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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第七話「戦う吟遊詩人、暴君へ捧げるララバイ」6


 片方のポイントを破壊すると、やがてもう片方のポイントに位置する壁も破裂した。突然何もしていない壁が破裂したので”さるども”や変異村長たちがびっくりしている。

 リボリアムの目には、もう片方のポイントにギガティラノサウルスの魔力が過剰供給されるのが見て取れた。その負荷に耐え切れず、魔力を縛っていたであろう術と共に破裂したのだ。

 そして解放されたかの恐竜の魔力は、その源へ流れるように戻っていく。


 ギガティラノサイルスは、大きく息を吸い、そして───


「 グォロロロロラォォォォーーーーー!!!!! 」


「「「!?」」」


 ギガティラノサウルスの咆哮と共に、猛烈な衝撃波ソニックブラストが発射された!!空間が震え、そこにいた人も物も全てが吹き飛ぶ。

 天井がひび割れ崩れ、岩と土の雨が一同に降り注ぐ!


「ウガァァーーー!!」


 ”さるども”達も。


「お、おグらい様……!あ、アぁ~~~!!」


 異形と化した村人達も。


「……まずい、これじゃ生き埋めだ!」


 リボリアム達も。


「 ガロロォォォ~~~~!! 」


 そしてギガティラノサウルスも。

 ───唯一1人だけ、慌てて逃げ出した村長を除き……。



 地上では、地下空間が崩れた分、山も抉れるように沈下した。神殿の入口も崩れ、地下にあったすべてが消えてしまった。

 それを遠巻きに見ていたいくつもの影があった。”さるども”と、異形化した村人だ。まばらに混じり合って佇んでいる。その光景は先ほどまでの争いなど無かったかのようである。しばらくそのまま神殿のあった場所を見ていたが、やがて1人2人と力なく立ち去り始めた。

 それから暫く経ち、辺りに人影が無くなったころ。


 ───どどぉぉぉん!!!


 地を掘り進み、ギガティラノサウルスが姿を現した。喉を低く鳴らし、地下の崩落など意にも介さないとばかりにその体躯には力が漲り、その視線は未だに憎悪の火を灯している。自らを封じていた神殿を破壊し、尚も憎悪を向ける先は……あの村であった。

 しかし憎悪の恐竜が1歩2歩と進んだ時。


「……?」


 かの恐竜の後を追うように、地を掘り進む音が響き、そして。


 ───ギュロロロロロロロ!


 地面を突き抜け、前部に白銀に輝く角を携えた”鉄のモグラ”が出現した!その透明な頭部の中には、BRアーマーに身を包んだリボリアムが乗っていた。


 …………時間は少し遡る。


 ギガティラノサウルスが神殿を崩壊させた時。


「まずい、これじゃ生き埋めだ!……ベルカナード!!」


 リボリアムは一緒に吹き飛ばされていたベルカナードMk-Ⅱを起こすと、さっと跨った。


「限定拡張システム、起動!」


 リボリアムのBRアーマーの各所ランプが明滅し、それに呼応するようにベルカナードの各所ランプも明かりが灯る。この瞬間、彼らは機能が相互にリンクした状態となり、リボリアムの要望をダイレクトに伝え、限定拡張を適切な形にすることが出来るのだ。


「”ベルカナード・ジルコーン”、アクティブ!」


 そうして拡張されたその姿は、正に”鉄のモグラ”と呼ぶにふさわしい見た目であった。

 リボリアムがスイッチを押すと白銀の角は激しく回転し、岩壁を砕き硬い土を削り、崩壊する神殿から『地中に脱出』せしめた。

 鉄のモグラはどんどん地を掘り進んでゆく。あるいはその速度からして、モグラというより”地を泳ぐ遊泳魚”と言ってもいいかもしれなかった。


「これで帰りは野宿だな……」

BBBBビビービビ

「まぁな。事態が事態だ、出し惜しみなんかしてられないさ。」


 暗い地の中で、リボリアムは呑気にぼやいた。


 …………………………


「 ギュォォオオオオオオオオ!!! 」


 奇妙な鉄のモグラを本能で”敵”と認識したのか、地下空間を崩壊させた衝撃波ソニックブラストが再び放たれる。衝撃波はベルカナード・ジルコーンに直撃するが、周囲に巻き起こるその破壊力の中、鉄のモグラは平然と前進を始めた!

 リボリアムは現在、BRアーマーを介してのベルカナードMk-Ⅱとのリンクがまだ続いている。このリンクはBRアーマーとベルカナードMk-Ⅱ、2つのコンピューターが1つとなった状態でもあり、その処理性能が何倍にも引きあがっている。

 彼らの使う機魔術は状況に応じ即席で作成できるが、複雑かつ大出力なものを作成するのに、このリンク状態は最適なものとなる。


「いくぞ、機魔術レプリ・マジ、”ヒートメイザー”!」


 ベルカナード・ジルコーンの回転する衝角から、赤い雷光が迸った!!未知の大恐竜を撃退するための最善手……圧倒的威力の攻撃である。


「 ガギャァァァッッ 」


 雷光の直撃を受けたギガティラノサイルスは身体から火花が噴き、身体を大きく仰け反らせて後退させた!効果は抜群と思われたが、しかし……。


「なんて頑丈さだ!これでもダメなのか……!?」


 リボリアムは毒づいた。今の攻撃の威力は、かつて複数の大型魔獣を貫いたベルカナードの体当たり攻撃”アークバリスター”よりも上である。それが通じないとなると、打てる手はそう多くない。

 しかも短期間に2度の限定拡張システム使用に続き、威力相応の魔力を消費する機魔術により、ベルカナードのエネルギーは残り少なかった。走行は問題ないが、もう一度”ヒートメイザー”を撃つ事はできなかった。

 リボリアムは降車し、左腕のヴァリアブル・トライラムを剣に変形させた。特捜騎士と、大恐竜の視線が交差する。かの恐竜の目には、依然尽きぬ憎悪が見て取れた。


「……ハイ・プラズマ───」


 ───ボロロロン~……


「!」


 張り詰めた空気に響いた、場違いなバンジョーの音。顔を向けたそこには、見知った顔があった。戦う吟遊詩人、カイナである。


「リボリアムさぁん、ここは私にぃ……任せていただけませんかぁ?」

「任せる?ったって……どうするって言うんだ?」

「荒れた心にはもちろん……」


 カイナはバッと身を翻し、困惑する恐竜の前に降り立った。


「”音楽これ”でしょう~!」


 ババーン!と効果音が付きそうなほど自信満々に、カイナは言い放った。リボリアム的には(どうだろう……)と疑問しかなかったが、当の恐竜は依然困惑しているようなので、ひとまず見守ることにした。


 ───ボロロン…ロロン…♪


 カイナは穏やかな旋律でバンジョーを奏で始める。リボリアムの聴いてきた彼の演奏は賑やかなもの、楽しげなものだったので、なんだか新鮮だ。丁寧で美しい演奏だった。

 魔石が無いと魔法が使えないというカイナ。バンジョーには歌魔法に必要な魔石が埋め込まれており、それは今、仄かに赤く輝いている。既に”歌魔法”が始まっているのだろう。演奏を聴いているだけで、リボリアムの心は状況に反して落ち着いてきた。どうやら演奏の通り、これは鎮静の術であるらしい。


「───♪ ────~~~♪♪」


 続いてカイナは歌い始めた。と言っても歌詞は無く、「ララ~ラ~♪」というだけの いわゆる『スキャット』というものである。恐竜相手では言葉は意味がないだろうが、それでも歌うということは、歌魔法の本質は()()()()()というわけではないのだろう。

 その歌は月夜にさざめく波音のような、そう……これは、子守歌だ。

 かの恐竜は驚くべきことに、静かに聞き入っているようだ。グルグルと喉を鳴らしつつ、身体のこわばりが解れてきている。座り込み、やがては伏せたその姿は、まるで子供のようだった。

 そして演奏を終えたカイナは、対峙する恐竜に語り掛ける。明るく、慈しみの籠もった声色だった。


「……ねぇ、よければぁ、私と一緒に行きませんかぁ?色んなところを旅できますしぃ、ご飯の心配もナシ!もしかしたら、同族にだって逢えるかも!まぁ、それは望み薄ですがぁ……。」

「……ゴルルル…」

「……しばらくは寂しいかもしれませんがぁ、今は……ゆっくり寝て、起きたら後の事を考えましょう~!」


 そう言ってカイナは、セット魔術のカードを掲げた。よく見るとそこには何の魔法もセットされていないように見えた。


「………………」


 恐竜は掲げられたカードに鼻先を付けると、その巨体が柔らかな光に包まれ、カードに吸い込まれていった!


「!?……か、カイナ君、どういうことなんだ?」

「……こういうことです。」


 掲げていたカードをリボリアムに見せる。そこには、あのギガティラノサウルスによく似た絵柄のレリーフが浮かんでいた。


「それは……まさか、封印したのか!?そんなカードで!?」

「ちょぉ~っと違うんですねぇ~♪ 魔力さえあればいつでもまた元に戻ります。昨日お見せした”スケルトン”みたくねぇ。これは封印ではなくぅ、『共に在ることを合意した証』……いわば、”友達になった”んですぅ♪」



    *



「グ……ググゥゥ~~~~……!わしの……わしの力が……!抜けていく……!」


 崩れ行く洞窟から1人逃げ出した村長は、山深くにて力なくうなだれていた。

 村全体に加護をもたらしていた神殿の力が消え、異形となっていた体も元の人間に戻ったが……彼の術の力も大幅に減衰してしまったようだ。加えて”おぐらい様”の暴れた被害で他の有力な術者たちも軒並み死亡してしまった。今は村がどうなっているかもわからない。あのよそ者たちに皆殺しにされたか、”さるども”に蹂躙されたか……。

 失意に暮れる村長の前に、2人の人物が立った。


「力を求めるのですか?あなたは。」


 頭上から聞こえた声は、女の物だ。村長が顔を上げると、見慣れない女と、見慣れない男がいた。


「な、何者だ……!?お前らも、あの鎧どもの仲間か!?」

「とんでもない。むしろ、あやつを邪魔に感じているのですよ、わたくし達は。」

「我らについてくるか?お前に……力を与えてやるぞ?それも、とびきり強力な……。」

「………………」


 村長は2人を見上げた。そして、ゆっくり立ち上がった。

 暗い復讐心の表れか、見慣れぬ者達への不安か。少し震える指を固く握り、肩を怒らせていた。



    *



 こうして、未開の村の事件は終わった。

 リボリアムとカイナは村の様子を遠目から見たが、人の姿に戻った”さるども”と村人達が共に村で過ごすことになったようだ。意外な結果だが、あの神殿の影響から解放された者達同士、何か通じるものがあったのかもしれない。あの戦いで村の男衆が激減したのと、”さるども”の長が消え 寄る辺を失った彼らが、共に穴を埋め合う形になったか。とはいえ、そう単純にはいかないだろうが。

 カイナによれば、村に起こる不作は神殿の影響であろうとの事で、それが消えた今、純粋な自然のめぐみであの村は生きていく事になる。ここから先は、彼ら自身の努力になるだろう。


「さて、それじゃヴァルマ領に帰ろう。カイナ君、先導頼む。」

「へ?私は道知りませんよぉ?」

「へ?」


 二人の間に疑問符が浮かんだ。

 リボリアムは……この山奥の隠れ里には空から来たので、地上の道は分からない。少なくとも空の上からは道らしい道も見つからなかった。

 カイナはと言えば、少なくとも彼は陸路でここに辿りついている筈である。しかも狙ってここへ来たかのような事を言っていた。なぜ道を知らないのだろうか?

 そんなことをリボリアムが思っていると、不意にカイナは「あっ」と、気づいたような声を出した。


「ヴァルマ領への道は分からないってことですぅ。私、北側のハルジオニア領から来てるんでぇ。」

「え、反対側!?」


 リボリアムは面食らった。ヴァルマ領には西から中央にかけて山脈が存在しており、その山脈内はほとんど領外の扱いである(書面上はほぼヴァルマ領ではある)。問題は山脈の北面エリアで、山脈を東西に区分けした東側はヴァルマ領だが、もう半分は別の領……カイナの言ったハルジオニア領なのである。

 故にハルジアニアへの道しかわからないということは、リボリアムは一旦領外までカイナについてゆくか、遭難覚悟で山を分け入ってヴァルマ領に戻るかであった。


「…………」


 リボリアムは一瞬考え込んだが、どちらが無難かは一目瞭然。それを再確認し、改めて言った。


「……じゃあ、申し訳ないけど、そっちまで戻れるんならお願い……。」


 カイナは、にっこり笑った。


 2つの影が、山へ消えてゆく。1人は不思議な雰囲気を纏う、若き吟遊詩人。1人は兵士上がりの冒険者にして、鋼鉄の騎馬を駆る騎士。こうして唐突な2人旅+αが始まった。

 しかし、大きな謎が残る。

 かの”さるども”とは、結局どういった存在だったのか?なぜキメラ魔人に変身できたのか、モグログと何か関係があるのか。そして彼らから土地と神を奪ったとされる、村人の祖先。モグログとは無関係にしても、かの恐竜の力を把握していたであろう先祖たちとは。


 リボリアム。これからも未知の困難が、君に襲いくるだろう。しかし、決して負けてはならない。

 人々の愛と平和を守るため、煌結こうけつせよ!特捜騎士、リボリアム!




                              つづく



=====================================



 ─次回予告─



「路銀が無い!」そんな魂の叫びと共に、リボリアムが拳を握った。

 冒険者としての第一歩が、ついに始まる!しかし、彼の前には、予想だにしない困難が待ち構えていた───


 次回、特捜騎士リボリアム

 『冒険者界の大型新人』


 お楽しみに。



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