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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第八話「冒険者界の大型新人」1


おまたせしました、第八話です!



「う、うわぁぁ……!」


 月が照らす畑の前で、鎧に身を包んだ兵士がうろたえた。兵士とは思えぬその情けない声を、兵士の目の前にいる何か達が嘲笑った。


「ひ、怯むな!……ききっ貴様ら何者だ!?」


 もう1人の兵士が叫ぶ。目の前の連中は、兵士たちの後ろにある畑から野菜を思う様持ち出し、森に消えようとするところだった。駐在兵として派遣されている二人の兵士は、この頃怪しい人影が野菜を盗み続けるということで警らしていたのだが、今その犯人と対峙してみると───


「ギュギュギュゥゥ~~、これが帝国兵ってやつか、お笑いだなァァ……」


 月に照らされた連中の姿は、人間ヒュームでも魔物でもない。強いて言えば獣人だが、どこか歪でおぞましいその姿は一つとして同じ特徴が無く、獣人の集まりとしても不自然で。───『こういう化け物の集まり』と言った方が適切であった。


「ギュッギュッギュッギュ……」「クシシシシャーーー……!」「クォ~~~~クォックォッ……」


 化け物共はゆっくりと兵士たちに歩み寄り、その手を向ける。対峙するのは剣を構えた人間だが、それは彼らにとって少しも恐れる事柄ではないのだ。そして……。


 月夜の農村に、兵士たちの叫び声がこだました。



    *



 カイナとリボリアムは、とある町を歩いていた。


「なあ、カイナ君どうしよう。路銀が少ない。」

「……は?」


 唐突にリボリアムが言う。カイナは反射的に、ここ数日のリボリアムの様子を思い出す。

 ここに来るまで2つほど村を通過したが、金に困った様子は見られなかった。先々で思う様飲み食いしていたし、行商や露天商でも買い食いなどをしていた。だが、もしや……。カイナの脳裏に漠然と嫌な予感がよぎる。


「……無くなるのわかってるんならぁ、なんであんなに飲み食いしてたんですかぁ?今残りいくつぅ?」

「だって……小腹とか減るし……。残りは……500(サーク)くらい?」

「すくな!?!あと1、2泊分くらいじゃないですかぁ!帰りどうするんですかぁ!?」

「だから、困ったなって……。」


 カイナは呆れるしかなかった。一応、広めの空間で他の利用客と雑魚寝するような安宿なら10泊ぐらいできるだろうが、この男は元来潔癖で、村では空き家などを借りていたが「普段は自分に合う宿にしか泊まらない」と宣言していた。それを加味すると1泊300~500Cの宿になる。しかもそれは宿だけの話だ。最低でも食費は必要だし、火種など消耗品を買うための金くらい残すものだ。

 だのに、リボリアムはとにかくよく食う。冒険者としては豪遊と言っていいくらい気にせず食べ物を買ってその場でパクつく。しかも路銀が尽きかけるまで気にも留めないというのだから、もはや悪癖である。なんなら買った食べ物をカイナに分けてもいた。それだけにちょっと強く言えない自分がもどかしかった。


「あの山奥の村までは空飛んで来たんですよねぇ?じゃあもう、あの相棒さんでまた飛んで帰るのはぁ?」

「この頃へそ曲げて乗せてくんないんだ。魔力使いすぎたみたいでさ。十分溜まるまで待てって。」


 さすがに街中に入れるわけにもいかないリボリアムの相棒、”鋼鉄の騎馬”ことベルカナードMk-Ⅱ。彼は前回の戦いで2度の限定拡張と高出力”機魔術レプリ・マジ”の使用のために、動力源である魔力がほとんどなくなってしまった。旅するリボリアム達についていく程度は問題ないが、モグログ等と戦闘するには依然として不安があるとのことだ。


「せめて冒険者証があれば、仕事もあったでしょうけどぉ。」

「冒険者証?あるよ、ほら。」


 と軽めの調子でリボリアムが懐から出したそれはまさしくカイナの言う冒険者証。あの因習村でカイナがリボリアムに見せたのと同じ作り……銅で作られたタグであった。刻まれた星は3つ。中堅どころだ。

 それを見たカイナはしばらく固まっていたが、怒り・呆れ・困惑・感心……様々な思いが駆け巡った顔をした後、宣言した。


「仕事しましょう!」


 カイナはぶち上げた。今この時、始まる……そう、冒険者プロデュースである!



    *



 第八話「冒険者界の大型新人」



    *



 暗闇に、ぽつぽつと仄かな光の粒が舞う。

 その仄かな光が、暗闇に佇む者の輪郭をわずかに照らした。その者は振り向き、問うた。


「信心浅き者が?」

「は……。」


 問うたのは、漆黒の鎧に身を包む男。大アバンジナ帝国を相手に国崩しを掲げた組織、『光の結社モグログ』が首魁。闘神官ウォリアモンクアイネグライブである。

 答えた者は、姿勢を低く頭を垂れているため、何者か判別がつかない。ただその声から、男であろうことはわかる。


「各地に潜むキメラ魔人が各々、徒党を組み始めております。その者らが、賊となって民を襲っている、と。」

「ふむ……。」


 アイネグライブは目線を下げ、黙考する。

 モグログという組織が一体いつ成立したのか、この場に知るのは少ない。だが長い時間の中でここ数十年の間……アイネグライブが首魁となった後に、その数はどんどんと増えていき……現在は帝国のみならず、大地全土に同志達がいる。

 全人口と比べればそれは微々たるものだが、それでも敵対するリボリアムをはじめ因縁のある者達が考えるより、その規模はずっと大きなものであった。


 ただ、数が増えれば質の良し悪しも、その幅も大きくなっていく。気の大きくなった()()()()()()が力に溺れ勝手なことをしでかすのは、避けられない問題であった。


「”狩人”を向かわせろ。」


 アイネグライブは静かに、だが確固たる意志を持って言った。


「無辜の民への無法は控えるよう、各地に再度周知せよ。民たちはいずれ、共に我らが悲願たる”開座スローン”を見る同士となるのだ。

 時間がかかるなら、”狩人”を増やしても構わぬ。我らが意に従わぬ不信心者共は、すべて粛清する。」

「お言葉の通りに……。」


 あくまでアイネグライブの掲げる帝国打倒は、それを支配する貴族達へ向けたものである。彼としては今いる民衆に対して庇護の情は持っていないが、後に臣民となる予定でもある。帝国打倒のための戦で人が死ぬのは常ではあるが、統一されぬ個々の意志で、それらを傷つけるのは()()()()()()。それは市井に暮らす民衆の価値観と照らし合わせれば歪んではいるが、アイネグライブの引いた確かな一線であった。

 男は垂らした頭を、さらに地につける程に下げ、音も無く消えた。



    *



 カイナは1人、町の冒険者ギルド前で佇んでいた。リボリアムから「ちょっと先行ってて」と言われたからである。路銀も無いのに何をしようというのだろうか?

 待っていると、そう間を置かずしてリボリアムはやってきた。だが……。


「お待たせ~!」

「……その恰好は?」


 彼は非常に既視感のある服に身を包んでいた。鍔広帽にポンチョ、つまりカイナと似た格好だ。まさか……まさかね……?と、現実逃避に近い予感を感じていた。


「そこの露店で買った。ほら、君とおソロだ!」

「おソロはいいですがぁ……お金は?」

「最後のお金使ったぞ!」

「くぉラーーーーー!!!!思い切りがいいですねぇ!ある意味では男気溢れてますがぁ!!お金の使い方0点ですねぇーーーー!!!」


 人目も憚らずカイナは怒鳴り散らした。

 人は、カツカツになると逆に金遣いが適当になると言う。無駄なものを買い込んだり、一発当てて増やそうと博打に注ぎ込んだりするのだ。リボリアムの場合「どうせ仕事するし、すぐお金入るでしょ」ぐらいの気持ちもあるのだろう。

 そして、冒頭に感じていたカイナの悪い予感は確信に変わりつつあった。

 リボリアム……この男は、悪い意味で金に頓着しないのだ……!


「まぁ仕方ない。ほら中に入りますよぉ。」


 怒るよりも先に、しっかりお金の大切さ・使い方をレクチャーしなければと、カイナは頭を切り替えた。

 ふと、自分がここまでする必要があるか?という思いが沸いてきたが、一度乗りかかった船であるし、こんな人間は1人でも減って欲しいと思ったので、彼は迷いを振り払った。

 旅の吟遊詩人カイナ。彼もまた結構な世話焼きお人よしであった。


 ギルドに入った2人は、まずそのへんのテーブルに着き、顔を向き合わせた。


「さてぇ、星3つということは、それなりに依頼をこなしているってことでいいんですよねぇ?」

「ううん?これが初めて。」

「は?」


 …………………………


「……じゃあなぜ星3つなんですかぁ?」

「俺が騎士だって話はしたよな。だけど、普段の活動資金は自分で稼げって言われててさ。」

「ああ……。」


 ここに来るまで5日ほどになるが、互いの事を話す機会もあり、カイナはリボリアムの事情をなんとなく理解していた。騎士と言ったら普通こんなところで金に困っている立場ではないが、どうにもリボリアムには複雑な事情があるようだ。

 要約すれば、普段の活動費を確保するのに冒険者ギルドで仕事を受けられる立場を用意してもらったということだ。その際に星1つのぺーぺーでは受けられる依頼の質も稼ぎも悪いことから、元は精強なボリアミュート守備隊の兵士だということもあり、特例で中堅どころからスタートする事になったのだ。


 ちなみにリボリアムの活動費は、ヴァルマ領から冒険者ギルドを通して一定額受け取れる制度もあるのだが、今月分はとっくに使い切っている。


「じゃあ、本当にぺーぺーなんですねぇ。よろしい、では私がレクチャーしてあげましょう~。」

「ん~やったぁ!」


 調子のいいリボリアムである。2人は立ち上がり、入口横の掲示板に向かった。

 掲示板には、本日張り出された依頼が並んでいる。


「ん~~、この辺りは農村が多いので害獣駆除が多いと思いましたがぁ、行商や隊商の警備がそれ以上に多いんですねぇ。」

「この辺りって地理的にはどこらへん?」

「あそこ、大地図ですけどぉ。」


 問われてカイナは、ギルド受付の上に飾られた地図を示す。ざっくりと「領」境線が引いてある帝国領に加え、他国の位置も描いてある。


「私たちが出会った山があの、下の方にあるでっかい山脈ですぅ。」

「アポルプス山脈ね。で、ここはハルジオニアってところらしいけど?」

「です。今いる町はほぼ西のはじっこ……ああ、なるほどぉ。」

「? 何が『なるほど』?」

「掲示板の依頼の偏りです。ハルジオニア領のさらに西はぁ……。」

「あ。……そうか、あれが『吸血領』か。」


 カイナがうなずく。そこには中心にコウモリのマークが描かれた領。吸血領というのは俗称だが、その名の通り吸血鬼の貴族が治めている事で有名な領地だ。

 リボリアム達の暮らす大アバンジナ帝国は、皇帝が直接治める『帝室直轄領』に加え、特に有力な5人の貴族が治める大領地、通称『帝国五大領』で形作られており、それを寄り子の貴族に細かく分ける形で運営されている。

 吸血領はその帝国五大領の一つである。正式には『エテルーナ領』と言い、領地そのものは五大領最小ながら、帝国西面の護りを一手に引き受けている。


 と、これだけ聞くと恐れ多いが、その強大さのお陰で特に平和な地域だと言われている。交易も盛んだ。


「ただ、あっちは魔物が強いらしいんですよねぇ。」

「だから護衛がいるのかぁ。でもなぁ……」

「護衛は時間がかかりすぎますしぃ、初期費用も要りますしぃ……もうちょっと手早いのが……。」


 2人は掲示板前で、ああでもないこうでもないと議論を重ねる。少しして。


「これにしましょう!」

「文句なし!これで実績が出来たら、あっという間に大金持ちってことだな!」

「とんだ夢見る大型新人ですねぇ~。」


 受けた依頼は少し離れた農村の警備、『手練れ希望』の条件付き。その割には規模や拘束時間あたりの報酬は少な目。だが大きな特徴として”任務の間の食事は提供される”という、変わった内容だが破格と言える依頼だ。無駄遣いして今日のメシにも困ることになった今のリボリアムには最適であろう。

 詳しい話は現地でと依頼書にあったので、2人は早速受付に向かうのであった。




カ「ジュース飲んでんじゃネーですヨはげェ!!」

リ「お、俺は禿げてないしジュースも飲んでない……!なんだっていうんだ!?」


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