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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
25/56

第五話「誕生、特捜騎士!!」1


第五話、始まります!

お楽しみください。




 ───ボリアミュート、守備隊員兵舎併設 訓練場。


 ここでは、街の平和を守るため、隊員達が日々、(しのぎ)を削っている。


「ぜぁあああああ!!」


 カンッと小気味良い音が響き、一本の木剣が宙を舞った。


「そこまで!リボリアムの勝利ッ!」


「ぃやった!」

「くっそぉ~~~負けた!負け越しかよ~~」


 今は打ち合い稽古……対人戦の訓練である。街を守る兵士の戦うべき相手は、大森林の魔獣のみに非ず。街中の犯罪者相手の捕り物ももちろんある。

 何なら平時はそういった人間相手にする事の方が多いくらいである。最も、鍛えられた精鋭である守備隊員に、その辺のチンピラが勝てるわけもない。注力すべきは対魔獣の戦術である。ただ最近、弊害があった。


 光の結社モグログ。大量の魔獣と、守備隊員を上回る力量を持つキメラ魔人達からなる組織。

 魔獣はともかく、キメラ魔人に対抗するには対人戦法に磨きをかけたいところなのだが、連中には今一歩届かないのが現状である。


「リボリー、最近調子いいじゃねえの。なんつーか、踏み込みが鋭くなったっつーか。」

「そうそう。深くなったような。」

「わかる。勢いがついてるっつーか。」


 同僚達が次々評する。嬉しいことだ。


「いやぁ……最近、因縁の奴から一本取ったからかな。最初は歯が立たなかったけど……けど、いつかあいつを倒して、俺が帝国の平和を、守ってみせる!」


 普段のリボリアムを知る者達から、どよめきと感心の声が上がる。こいつも言うようになったなぁ、と。


「『俺が帝国を守る』、ですか。」


 突然後ろから、聞き慣れない声がかかる。

 皆が振り向くとそこには、波打つ黒髪に褐色肌の少女がいた。

 見た目の年齢は16~8……リボリアムよりも少し下といったところか。深い色をしたその髪が、陽に照らされて紫とも緑ともつかぬ艶を見せる。美少女であった。服は高級そうだが、動き易そうなくらいで一見特徴はない。唯一、鮮やかな赤いベストが特徴的だ。

 そんな美少女は、少し不機嫌そうに目を細め、リボリアムを睨んでいる。

 美少女は続けて言葉を投げる。


「……すいぶん大きなことを言うんですね、あなた。」


 むくつけき訓練場にはあまりに場違いな容姿に、皆が固まって何も言えない。この人物は何者なのか?誰しもが疑問に思うが、状況の不可解さが全員を動かさなかった。


「き、君は?ここは、兵士の訓練場だけど……は、初めましてだよね?新しく入った人?」


 あんまりそういう場の空気とかを読まないリボリアムが、思ったことをそのまま返した。

 その答えに、美少女はさらに目を細め、嘆息した。


「……私ですか。まぁ、道場破りとでも思ってください。」

「ど、道場破り!?」

「そうです。白髪のあなた。私と勝負なさい!」


 周囲がまたどよめく。あまりにも現実離れしすぎている。かわいい。かわいいぜ。鋭い目元がいい。ちっちゃいお口がかわいい。嘘、めっちゃ髪キレイ。こんなカワイイ子がなぜゴツイ男共の訓練場に?阿呆、女もここにいるだろう。お前はまた別枠なんだよ。ブッコロスぞてめぇ。そもそも軍隊に道場破りが来るってなんだよ。等々。

 そんなざわめきの中、リボリアムは。


「いいぞ、やろう!」


 ほぼ即答した。リボリアムとしては対人経験をちょっとでも多く積みたい所だったので、断る理由が無かった。


 かくして、謎の美少女VSリボリアムとの、一騎打ちが始まった。騒ぎを聞きつけてアンザイ師範が間に割って入ってきたのだが、リボリアムが「ちょうどいいや、師範審判やって!」と押し切られ、審判はアンザイ師範が務めることとなった。


「あーーーー、では、(はず)め!!!!」


 両者、まずはにらみ合い。これだけで、わかる人間には多少読みとれるものがある。

 例えば『相手を試したい』という武人としての(さが)がある、などだ。勝つだけが目的なら、不意打ちを仕掛けるだろう。少なくともここの守備隊はそれもOKという方針だ。相手の虚を突くのは、大森林の魔獣達にも実に有効なのだから。


「おおおおーーーッッ!!」

「!」


 仕掛けたのはリボリアム。気合いを十分に、遠慮なく美少女にぶつかっていく。


「ぜあああッッ!!!」

「…………!」


 観客が「おおっ」とどよめく。両者の木剣はギリギリと鍔迫り合っている。リボリアムの、あの馬鹿力の渾身の一撃を、美少女は一歩も退かずその場で打ち合って止めたのだ。


「!」

「……」


 返す刃で美少女の反撃。仕掛けたリボリアムに油断はなく、素早い3連撃だったがすべて凌ぐ。

 リボリアムが下がり、再びの攻撃。次は避けられ、美少女の反撃を受け止め……そんな光景が繰り返される。

 リボリアムも単調に攻めるばかりでなく、細かく仕掛けたりもするのだが、すべてを少女にあしらわれ、反撃を許している。


「……大振りすぎですね。下品な剣です。」

「!!」

「そして……」


 リボリアムの目から美少女が消えたかと思うと、胴、足、両腕、計4発が素早く打ち込まれた!


「ぐあああっ!?」

「心が揺れやすい。未熟です。」


「そごまでッッ!」


 アンザイの一声で、勝負は終わった。だが、その判定を聞くまでもなく、どちらが上かは明らかだった。


「これで国を守るとは、少々自惚(うぬぼ)れが過ぎますね。」


 膝をつき、胴を押さえてうずくまるリボリアムに、美少女は冷たく言い放つ。その声には、少しの苛立ちが混じっていた。


 周囲から「おお~~~~っ」と感心の声が上がる。次いでそこかしこから品評が聞こえてきた。


「さぁお前だづ!続ぎだ!戻れ戻れ!!」


 アンザイの一声で、隊員達はバラバラと稽古に戻っていく。今しがた同僚が叩きのめされたにしては、かなりドライな光景だった。アンザイにしても、自身の教えた剣を『下品な剣』呼ばわりされているのだが、気にした様子はない。

 美少女は少々呆気にとられた様子だったが、一つ嘆息すると、(きびす)を返した。


「ま、待ってくれ!!」


 その声に振り返ると、リボリアムが立ち上がっていた。


「お願いだ!も、もう一本立ち会ってくれ!」


 美少女は眉根を寄せ、ムッとした。


「見苦しいですよ。力の差がわかりませんか?」

「わかるよ!!だから、も~~一本!俺、強くなりたくて……特に今、対人戦も鍛えたいんだ。その……あんまりお金はないんだけど、き、今日の夕飯ぐらいだったら!俺、ご馳走するから!稽古をつけてほ……く、くれませんか!?」

「………………」


 美少女は眉根の皺を解くと、しばらく考え、そして答えた。


「考えなくもないけれど……まぁ、また気が向いたら……教えてあげます。」

「あ……」


 そう答え、やはり去ってしまった。


 今すぐではない。が、また来るかもと、美少女は言った。

 リボリアムは思う。彼女に師事すれば、あの宿敵、闘神官(ウォリアモンク)アイネグライブとも互角に戦えるかもしれないと。

 BRアーマーの性能だけでなく、自分自身の技量で、いつか……。

 その決意を胸に、去る赤い背中を見つめるのだった。



    *



 第5話「誕生!特捜騎士!!」



    *



「まさか誰も私に気づかないとは……」


 ヴァルマ領主邸の応接室で、黒髪の美少女は椅子に座ってうなだれていた。

 応接室にはヴァルマ領主サルトラと、黒髪の美少女、領主の側には老執事が控えている。

 ヴァルマ領主サルトラは、苦笑いしながら言う。


「仕方あるまい。うちの息子も知らなかったぐらいだ。

 しかし貴殿が来るとは私も意外だった。

 会えて光栄だよ、史上最年少で近衛銃士(ピストリア)に選ばれた、本物の『超人(マニアン)』。ドミナ=バローナ=アインドール殿。」


 近衛銃士とは。この国、大アバンジナ帝国における”最強”の代名詞。皇帝直属の軍隊とは別に、帝国中から選りすぐられた、ほんの一握りの精鋭達。

 たった1人で兵士1000人に相当すると言われ、その役割は皇帝の身辺警護のほか、他領の調査や、個人での裁判権すら持つという。正に”力ある皇帝代理”と言える存在である。その名は()()と言う通り、全員が帝国秘蔵の武器『回転式連発(ピストル)拳銃(けんじゅう)』を(たまわ)っている事から来る。

 ちなみに銃そのものは帝国中にあるし、ヴァルマ領にもあるのだが、そのすべては単発式の上、あまり普及していない。人を殺すには十分だが、魔獣相手にはあまり役に立たないからだ。辺境ほど配備が後回しになっているのが現状である。


「それで、()()はどうだった?」

「……正直、信じられません。本当に彼が、報告にあった……?」

「貴殿からすると、そうかもしれんな。だが今のところ、連中と正面から戦えるのはあいつだけなのだ。

 帝国の未来のために、まだまだ強くなって貰わねば。」

「……そもそもそんな強力な鎧なら、我々近衛銃士が使えばよいのでは?」

「それも一理ある。が、私としてはあいつこそが、あの鎧を纏うに相応しいと思っている。」


 ”相応しい”。その言葉に、ドミナはピクリと眉を上げる。


「……それは、近衛銃士である、私よりも?」

「そうだ。……貴殿のみならず、()()()()のある人間には相応しくない力だよ。ああいう力は、とにかく強いものより、”無垢なる善の者”が使ってこそ、ちょうどいいと思う。」

「ッ!?……”無垢なる善の者”……ですか。」


 領主サルトラの言い回しに、思わず吹き出しそうになってしまったドミナ。さすがにそれは無礼すぎるので気持ちを押し殺したが。……帝国を魔獣から守護する辺境伯ともあろう者、さぞ傑物と思っていたが、貴族としてとても考えられないほど青い物の見方だ、と思った。

 だが、サルトラは真剣そのものの眼差しで続ける。


「あながち夢物語でもない。人は誰しもその可能性があるものだ。

 ……かくいう私も、純粋に民達に安寧を得て欲しいと……両親も、妻にも幸せで居続けて欲しいと、そんな心持ちで領主を継ごうと息巻いていた時期があった。

 ……ふ。ずっとそうあり続けるのは難しいがね。」


 そう投げかけられれば「それは、確かに……」と、ドミナにも思うところはある。そもそも愛国心がなければ、近衛銃士になど成れはしない。近衛銃士はその誰もが、純粋に帝国の未来のため。商人農民の1人に至る平和のためにその身を捧げているのだ。

 若い身であるドミナは特にその自負が強い。だがだからこそ、問わずにはいられない。


「それが、例えば?彼がそうだと?」


 サルトラはしかと頷く。


「私欲のために力を振るわず、権力におもねらず、迷わず他人のために身を投げ出せる者。あれはそういう心を持っている。誰に似たのやら。」


 サルトラはただ紅茶の入ったカップを見つめているが、ドミナには、そこに写している何かを見ているように見えた。


「いや……ふふ、いかんな。あいつの姿を見ていると、私も心が若返りそうだ。」

「旦那様も、まだまだ若うございますよ。」

「おっと、はは……こいつは一本取られた!」


 控えていた老執事に突っ込まれ、領主は頭を掻いた。

 その様子を見て、黒髪の美少女の口元に笑みが浮かぶ。

「領主様がそこまで仰ると、私も興味が湧いてきましたよ。……ところで、そろそろ。」

「おお、そうだな。早速だが、君にやって欲しいことがある。」


    *


 翌日。

 守備隊の訓練場に、凛とした声が響き渡る。


「今日からしばらく、君たちの修練師範代となった!私はドミナ=バローナ=アインドール。帝都で近衛銃士の役についている。」


 ───ざわ!!


「此度はヴァルマ領主殿の要請を受け、ヴァルマ領の、ひいては帝国のため、一時派遣された。その折、君たち守備隊や、各領軍の兵士達に稽古も付ける。だがハッキリ言って、私の稽古は厳しくいく。それでも君たちは栄えある帝国軍人である自負を持ち、食らいついてきて欲しい。以上だ!」


 うおおーーー!!


 兵士達は盛り上がりに盛り上がった。なにせ、本物の近衛銃士だ。今の今まで気づかなかったが、言われてみれば風格がある。それに上品だし、べっぴんさんだ。


 そして、稽古が始まった。


「お願いします!」


 これはリボリアムではない。彼はドミナが約束通り再戦をし、それから10本以上勝負をしてヘトヘトになって隅に倒れている。

 次から次へと稽古志願者が相次ぐ。あっという間に一大コンテンツだ。師範までウキウキで並んでいる。


「……これでいいのだろうか。」


 それをドミナ本人はちょっと疑問に思っていた。

 まぁ、その他に提示された仕事が周辺調査だったり歴史学の手伝いだったりと、あまり即効性がないなと判断したものだったので、今やっていることが消去法で優先事項になった結果なのだが。

 本人的には話に聞くような悪党共が本当にいるなら、アジトに乗り込んでバッタバッタと切り捨て、一気に解決したかったのだが……

 それにはまずアジトを突き止めることが先だし、突き止めるためには周辺調査が結局必要だ。

 そう……調査と言ったって土地が広大すぎるし、時間がかかって仕方がない。現実的ではないのである。


「……しかたないかぁ。」

「お願いすます!!」

「よし、来……師範殿!?あなたさっきもやったでしょう!割り込みは帝憲(帝国憲法)違反の始まりですよ!!」


 ただまぁ、これもちょっと楽しかったのは事実であった。




ついに登場した近衛銃士。彼女の活躍をお楽しみに!

次回更新は来週!


小賢しい補足:「回転式連発」と書いてピストルと読むのは、また事情があります。つまりこの世界において「ピストル」は「拳銃の愛称」ではないのです。

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