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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
二章:アバンジナ南部編
34/56

第六話「商売敵にはさまれて!」1



お待たせしました。

第六話、お楽しみください。



 かつて……この広大な大地に、人の居場所は僅かだった。

 人がいつ誕生したのか、それを解き明かした者は未だいない。考古学者によれば少なくとも1000年前から人は既に存在し、魔獣の脅威に隠れながら、森に住んでいたという。

 人が力をつけ、魔獣を跳ね除け森を切り開き、国を築き、争い合い、滅び、新たな国が生まれ……

 そんな戦乱の時代に、バンジナ王国は生まれた。元は木っ端のようだったこの国が、戦乱を期に周辺国を次々統合し、そして大地のほとんどを手中に収める頃には、大アバンジナ帝国と呼ばれていた。


 大アバンジナ帝国の最南端、ヴァルマ領。

 元はこの領地のさらに南端、前人未踏の『大森林』から来る魔獣達を撃退し、人の世を静かに守っていた国だった。当時すでに大帝国であったアバンジナとは、争うこともなく統合を受け入れ……正確には、アバンジナが大森林の守りを進んで支援するという約定で、領地の管理、農作物の輸入出や新人兵士の受け入れ・育成をする役目を担うことになった。

 一説には、当時の国王が傑物であり、アバンジナ皇帝と何度も文を交わし、皇帝から深い信頼を得ていたとされる。


======================


 そんな意外とロマンある歴史を持つヴァルマ領。その領都ボリアミュートは、怪しげな武力集団『光の結社モグログ』の脅威にさらされていたが、呼応するように現れた一人の勇者によって蹂躙はまぬがれ、ひとまずの平穏が保たれている。


 最近、その平穏がいっそう明るい様相を呈している。

 道行く人には、鮮やかな水色の衣服や布で飾られた格好が散見される。新しく入ってきた商会が卸している布で、それを街の服屋が仕入れ、あるいは個人で買って、目に楽しい彩りを添えるのが流行トレンドになっている。


「最近よく見るなぁ、あの色。」


 それに気づいたのは、とある3人組のうちの1人、白髪の青年。この街を守護する守備隊兵士であり、同時に、最近現れた謎の武力集団モグログに対抗する特殊な装備と特命を帯びた『特捜騎士』、リボリアムである。

 街をブラブラしていると、青が目に付く。そのぐらい浸透してきている。自身は服装に無頓着だが、愛する街の移り変わりには結構敏感である。露店の串焼き屋のおっちゃんなどおしゃれに興味がない人達、肉体労働者など汚れやすい人達はさすがに着ていないようだが。


「何?どの色?」

「青。水色?その真ん中あたりの。」

「あ~~……そっか、確かに。」


 リボリアムに教えられ納得したのは3人組の2人目。この街の領主の次男、歳は12歳。赤髪そばかすが特徴なわんぱく坊主のトマックである。数年前この近辺にふらりと現れたリボリアム、当時言葉もままならなかった彼をそばに置いた事で、今の彼に多大な影響を与えた少年である。

 3人が街をブラついているのは、パトロールである。まだ子供と言ってもトマックは街中を知り尽くしたボリアミュートのエキスパートだ。リボリアムも所属しているボリアミュート守備隊の隊員より、下手したら詳しいかもしれないほどだ。実際、彼を伴ってのパトロールは実に効率が良かった。

 そして最後の一人は───


「ていうかジンナも付けてるよな。その青いケープはそうだろ?」

「もっちろん!安かったんだ〜ってね、ママが買ってきて作ってくれたの。」


 傍を歩く少女、ジンナが自慢げに言う。

 トマックよりも幾分幼く、青髪にそばかす。元気溢れる眼差しが可憐な、トマックの幼馴染である。貴族の子相手に普通に接する数少ない人物だが、それはこの領特有の距離感である。


「これは、パンセッタ商会ってとこの布じゃないかな。最近新しい店が『栄え通り』に入ってきたんだよ。」

「あそこかぁ。その店知ってる。もう繁盛してんのかぁ。」

「こんなに流行っちゃうなんてすごいよねー。」


==================


 その『栄え通り』から入った路地に、ひっそりと佇む一件の店……『マードックの雑貨屋』。

 少し薄暗いその店の中で、初老の店主がひとり、うなだれていた。


「………はぁ…。」


 見るからに気落ちしており、ため息を一つついた。



    *



 第六話「商売敵にはさまれて!」



    *



 リボリアム達3人は話しているうちに、なんとはなしに件の商会がある、盛え通りに向いていた。すると、見知った顔に声をかけられた。


「あら、リボリー。それにトマック様も。そちらは……?」

「ドミナ師範、こんにちは。こっちはジンナ。坊ちゃんの幼馴染です。」

「こんにちは、近衛銃士ピストリア様!わぁ~近くで見ると本当にキレイ!太陽みたい!」

「あら、うふふ、ありがとう!ジンナさん、ね。よろしく。近衛銃士のドミナです。」


 リボリアムたちと挨拶を交わしたのは、黒髪褐色肌の美少女。帝都より派遣された帝国最強の戦士が一角、近衛銃士ドミナである。

 ドミナは子供からの惜しみ無い賛辞に顔を綻ばせながら、トマック達に問うた。


「トマック様達は、こんなところで如何なご用事ですか?」

「ん~、なんとなく?最近流行りのを売ってる店が気になって。」

「ドミナ師範は?師範も布を?」

「布?……いえ、私は剣の手入れ用具を買いに。」


 と、ここでトマックが「はは~ん?」いった顔をする。


「当てよっか。マードックさんの店でしょ?」

「! そ、その通りです。よくお分かりで……」

「いやぁホント坊ちゃんそういうの鋭いよなぁ……」


 トマックは鼻高々だ。もっとも、そう難しいことは考えていない。雑貨屋はそこかしこにあるが、剣の整備用品を取り扱っているのはこの近くでは『マードックの雑貨屋』しかないからだ。


「ふふん。……てか、むしろ良く『マードックの雑貨屋』を見つけたね?あそこは知る人ぞ知るって感じなんだぜ?装備関係なら『戦士通り』に行けばいいのに。」

「散策するのが好きでして。それに、『戦士通り』の店は品ぞろえが安定していなくて……その点、あの店は品がどれも良かったのです。少し値は張りますが、私にとって気になる程ではありませんし。」

「大正解だぜドミナさん! ははっ、今の言葉マードックさんに聞かせたら喜ぶだろうなぁ。」


 トマックの言葉に、それもいいかもしれないとドミナは思う。世話になっているのなら感謝の言葉の1つもあるべきだ。

 3人と別れた後、ドミナは目的の店へ向かった。



 ───マードックの雑貨屋。


 ドアに取り付けられたベルが鳴り、来客を告げる。

「いらっしゃい。」

「こんにちは。」

「……!こ、これは……近衛銃士様、また来店いただけますとは……!」

「また、見させてもらいます。」

「ええどうぞ、ご覧ください。」


 大物の来訪に、初老の店主マードックは緊張だ。彼女は以前も訪れているが、やはり気品と言うか覇気というか……そういったものが違う。この店は時折、貴族街区の護衛騎士なども来るのだが、それらの人物と比較しても頭一つ抜けているものがある。『格が違う』というのは、こういうことを言うのだろう。


「…………やはり良いですね。」

「……はぁ、お、おそれいります。」


 店主の姿に、ドミナはくすりと笑って話しかけた。


「そう硬くならないでください。私は確かに地位を持っていますが、戦いが好きなだけの……しょうもない武人でもあります。そのしょうもない武人から見て、ここの品ぞろえが魅力的だったというだけです。なんというか……妥協しない、誠実さがおありですね。」

「……ありがとうございます。たしかにウチは、品質にはこだわってますから……そんなお言葉を、まさか近衛銃士様からいただけるとは、商人冥利に尽きます。」

「……しかし、不思議ですね。この辺は他にも雑貨屋がありますが、剣の用具を扱っているのはここだけです。……というか、そういう需要がなさそうな通りなのに、なぜ?」


 ふとした疑問をドミナが口にすると、主人は照れくさそうに前掛けをさすりながら答えた。


「……いえね、そこの通りには、身なりのいい方々もそこそこ通るんですが、その護衛の人らも多いわけですわ。

 でも、護衛の人らの欲しいモンが、この辺には無い。手早く済ませたいときなんかに、あると便利かなと思って、いくつか取り扱うようにしたんです。」

「ほぉーう。なるほど。実戦向き、かつ、そう低品質なものも使えない人たちのために、こういうのを……」

「へぇ、その通りです。……実は、昔はそういう店がもうちょっと多かったんですが。」

「そうなのですか?」


 マードックは少し寂し気に言う。

 他にも店があったとは意外であった。潰れてしまったのだろうか?とドミナは思う。しかし今の話を聞くに、需要はそう低くもないはずだ。現にこの店の品はどれも良いが、種類は物足りないものがある。

 武具の整備用品は意外と種類がある。もしかしたら主人は、「昔は他の店に種類の違う武具用品があった」と言っているのだろうか。


「需要はあるんですがね、大儲けにはならないってんで、みんな今は、別の流行りモンを売ってるんです。今はアレ、青い布や服でも売ってるんじゃないですかね。」

「ああ……そういえば。しかし、私たちなどにすれば、こういったものがちょこっとあると嬉しいのですが……。」


 意外なところで流行物の話題が出た。なるほど確かに流行物は売れるのだろう。


「昔は連中も、お客の為の品ぞろえを考えて、それぞれ競うように、違う品を売ってたんですがねぇ。

 ……そういえば、近衛銃士様は、ああいうのは着ないので?よくお似合いでしょう?」

「ああ……まぁ、私は剣を振り回しますから、身なりは最低限で構わないのです。それに仕立てのいい青い服なら帝都の家にありますし。今更目の色変えて欲しがるものでも、と言うところです。」


 それを聞いて、店主マードックは己の目の至らなさを恥じた。そうである。目の前にいるのは帝室御用達の近衛兵。上級貴族程には及ばずだろうが、高級品など珍しくもない身分なのだ。

 ……と、マードックは思ったが実は違う!

 ドミナは「特に必要ないから買ってない」のではない。「流行に乗っかるのはダサい事」と思っているのだ!!

 それどころか「特にこんなド田舎の流行になぞ乗っかっては帝都住まいの名折れ」とすら思っている!!!

 そう。実は彼女は、とんだ見栄っ張りのシティガールなのである!!!!

 それはシティガールとして器が小さいのではないだろうか?と突っ込む者は誰もいない。むしろ年頃の少女にしては、あからさまな態度に出ていないだけ立派とすら言えるか。


「ありがとうございました。また、ご贔屓に。」


 雑談もそこそこに、ドミナは店を出た。その足はついでとばかりに『栄え通り』に向く。

 ……これは決して流行りが気になるのではない。一時とはいえ住む街に、どんな変化がもたらされているかを確認するだけである。

 そう、流行りが気になっているわけでは、決してないのだ。



    *



新章ということで、今までのおさらい的に情報を出し直したらちょっと長くなりましたね。

次回分もすぐ書き上がるので、来週は普通に更新できるかと思います。


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