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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
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第五話「誕生、特捜騎士!!」5


 近場の兵士も加わり、ゴブリンを次々斬り捨てていくリボリアム達だったが、最初からずっと消えない違和感があった。


「なんなんだこいつら……本当にゴブリンなのか?いや、それよりも……」


 普通のゴブリンは人間の子供くらいの背丈だ。だが目の前のコレは大人と同等以上の体格がある。連中のリーダーとなることが多いホブゴブリンだってここまでにはならない。

 次に何より、パンツを履いている。

 普通のゴブリンだって毛皮やみのを纏うことくらいある。だがこいつらが身に着けているこれは、明らかに人の手で織られたものだ。身なりそのものは……リボリアムも見慣れた安物・ユーズド感があるものから、高級そうな絹のものまである。

 さらに、以前の記憶に思い当たる現象……鉱山街に行く途中の宿場町で、リボリアムは()()()()()()()()()()()()のを見ている。


「こいつら、もしかして……!」


 嫌な予感が頭から拭えない。ここら一体で暴れているゴブリン達は、相当な数がいる。もしこれが、()()()()()()()()()()()()()()()だったなら……。


「迷うなッッ!!」

「!?」


 リボリアムの背からげきが叩きつけられる。最近すっかり聞き慣れたこの声───


「ドミナ師範……!」


 普段と違い、赤い制帽に隊服を着込んだ褐色黒髪の女性。腰に下げているのは、訓練で使う木剣のような長剣ではなく、レイピア型であった。これが『近衛銃士ピストリアドミナ=バローナ=アインドルフ』としての本来の姿である。


「…………!」


 ドミナは剣を抜き、無言で気を入れると、一気に踏み込む。彼女の動きは、常人では目に追えないものだ。それこそ、上級キメラ魔人に並ぶかもしれない。これも『闘気オーラ』とやらの成せる業か。

 彼女の姿が3回見えた。それはいずれも、レイピアをゴブリンの心臓に突き立てている時であった。正に瞬く間の内に、3体ものゴブリンを仕留めたのだ。

 3体目のゴブリンの胸からレイピアを引き抜き、血を振り飛ばすと、リボリアムと周辺の兵士に向け、再度声を張る。


「このゴブリン達が、元はこの街の住民だとしよう。だが、『元に戻る』と思うか!?戻せるアテはあるか!?戻せるとして、どれだけかかる!?その他諸々の考えねばならぬ最適解は今、()()()()()()()()()()()!逃げ惑う民を襲う者あれば、敵だ!!」


 再び剣を振るい、背後から不意打ちを仕掛けてきたゴブリンを逆袈裟に斬り上げ、両断した。


「兵は兵の務めを果たし、斬れ!!!」

「はっ!!」


 近衛銃士の気迫を受け取った兵達は、勢いを取り戻しゴブリン達を相手取っていく。


「リボリー。」

「は、はい!」

「私は北門へ行きます。あなたはどうします?」

「俺もすぐ行きたいんですが、先に行かなきゃいけないところがあって……でも、ここも放っとけませんし、まずはここをなんとかします。」

「……悠長ではないですか?敵は並の兵士では敵わない。だから私も派遣されたというのに。あなたはすぐ北門に行くべきです。」

「……たぶん、ちょっとくらい大丈夫ですよ。」

「は、はぁ???」


 ドミナの認識では、ボリアミュートは強敵とやらと何度も戦い、被害も大きい。そして聞くところによればその一番の当事者は目の前のあっけらかんとした青年だ。だというのに、どうにも緊張感に差がある。何か自分の知らない要素でもあるのだろうか。


「この街の守備隊は、ヤワじゃありません。それに最近、あなたの他にも助っ人が来まして。倒すのは無理でも、足止めだけなら結構いけるんじゃないですかね?」

「……そうですか?まぁ、当事者のあなたが言うなら……。では私は行きますよ。そのモグログとかいう連中の力も知りたかったですしね。」

「ドミナ師範がいてくれれば、千人力ですよ!」

「ふっ、まぁ近衛銃士は一騎当千というのはその通りですが。あなたの出番が残っていると良いですね?では。」


 ドミナとしても、引っ張ってまで連れて行く気は無し。帝国最強と謳われる戦士が如何ほどの強さか、辺境の田舎者どもに教えてやろうと、軽い気持ちでその場を去った。


 そして残った兵士達と一緒に、元住人(想定)のゴブリンを斬っていくリボリアムだが、その内の一体と対峙した時、見覚えのある面影を見た。


「お、お前は……!?裏町の!」 

「ギャギャギャガガ!」


 見覚えのあるアゴヒゲ、後退した生え際、顔に走る傷跡。そこまで同じなら、もう確定だろう。


「おおおおおおっっぜああーーーー!!!」


 ためらう気持ちはありながらも、剣は迷わず振ってゆくリボリアム。ドミナに先ほど「今は考えるな」と言われたが、どうしても思考してしまう。思考しながらでも訓練通りに体が動くのが助かるところだ。

 裏町の支配者をはじめ、履いてるパンツが高そうなのはおそらく幹部連中。安物っぽいのを履いてるのがそれ以外ということか。

 このゴブリンたちは明らかに外の襲撃に合わせて、裏町の商家の連中が変えられたものだ。


「そういえば、マサキ様は連中がおとなしくなったのを不審がってたな。こういうことだったのか……!」


 さすがの読みである。この街の内部に関しては、リボリアムがアレコレ考えるよりも、マサキに任せてよいのかもしれない。

 それに思い至ると、すっと気が楽になった。そう、何もたった一人で全てに対処する必要は無かったのだ。張り詰めた緊張が無くなり、伸び伸びと剣を振れる。ひとまず懸念は去り、リボリアムは突然発生のゴブリン退治を続けるのだった。


 「ん?」


 リボリアム達がゴブリンを粗方処理し終え、捉えられそうな個体の捕縛も済んだ頃。

 道を馬が走る音が聞こえたので振り返ると、珍しい姿を見た。


「マサキ様!」


 つい先ほどリボリアムが頭脳面で頼ろうと決めた人物。ヴァルマ領主サルトラが嫡男、マサキである。体が弱く、あまり外に出てこない人物だ。もちろん、一人で馬に乗っているところなど初めて見た。

 彼は最近、マザーと頻繁に交流している。リボリアムはもともとマザーの所に足げく通うので、会う機会もあった。その時も馬で来ていたようだが、護衛の兵を一人つけているので、普段はその護衛が手綱を取っていたはずだ。


「マサキ様、街中は危ないです!お屋敷に戻られないと……!」 


 リボリアムが拙い敬語で話しかけると、マサキは馬を止め、答えた。


「リボリー。いや、リボリアム。君に伝えることがあって来たんだ。マザーから伝言。」

「え?」

「君に贈られたその腕輪は、遠く離れていても会話ができるという道具だそうだ。」

「!……じゃあ、これは通信機!?」

「わかるんだね。でも、会話できるのは、マザーか君の愛馬、ベルカナードだけ。そして、今マザーの所に戻っても、鎧は着れないそうだよ。以上だ。」

「え!?着れない!?それって、どういうことです!?」

「詳しいことは、さっそくそれでマザーに聞くといい。それじゃあ、僕は屋敷に戻るよ。この街を守ってくれ、リボリアム。」


 マサキはそれだけ言うと、さっと馬を転身させて行ってしまった。

 リボリアムはしばらくぽかんとしていたが、気を取り直して腕輪を見てみる。

 マザーの所にある物であれば一通りわかるが、この腕輪は一見、何かの機能があるように見えない。マザー最後の制作物がこの銀色の飾り部分というなら、機能は当然この中にあるのだろうが……。

 試しに両腕の装飾部分をいろいろ触ってみるが、特にボタンになっているような構造もなく。タッチセンサーが付いているとしても、着けている本人がそうとわからない以上、意味はない。

 機能しているかどうかわからない通信機なんてもの、マザーが作るだろうか?本当にこれしか材料がなかったのだろうか。

 使って連絡が取れるというなら今すぐにでも使いたいのだが……

 

「もしもし?もしもーし!誰か聞こえますかー!?」

 

 試しに叫んでみる。


「お……おお!?」


 すると、左腕の装飾の隙間が、瞬くように光った。音も小さいがする。リボリアムはこの明滅のパターンに覚えがある。超文明の時代に使用されていた、音や光の長さのパターンで文字を表す信号だ。それを読むと、帰って来たのはこうだ。


『コチラマザー コチラマザー ツウシンヲカクニン オクレ』

「通じた……!本当に通信機だ!でも、どうやって……いや違う、それより……マザー、モグログが攻めてきてる!BRアーマーの準備を!」


 再び左の腕輪が明滅。


『モハヤ ワタシハ フヨウ ベルカナードニ アトヲ タクス』

「……??マザーが、不要?どういうことだ?マザー、せつ……」


 リボリアムがさらに聞こうとしたとき、大きく何かが割れるような音が辺りに響いた。それと同時に───


「ギャギャァァァ!!」

「何!?」


 ゴブリンは全て倒したと思っていたが、隣の区画でその鳴き声と、人の叫び声が聞こえて来たのだ。


「あれで全部じゃ……!くそ、一体どれだけいるんだ!?」



    *



 ───ボリアミュート北門。


 『敵』は目前まで来ていた。

 帝国領土では滅多に見ない大きな魔獣が、見た事もない数で街道をる。


「あれか。」


 それを、近衛銃士ドミナは静かに門前に立ち、見ていた。周囲には守備隊兵士達もいる。

 魔獣達が止まった時には、一際大きいそれの上に椅子が取り付けられており、異形の怪人が座っているのも見て取れた。そして、魔獣の周囲にいる数人のローブを纏った者達や、報告に聞いていた『黒鎧』も。

 椅子に座った異形の怪人が、上からドミナ達に声をかけた。ドスの効いた、マフィアのような声だった。


「出迎えご苦労!!」


 その威圧感のある声に兵士達は身構えたが、先頭のドミナだけは、眉も動かさず立っていた。


「んん?そっちのお嬢さんは肝が据わっているな……。挨拶をしておこう!私は、光の───」

「人の言葉が上手いな。どこで喋っているんだ?」


 威圧感を以て場を支配しようとした異形の怪人が悠々と名乗ろうとした時、ドミナが声を張り野次を飛ばした。軍隊をも相手取れそうな魔獣の群れに少しも怯むことなく、挑発までしてのける丹力を見せつけた。普段の彼女は誰に対しても敬語で礼儀正しいが、上に立つ立場としてある時には司令官然とした口調になる。そして今は、敵に対する冷酷な戦士のそれであった。


「私は光の結社モグログが闘神官ウォリアモンク、ウィドログリブ!!」


 しかしウィドログリブも狼狽えず、自己紹介を強行した。


「?……()()()()()と言った?」

「カカカ、聞き慣れないか?しかし、覚える必要はない。今……目の前にいる奴らはとりあえず……殺すからだ!!」


 ドカドカァァン!!!!

 ウィドログリブのタコ目が瞬くように光ると、ドミナと魔獣達の間の空間に爆発が起こった!


「む……?」

「おや。」


 対峙する二人も首を傾げた。ドミナもさすがに身構えていたが、衝撃の一つも来なかった。


「これは……結界?対魔法結界か?いや、しかしそれにしては……」

「おやお嬢さん。『退魔結界』は初めて見るかね。」


 退魔結界。これは、先だってボリアミュートにやってきた、さる天才魔法使いが、この街に仕掛けた護りである。

 その名の通り、邪悪な存在を跳ね除ける結界……ではなく、対象への害意に反応して展開され、物理的な攻撃すら防ぐ強力な防御術である。


「というわけだ。博識と名高い近衛銃士も大したことは無いな。」

「!」

「そんなに驚くことか?そんな真っ赤っかな服を着ている軍人なんて、近衛銃士以外にはいないだろう。それに加えて褐色の、年端の行かぬ娘と言えば……かの『超人マニアン』と名高いドミナ=バローナ=アインドルフ。分からぬほうがおかしいだろう。」

「…………まぁ、そうだな。それで、退魔結界とやらがあるわけだが、おとなしく帰るか?今、中がバタバタしていて忙しいんだが。」

「ああ~少し待っていろ。」


 ウィドログリブはおもむろに結界に近づくと、結界にそのウネウネした触腕をベタベタと貼っていく。


「………………!」


 そして少し気を入れると、触腕周りの結界が揺らぎ始め、バチバチと激しく反応し、やがて───


 パキィィィン!!


 大きく割れるような音と共に、退魔結界は崩壊してしまった。


「───どうかな?」


 と問うたウィドログリブの眼前に、赤い影と光る白刃が迫っていた。



体調崩して更新遅れてました、ごめんなしあ。

次回更新は~~~~~、水曜日!!!予定!!!


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