第五話「誕生、特捜騎士!!」7
悲報:終わりませんでした
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ボゴゴゴゴォォーーーーーーー……!!
激しい回転により地を削りながら、爆走する音が響く!
眩しい銀に輝く馬体が、超スピードを伴って魔獣に激突した!!!
ごおおん!!!
「キギェエェ~~~~~~!!」
兵たちの表情に喜色が浮かぶ。見覚えのあるその姿。『金色の勇者』の駆る、『鉄の馬』である。さっきまでそこに乗っていた人物───今はキメラ魔人に向き合っている青年への見覚えに、驚き戸惑うものも多い。
一方でモグログ達は表情を曇らせる。すぐさま反応したのは、体中から太い棘を生やしている上級キメラ魔人、ガンドマであった。
「出たか、『鉄の馬』……! まずいですぞ、ウィドログリブ殿!」
「おお~、あれが……。確かに『鉄の馬』、『馬無しの戦車』と言える。いや、なんとも勇ましく珍妙な!欲しい!!」
「ウィドログリブ殿。」
「おお、そうだな。さて……」
ウィドログリブは我欲をひとまず抑え、リボリアムに向き直った。リボリアムは油断なく剣を構えている。
「…………」
「お前が金鎧の、リボリアムとやらだな?まずは挨拶といこう!初めまして、私はモグログの闘神官ウィドログリブ!」
「初めまして、リボリアムだ。……おたく、他のと比べて変わってるな?海の方から来たのか?」
「わかるかね?」
「この街、魚やイカは干物だけど、タコや貝は生きたのが来るんだ。特にタコのから揚げは最高だ。」
「アレ見てよく食い気が出るな……」
最後の言葉はドミナである。
「ところで?我らモグログの宿敵たるリボリアム。例の金鎧はどうした?それ見にわざわざ戦力の大盤振る舞いをしたっていうのに。」
「諸事情でな。準備できるまでもうちょっと待ってくれ。それまでは……」
「私が引き続き、相手をしよう。」
リボリアムの言葉を遮り、ドミナが再び前に出てきた。周囲のキメラ魔人が油断なく身構える。リボリアムは、何も考えず会話をしていたのではない。ドミナの回復の時間稼ぎをしていたのだ。ドミナは帝国最強の戦士、近衛銃士。近衛銃士たるもの、治癒魔法の腕前も並以上は”あって当然”なのである。
ただ、その中でアイネグライブだけが一人、少し首をかしげていた。疑念はもちろん、生身のままでいるリボリアムだ。
この街に潜んでいる部下からの報告で、宿敵の金鎧が彼だということは確定している。だが、その鎧や鉄の馬が、普段どこに隠されているかまではわかっていない。情報から考えるに、どうも郊外らしいが……。
金鎧……リボリアムは今、近衛銃士に遅れて到着した。過去3件と同じなら、もう鎧を着ていてもおかしくはないのだ。これはどういうことなのか。先の「準備できるまで待て」というのは。
その疑問の答えは出ない。
「ご苦労、リボリー。あとは任せなさい。準備ができるまで、今度は私が時間を稼ぎます。」
「ドミナ師範、でも……!」
「今は鎧が着れないのでしょう?1対1ならまだしも、この数はまだあなたには捌けません。今は門の兵達を援護なさい。」
「あ……その、それは~……」
「あなたに力があるというなら、さっさと例の鎧を着て、それから存分に見せてください。」
「……り、了解!」
リボリアムはじりじりと下がり、未だ暴れるキメラ魔獣に向かって駆け出した。それを見送った後、ドミナはキメラ魔人達に向き、ゆっくりと剣を構えた。
「先ほどは醜態を晒した。どうやら私も驕りが過ぎたようだ。同じ辺境でも、南は敵も味方も逞しいな……。」
ドミナが独り言のように言う。3人の上級キメラ魔人たちには後半の意味は分からなかったが、しかし。
驕っていたのは自分たちの方こそであると、認めがたい事実が目の前に、形となってそこにいた。
その認めがたい事実は、先ほどより一層研ぎ澄まされた構えで以て、自分たちの前に大きく立ちはだかっていた。
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門の前では、先ほどから威勢よく、『鉄の馬』ことベルカナードMk-Ⅱが走り回り、魔獣たちを引っかき回している。リボリアムはさっと一面を見渡して判断する。どこが防御の薄いところか、どこの敵にてこずっているか。そしてBRアーマー無しの自分が加わったとして、どこが効果的か。
「ベルカナード、こっちだ!」
その声で、鉄の馬はすぐさま相棒の元へ戻ってきた。リボリアムはその背に跨り、再び馬が走り出す。
「……キーワード、どうしよう……」
その呟きを、彼の相棒は聞き逃さなかった。非難するような音色の機械語が「BBBBB」と鳴らされる。
これはどういうことなのか?少し時間は遡る───
「装着システムの合言葉の設定?」
「PPPP」
「ベルカナードの近くにいれば、すぐ着られるってこと!?すごいけど、でも、合言葉か……『装着』とかじゃダメなの?」
「BBB、BBB」
「ひねりがない!?いいじゃん!シンプルなのがいいじゃん!」
「BBBBB」
「セーフティの為?それイチイチ言わなきゃダメなの!?」
「PPP、BB」
「急には思いつかないよ~!今まさに必要なんだけど!?なんなら今すぐ着たいんだけど!?」
「BBBB」
「え、まだシステム出来てない!?どっちにしろ着られない!?うう~~ん仕方ない、北門に着くまでに考えないと……!」
ということなのだった。
要約すると何かすごいシステムで、マザーの工房に帰らずともBRアーマーが着れるようなのだが、そのためのシステムは今まさにベルカナードが構築中だという。リボリアムもそのためのキーワード設定がまだできていない状況なのだ。
つまり今、生身で大型キメラ魔獣軍団を攻略せねばならないということだ。
「ベルカナード、あいつの近くに!」
リボリアムが狙いを定めたのは、グリフォンとコカトリスを合体させた魔獣だ。攻撃力は高そうだが防御力は低そうに見える、という、いささか安直な判断だった。
ただ、勝ち筋を考えてないわけではない。リボリアムは”グカトフォス”を相手取る兵士達の指揮者に取り次ぎ、要点を伝える。指揮者からは「わかった」と快く了承してくれた。再びベルカナードを走らせる。
「回り込んで、他の魔獣の影からいくぞ、5、4、3……!」
先ほどの指揮官が声を張り上げ、グカトフォスに対して一気攻勢をかける!大声で突撃する兵士の気迫に圧され、グカトフォスは思わず翼を羽ばたかせ空に逃げようとした。
そこへ、他の魔獣の股下を掻い潜って白い影が迫る!
「───2、1……!」
リボリアムは既に相棒の上に立ち、飛び掛かる体勢を取っている。
飛び上がったグカフォトスに向かって跳ね、剣を腰だめに構え、体でぶつかっていく!!
狙い通り、構えた剣は深々と突き刺さっていた。
「「キギェェェエエエエエエエッッ!!!」」
たまらず叫び声を上げるグカトフォス。だがリボリアムは油断しない……否、正確に言えば焦っていた。
グカトフォスが飛んだ事で、自分も合わせてジャンプしたわけだが、刺さった箇所が思ったより低かった。今は剣を刺した事で肉が締まっているが、やがて剣が抜け、自身も落ちてしまう。冷静になったグカトフォスに空から『爆破』を撃たれたくなかった。
「ふんぬぅぅッッ!!」
目に入ったものにしがみつこうと、がむしゃらに動く!掴んだのはコカトリス分である鶏のような翼だ。死ぬ気で腕を絡め、魔獣の背に足をかけ、そこで剣を引っこ抜き、グカトフォスの背に乗った!
かの魔獣はまだ空を諦めておらず、バタバタと翼を動かしている。振り落とされぬよう両足でしっかり魔獣の胴を挟み、両手で剣を振り上げ、グリフォン部分の片翼に振り下ろした!
バキッ!
そんな音が響くと、グカトフォスが再び叫び声を上げる。
リボリアムの剣は見事に片翼の骨を叩き割り、バランスを崩した魔獣は地に堕ちた!
「今だやれええええええ!!!」
「「「「ウオォォォォーーーーーッッ!!!!」」」」
魔獣が地に堕ち、リボリアムが投げ出されたと同時、兵士たちが一斉に群がる。3つの頭に次々と剣や槍が突き立てられ、グカトフォスは絶命した。
「よし、攻撃やめぇ!重傷者あるか!!」
指揮者は損害確認をし、負傷者を素早く下がらせると、戦える者を連れて手近な部隊へ援軍に行った。
リボリアムも、新たな目標を決めようとしたとき、機械語が鳴る。
「PPPP、BBQEE」
「!……出来たのか!」
「PPP、EEB」
「キーワードかぁ。わかってるけど、戦いながら考えるなんてできないよ……」
「PPP……GGG……」
「ん?」
ベルカナードMk-Ⅱが機械語で何かを伝えようとしている。ハンドルの間にあるミニディスプレイに、細かな文字が表示される。リボリアムは要点を確認するように、ぼんやり口にしながら読み上げていく。
「基準座標に、念物質流───登録者情報があれば、動いてても?───初期状態で着装。変更点……パラメータバランス変更───ポジフラッシュ……が起こるため位置を……こうけつ、現象……」
「BBB!」
「しょうがないのか……そうだな、便利になってるもんな。……。」
相棒の口うるさい機械語に生返事しながら、流し見ていた説明文の中で目に留まった言葉を見つめていた。……しばしして、顔を上げる。
「BB、BBBB」
「わかった、行こう。キーワード設定。」
リボリアムは、ミニディスプレイ越しに操作し、キーワードを登録した。再びハンドルを握り、思い切り捻る!
ガゴォォォゴゴゴ!!!
ベルカナードMk-Ⅱのタイヤが激しく地を削り、走り出した!
リボリアムは確かと、力強く───後に伝説に語られる言葉を───自身と対峙するあらゆるものへの『宣言』を口にした。
「『煌結』!!」
戦場に光が瞬く!
何事かと顔を向けた者は目を見開いた。鋼鉄の騎馬に跨るその姿は、正に誰もが待ち望んだ『金色の勇者』。だが、「なぜ!?」と皆が思わずにいられなかった。白髪の青年は一瞬にして、瞬く光と共にその”勇者の鎧”を身に纏ったのだから。
彼に何が起こったのか?
ベルカナードMk-Ⅱの構築した新機能、機魔術『エクォ・ファット』。かつて超文明に存在したこの驚くべき技術は、リボリアムの唱えるキーワードに反応し、0.7±秒でBRアーマーの着装を完了させる。
では、そのプロセスを説明しよう。
「『煌結』!!」
キーワードの入力が確認された時、ベルカナードMk-Ⅱ内部に搭載された超圧縮物質『アーマーシート』が、一気に波動粒子化される。それは黄金に瞬く煌結現象を伴って、リボリアムの体に合わせ『BRアーマー』として再物質化されるのだ。
リボリアムは周囲のリアクションに構わず、大型キメラ魔獣軍団に吶喊してゆく!
「ベルカナードMk-Ⅱ、最大出力だ!」
「PPPQ!」
リボリアムの声に応え、ベルカナードMk-Ⅱは巨大な嘴のような前面装甲、その先端から赤い力場を形成した。
「『アークバリスター』!」
ズパァン!!ズパズパズパァァン!!!
「ギャォォォォォォ!!」「ブゴォォオ!!?」「グギャァァーース!!!」「ゴォォ~~ン!!」
赤く輝く槍と化した鋼鉄の騎馬の突撃は、一挙に4体の大型キメラ魔獣を貫き、これを撃破した!
「お、おお……!?」
「…………!」
誰もが呆気にとられるほどの一撃だったが、これに思わず声を上げてしまったのは、キメラ魔獣達を率いるウィドログリブであった。その後ろではアイネグライブも静かに拳を握りしめる。忌々し気に歯噛みし、その目に炎が見えそうなほどリボリアムを睨みつけていた。
「これで5体、残りも一気に!」
「待ってくれ、リボリー!」
「?」
声を掛けられた方を向くと、今いる兵たちのまとめ役───リボリアムも知っている隊長の一人であった。
「ここはいい。ドミナ様を助けてやってくれ。」
「あ、しかし……」
「敵は半分だ、もう食い止めるだけなら不可能じゃない。いや、1、2体だけでも倒してみせる!それより脅威なのはあっちだ。違うか?」
「……わかりました!」
つくづく、多くの人に助けられている。リボリアムは実感した。騎士として立てた誓いはまさに、自分が彼らと同じである事への”誇り”を言葉にしたものだ。
その誇りを胸に、相棒に跨ったリボリアムは、未だ激戦を繰り広げるドミナの元へ走った。
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何度剣を振るったことか。
普通の戦場であれば、彼女の周りは屍の山になっていた。だが、今は誰も地に伏してはいない。
近衛銃士として、これほどの異常事態はなかろう。長いこの国の歴史を───『帝国』成立前から存在する、過去の近衛銃士達が紡いできた歴史を顧みても、そうそうあったことではあるまい。
しかもだ。自分は大きく魔力を使っている事もあって徐々に疲弊してきているが、敵方にはその様子が見られない。戦況自体は1対多の状況でなお押している程だが───
「どうした、その爪は飾りかぁーッ!!」
「ふっぐ……!!近衛銃士ァァ!……ぐああっ!?」
「下がれリサッタ!ふんん!!」
「う!?……く、ついさっきその腕は斬ったはずなのに!」
───そう、こちらがそれなりに深い一撃を与えたと思っても、気づいたらそれが治っているようだ。非常に良ろしくない状況であった。
「そろそろ降参するか?近衛銃士ドミナ。」
「……ふぅ……。そのつもりはない。10や20斬っても治るというなら、100でも1000でも─── ……?」
舐めた事を言ってくる”イカ男”。粋に返してやろうとウェーブの黒髪をかき上げながら優雅に言葉を選んでいたが、途中で連中がこちらを見ていないことに気づいた。
その原因は、一つだろう。先程目端に見た黄金色の光、遠目からも目立つ金の鎧に銀の馬。その特徴的な車輪の音が近づいてくる。
その音が、自分の後ろで止まった時、思わずふっとこぼれる笑みを抑えきれなかった。
「来ましたか。意外と早かったですね?」
「仲間たちの見せ場を作ってあげたんです。彼らはもうそれができる。あなたのおかげです。」
「………………」
近衛銃士バローナの隣に、金色の鎧戦士が並び立つ。敵の前なのでじろじろ観察はしないが、ちらりと見れば、彼女も話に聞いていた通りの刻印がある。
その見覚えがないキメラ魔人たちに、一瞬のどよめきが起きる。最奥から、闘神官アイネグライブがそれを指摘した。
「金鎧!その胸の紋章は……一体なんだ!?」
「……これは、お前たちへの宣戦布告だ!」
「何……?」
BRアーマーの右胸に、新たに刻まれていた紋章。帝国紋章に使用されている金冠に、ヴァルマ領の紋章に使用されている樹を表す図形。そして特殊な騎士を表す、帝国唯一無二の剣。
黄金の騎士は、左腕の盾をその紋章と同じ形の剣に変え、紋章に刻まれた形である縦一文字に構え、言った。
「俺は……人々の平和を脅かす、全ての悪と戦う騎士!───”特捜騎士 リボリアム”!!」
「…………!」
アイネグライブとリボリアムの視線が交差する。
騎士の身分、それが意味する事。そして先ほど見せた、鎧を一瞬で装着する”魔法”。ボリアミュートは、もはや成す術なく蹂躙される攻撃目標ではなくなった。
それを理解したアイネグライブは、この日一番の大声を上げた。
「特捜騎士リボリアム、なにするものか!同志たちよ!彼奴めはここで打ち取る!!力を解放せよ!!」
今度こそ次回五話ラスト!!!!!!!
次回更新は出来次第!!!!!!来週中にはできます。




