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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第八話「冒険者界の大型新人」2


    *



「ちょっと待ってよ、お二人さん!」


 リボリアム達がいざ受付で依頼書を出そうとした時、後ろから女が声がかかった。

 燃えるようなオレンジのくせ毛をポニーテールにまとめた、勝気そうな顔立ち、日に焼けた肌。まだ幼さが残っているが、20歳前後ではあろう。軽装の革鎧に、武器はショートソード2本にショートボウ。珍しい装備だった。

 首から下げた冒険者タグは星4つ。立派な一人前である。

 リボリアムは以前、”奇跡の聖女の村”で女冒険者コンビを見たが、あの時の彼女らと比べるとずいぶん若い。


「何かぁ?」

「その依頼、アタシも気になっててさ。一枚噛ませてもらえん?そっちも2人だけじゃ、村の隅々まで守り切れないっしょ~。」


 若さ弾ける声。言われた男2人は顔を見合わせる。一見問題なさそうだが、カイナはそう判断はしなかった。


「あなたお一人ですかぁ?」

「おおっとー!ははっこりゃ参った。意外としっかりしてるねぇ少年。……外にもう一人、アタシの連れがいるよ。」

「ん~、まぁ4人ならだいじょぶですかねぇ。」

「そういうもんなの?」

「後で説明してあげますぅ。」

「決まりだねっ、感謝するよ!」


 そうして受付で手続きし、外に出る。オレンジの女はすぐそこにいたもう一人を呼んで紹介した。


「じゃあ、今日から世話になるよ。アタシはスジャータ。軽戦士ってとこ。こっちはアニカ。アタシの幼馴染で魔法使いさ。」

「よろしくお願いします。スジャータが見込んだ方たちなら、安心できます。」


 アニカは大人しそうな顔立ちの女性だ。青を基調としたゆったりした服、茶色の髪は短髪で、スジャータとは正反対の印象であった。装備は申し訳程度の革鎧に、杖を一本。いかにも駆け出しの魔法使いな出で立ちだが、首から下げたタグにはスジャータ同様に星が4つ。幼馴染というからには、今まで2人で活躍してきたのだろう。


「魔法使いか。カイナ君の仲間だな。」

「あのぉ、私はあくまで吟遊詩人バードですからねぇ?」


 軽く自己紹介を済ませた一行は、ちょうど件の村から来ていた馬車に乗せてもらう事ができた。馬車に揺られ、互いの事を話し合っている。


「へぇ~攻撃魔法。」

「そうそう、アニカのはスッゴいよ。どんな魔物も魔獣も、ドカンと一発ってなもんよ!」

「スジャータ、その辺にしてください……。」


 スジャータの売り込みに、アニカは若干恐縮気味だ。持ち上げられるのが恥ずかしいのか、赤くなって縮こまっている。


「何言ってんのよ!こういう時に売り込んどかないと!……聞いて驚け、アタシらはなんと2か月で、星4つになったのさぁ!」

「2か月ぅ!?」

「2か月ってそんなすごいの?」


 リボリアムの世間知らず炸裂である。彼女たちが、若さの割に身ごなしが良いのはリボリアムもわかる。問題は、『星4つの冒険者』がどれほどの水準かわからないということだ。


「そりゃすごいですよぉ。あなたみたいな なんちゃって大型新人とは違う、正真正銘の大型新人と言えますぅ。期待の星ですねぇ。」

「お、俺は本来冒険者である必要ないし!?」

「張り合うのもおこがましいですぅ。その無駄遣いを直してから出直して下さい。」


 辛辣であった。カイナの中で「おソロの帽子とポンチョ衝動買い事件」は根のように残り続けるだろう。単純な戦力で言えばこの中で最も強いのがリボリアムであるのは彼も頷くところだが、それとこれは別なのだ。


「カ、カイナ君なんか星2つだろ!」

「星の数はあくまで目安です。第一私は歌と演奏で日銭を稼いでるんですぅ。冒険者は副業なのでぇ。」


 最早ぐぅの音も出なかった。そんなやりとりを見て、スジャータはからからと快活に笑った。


「あっはは!お兄さん、思ったより子供だねぇ。最初見た時は保護者かと思ったけど、どうやら立場は逆ってカンジ?」

「ズバリですねぇ。世の厳しさと、なによりお金の大切さってモノを教えているところですよぉ。」

「へぇ~い、勉強さしてもらってや~す。」

「どォやら躾も必要のようですねぇ。歌魔法でドン底の気分を味わいますかぁ?」

「ふふ、お2人とも、仲がよろしいんですのね!」


 その台詞で2人はふと「ん?」となった。何とはなしに考えこむ……確かに気安い。共に命がけの修羅場を潜って来たし、数日一緒にいるが、考えてみればそれができるのは相性のいい人間同士だからだろう。話の波長というか、感覚も合う。


 リボリアムがここまで砕けた態度で接するのは、元同僚である守備隊兵士の中でも極一部しかいない。リボリアムと最も親しい人物と言えばトマックだが、こちらはあけすけに物を言い合えるものの、立場を得た今はうっすらとだが主従の壁がある。それを思うと、カイナは一回り年下ながら遠慮なく言い合える相手……同等の友達、と言えるか。

 否……実際には()()ではない。リボリアムは人間ではないため、誕生経緯も人間とは違う。身体が完成した時を『誕生』とするなら、誕生した時点で”青年にほど近い身体”であった。それ以前……身体が出来上がる前から意識は形成されており、機械学習で知恵をつけながら、世に出るその時まで過ごしていた。そしてトマックと出会い……と、これまでの時間を換算すると───カイナはリボリアムとほぼ同い年か()()()()()となるだろう。


「……そうかなぁ?」

「なんですかぁ?その微妙な反応……。」


 それに気づいてみると、由来はわからないが急に照れくさくなってきて、顔をそむけてしまうリボリアムであった。

 困惑するカイナを尻目に、女子二人は生暖かい視線を2人に送るのだった。



    *



 ───依頼の村、村長宅。


「見知らぬ魔物が現れるのです。」


 リボリアムら一行を集めた部屋で、村長は話し始めた。


「見知らぬ、というのは……例えばどんな?」

「そう、獣人……のような連中です。」


 一応のパーティ代表としてリボリアムが質問するが、その答えに疑問が浮かぶ。それは魔物なんじゃなく、獣人の野盗なのでは……?だが、それならそうと言うはずではあるか。


「2週間程前から、農作物が盗まれる夜が何度かありましてな。村人も見かけてますし、駐在の兵士さん達も先日立ち向かったのですが……成す術も無く……!」

「! ……成す術も?帝国兵士が?」


 村長の眉間に皺が寄る。村を守るために犠牲になった兵士たちは、村民とも仲の良い関係だったのだろう。

 帝国兵士というのは強い。領の収入であり生命維持にも直結する農村、それを守護する駐在兵なら、ある程度腕に覚えのある者が派遣されていたろう。ここのように小さい農村なら2・3名ほどだろうが、数で押されたにしても一矢報いるくらいのことはするはず。それが「成す術なく」というのは、正直異常だった。

 ()()()()()……リボリアムの脳裏に、ある影がちらついた。


「その魔物達の特徴は?」

「それが、説明がなんともし辛く。頭目は獣人のようではあるのですが、種族までは儂も詳しくは……。ただ、獣人にしては部下たちの姿が異様で。化け木(トレント)のような感じだったり、毛皮っぽくなかったり。」


 そこまで聞いて、リボリアムはやはりモグログだろうと確信した。今まで大規模な攻撃以外はしてこなかった連中が、なぜ野菜泥棒などするのかは疑問だが、それで人命まで失わせているのは許しがたい。

 ふと横を見ると、スジャータとアニカの形相は怒りに燃えていた。


「許せない……。」

「私たちも農村の出です。野菜泥棒は万死に値します。」


 人命よりも野菜泥棒の方に意識が行っているのは気になるが、農村が大多数のこの国では『野菜泥棒は極刑』というのは一般論である。……ちなみに帝国法では野菜だろうが何だろうが、盗みで捕まったら隷属の術を施された上で労働奴隷行きだ。先の『一般論』は、犯罪者を法的に処分するのはあくまで兵士の仕事であり、野菜泥棒は兵士に引き渡される手前で私刑リンチによる極刑に処されるということである。田舎は恐ろしいのだ。


「アタシらに任せて、村長さん。血祭りにするからっ。」

「きっとご期待に応えて見せます。」

「お、おお……!」


 村長はやおら立ち上がり、女子2人も立ち上がり、3人は固く手を握り合った。


「……カイナ君的にはどう?」

「解らないことはないですがぁ。空気が物騒ですねぇ。」


 握手を終え、我に返った村長は一行に念を押す。


「駐在兵がたの事は、もう代官様に掛け合っております。討伐隊が組まれるとお返事を頂きましたから、皆さんにはその間守ってくださるだけで構いません。もちろん、討伐できればそれに越したことはありませんが……。それとお約束の通り、食事はお出しします。」


 固く握手した手前アレだが、割と現実的な対応は既に取られていた。女子2人はズッコケかけたが、取れる行動として村長は最良の事をしていた。結構な事であった。



───村の外れ。


「さって~ぇ?……結局ん所、4人と言っても森に分け入るのは危ないし、防衛で精いっぱいかな。やり方はどうしよっか?」

「注意するなら夜と朝ですねぇ。昼に休んでぇ、夜から朝方まで4人で警戒しましょう。」

「なぁなぁ、ちょっといい?」

「なんですぅ?リボリアムさん。」

「森を探すのはなんでナシなんだ?」

「「「…………」」」


 リボリアムの世間知らず炸裂Ⅱである。土地勘のない人間が、野盗が根城にしている森を歩き回るというのは、危険以外なんでもない……というのがわかっていない。

 ただ、彼なりの考えがあっての疑問だった。呆れの目線を一切無視して、先を続ける。


「カイナ君は森にも慣れてるよな?」

「……まぁ。」


 カイナは地図もない山奥の村へ1人で来るような冒険者である。


「俺も森ならその辺の野盗よりわかる。そっちの2人は?」

「そりゃ、アタシらもそこそこ自信あるケド……。にしたって、問題は残った方でしょ?いざアタシらが居ない間に来たら、少年とお兄さん2人でどうにかなるの?兵士もやられちゃう程の相手に?」

「うん、どうにかなると思う。」


 リボリアムは事も無げに言い放った。


「俺は元ヴァルマ領の守備隊兵だ。大森林の魔獣に比べれば、野盗の群れなんか……。それにカイナ君も頼りになる。」

「う~んそう言われると確かにぃ……。」

「! ヴァ、ヴァルマ領……それにその口ぶり、もしかして『南の護り手』!?」

「リボリアムさんって、そんなにお強い方だったんですの?」

「ですねぇ、強さは保証しますよぉ。」


 リボリアムが「ヴァルマ領」と口にした時、女子2人の見る目が変わった。帝国、いやこの大地の南端に広がる、前人未踏の大森林。そこから来る強大な魔獣達を押しとどめ、今もなお開拓を続ける土地の、守りの要。その精強さは広く知られており、スジャータの言った『南の護り手』とはボリアミュート守備隊を指す。このネームバリューは『吸血領』に次ぐ程だが、吸血領の兵士や貴族と違い領外に出てくることがあまりないため、ヴァルマ領から離れるほどレアキャラ扱いされている。だが名が知れ渡っているのは確かで、カイナも初めて聞いた時には驚いたものだ。……そのカイナも、リボリアムのBRアーマーを見てさほど驚かなかったりと謎の多い人物なのだが。

 ともあれ、その名の価値を知らなかったのはリボリアム当人だけである。


「本当に大丈夫ってなら……。うん、そんじゃあアタシらが先に、行かしてもらうね!」


 スジャータ達は、斥候の知識、武器の取り回しの良さ、魔法への自信から、野盗捜索に手を挙げた。

 リボリアムの使うロングソードは森での取り回しに不利なのは確かだ。本人としては大森林の魔獣に比べれば何だって問題ない位に思っているが、冒険者として先輩、かつ実績もある女子2人の事を信頼し、森の捜索を任せた。

 これはカイナも同意見である。カイナには歌魔法とセット魔術マジックという手段があるが、歌魔法は効力が出るまで時間がかかるし、セット魔術は回数制限がある上、『スケルトン』のような戦力を増やすものは切り札なので、あまり安易に使いたくはないそうだ。

 総じて男子2人は、防衛戦でこそ真価が発揮されるという見解になった。


「不利だと思ったらぁ、迷わず撤退して下さいねぇ?」

「うん、大丈夫。」


 軽く言葉を交わして、女子2人は森に入っていった。



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