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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
3/47

第一話「わんぱく小僧と新英雄(ニューヒーロー)!」3


 

「どういうことなんだ!?そんなに強かった……いや、アンザイ師範にだって、あんな魔獣を吹っ飛ばすなんてできないよ!」

 トマックが詰め寄る。ジンナも後ろでコクコクと頷いている。


「そうだね。俺だからできた。……坊ちゃん、ここはまだ危ない。もう少し奥に来てくれ。」


「え?」

「安全な所がある。坊ちゃんたち悪魔を探しに来たんだろう?あのおじいさんとこで聞いてたんだ。」

「え、うん。」


「結論から言うと、悪魔はいない。ここには……俺の生まれた場所がある。」


 ここは大森林。人も住んではいるが、柵を越えた先には誰も住んでいない。

 生まれ故郷と言われても……と、トマックたちは首をかしげるしかなかった。



「なんだか、まだ信じらんないや。」


 落ち着いたベルカナードを引きながら、トマックが言う。


「リボリアムが、こんな森で生まれたなんて。」

「ね~ぇ、リボリアム、悪魔がいないって、なんでわかるの?」

「わかるというか、知ってるんだ。着いたよ。」


 そう言って止まったのは、大岩……らしきものの前だった。周囲はほぼ平地なのに、妙に凹んだ地形の底にあり、上部は木と土に埋もれ、ちょうど壁のようになっている岩だ。

 リボリアムがその岩の前に立つと、岩の一部が四角くスライドし、『入り口』が開いた。


「え!?」

「なにこれ!?」


 二人も馬も吃驚仰天だ。

 リボリアムは当たり前のように中に入っていく。奥は勝手に謎の明かりが点いていく。火も無いし人もいないのに……。

「水くらいならある。ベルカナードも休ませないとな。」


 そこは、別世界だった。


「なんだ、ここ……」


 思わずトマックも呟いてしまう。ジンナも口をあんぐり開けて固まっている。


 たどり着いたのは見たこともない金属だけの部屋。カクカクしていて、あちこち光っていて……ごちゃごちゃしているはずなのに、洗練された美しさのようなものがあった。


 何もかもが信じられないような光景だった。岩がひとりでに動き、空間が現れたかと思うと、火もないのに明るい金属で出来た通路が現れ、奥に進むとこの部屋に着いた。ちなみにベルカナードはこの部屋に来る手前で、水飲み場のような所においてきた。今頃たらふく水を飲んでいるだろう。


 信じられない……が、トマックは言いようのないワクワクで胸がいっぱいだった。


 リボリアムは、暗く大きな窓らしきものに呼びかけた。

「ただいま……マザー。」

 リボリアムが声をかけると、その窓に星空のような柔らかな明かりが灯り、たおやかな女性の声が響いた。


「おかえりなさい、ナンバー004。」


 トマックは確信した。これこそがモルダン爺の言っていた「超文明」だと。トマックにとって、運命の出会いだった。


 不思議な青年リボリアムの正体は、超文明の使者だったのだ。



 

==================

 

 

 その空間は、闇が支配していた。


 所々に青と赤の光が舞い、ほのかな光源となっている。一見神秘的に見えるが、その光が照らす空間はことごとく禍々しい。


 どうやら地面も天井も壁も岩肌に覆われた、巨大な地下洞窟のようだ。

 その暗闇の洞窟の中、老婆の声が朗々と辺りに響いていた。


 「……おんぐどぅーらぁ、まはむどぅーらぁ……

 ある・おんぐどぅーらぁ、まはむどぅーらぁ……

 アイ・アー…アイ・アーどぅらーむどらぁぁ~……」


 それはなにがしかの呪文だった。

 その手に顔に、所狭しと皺が刻まれた老婆が前にするのは怪しく光る水晶。形は怪物や悪魔の頭部を象ったものと思われ、表面は磨き上げられ美しいが、それがかえって不気味でもある。


 朗々(ろうろう)とした呪文が終わると、老婆はむむむと唸った。


 老婆の背後から足跡が近づく。舞う光源が足下を照らすが、その姿の全体像は見えない。

 足音の主から声がかかった。低い男性の声だった。


 「巫女モラドよ。如何なされた?」


 モラドと呼ばれた老婆は振り向いた。


 「吉兆と凶兆、両方出ております。」


 光源が集まり、男性の姿を……やがて周囲の様子を照らし出す。


 男性は黒衣の甲冑を着込んだ、屈強そうな戦士であった。その周囲にも複数の人物がいる。大小さまざまなシルエットをしていた。みな一様に、巫女モラドの言葉を待っている。


 「吉兆は、我々の悲願への道筋が順調ということ。」

 「おお……それはつまり、我らが王たる者の目覚めが近いと……?」

 「そう捉えてよろしいでしょう。凶兆が……それを阻む大きな障害が、現れたこと。」

 「!……現れた?……帝室には知られていないはず。それに最早、この帝国内では我らに敵う者など……。」

 「然り。なれど、この凶兆ははっきりとしております。行動は急ぐべきでしょう。」


 「…………」


 黒衣の戦士は巫女モラドの言葉を聞き、わずかに黙った。だがすぐさま背後に控えていた者達に振り向く。


 「忠実なる(ともがら)たちよ、いよいよ我ら『モグログ』が白日の元に出る日が来た。……帝国への侵攻を開始する!」


 暗闇の中でいくつもの視線が怪しく煌めいた。


 「キキィ……キキャー!」「カオカオカオッカオ……!」「ゴルルルル……」「ワキョォーーワ!!」

 奇怪な鳴き声とも歓喜の声ともつかぬ音がそこかしこから沸き上がる。


 「まずは手始めに、帝国の辺境、ヴァルマ領ボリアミュートを手中に収める……忍び寄る者サズーラ!」


 黒衣の戦士は、控えていた一人に手を振る。


 「キメラ魔獣を使い、ヴァルマ領主サルトラとその嫡子を抹殺するのだ!」


 黒衣の戦士の前に、異形の者がひざまづいた。

 青白い肌、細長い手足、這うように移動するその腕からは鋭い鉤爪が生えている。人のようなシルエットはしているが、人間には見えなかった。


 「カキャァー!我があるじのミココロのままに……!」



==================



 トマックとジンナが魔獣に襲われ、リボリアムに助けられ、『マザー』なる超文明の使者と邂逅してから、しばらくの日々が過ぎた。


「こんちゃーす、マザー!」

「おじゃましまぁす!」


 かの不思議な部屋に、トマック、ジンナの二人が入ってくる。

 二人はあれ以来、時々マザーの所に来るようになった。

 マザーとこの施設はトマックの予想通り、超文明と呼ぶ時代のものであった。


「あれ?リボリアムは?昨日から街にいないから、ここにいると思ったけど。」

「マザーさん、あたしまたかけ算の歌ききたい!」


 マザーは、二人に様々なことを教えてくれた。超文明のあった時代のことや、今の時代にも通用する学問などだ。


「いらっしゃいトマック、ジンナ。リボリアムは、ここで作っているある物の、最終調整に入りました。あと2日はかかります。」


 隣の部屋に続くドアを見るトマック。リボリアムはここ最近、いつもその部屋にいた。トマックも見たが、だいぶ狭い部屋にゴチャゴチャ細かいものが密集しており、一番奥につるんとした箱が置いてある。のぞき窓があったが、暗くて中身は不明だ。リボリアムによると「秘密の道具を作ってる」そうだが、その割に目の前の板をタカタカいじっているだけで、トマックには何をしているのかさっぱりわからなかった。


 トマックはずっと疑問に思っていたことを、マザーにぶつけてみる事にした。


「なぁマザー、リボリアムはずっと何してるんだい?2人とも、何のためにここにいるんだ?」


 トマックとジンナは今日まで何度もここに来て、色々な話を聞いた。だが、肝心のマザーやリボリアムがなぜここにいるのか、その理由を聞いていなかった。

 トマックはまだ子供だが、それらについて『はぐらかされている』というのはなんとなく察していた。


 初めて連れてこられた時、リボリアムからチラっと聞いた「悪魔ではなく、俺の生まれた場所」という言葉がひっかかっていた。


「トマック……ナンバー004を保護し、彼に連れられた子。お答えしましょう。


 この施設は、魔族に対する監視及び迎撃を目的とした工場施設。通称『SDF』の4番基。人類が復活した世に再び魔族が現れたとき、その対抗手段を生み出す場所。私の名前は、『マザー4』。この施設の管理人格であり、この施設『特別協定工房4番基』そのものです。」


「魔族……対抗手段……!」

「この場所が全部、マザーさんなの!?」


 トマックの顔に驚きは無かった。どちらかと言えば「やっぱりそうか」という納得であった。男子としては当然の発想だ。マザーに教わった超文明は、悪魔───魔族こそ撃退したものの、結果的には滅びてしまった。だがこうしてその名残が、明確な意志を以て存在している。ならばその存在理由はと思いを馳せれば、答えは明白だった。


 だが一方で、トマックはこの施設で、武器らしきものは一度も見ていなかった。


「なぁ、マザーさん」

 次なる質問をトマックがしようとしたその時、


 PPPPPPPPPPPPP!


「!?」

 今まで聞いたことのない音が、部屋に鳴り響いた。


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