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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第七話「戦う吟遊詩人、暴君へ捧げるララバイ」4


 カイナの積まれた御輿が破壊され、”さるども”に担がれるのに気づいたが……。


「大丈夫、行ってください!!!」


 振り向いたリボリアムとカイナの目が合い(彼の目は相変わらず細く閉じられているが)、真っすぐ叫ばれた。

 その顔を見て、信頼できると直感したリボリアムは、迷わず村へ駆け出した。


 ”さるども”に担がれるカイナ。幾度かの村人とのぶつかり合いがあった。中には苛烈に仕掛けてくる村人もいて、あわやカイナも槍に貫かれかけたが、身体能力に優れた”さるども”に分があり、彼らに抱えられて洞窟の中へ連れていかれた。

 その洞窟の奥で目にしたものに、カイナは思わずため息をついてしまった。


「こ、これが……村の”守り神”……!」


 それは一見すれば、巨大な岩のようだった。だがただの岩でないことは見て取れた。何らかの規則性を持ち、綺麗な左右対称の形をしていた。そして、赤や白の塗料で文様が塗られていた。

 見入るのも束の間、丁度よさげな寝台に寝かせられた。いかにも『ここに血を流します』と言わんばかりだ。そして案の定、”さるども”は腰の山刀を高く掲げ、カイナに振り下ろした!!


 ───ざくっ……!


「油断も甚だしいんですよぉ……!!」


 手足を縛る縄を振り下ろされる山刀に噛ませ、カイナは襲い来る凶刃を防いだ!まさか止められるとは思わなかったのか、”さるども”は驚愕の表情を浮かべている。

 縄が上手い具合に切れ、尚も食いこまんとする山刀を手で抑え、身体を捻って台から飛び退く。


「…………」


 カイナは素早く辺りを見回し、次いで”さるども”を見据える。と、外から村人も流れ込んできた。村長もいる。


「ああっ!”おめぐみ”が!」

「ヴヴヴーーーッッ!!ソトモノ!!!」

「ひるむな!”おめぐみ”を奴らに渡すな!!」


 場が混沌としてきたが、誰も彼もがカイナを狙っていることは変わらない。”さるども”の山刀が、村人の槍が、次々振るわれる。そのどれもをカイナは避け、立ち回り、そして……不敵に笑った。


()()()()……ふふ。ずっと怪しんではいましたがぁ……やっぱりそうなんですねぇ?もともとこの地に住んで、”守り神”を崇めてたのは”さるども”さん達の方。

 あなた方村人はぁ、他所から来て”守り神”を奪った一族というわけですねぇ。」

「な……!なぜそれを……!!」


 村長が目を見開いた。 


「私ですかぁ?ちょっと歴史や遺跡に一家言あるだけのぉ……しがない旅の吟遊詩人ですぅ。不自然すぎたんですよぉ、この村はぁ。あなた方の事、最初から現地人じゃないなとは思ってたんですよぉ。

 問題はぁ……。」

「かかれぇ!!!」



 ゆっくり周囲との間合いを測りながら話していたが、激昂した村長の号令で村人が殺到してきた。

 カイナは身を低くし、ただの吟遊詩人とは思えない身のこなしでそれを掻い潜り、仕掛けた村人の一人から槍を奪い───


「封印の要はぁ……それだっ!」


 ───ある一点へと……投げた!!槍は、最初にカイナの寝かされた寝台、その側面に描かれた紋様に吸い込まれるように飛び、バキリと音を立てて刺さった!


「あっああ……!」

「グ……!?」


 その瞬間、何かがぷっつりと途切れ、次いで一同の前に鎮座する”守り神”から、凄まじいまでの存在感が噴き出し始めた!


「お……”おぐらい”様……!!」


 村長が、絞り出すように声を発した。

 ”それ”は大きく息を吸い込み、巨大な咆哮と共に吐き出した!


「 グロロオオオオオオオオオォォォ!!!!! 」



    *



 リボリアムは来た道を走り、やがて村に戻った。2、3人の村人が追いかけてきていたが、”さるども”の追撃もあって今は1人だ。

 しかしここからは、村人に見つかるわけにはいかない。男衆はおそらく全員儀式に行き、残るは子供とその母親達だけの筈だが、油断はできない。見つかって万一こちらを襲ってきたら……リボリアムとしては、できれば傷つけたくはない。

 リボリアムはまず村長の家に向かった。寝てる人間を着替えさせるとなればある程度の広さが必要だ。村で一番大きいのは村長の家で、かつ祭事に使う衣装も保管していておかしくないという考えからだ。

 家人は誰もおらず、見張りもいなかったため容易に潜入できた。そして、意外なほどあっという間に、自分達の服と道具を見つけた。これから生贄にする予定の人間が、取り返しに来るなど想定していなかったからだろう。普通に部屋の中に纏めてあった。

 一番大事な通信機付き腕輪、カイナのバンジョーと『セット魔術マジック』のカード束、ついでに棍棒のようなもの(結局これがなんなのかリボリアムにはよくわからない)。

 腕輪をつけ、カイナの荷物を持ち外に出る。


 出た瞬間、ぎょっとした。


 残った村民が、家の前に並んでいた。ほぼ横一列に、若い母親やおばさん、お婆さん、子供たちが、ずらりと。全員がリボリアムを無表情に見つめていた。


「………………すみませんが、通してもらいますよ。」


「………………」

「………………」

「………………」


 リボリアムが告げると、無言で一歩前に出てくる村人達。

 一般的な人間なら恐怖の光景だったが、リボリアムに恐怖はない。BRアーマーさえ着装すれば、怖いものなどほぼ無いからだ。ただ、女子供を傷つけるかもしれないという心配だけがあった。

 どうしたものか、反対側に走って逃げるかと逡巡していたリボリアムだったが、突然、村人たちが次々と胸を押さえ、苦しみだした。


「あっうっ……!」「ううう……」「う~~~~……!!」

「…………!?」


 奇妙すぎる事態に動けずにいると、母親も子供も全身から()()()()()()()が生えていく。

 やがて苦しむ様子が収まり、顔を上げると、化け物に変貌した村人たちがリボリアムを睨んできた。


「ど、どういうことだ……!?」

「ウウーッ」「カァァ~~……!」


 唸り声を上げてにじり寄るその姿は、リボリアムの経験上まさしく”キメラ魔人”であった。だが今までのキメラ魔人と比べると、あからさまに人間を襲うために作られた感じではなく、『こういう獣人種族』と言う方がしっくりくる。

 ただ、リボリアムの知る獣人的特徴は見受けられない。体は人間の形からほぼ変わらず、顔の前面だけ緩やかに突き出たような形、指には鋭く湾曲した鉤爪、生えた体毛は鹿や猪というより鳥っぽい。総合して獣と鳥を合わせたような感じだ。残念ながら可愛げは全くないが。

 老婆から子供までその姿なので、分類はキメラ魔人としても、モグログとは関係ないのかもしれない。

 そこまで考えて、とにかく今は離脱し、カイナを助けるのを最優先とした。


「ベルカナードMk-Ⅱ!!」


 ───ゴゴゴゴォォォーーーーーー!!


 湿った土道を削りながら、ベルカナードの2輪が唸る!


「ぅおりゃああ~~~~~~~!!!」


 リボリアムは迫りくる村民に背を向け、村長の家の屋根に上り、頂点から跳んだッ!

 合わせてベルカナードが、ぐおんとエンジンを鳴かせて飛ぶ!

 空中でベルカナードMk-Ⅱに搭乗したリボリアムは、そのままキーワードを唱えた!


「”煌結”!!」


 リボリアムが『煌結』のキーワードを発した時、0.7±(プラマイ)秒でBRアーマーの装着が完了される。

 では、そのプロセスをもう一度見てみよう。


「”煌結”!!」


 キーワードが入力された時、ベルカナードMk-Ⅱの機魔術レプリ・マジ『エクォ・ファット』が起動、内部に搭載する超圧縮物質『アーマーシート』が、一気に波動粒子はどうりゅうし化される。それは黄金に瞬く煌結現象ポジフラッシュを伴って、リボリアムの体に合わせ『BRアーマー』として再物質化されるのだ。


 木々が生い茂る山の中を、鈍く輝く鉄の馬を駆り、特捜騎士がゆく。捕らわれの少年を救うため、そしてこの村の謎を解き明かすために。



    *



「…………!?」


 山林を進むリボリアムは、BRアーマーのヘルムの中からしっかと見た。洞窟の前で暴れる巨大な獣───今までに見た事も無い……否、遥か昔の超文明の記録に残る、さらに太古の記録。人類以前に大地に栄えた生物群の一種。


「ティラノサウルス……!?」


 まさしく ”暴君”の異名を持つ、最古の最強生物の姿であった。リボリアムの知る超文明の記録には大型爬虫類としての想像図があったが、実際に復元実験された記録では、むしろ鳥類の祖先と言える姿であったとされる。

 今目の前にいるのも、記録と酷似する巨大な鳥類のようであった。羽毛の色合いは大部分が茶・白と地味だが、”さるども”が施しているボディペイントと同じようなような赤や白の模様がある。鳥類っぽいがくちばしではなく巨大なあぎとを持っており、その巨体を惜しげなく振るい、キメラ魔人と化した村民や”さるども”を関係なく蹴散らしている。


「リボリアムさぁん!」

「カイナ君!」


 呼びかけられて見ると、カイナは槍を手にうまく立ち回っていた。あのティラノサウルスが暴れているおかげで両陣営の狙いが分散され、逆に助かっているようだ。


「カイナ君、あれは!?それに、村人達が!」

「あれが”守り神”ですねぇ。アレをめぐってぇ、”さるども”と村の人らが争ってたんですねぇ。」

「村の人達は、なんで、こんな!」


 話す間にも、”さるども”や異形と化した村人が襲い掛かってくる。BRアーマーの脅威になるような者はいないようだが、さりとて事情が複雑そうな今、安易に反撃するのも躊躇われた。

 カイナは先ほどの見解をリボリアムに説明する。元はあの”守り神”は”さるども”が崇めていたもの、しかしあの村人たちの祖先が奪ったのであろうこと。


「解らなかったのがぁ、”守り神”を奪った後、こんな住みづらい山の中に()()()()()()()()()だったんですがぁ……奪ったと同時に、この地に『縛られてしまった』んでしょうねぇ。”守り神”の加護を受けた副作用か何かでぇ、”さるども”と同質のものになってしまったんでしょう。」

「いったいどうすれば……村の子供たちも、こんな風に変わってしまった……!」

「…………彼らの加護が一種の”呪い”であるとするならぁ、封印を壊した今、徐々に薄れていくかもしれません。」

「!……つまり、あの恐竜さえ何とかすれば!」


「ギュオオオオオオオオオ!!!!」


 ───どがぁぁん!!


「「うわぁーーーっ!?」」


 ティラノサウルスの暴威は留まるところを知らず、リボリアム達も吹っ飛ばされた。領都ボリアミュートを襲った大型キメラ魔獣軍団よりも大きく、強い。というか、今明らかに()()()使()()()()()。咆哮が衝撃波を伴っていたのだ。見た目は恐竜だが、やはり魔獣の類らしい。

 と、吹っ飛ばされた先で、変異した村人の1人がリボリアム達の前に立った。


「お、オ前達のせイで……!オ前達さエ来なければァ!!」


 服装を見るに、村長のようだ。彼は手印らしきものを構えると、紫色の不気味な炎を放ってきた!炎は風にたなびく布のようにリボリアムにまとわりつく!


「う、ぐ……!?うあああああ!!」

「リボリアムさん!?」

「に、逃げろ、カイナ君……!!」


 逡巡したカイナだが、すぐさま踵を返し、茂みの中に消えていった。


「ふん、逃げたカ!だガ、すぐにアトをおうゾ!!」

「ぐぅ……!こ、この炎は……!!」


 並の炎であれば、BRアーマーにダメージを与える事は出来ない。以前、幻術による催眠でリボリアムが直接ダメージを受けたことがあったが、今回はそういうものではないようだ。なぜなら、攻撃を受けてすぐに対抗魔術をかけたが、効果が出ていないからだ。


「ゴガァァァァァァァァア!!!!」

「うガぁぁっ!?」

「どわぁぁーーーー!?!?」


 誰にも容赦がないティラノサウルスに、村長もリボリアムも吹き飛ばされた。そのせいかリボリアムにまとわりついていた炎は消えた。間一髪であった。


「ぐぅぅ……!い、今の攻撃は……!?」


 布のようにうねる火であったが、手で引きはがそうとしてもすり抜けてしまった。自分の状態をチェックすると、ひどい火傷を負っている。やはり幻などの類ではないようだ。『機魔術レプリ・マジ』でそれは治せたが、再び村長に狙われては厄介であった。

 リボリアムは立ち上がる。今まで無敵であったBRアーマーを着た彼に、初めて脅威が現れたと言える。だが、彼の闘志は些かも失われていない。そもそも兵士として戦い傷つき、そして鍛えられてきた彼に、怯む事など早々ないのだ。


「……戦うしか、無いか……!」


 掌を握る。相手がモグログではないとしても、こちらに殺意を向けるなら。戦いを仕掛けてくるというなら。

 リボリアムの本質は、戦士である。その覚悟が、彼にはあるのだ。



やっぱり全4回は無理だったね……次回でラストにしたい!


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