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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
23/56

第四話「あんたが近衛銃士?」5


    *



 ピピーーーーーーーーーーー!!!


「いたぞーーー!!」


 ボリアミュートの街。その至る所で、次々に笛が響く。次いで兵士の声。この街を守る守備隊である。

 一声上げれば即座に集結する、実に優秀な兵士達である。一月前にボリアミュートが襲撃されてからというもの、その練度はさらに磨かれている。


「ヂュヂュ……ええいなんだあの兵士達は!」


 街中の兵士に追われながら、潜むものスポーノスは悪態を付いた。

 最初はあの金鎧、リボリアムという男の仲間であろう4人。魔法使いもいて翻弄されたがすぐに引き離せた。

 だが、そうかと思えばすぐまた別の兵士に見つかり、先程のように笛で仲間を即座に集め、こちらの邪魔をしてくる。

 一人一人の力量は、上級キメラ魔人たるスポーノスの足下にも及ばないものの、素早く集まる連携と、倒すより引き留める事を優先したような立ち回りをしてくるのだ。


「おかげで、奴らからだいぶ離れてしまったぞ!ここは身を隠してやりすごすか……?

 しめた、ここに潜むか。」


 スポーノスは手近な戸に手をかけると、なんともあっさり開いたので、これ幸いと入り込んだ。


    *


 ───宿屋『待ち遠し亭』


「ただいま~ママぁ~」


「あれぇ?おかえりジンナ。早かったわね?」

「うん、ちょっといつもより走ってて、つかれちゃって。」


 ここはジンナの両親が経営する、メインストリートから少しはずれた場所にある宿である。

 疲れたジンナが家に帰ると、1階の食堂でジンナママがくつろいでいた。と、なにやら変わった香りが部屋に漂っていた。


「……なにこのにおい?なんかいいにお~い」

「ああ、これよ。パパがね~仕入れてきたの。珍しい飲み物よ。飲む?」

「いいの!?わぁ~…… ……」


 そのなんともいい匂いの飲み物を受け取ると、一瞬ジンナの動きが止まった。


「………」

「………どしたの?ジンナ。」

「……なんでこんなに黒いの?これ……」

「そういう飲み物だからよ。」


 その飲み物は、ドス黒かった。匂いは確かに良いが、それだけになんか不気味である。

 思えばジンナママがすんなり譲ってきた事から、何かあるのだろうと聡いジンナは予感したが。

 しかし、ジンナはトマックにくっついて街中走り回り、時には大人に無断で大森林にもついていってしまう、冒険心溢れる子だった。

 いざ!!


「ぐっっ………!?!?に、にがぁぁい!!にがい~~~~~~!!」


「あっははははは!そうよねぇ!苦くって!ママもどうしようかと思ってたのよ~!でも、毒とかじゃないらしいのよ。どっちかっていうと薬っぽいんだって。」


「ホントにぃ~~?」


「パパにも困っちゃうわぁ、一袋あるから、使い道考えないと……

 あっちに水差しあるから、水飲んできたら?」


「そうする……」


 疲れた上に苦いものを飲む、という泣きっ面に蜂なジンナは、いっそうダルそうに奥に引っ込んでいった。

 そして入れ替わるように、毛むくじゃらの不潔そうな化け物が宿に入ってきた。


「しめた、ここに潜むか。」


 兵士から逃げまどうキメラ魔人、スポーノスである。


「あら~、いらっしゃい?」

「!?」


 スポーノスはびっくりして振り返った。戸が開いていたのだから誰かいるかもと思ってはいたが、まさか普通に迎えられるとまでは思っていなかったのだ。


「え………え?」

「あ~~~………見ない顔ね?獣人さん?うちは宿屋だけど、汚くしないなら、獣人さんでも大丈夫ですよ?」

「あ~~~、え~~~~、その……はぁ……。」


 思いも寄らぬ対応に、モグログの尖兵たるスポーノス。

 野望のためには残虐非道な真似も平気でする光の結社モグログであるが、あくまで野望のためであり、構成員全員が好き好んで人殺しをする者ばかりではないのだ。ましてスポーノスはこの街に潜む任を帯びているため、できるだけ厄介事を起こさないよう心がけている。なので、目撃者だからと排除するのは少々はばかられた。

 しかも威圧感のあるキメラ魔人の姿を見て、叫ぶどころか持て成そうとしているぽやぽやな女将さんに、帝国貴族からの解放を謳うモグログ構成員として、暴言や暴力など振るえる訳がなかった。

 しかしさりとて……どうすればいいかスポーノスはわからなかった。


 と、ジンナママは目の前の獣人(?)がしどろもどろなので、とりあえず話を進めようと、宿の女将として言葉を続ける。


「……それともお食事?食堂もやってますが~、お昼過ぎちゃってるから、あんまり残ってませんが……。」


「あ、えええ~~~~~その、じゃあ………ん?このにおいは……?」


 スポーノスは鼻をひくひくさせた。なんとも不思議な良い香りが部屋に漂っている。


「ああ……これです~。」


 と言ってジンナママが差し出したのは、彼女がギブし、彼女の娘もギブした、黒い飲み物だった。


「これは……?」

「夫が仕入れてきまして。珍しい飲み物で、元気の出る薬なんだとか。よろしければどうぞ?」

「変わった色ですが……ヂュヂュゥン、なんともいい匂いだ」


 そうしてスポーノスはコップに口を付けた。飲む前から芳しかったあの香りがスッと口内から通り、ほどよく冷めていたのでそのままグイッと流し込んだ。


「む、む、ん!?!?に、苦ァ~~~!!たたたたっ……!に、苦…ヂュヂュヂュ……!」

「あら~……やっぱり苦かったかしら?」

「あっあっあんた……!それを知っていて、客に飲ませるな!」


 至極真っ当な意見である。が、ジンナママは「ごめんなさいね、どうしようか困ってて~」と、まるで反省していない。やはりただの人間は愚かという事なのだろう。一日も早いモグログ野望の成就が望まれる。


「ええいもういい!どれだけ珍しいものか知らんが……(ごそごそ)ん~~~、これだけあれば足りるだろう!」

 律儀に代金をテーブルに置き、出入り口にいそいそ向かう。ジンナママが代金を見ると、結構貰っている。まだ仕入れ値を聞いていないので値段も付けようがないから、ジンナママ的には処分さえしてくれれば良かったのだが、見かけに寄らずちゃんとした獣人さんだなぁと感心した。


「またいらしてねぇ、次はサービスしますから!」

「…~~~っ!次はこういうことはせんで頂きたい!では、失礼!」


 怒鳴り散らしてもよかったが、騒ぎになってまた兵士に来られても困るので、程々にクレームを入れてスポーノスは退店した。


 この一連の光景を見られていたら非常に困る小娘がこの宿にはいたが、走り回って水を飲み、ベッドで寝転がったため、今は夢の世界にいるのだった。


    *


「ふぅ~~ひどい目にあった。なんなんだアレ……は……」


 キメラ魔人も辟易するぽわぽわ女将の宿から出たスポーノスは、出た瞬間凍り付いた。


「…………」

「…………」


 ちょうど通りがかった兵士と目があったのだ。


 ピピーーーーーーーーーーー!!!


「いたぞぉーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「だぁぁ~~~今日は厄日だ!ヂュヂュゥン!!」

「うぐわぁっ」


 警笛を鳴らした兵士を殴り飛ばし、スポーノスは再び走り出した。


 走る間にも兵士に見つかり、再び包囲され、突破して撒き、また見つかる。そんな事を繰り返し、流石の上級キメラ魔人も少し息を切らしながら、広々とした所に出た。

 その中心から、声がした。


「お、ようやくお出ましだぜ。」


 スポーノスが見ると、そこに居たのは小憎らしいガキンチョのトマック。そして目下近衛銃士(ピストリア)と見なされる女であった。


「ヂュヂュゥ~~ン、わざわざここで待っていたというわけか。こちらとしても都合がいい!女!貴様が(ピs)───」


「『炎岩王激槌(デルマ・ドーン)』!!!」


 ちゅどーーーん!!!


「うぎゃぁ~~~!!!?」


 スポーノスの言葉を遮って、広場の中心にいる女は魔法を放った。

 それは『赤く燃える大岩がどこからともなく現れて飛んでいく』という、今までの風や土といったものよりもハッキリと攻撃性を持ったものだった。


「ま、こんなもんね。」

「おねーさんやるぅ。スッゲー魔法だなぁ。」

「フフン、本当は複数人で使う攻城用の魔法よ。あたしが改良して、一人でも使えるようにしたの。その分本場のより威力は控えめだけど……家の2、3軒くらい軽く吹っ飛ばせるわ。」


「ヂュゥゥ~~~~ン……!」


「うそ!生きてる!?」

「あいつら本当に強いんだ、ナメてかかったらダメだぜ。」


 女は得意げだったが、スポーノスはぴんぴんしていた。ダメージを負った様子がない。

 不気味に鳴き声を上げて、こちらに近づいてくる。口上を無視して攻撃された事で、どうやら怒っているようだ。

 女はさらに両手を構え、次の呪文を唱える。


「『衝破暴風(トネイドーラ)』!!」


 女が、リボリアム達に放った風魔法の強化版を放つ。だがスポーノスはビンタするようにそれをはね飛ばす。その歩みがだんだん速まり、走り出した。


「ヂュヂュゥウ~~~~!!」

「く!ならもっかい『炎岩王激槌(デルマ・ドーン)』!」

「ヂュ!?ぬぅっく!」

「避けられた!?」

「とったぞ、女ァ~~~!!」


 スポーノスの鋭い爪が、女に迫る!

 その直前、横合いから飛来したナイフが、キメラ魔人スポーノスの目を射抜かんとし───スポーノスは直前でこれを弾いた!

 その一瞬の隙にトマックが女の手を引き退避する。


「ヂュ!何者!?」


 そのナイフを投げていたのは、広場に現れた一人の守備隊兵士。アービン班の獣人ヘルマンであった。

 さらに辺りを見回すと、広場の端々から、最初に女に吹っ飛ばされていた兵士達が集まってくる。


 これは、トマックの策であった。アービン班は”ネズミのキメラ魔人”に逃げられた後、トマック達と再会していた。そこで互いの事情を整理し、女はコワモテ達が守備隊だったと知った。青くなったが、今は非常時である。

 女の強力な魔法を主軸としてキメラ魔人に対抗するため、街中の兵士達に連絡し、途中からこの広場に誘い出すようにしたのだ。


 何かマズい状況になりつつあると判断したスポーノスが、急いで女を仕留めようと振り返ると。


「『突風(ビーウィンド)』!」

「『炎岩王激槌(デルマ・ドーン)』!」


「うおっ……!?」


 トマックが突風の魔法を使い、その風のサポートを受けさらに勢いを増した女の攻城魔法。これは躱せず、爆裂しスポーノスは吹き飛んだ。

 だがスポーノスはトマックの起こした風の勢いで後ろに跳び、これの効果を弱めていた。


「…………!」


 見ればスポーノスは四方を囲まれている。人間に追いつめられるなど上級キメラ魔人にあるまじき失態だが、それもあの女の魔力と魔法が桁違いであるからだろう。

 それでも、スポーノスの余裕は崩れない。


「ヂュヂュヂュ、これで追いつめたつもりか人間共。むん!ぬぬぬぬ……!!」


「………!」


 スポーノスは全身を力ませると、その身体がみるみる膨れ上がっていく!


「まずい、集合!集合だ!」


 アービン班長の声に合わせ、アービン班の4人はトマックと女性の元に集まり、防御陣形を作った。


「ヂュゥゥ~~~~~……!無駄だ!」


 体格が倍以上になったスポーノスが豪腕を振るう!全員身構えていた事もあり避けることはできたが、腕を振るった風圧で構えた剣が持って行かれそうな程の威力であった。全員が全力で後ろに走る。巨体になっても俊敏さは失われず、何度も攻撃が振るわれ、そのたび転がるように避け、また走る。

 時折アービン班が、隙を見てナイフ投げや速射性のある魔法などを巨大キメラ魔人の顔に浴びせて時間稼ぎをするが、効いている様子がない。むしろアービン班の方こそ大きく動き続けては、あっというまにバテてしまうだろう。


「おねーさん!もっと強いのないの!?」

「あるけど、この広場丸ごと吹っ飛ぶわよ!飛竜だって倒せるヤツだもん!」


「ん……!?」


 女の言葉を聞き、リッキーが反応する。


「あんた!それって山の中で使ってた、デカいアレか!?」

「え!?え、ええ、そうだけど……」

「なるほど……アービン班ちょ…うわっと!」


 リッキーが何か思いつくが、巨大キメラ魔人の猛攻はその策に動くことを許さない。さらに、今の攻撃でリッキーが、陣形から離されてしまった。一人になったリッキーに、巨大キメラ魔人の豪腕が迫る。


「…………!!」


 その時!


 キュィィィィィィーーーーーー…………ッ!


 風切音のような、はたまた何かの鳴き声のような音が響く。



 トマックは見た。それは無慈悲に迫る矢の様で、巨大な槍の様で、銀に輝く馬の様だった。



終わりませんでした。

次回こそ決着!!

そして更新は……明日!!!!!(ドン!!!!!)(大丈夫か…?私……)

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