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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
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第六話「商売敵にはさまれて!」5


    *


 ───裏町、顔役の屋敷。


 ここはボリアミュートの『花咲き通り』……通称『裏町』と呼ばれる、歓楽街が立ち並ぶ通り。その()()()()顔役だった商家の屋敷である。この屋敷の主人だった者は奴隷に扮したモグログの構成員の手にかかり、亡きものとなっている。今の主人は、その奴隷達であった。


「ホスゥゥ~、まさか見つかるとは想定外だったな、ブルーギモス。」

「キュキュ……ここでおとなしくしていれば、見つかることはないだろう、イエローギモス。」


 今ここに、先ほどマードックを襲った2体のキメラ魔人がいる。

 どちらもその頭は蛾のような昆虫のものだが、先に仕掛けた黄色頭がイエローギモス、後に現れた青い頭がブルーギモスというようだ。この2体が、元顔役の買ったモグログ扮する奴隷6人の内の2人である。


「そうもいかん、アクセサリーは卸さなくては……とはいえ油断は禁物。守備隊は能無しではない。ここの元の持ち主も、連中に逆らおうとはしていなかった。」

「そうだな、我らはあくまでも秘密裏に、あの商店に品を卸す。」

「……だがブルーギモスよ、いざとなれば……。」


 イエローギモスが、声のトーンを落とした。その意図を理解したブルーギモスは狼狽えた。


「早まってくれるな、イエローギモス。上級の方々でさえ、現状やつにはかなわない。」

「しかし、生身の奴になら効いた!うまくすれば……!」

「それでもだ。我らは第一に、見つかってはいけないのだ。」


 打倒リボリアムに息巻くイエローギモスをなだめるブルーギモス。

 そんな二人に、気軽に話しかける者が現れた。


「順調かね?」

「……イカウェイ様!こ、このようなところに!」


 一般的な成人男性よりも幾分低い身長、安物の上下でひょこひょこと歩く小男。しかしてその者はモグログ幹部、闘神官ウォリアモンクウィドログリブ……の、表の顔、イカウェイである。


「人に紛れれば私は目立たないよ。それよりも君たちには期待しているよ。君たち扮する行商からアクセを卸すことで、我が系列店……パンセッタ商会の疑いをそらしつつ、この宝石のような新型キメラ魔獣の卵をふ化させる。この実験結果さえよければ、何もこんな辺境を狙う必要もないわけだ。そう……にっくきあのリボリアムと、戦う必要もないワケだよ。」

「……はは!」

「術の発動ももうすぐ。それまでは地道に、行きなさいね。私も最初は地道にやって、今の地位を得たんだ。そしてこれからも、地道に悲願達成を狙うのさ。」

 2体のキメラ魔人はその場で頭を下げ、イカウェイはニタリと笑った。



    *



 リボリアム達はボリアミュートの奥にひっそりと佇む、考古学者モルダン宅に到着した。既にトマックも来ている。元々リボリアムと2人でここを目指していたが、騒ぎを聞きつけたリボリアムが寄り道していたのだ。それがなければ、マードックは死んでいたかもしれない。


「ここなら安全だ」

「リボリアムやっと来た!……あれ?マードックさんじゃん。」

「こ、これは、領主様のお坊ちゃん!」


 マードックは領主の子を前に恐縮したが、本人は気にする様子もない。


「坊ちゃん、やっぱり今の状況は、モグログが絡んでる。気づきかけたこの人が、キメラ魔人に襲われてたんだ。」


 トマックは「はっ」として、今の危険さを再確認する。そしてマードックを励ますように笑いかけた。


「あぶないトコだったね、マードックさん、ここなら安全だぜ。ナイアのねーちゃんが、なんかすごい結界張ってくれてるからな!」 

「お……、はぁ……?」

「坊ちゃん、アクセサリーは?」

「今見てもらってる。」

「い~ま~終わったわ~~よ。」


 気だるげに出てきたのは、ボリアミュートに暮らす天才魔導士ナイア。

 そう、人を陽気にさせるアクセサリーの解析を、リボリアム達は天才である彼女にお願いしようと来たのだ。ちなみにナイアの後から、家主であるモルダン翁もついてきている。


「早いね!?ついさっきじゃん!」

「学術塔の魔導士をお舐めじゃないのよ?見る奴が見れば一目瞭然ね。こっからは説明しながら考えるわ。その方が捗るから。」


 ナイアはそう言うと、机のごちゃごちゃした資料を雑に押しのけ、首飾りを置く。


「これは確かに魔道具の一種よ。結構魔法史的には歴史ある術なのよね。200年ぐらい前のキョー……えー、200年前にいた有名な魔術師のね。魔道具っていうか、どっちかと言えば呪物に近いものだけど。」

「それって何か違うの?」

「一応ね。どっちも魔法っちゃ魔法なんだけど、呪法・呪術って呼ばれてるのは、今の魔法体系的にはかなり原始的なものとされてる。

 一般的に魔道具って言うのは、魔術を道具に組み込んだものよ。……言っちゃえば、魔術ってのは学問なのね。数学ほど正確じゃないにしても、『技術』として誰でも学べて、正しい手順をなぞりさえすれば誰でも同じ結果が出るの。

 そんで呪物……。『呪術』ってのは、今の研究でも仕組みは解明されてない。でもやり方は伝承されてる。ただし、その通りやれば誰でも同じ結果がでるわけじゃない。簡単に言えばそんな感じよ。」

「へぇ~~~」

「……ナイア、これ、話がずれとる。」


 モルダン翁のツッコミにナイアは「あっ」と言って咳ばらいを一つ。


「そうね、あんた達の言うマザー?さん?とやらの見立ては合ってるわね。これは沢山の人が身に着けることで、効果がどんどん増していく呪物よ。陽気になる……んでしょうね。で、どうすれば……、かぁ。」


 そこでナイアは顎に手を当てた。ナイアも、今の街の様子にはいい予感はしない。だがこれをどうすれば事態が解決するのかは、一口には言えないようだ。

 トマックはふとした疑問を口にした。


「そもそもなんで、陽気にするの?モグログが絡んでるなら、攻められる俺たちは気分は沈んでたほうが良くない?」

「……言われてみれば?」

「ふんん、品物というのは、作られた目的がある。陽気にするというのは、必要なものなんじゃろう。」


 そんな疑問にリボリアムも首をかしげる。次いで、モルダンが考古学者としての考察を述べる。

 これに首をかしげたのは、マードックだった。


「……それは……どう、ですかねぇ。商人として見ると、これはお客さんにばら撒いているようにしか見えませんでした。こんないい作りの細工で、宝石まで使っているのを……。加えて商品としてみれば、気分が明るくなるというのは魅力的です。ただでさえ良い品物が格安で、その上陽気になる魔法がかけられてるなんて、それすら『もっと売らせるため』じゃないか、と感じます。」


 それを聞いてナイアは、「売らせるため」という言葉を口の中で反芻する。

 彼女の頭の中で、様々なキーワードがパズルのように組み合わされ、解かれ、また別に組み合わされていく。

 そうして、一つの結論が出た。

 ナイアは首飾りを手に取り、濃い魔力をその手に漲らせた。


「……何も起こらない……これはビンゴね。……なら……効率的なのは……。

 ……………………

 ………………

 ………!!!」


 突然、堰を切ったようにナイアは雑紙を取り、猛烈な勢いで何かを書き出した。

 時折書いたものをぐちゃぐちゃと線で消し、また新しく書いていく。しばらくして…………


「…………できた!!」


 ばん!と、ナイアは机を叩いて大声で宣言した。そこには、一つの魔法陣が描かれていた。



    *



 ゴォォーーーーーーーーーー…………!!


 ボリアミュート外周を形作る外壁の上を、銀の馬が疾走している。

 『特捜騎士』リボリアムの愛馬、ベルカナードMk-Ⅱ。前後の車輪で疾走する、古代の超文明の粋を以て作られた鋼鉄の騎馬である。


(まず、このアクセは、人の魔力を勝手に吸い取って、『陽気にする』って効果を出してるの。でも使うのは普通の魔力じゃない。どうやってかはわかんないけど、おそらく『感情』の乗った魔力を吸い取ってるのよ。)


 ナイアの言によれば、あのアクセサリーはそういうものらしい。


(で、本命はこの宝石。これ、たぶん宝石じゃない。たぶん『卵』みたいなものよ。信じらんないけど、石じゃないなら生き物ってことよ。なら、こいつが人の魔力を集めるのは、この卵を孵すため。それを防ぐために……!)

「この魔法陣を、外壁の16ヵ所に置く!」


 ナイアに託された、複雑な魔法陣。同じものが16枚。すべてナイアの直筆である。


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