すことに躊躇は無い。相手が人ならば例え達人だろうと只では済まないその後ろ足が、男の胸板に叩きつけられる!


 だが……!

「ムゥゥ~~~……」


 男はビクともしなかった。一歩も動かず軍馬の蹴りをものともしない……それは最早、人かどうかも怪しいものだった。


「!?」


 ベルカナードも狼狽えた。しかし構わず次の一撃を見舞う為に体勢を整え……


「カキャァァ~~~!!」

 ドカドカドカァン!!


 男の目が激しく光ったかと思うと、ベルカナードの身体に爆発が起こった!


「ヒヒィン……!」

「ベルカナードー!!!」

 屈強な軍馬もたまらず地に伏した。


 かろうじて息はあるようだが、血が流れている。すぐにでも治療しなければならない。


「この領はやはり一筋縄ではありませんな、馬ですらこの忠誠心。ここを最初に落とせば、確かな衝撃を以て帝国中に知らしめられるでしょう。我らが恐ろしさを!」


「ベルカナード!しっかりしろ、ベルカナード!!」


 男は叫ぶトマックの身体を抱き上げ、拘束する。

「は、はなせ、くそ、うぉぉっ離せぇ!!」

「いけませんな約束は守りませんと。さぁ参りますよ、あなた方の処刑場にね。追って触れが出されましょう。明日の日の出と共に、我らの名が帝国中に響きわたることでしょう!カカカカカキキャァ~~~!」


 男はトマックを脇に抱え、踵を返す。


「!?おい、ちょっと待て、魔獣を引かせろ!約束というならそちらも筋を!」

「おやおや、不意打ちを仕掛けておいて眠たいことを。それに取引は、兵士の皆様といたしたもの。それも残念ながらふいにされましたが。」

「な、なにぃ!!」


「少々お勉強が足りませなんだな、トマック殿……。

 キメラ魔獣ネガコルポス!さぁ暴れまわれ!キキャキャキャカカァ~~~~~!」


 そうしてモグログのキメラ魔人サズーラは、悠然と街を出て行った。


 狼狽える兵士たちの周囲に、大小さまざまな魔獣が忍び寄る。その中心にはあの、サイズコルポスの変異体、ネガコルポスはぎらぎらと目を光らせている……


 ボリアミュートが、絶望に包まれた。



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