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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第七話「戦う吟遊詩人、暴君へ捧げるララバイ」3


 ………………


 ………


 村長の言う通り、祭りはすぐさま執り行われた。

 一般人は寝る時間にもかかわらず、そこかしこで篝火かがりびかれ、大人から子供まで準備をし、ありったけの酒と食料が作られ、村はずれにさながら野外ショーステージのごとく会場が出来上がった。


「さぁ~皆の衆!今宵はまれなる客人も迎えた、実に良き日である!あの悪魔どもから村を守るため、守り神様からお力を頂くため、おおいに騒ぎ、歌い、楽しもう!!祭事を始める!!」


 村長の挨拶により、村は陽気に包まれた。手始めに村のオヤジ・オカン連中がステージに上がり、手作りの打楽器で演奏し、男は奇声を上げて踊り狂い、女はその周りで優雅に舞う。中々に揃った動きだった。

 村民は50人ほどか。大人や若者たちが半数以上、子供たちは年齢の幅はあるが20人ちょっとといったところ。本当に小さな集落である。

 若者は踊りに参加したり料理を食い、中年以上は一通り踊ると座って酒を飲みながら談笑し始める。

 子供たちは見よう見まねで踊ったり料理をつまんだり、はたまた好きに駆け回ったりと様々だ。

 なんでもこの”陽気”が、守り神の力を高めることに繋がるんだとか。超古代と現在、2つの魔術を知るリボリアムには少し懐疑的に映るが、ついこの間知り合いから『呪術』について教わったこともあり、この儀式もそれに近いものかと納得した。


「陽気というならこの私!”流れ星”カイナの演奏をご覧あれぇ~!」

「いいぞ~小僧!」「あいつは誰なん?」「なんでも外からきた、吟遊詩人さんだそうだ。」「へぇ~!こりゃたまげた!外からのおめぐみが2人も来てるのかい!」


「(ティロリロリロリロジャッジャーンジャカジャ!)

 さ~・あ・おっどれ♪(テケズン♪)みな集ま~れ!(ジャカジャン♪)

 ひ~びっかっせ~ろ かっぜ~のっせ~てっ♪」


 早くも順応したカイナがアップテンポな曲で盛り上げている。変声前の少年特有の美声もさることながら、自身の身体も揺らし踊らせながらの演奏は、さながら超古代の資料にあったギターパフォーマンスだ。先の戦いでの”混乱の歌”がひどいものだっただけに、やはり普通に演奏もできるんだなと感心する。……というより、わざとひどい演奏と歌ができるというのが、確かな技術の裏打ちと言えるのかもしれない。


 リボリアムはと言えば、めちゃめちゃ料理を頬張っていた。新鮮な山&川の幸が思う存分味わえる光景を前に、その頬をリスのそれに変えざるを得なかったのだ。肉のみならず、特に大量の川エビが獣脂で揚げられているとあっては、もうやめられねえ止まらねえ。これを聞いたとき、リボリアムは惜しげなく自前の塩(しかも岩塩)を提供した。


「まぁ!兵士さんホント美味しそうに食べてくれるわねぇ!作った甲斐があったわ~。」

「あ、アハハ……いやぁ~こんな美味しいのが食えるのは、山暮らしの特権ですよ~!」

「おにいちゃん、おいし?」

「う~~ん!すんごいおいし~~~!」

「いっぱいたべて!」


 幼児にも接待されている。まぁこちらも貴重な塩(しかも岩塩)を分けたのであるからして?大人連中も岩塩を舐めながら酒をやっているのであるからして?この美味しさは等価交換と言えるのではなかろうか。


 そうして、山奥の明るい夜は更けていった。焚火の近くでまどろみに落ちる時、そういえばカイナと話すのではなかったかと、ふと思い出した。しかし睡魔には抗えず、リボリアムの瞼は閉じていった。


 =================



『『『───おんぐどーら!まはむどっら!おん!おんぐどーら!まはむどっら!!』』』


 山の中に、大勢の叫ぶ声が響く。火がそこかしこで焚かれ、それらの姿を映し出す。

 大柄な人型、動物の毛皮で背を覆い、その顔は皺深く、類人猿のようである。

 かの村が”さるども”と呼ぶこれらは、勢いよく何かの言葉を繰り返し、所々で円になり、踊っているようだった。


 その集団から少し離れたところで、1組の男女が佇んでいた。


「……モグログに伝わる封印。このような山奥に……否、だからこそか。しかし、なんと折り悪くリボリアムとは。」

「私の蛇からの報告ですわ、ガンドマ様。」


 明らかに”さるども”ではない、白い装束を頭からすっぽり覆った者達。帝国に現れた脅威。人を超える『キメラ魔人』と、魔獣を超える『キメラ魔獣』を抱える集団、『光の結社モグログ』。

 彼らはリボリアムとも刃を交えた、幹部たる上級キメラ魔人”貫くものガンドマ”と、その部下”ネガセルパンのサリネ”である。


 その彼らの前に、”さるども”の中でも着飾った者が近づいてきた。後ろには側近なのか2名の”さるども”が付いている。


「キャクジン、儀式、邪魔しない。」

「うむ、長殿。我々はそなたらの邪魔をしない。」

「旅人!邪魔!キラキラ!キケン!」「ウン!ワレラ、アレ、コワス!」

「存分にやるがよろしい。なんなら奴らの排除にだけは、我々も手を……」

「シュカァーーーーッッ!!!」


 手を貸す、と言いかけたガンドマを、威嚇音と共に振り払う


「ワレワレダケ!!かの神、ワレラの神!!ワレラで取り返す!!」

「……わかった。」


『『『───おんぐどーら!まはむどっら!おん!おんぐどーら!まはむどっら!!』』』


 両者は沈黙。未だ踊り叫ぶ声だけがその場にある。それで会話は終わったと、さるどもの長は引き返し、定位置に座った。


「ガンドマ様の申し出を……。」

「かまわん。奴らの執念は嫌いではない。それよりも……。」


 ガンドマはちらりとサリネに視線を送る。


「蛇たちに調べさせていますが、方法はやはり……。」

「よい。病み上がりだ。無理はするな。」

「は、はい。……あの封印は土着の封印術です。下手にかかわるより、彼らにすべてお任せしますわ。」

「……彼らは、一体、いつからここにいるのだろうな。」

「さて……。」


 モグログの二人が見つめる中、さるどもの長が皆に活を入れている。


「キャクジン!見てる!ワレラの神、取り返す!!」

「「「「ウォーーーーーーーオオオォォォ!!!!」」」」


「……土着の信仰……独自の儀式によるキメラ魔人化。歩んできた道は違えど、彼らもまた我らと同じ神をあがめる、言わば傍流のモグログと言ったところかな。」


 ガンドマはそう、ひとちた。



    *



 気づくと朝。リボリアムが目覚めると、身動きが取れなかった。


「……ん!?」


 見ると、妙な衣装に着替えさせられている上、手足を縛られている。目の前にはカイナらしき人物が背中を向け縛られていた。リボリアムと同じように妙な衣装を着せられているが、薄紫の髪がちらっと見えるのでたぶんカイナであろう


「か、カイナ君……!」

「……起きてますよぉ。」


 なんかちょっと不機嫌そうな声色でカイナが応えた。


「こ、これは……どういうことなんだ!?ぬ……抜け出せない!」

「何らかの呪術ですねぇ。切るならともかく、引き千切るには難しいんじゃないでしょうかぁ?」

「なんなんだこれはっ!」

「何って……生贄でしょう?実にわかりやすいですねぇ!」

「いけにえ!?……なんだ、俺達を化物にでも喰わせようってのか!?」

「えーまーそうなんじゃないですかぁ?とんだ因習も残ってたもんですねぇ。」


 カイナの口調がさっきから刺々しい。触れない方がいいかと思ってあえて触れなかったが、意を決して話しかけた。


「……カイナ君?なんか怒ってる……?」

「………………ええまぁ。」

「それ……」

「ああいえリボリアムさんに怒ってるわけではありませんのでぇ……。お気になさらず……。」

「はぁ……。 …………その~、良ければ聞かせてくれるか?ほら、話すことで発散できることって、あるし……。」

「……見ればわかりますよぉ。」


 リボリアムの言葉にカイナが応えると、身体をこちらに向けてきた。なるほど確かに、とリボリアムは納得した。

 カイナの衣装は女性の物だ。しかも胸元が大きく開いていて、胴が……もし女性であったなら乳房が丸見えであったろう。痴女服で女装させられている。あまつさえ顔には紅まで引かれていた。カイナは成人男性に比べればまだ背は低く、顔立ちも中性的ではあるが……。

 一体何のための生贄なのだろうかと疑いたくなる格好だった。

 リボリアムは改めて自身の格好を見るが、カイナの側が女性的な要素を前面に出しているとするなら、これは男性的要素……腰に剣のような小物が付いていることから、もしかすると戦士だろうか。とすると、カイナの衣装はもしや、巫女などというよりは娼婦なのだろうか。確かに、地域によっては古来より娼婦が尊い職業だとする風習はあり、なんなら現在も残っている。


「屈辱ですよぉ……。まさかねぇ……。屈辱ですよぉ!!!」


 ビタンビタンと体をくねらせ暴れ回るカイナ。よほど不服らしい。


「ドンマイ……。」

「各地方の風俗は尊重しますがぁ!?私個人は好きませんねぇ!?」

「あ~~分かる!分かるよ~?」


 その後しばらく荒れるカイナを宥めていた。結論から言って無駄だった。荒れが終わる前に、村人たちが来て御輿に放り込み、そのまま運ばれる流れとなったのだ。


 …………………………


 ゆらゆら揺れる御輿の上で、リボリアムとカイナは折りたたまれるように並んで詰め込まれていた。窮屈極まりなかった。

 縄も切れないではどうしようもなく、2人はおとなしく御輿の行列の中、山奥に連れていかれている。


「そういえば……昨夜、俺に話があるって……。」


 リボリアムがひそひそと隣のカイナに話しかけると、カイナは「ああ……」と応じた。


「例の守り神様の祠の事です。初めてお会いした時ぃ、調べてたんですよぉ。あれたぶん、封印が綻んでるんですぅ。」

「綻び……封印??」

「そう……。この村の守り神……いえ、たぶん()()()()()()()()()ですねぇ。」


 カイナは訥々(とつとつ)と語る。曰く、村はずれの祠は守り神を祀るものではなく……封印している『何か』から力を吸い上げて、村や村人に守護の術を与え続けている”魔道具”であろうこと。村人の言う”守り神”は、おそらく伝説級の超強力な魔獣か何かであろうこと。今向かっているのは、おそらくその『何か』が封印されている本来の場所であろうこと。

 そして、自分達生贄は封印の力を強めるための儀式に必要な物だろうこと。


「そう考えれば、納得できるんですよねぇ。わからない部分もありますのでぇ、まだもうちょっと様子を見たいところですがぁ。」

「カイナ君……君は一体……?」


 カイナはにっこりと笑った。


「こういうのが気になる性質たちなんですぅ。」



 ───道が狭くなるにつれ村人の列が細くなったとき、それらしいものが見えてきた……洞窟だ。一見すると蔦で覆われていて遠目ではそうとわからないようになっている。

 その蔦のカーテンに……先頭の村人が手を触れようとしたその時!


「「「「「ケケケケーーーーッッ!!!」」」」」


「!!」


 森に響き渡る奇怪な声!昨日ぶりの聞き覚え。闇の住人”さるども”の声である。


「ああっ、ついに昼間にも来るようになったか!!お、お前達、早く”おめぐみ”を神殿へ!」


 村長が叫ぶ。”おめぐみ”とはつまり生贄ということだろう。外から来た者に早々に察知されないよう隠語を使っていたのだ。

 リボリアム達を乗せた御輿は慌ただしく動き出そうとするが、予想外に多い”さるども”の包囲でうまく進めないようだ。

 村人たちを守護する『守り神の結界』とやらはそれなりに機能しているようだ。”さるども”のスリングによる投石くらいならば弾き、逆に石を拾って反撃している。近づいてくる”さるども”には槍で対抗する者もいた。リボリアム的に懸念だった子供たちの姿は無い。どうやら母親等と共に村に残っているのだろう。そこだけはホッとした。


「そういえばリボリアムさん、あの夜みたいな変身はぁ、しないんですかぁ?そしたら縄なんかバシーンて……」

「……できない。」

「へ?」

「必要な道具も取られちゃってるんだ……」


 そう。衣装に着替えさせられた折、両腕のブレスレットも取られてしまっていた。あれが無ければ”煌結”も、ベルカナードMk-Ⅱとコンタクトを取ることもできない。燃やされたとかはないだろうが、どこにあるかわからない。


「……というと……もしかして大ピンチなのではぁ……?」

「ヤバイ……。」

「ああ……私、それを頼りに今まで大人しくしてたんですけどぉ。」

「あ、そうだったの?」


 妙に落ち着いてると思ったら、そういうことらしい。いざというときはリボリアムが変身してなんとかするやろと。

 カイナはため息を一つつき、「仕方ないですねぇ」と残念そうに言った。


「んべ。」

「ん?……何それ?緑の……石?」

「私の切り札ですぅ。これ貴重なんですからぁ、しっかりお仕事頼みますよぉ?」


 カイナは口から出した緑に透き通る宝石のようなものを見せた後、再び飴のように口に含んだ。しばらくすると───


「おっ!?」

「私、”魔石”が無いと魔法使えないんですぅ。あのバンジョーとカード、持ってきてくださいよぉ?」


 リボリアムの縄の一部が切れ、手足が自由になった。

 カイナは口内の石をぺっと吐き出した。どうやらこれが魔石だったようだが、もう使えないらしい。


「わかった。……とぉりゃッッ!!」


 リボリアムは勢いよく御輿から飛び降り、村の方向へ駆け出した!気づいた村人が止めに入るが、リボリアムの身軽さとパワーの前に成す術なく突破される。”さるども”も来たが、単独での退避を最優先として駆けるリボリアムに、村人への襲撃と生贄の捕獲両方に気を取られた”さるども”は、その逃走を許してしまう。

 余裕のできたリボリアムは、後ろを振り返った。


 あの御輿が壊され、”さるども”にカイナが抱えられているのが見えた。



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