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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第八話「冒険者界の大型新人」3



    *



 ───しばらくして。

 獣道を歩き、やがて開けた川辺に出た女冒険者2人は。一息つくことにした。

 荷を解き……やがて火を起こし、川の水を汲んで火にかけた。オレンジ髪の活発そうな方が革袋から水を煽る。


「アニカ。」


 スジャータが相棒に笑いかけ、水の入った革袋を差し出す。

 アニカも笑顔を返し、草原のようになびく短髪を手ぐしで直しながら受け取り、こちらも一口。第三者が見ていれば、そんな逞しくも可憐な2人の姿に心奪われていたかもしれない。


 それが”いい意味で”……とはならないのが、世の常というのはなんとも悲しいことだ。


 周囲の森から、1人また1人。ゆっくりと6人程の男どもが歩み出て、彼女たちを包囲した。それ以外にも遠巻きに見ている2人……計8人。その誰もが下卑た笑みを浮かべていた。十中八九、件の野盗である。ただ、全員が人間ヒュームであった。

 最初の1人が出てきてから、それを認めつつも特に警戒するでもなく冒険者2人は座り込んで湯を沸かし続けていた。男たちの包囲が完了すると、スジャータが1つため息をつき、言った。


「あ~あ、せっかくの綺麗な水が、汚ったねぇ男に見られてるだけで汚れちまいそうだ。」


 続いてアニカが。


「お湯もまだ沸いてないのに……。」


 あからさまな賊に囲まれたことより、飲み水の補充ができなかったことの方を気にしている物言いに、周囲の賊どもは怪訝な顔をした。

 彼らとて、女子2人が戦いを生業とする冒険者であるというのはわかる。だがたった2人だ。いくら腕に覚えがあろうと6人の男に囲まれてここまで余裕というのはおかしい。余程腕に自信があるのか、それとも世間知らずの駆け出しなだけか。

 しかし……。


「っへへ……。」


 男共の1人がたまらず笑いを漏らした。いくら腕に覚えがあろうと、ただの小娘が自分達に敵うわけがない。そういう”確信”を含んだ笑いだ。

 やがて他の男たちからも笑いが上がっていった。それをリーダーらしき者が抑え、代表して女子2人に言った。


「よぉ姉ちゃんども。大人しく武器を捨てな。今日で冒険者ゴッコもお終ぇだ。これからは───」

手前てめェらこそ、盗賊ゴッコは(しま)いだ……。」


 スジャータはおもむろに立ち上がりながらそう返し、左右の腰に差したショートソード、その両方を抜いた。アニカも一拍遅れて立ち、スジャータと背中合わせで野盗へ向かい合った。


「たかだかその程度の人数で、アタシらをやれるかよ。」


 ギラリと歯を剥き出して狂暴な笑みを浮かべるスジャータを前に、幾人かの男は笑みを消し、不機嫌になった。その気持ちを代弁してか、さっきのリーダーらしき男が発言する。


「お前ら……多少傷つけても構わねえ、いつも通りやっちまえ。」


 その言葉と共に、男は見る見るうちに体を変質させ、虎を彷彿とさせる獣人に変わった。だが”虎獣人”というには異質で、どちらかと言えば『人間が虎になっている途中』とでもいうような、ひどく醜い姿であった。

 同時に他の男共も変異し、それぞれ魚人マーマンのようだったり化け木(トレント)のようであったりと、様々な異形の姿になっていった。


「かかれーっ!!」


 その掛け声で女冒険者達に殺到する野盗たち。彼女らはその場から動くことも無く、2人同時に叫んだ!


「「『爆破ボルムス』!!」」


 ───ドカドカドカァァァァン!!!


 彼女らの瞳が輝き、無数の爆発が野盗に炸裂した!悲鳴を上げる野盗達。飛び掛かった全員が吹き飛び、女冒険者の周囲に転がった。

 遠巻きに見ていた野盗2人の顔が驚愕に染まる。

 不敵に笑う女冒険者たちは、狼狽える賊共をあざわらった。


「……ハッ。分かってはいたがよ……弱ェ弱ェ。」

「ちょっと強くなったからと言って、無法を働いて……。おまけにやることが野菜泥棒。呆れるやら怒るやら、同胞として情けないやら……。」

「ま、所詮手前(てめえ)らは下級も下級。結社の格を下げる連中はもうブッコロすって、闘神官ウォリアモンク様のお達しだ。───覚悟しろや、ゴミ共ッッ!!!」


 『爆破』の煙が晴れた時、そこにいたのはただの人間の女子2人ではなかった。野盗共と同じ、否、もっと洗練された……ともすれば美しいと言える外見を持つ、しかし歪な獣人───”キメラ魔人”である。

 スジャータの外見は全体的には鳥……眼光と嘴は猛禽のそれだった。オレンジのポニーテールだった髪が顔の前面まで広がり、雌鶏にも見える。しかし腕は羽毛こそ生えているが霊長類の形で、武器もしっかり握っている。

 アニカは元々ゆったりした服を着ているのもあり、シルエットで見ると特徴的な部分はない。その中で頭部だけは、一目でわかるハリネズミのような異形だった。草原のようだった短髪はその一本一本が鋭い針になっている。そして普通のハリネズミよりも大きな口には、鋭い牙が並んでいた。頭以外で露出している手の平は、分厚そうな鱗、あるいは甲殻のようなものに覆われていた。


「まっまさか……”狩人”か……!?」

「そんな!俺達は結社に忠誠を誓ってる、あんまりじゃねえか!!」


 野盗達がわめくが、女子2人は意にかいさない。囲まれているのに、不利なのは野盗達の方である。それだけ彼女たちの方がキメラ魔人として格上なのだ。


狼狽うろたえるな!」「体勢を立て直せ!」


 離れていた野盗の2人がげきを飛ばし、駆け寄ってくる。そして彼らも変異し、最初の6人よりも強力そうなキメラ魔人へと姿を変えた。どうやら先程のリーダーぶった虎キメラ魔人よりも、こちらが頭目的な立場らしい。


「格上とて、上級ではあるまい!」「上級だとしても、本殿の方々よりは劣るはずだ!ここで倒し、身を隠すぞ!」

「フン、舐めた事言ってくれる……だが最下級のザコどもと思ったが……」

「ですね。最初の『爆破』で仕留められると思いましたが、手こずりそうです。」


 野盗と女冒険者。奇しくも同じ、キメラ魔人同士の戦いが始まった。


 ……………………


 …………


 ───その頃リボリアム達は、森にほど近い畑に作られた日陰でくつろいでいた。


「カイナ君。モグログについて、どこまで話したっけ?」

「んん?えっとぉ、この国を滅ぼそうとしていてぇ?ヴァルマ領は何度か襲われていてぇ?人間や魔獣をいろいろな他の魔獣や植物と融合させた”キメラ魔人”や”キメラ魔獣”で襲ってくる……。

 その頭目は『闘神官ウォリアモンク』アイネグライブという、黒い鎧の大男。最終的には、悪魔を復活させようとしている……こんなとこでしたかねぇ。」

「うん……。ほぼ全部話してたな。でだ。今回の野盗、様子のおかしい獣人だって話だけど、俺はキメラ魔人なんじゃないかと踏んでる。」

化け木(トレント)っぽいのがいるって言ってましたもんねぇ。統一感がないって。」

「やってることが野菜泥棒なのが気になるけど、もしそうだったら、彼女たち大丈夫かなって……。」

「冒険者ギルドの”星4つ”というのはぁ、ただ強かったりするだけでは成れません。そういう危険を嗅ぎ分けてぇ、押すか引くかの適切な判断も昇格に必要な要素と聞きますぅ。逃げるだけなら、多分大丈夫ですよぉ。」

「それならいいんだ、け、ど……?」

「……?」


 言葉を詰まらせたリボリアム。その理由はカイナもすぐわかった。森の奥の方で、何か大きな音が響いたからだ。一番近い例えで言えば、”威力の高い魔法を森の中で炸裂させてるような音”だ。

 2人は即座に立ち上がり、周囲を警戒した。リボリアムは剣を抜き、カイナは『セット魔術マジック』のカードを数枚取り出した。


「気をつけろカイナ君。キメラ魔人は強さにムラがあるけど、全員が呪文も何もなしで爆発の魔法を使ってくる。それに、倒すと死体が爆発したり、燃えて灰になる。」

「爆発してばっかりですねぇ。」


 リボリアムが思うに、キメラ魔人の一番の脅威は、ノータイムで放ってくる魔法『爆破ボルムス』である。一番最初に戦った2人のキメラ魔人をリボリアムはよく覚えている。BRアーマーを着ていたので脅威ではなかったが、生身で相対すれば、あの初見殺しとも言える魔法で即死していたかもしれない。

 炸裂音がどんどん大きくなっていき、目に見える遠くの木まで揺れ出した。


「…………来ますよぉ。」

「広がってるな。」


 そう、野盗とスジャータ達が戦っているとして、音や振動の範囲が広い。野盗達が大人数で、広がっていることになる。それを認識したリボリアムとカイナは、それぞれ左右に距離を取った。


 ───複数の影が同時に、森から飛び出してきた!


 村長の話していた通り獣人、魚人マーマン化け木(トレント)と、てんでバラバラな人種の集団……やはりキメラ魔人である。畑は森に隣接しているわけではない。この距離でなら、例え『爆破』を使われても被害は軽微だろう。リボリアム達は前に出た。

 キメラ魔人達が動きを止め、リボリアム達と相対する。どうやら全員が森から出たようだ。その数、()()()。…………だが、スジャータ達の姿が見えない。それに気づいたリボリアムの背中が冷やりとした。


 =========


「まずい、村まで出ちまった……!」


 そうこぼす鳥のようなキメラ魔人の言葉を聞いて、リボリアムは状況の奇妙さを感じ取った。


「内輪揉めか……?」


 自分が聞いていたのは”戦闘音”で間違いないだろう。てっきりスジャータ達が戦っていたのかと思ったが違ったらしい。

 今喋った鳥のキメラ魔人の声がスジャータに似ていたが、まさか彼女な事はあるまい。

 そんなことを考えていると、賊の頭目らしき奴がこちらを見て叫んだ。


「よし、お前たち!そいつらを盾にしろー!」

「ギュギュイーー!!」「クシュアーー!」


 連中にこちらを攻撃する意思を認めたリボリアムはカイナと軽く視線を交わすと、極めて冷静に、キメラ魔人の中に突っ込んでいった。


「おおおおーーーーッッ ぜああああああ!!!」


 リボリアムの振るった渾身の一撃が手近な魚人マーマンキメラ魔人を捉える!力に酔っていても防衛本能が勝ったか、相手は腕を刃に合わせてガードする。


「ヌギャァァ~~~~~!!?」


 リボリアムの剣は魚人キメラ魔人の腕を骨まで切り裂き、その体をブッ飛ばした。普通の魔獣なら体ごと両断されているところだ。この辺りの頑丈さはさすがキメラ魔人といったところか。


「ではこちらもぉ……奮発しますよぉ!『ファイアボルト』!『エナジーバーン』!」

「ぐぎゃあっ」「うじゅじゅぅぅー!」「クォォーーっっ!?」


 カイナは抜いたカードの内2枚を解き放つ。1つは以前にも見た炎の矢、もう1つは光の爆発とでもいうような魔法だ。


「エナバを引けたのは運がよかったですねぇ。これは効果範囲が広くて使いやすいんですよぉ。もっと販売しませんかねぇ。」

「なっなんだこいつら、強ぇ……!」

「く、お前ら、だらしねぇぞ!!そのガキを囲めー!!」


 その号令で、殆どのキメラ魔人がカイナに殺到する!

 その動きに、リボリアムの他、2人のキメラ魔人がそれぞれ動いた。


「まずい、カイナ君……! ”煌結こうけつ”!!」

「少年!……アニカ、頼むー!」

「『爆破(ボルムス)』!!」

「え……!?」


 カイナに駆け寄りながら鎧を着装したリボリアムは、そのキメラ魔人達の言葉を疑った。


 ───ドドドドカァン!!


 驚くリボリアムをよそに、カイナに殺到していたキメラ魔人達が漏れ無く撃ち落とされる。

 リボリアムはとにかくカイナに駆け寄り、その背に庇うように立った。


「な……」

「ああ……!?」

「う、うそだろ……!!」


 今度はキメラ魔人達が驚く番だった。その姿だけは、モグログの末端にまで周知されている。金色を基調とした、しかし奇妙な意匠の全身鎧。それは”彼ら”全員の宿敵とされる。


「き、金鎧……!」

「リボリアムさんが……え……?」


 リボリアムは、その視線をハリネズミキメラ魔人こと、アニカに向けていた。



次回更新は来週です。

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