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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第七話「戦う吟遊詩人、暴君へ捧げるララバイ」


「う~~ん空から見た感じだと、この変にある気がするんだけどなぁ~」

BBBBビビービービ

「う、わ、わかってるよ……」


 鬱蒼とした山林の中、白髪の青年リボリアムは困り果てた顔をしながら、誰にともなく呟いた。

 その態度に、彼の傍らにいる相棒は不満を呈した。鋼鉄の騎馬と称される、前後二輪の奇妙な……しかし美しい銀色の身体を持つ、”馬無しの戦車チャリオット”、ベルカナードMk-Ⅱである。


 ヴァルマ領主より特捜騎士として叙任したリボリアムは、定期的に街を出て、謎の敵勢力『光の結社モグログ』に関する調査をしている。


 今日もその任務を遂行すべく、ヴァルマ領北西の山岳地帯に赴いた。と言っても、無数にある山を隅々に歩き回って探すわけにもいかない。ということで、ベルカナードMk-Ⅱの”限定拡張システム”を使い飛行形態に変化。空から怪しいものが無いか探していたのだ。

 そして、深い山の中にぽつんと存在する村を見つけたのだ。

 初めて存在を知った村ゆえ、調査の必要を感じた。だがさすがにいきなり空から村にお邪魔しては、村民の度肝を抜きかねない。悪ければバケモノ呼ばわりされるかもしれない。というわけで、ちょっと離れたところに下りることにした。

 思い起こせば、そこが現状のトラブルの始まりだったのだ。着陸にちょうどよさげなスペースが、ちょっと離れたところにあった。

 話を端折るが、迷った。


 たぶん太陽の向き的に、こっちで合っているはずなのだ。だが森は深まるばかり、道も無し。ベルカナードの限定拡張は戻してしまったため、もう一度空を飛ぶわけにはいかない。限定拡張は魔力消費が激しいため、再使用は慎重にせねばならないのだ。もう一度これを使うときは、帰ると決めた時だろう。


 だが、状況を鑑みるにこれ以上捜索していても夜になってしまう。今夜は満月の筈だが、綺麗好きのリボリアムにとっては深い山で野宿なんてデフォでごめんだった。早速でなんだが、限定拡張を使う時が来たかもしれない。

 リボリアムがそう思った時。


 ───デロレロレロン~……♪

「そこゆくお兄さん。」


 流麗な弦楽器の音と共に、変声前の少年の声が聞こえてきた。

 リボリアムが声の方を振り向くと、歳のころ14ほどの少年が、樹に腰かけてバンジョーを弾いていた。気障キザったらしく足を組み、目を瞑り、幹に体を預けている。くすんではいるが色とりどりのポンチョ、鍔広の帽子、腕に抱える小さめのバンジョー。格好だけ見ればよく見る旅人で、吟遊詩人のようだ。顔立ちはなんてことはない少年だが、薄紫の髪色はこの辺では珍しいか。強いて言えば、バンジョーを使っているのは珍しい。ボリアミュートではリュート弾きしか見ない。


「お困りのようですねぇ……?」

「だ、誰だ?」

「初めましてぇ。私は”流れ星”のカイナ。」


 ジャカジャァァ~~~~~ン♪


「……旅の吟遊詩人ですよぉ。」




    *



第七話「戦う吟遊詩人、暴君へ捧げるララバイ」



    *



 

「本当にあった……」


 リボリアムは思わず呟いた。


「ね?言った通りでしょう?」

「あ、うん……。」

「では私はぁ、やることがあるのでこれで~……。」

「え?ああうん……。あ、ありがとう、カイナ君!」

「いえいえ~~……」


 自称吟遊詩人のカイナに連れられ、リボリアムは陽が落ちる前に、空から見た村に辿り着くことが出来た。

 リボリアムには他にも彼に聞きたいことがあったが、カイナは案内だけすると、さっさとどこかへ行ってしまった。これから陽が落ちていくというのに、どこに行くのだろうか?


「……『旅の』って言ってたから、村民じゃあ無いよなぁ……。」


 独り言を言いながら、村の中に入っていく。畑はあるが、獣除けの柵は無い。番兵もいない。見張りもいないようだ。いくら辺鄙な村だといっても、不用心すぎやしないだろうか?周囲に罠も無かったと思うが、獣・魔獣対策はどうしているのだろうか。空から見た感じだと、完全に外界と隔絶されているので、帝国と関りがあるわけでもなさそうだ。


 ……外界から来た人間が受け入れられるのだろうか。というか言葉は通じるのだろうか。そもそもここは『人』が住んでいる村なのだろうか?見た感じ、それっぽい家々が並んでいるが……。


 近づくにつれだんだんと不安が鎌首をもたげるが、元帝国兵士たるもの、現帝国騎士たるもの、歩みを止めるわけにはいかない。

 そして、仕事終わりなのか家に入ろうとする母親と子供らしき人間ヒュームの女の子───第一村人発見!


「こ、こんにちはー!」


 リボリアムは努めて明るく声をかけた。親子ははたと歩みをとめるとリボリアムの方を向き、次いで朗らかに笑みを浮かべた。


「あらぁ~~~旅人さん?」「こんにちは~!!」


 ごくごく自然に言葉が通じた。しかもとても好感触だ。


「あ、はい。そのー、この辺に村らしきものを遠目で見まして……なんとか陽が落ちる前に辿り着けました。あの、どこか泊まれるところってあります?」

「ええ、でしたら、ぜひウチに泊まってって下さいな!」

「え、ええ?い、いいんですか!?」

「もちろん!ほら、この村、こんなでしょう?外からの人のお話が一番の楽しみで!」

「やったぁ~!今日はごちそーだ!」

「まぁ、この子ったら!……」


 なるほどさもありなん。とするなら、先ほどのカイナ少年は既にここに滞在しているのかもしれない。

 

 ……………………


 …………


「へぇ~~~~なんと貴族様のお子さんとねぇ!ああ~~ささ、どんどん食べてください。ここ数年は不作でしたが、今年の実りはきっと豊ンなりますからね!いやぁしかしまさかこの村に、兵士さんが来るとはねぇ!」

「『元』ですよ、『元』。もぐもぐ。……それで、実は俺がこの辺に来たのは、領都を襲った悪い奴らを探しての事です。」

「悪い……やつら?」


 陽が落ち、出会った家族の家にご厄介になることになったリボリアムは、お望み通り外の話を聞かせていた。普通の旅人とは違うエピソードに、村の家族も大満足のようだ。

 盛り上がったところで、リボリアムは本題を切り出した。「この村自体モグログの関係では?」とは思わない。まさか幼い子供までいるこのご家庭が、まるっとモグログに与していることもあるまい。


「そう。この辺で、古い洞窟とか、神殿みたいな建物とかありませんか?奴らが潜んでいるかも。」

「い、いいえ~!そんなコワいところ、この村にあるわけ……」

「守り神はいるけど……」

「守り神?」

「ええ、この村の、西に祠があるんですが……そういえば最近、ダモンデのやつが、祠に何かされたような痕跡があるって……!」


 家長の父親は口に出して初めて、自分の村に異常があることを思い出したようだった。


「祠に、なにか?」

「ええ……そんなことがあるかと、その時はみんなと一緒に笑い飛ばしてたんですが……。というのも、祠に続く道は、普段は罠がいくつも仕掛けられてるんです。もちろん道の周りにも。

 祠は村や私たちを守護する結界を張っている大事なもので、その結界のお陰で危険な魔獣は村には近づきません。猟師みたいに余程村を離れない限りは、たとえ魔獣に襲われても、爪も牙も通さない神聖なものです。」


 本当だとそれば驚くべき魔術である。あるいは古来よりの神性の守護というものだろう。


「ダモンデ……そいつは猟師やってるんですが、罠の点検をしてたら、外から誰かが通った後があって。祠に着いたら、あちこち誰かが弄った跡があるっていうんです。でも、周囲の罠にも異常がないって言うんで……。俺達からすれば、そんな器用なマネが出来る奴いるとも思えなくってねぇ……。」


 話を聞いていると、そんな怪しい部外者に1人心当たりがあった。あの吟遊詩人の少年、カイナである。だが……

あんな子供までが、モグログなのだろうか?


「心当たりがあるとすれば、”さるども”ですが……それにしては村人は襲われてないし……。」

「さるども?……て、あのサルのことですか?」

「……いいえ、ただの猿じゃないんです。この村に古くから伝わる、おぞましい奴らです。」


 と、不審な少年の事を怪しんでいたら、新たな候補が出てきた。

 曰く、この村の言う”さるども”というのは、一般に生息する猿や猿ような魔獣のことではなく、この村近辺に生息しているとされる”闇の住人”だという。月のない夜など深い闇の中から襲い来る、猿が大きくなったような存在で、これが昼間にも表れるようになった時、村に大いなる災いが起こるという。


「そんな存在が……。」

「奴らは今までも、祠を襲ったことがあります。それもあって祠の周りは罠が多いんですが……早速、村長に話してきます!こりゃあ、急がないとな……。」

「俺も行きます。奴らが絡んでいるかもしれない。戦いとなったら、任せてください!」

「ああ……こりゃあ頼もしい!」


 リボリアムはすかさず名乗りを上げた。もう夜だが、付近を調査するなら村長に面通しも必要であろう。


 ……………………


「あなたが、外から来なすった兵士さんか。」

「『元』、ですが……。俺は今、帝国を襲おうとしてる集団と戦っています。そいつらのアジトを突き止めるために旅をしてるんです。」


 リボリアムは事情を説明し、協力する旨を伝えた。村長からは是非ともと返答を貰い、一応満月ではあるが荷物から魔導カンテラも持ち、件の祠へと向かった。




七話開始です。

よく聞く吟遊詩人の「バード」という呼び方、「鳥」ではないらしいですよ。


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