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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
22/56

第四話「あんたが近衛銃士?」4


    *



 その女は、頭を振って回る目を正すと、フラフラと路地へ入った。やがて駆け出し、どことも分からぬ道をさまよいはじめた。


 全くもって不運極まりない。低脳コワモテ山賊団と思って油断した。まさか魔法使いまでいるとは。

 しかし所詮はコワモテ。眠らせただけで済んだと思っているからやはり低脳なのだろう。こちらを縛ることもしなかった。あるいはロープが無かっただけか。


 ところでここはどこなのだろうか?


 そう思ったところで、女ははたと足を止めた。

 今一度冷静に考えてみると、さっきの露店通りは賑わっていた。そして今いる路地も、長いというか広いというか。山中よりはまだ現実的な光景に、だんだん頭が冷えてきた。


 もしやここは、目的地なのでは?

 領都ボリアミュートなのでは?


「おっといたぜ見つけた!」


「!?」


 明らかに自分を指して言う声に思わず振り向き両腕を構えたが、その声は子供だった。

 見れば、先ほど目の前にいた少年だ。少し遅れて少女も出てきた。

 あの時、一応魔法は直撃させないように撃ったが、ごろごろ転がってしまっていた。申し訳ないと少し思う。


「おねーさん、どうしたんだ?突然逃げ出して。どっかに行きたいのかい?」


 ノリは軽いが、どこか教養を感じさせる物言いをしたその少年に、悪いガキンチョではなさそうと判断した女は、実にしばらくぶりの対話をした。


「……あの、ここどこ?ボリアミュート?」


「ここ?そうだよボリアミュート。まぁこの辺は裏町って感じだけど。」


 そんな予感はしていたが、確信を得たことで、女は初めて安心し、足の力が抜けた。


「ああ、……よかった。やっと着いた。ねぇ、領主様のおうちはどっち……いや、メインストリート…………ちょっとまてよ荷物……いや、それは後でも…?……いやいやダメ、いろいろ入ってるんだった……!アレを取り戻さないと!」


 しばらくウダウダ悩んでいたが、どうやら考えがまとまったらしく、改めてトマックに向き合った。


「あの~、君たちちょっといい?さっきの男共が持ってた荷物、取り返さないとだからさ、さっきんトコまでの帰り道わかる?」


 問われて、トマックは少し困って返す。


「わかるけど、今戻るのはなぁ……みんな怒ってるんじゃない?」

「ああ~、いいのよ。誰が何人怒ってようが、あたしが全部ぶっ飛ばしてやるわ。」

「ブッソウなおねーさんだわぁ……」


 トマック的には、女の言う”あの男共”はぶっ飛ばされちゃうと困る立場なのだが。


「ていうかトマック、あんな魔法使っちゃってるし、この人守備隊に捕まっちゃうよ?」

「ん~~~~、ま、なんとかなるだろ。ちゃんと話せば、分かってもらえるさ。」


 守備隊の名を出されて、さすがにあれはマズかったかと思う女。しかし、直接現場は見られていないのだと思い直す。子供達も庇ってくれるようだし、本当になんとかなるのだろうと安心した。


 実際は目の前で吹き飛ばしたのだが。なんなら山の中では兵士の大量殺害未遂までやらかしている。

 トマックの口添えがあっても独房入りは免れなさそうである。

 そんなこととは露知らず、お子ちゃま二人に案内されて、女は来た道を戻り始めた。



 …………………………



 ……………



 世の中、”基本的に不運な人間”というのはいるものである。

 本人がどれだけ一生懸命でも、たとえ有能であっても、何故だか思うように事が進まない……そんな人間が。

 女はそれを信じて疑わない。だって今もそうだから。


 そうでなければ、目の前に不気味で不潔そうな怪物が現れるわけがないのだから。


「グヂュヂュヂュヂュ……見つけたぞ女。事が大きくならん内に、貴様を殺す。」


「ななななな何こいつ!?気持ち悪ッッ」

「モ、モグログのキメラ魔人!」


「見つけた!坊ちゃん、ジンナ!その女は危険だ!離れるんだ!(チャキッ)」


「お、おちっおちついてリボリアムさん!」


 さらに、さっきの賊(推定)もこちらを殺す気満々で剣を構えているではないか。これを不運と言わずして何だと言うのか。間抜けなことに賊(推定)は女とお子ちゃま達、そして怪物のいる路地に繋がる、横の道にいるため、建物に遮られて怪物を認知していない。そんな場合ではないのに。

 というか───


「知り合い?『坊ちゃん』?」

「む?『リボリアム』?」


 女が違和感を感じるのと、怪物の興味が逸れたのは同時だった。

 人生を不運に彩られていた女は、咄嗟の状況判断と決断力には優れていた。それが吉と出るか凶と出るかはともかく、混沌としつつ自分が不利な状況をとりあえず回避するのは得意であった。


 怪物の意識が逸れた瞬間、ほぼ反射で魔法を使っていた。


「『土石炸裂(リバスト・ピング)』!!」

「ヂュヂューーー!?!?」


 叫んだ瞬間、キメラ魔人スノーポスの足下から土がドバァァァァァーーーーンと爆裂し、土石流のような土と石の嵐がスノーポスを包み込んだ。

 それを見ていたトマック達には被害は及んでいないが、逆巻いた土が落ちてくるとき多少降りかかった。


「逃げるわよ坊やたち!」

「あっおっお姉さん!」


 そして女はすぐさま反転して走り出す。

 トマックとジンナはリボリアムが近くにいたため、すぐ追いかけるべきか躊躇してしまった。

 リボリアムは女の魔法を見るためトマック達のところに寄ると、ようやくキメラ魔人を認知してぎょっとし、そちらに剣を向けた。


「くぅぅ~~~、おのれぇ!」


 キメラ魔人スポーノスは土砂を振り払い、前に出てきた。人間であれば重傷だったかもしれないが、そこはキメラ魔人。怪我1つありはしなかった。


「坊ちゃん、ここはオレが!応援を頼む!」

「わ、わかった!」


「どこへ逃げても無駄だ、この私からは逃げられはぁ~せん!」


「キメラ魔人!いったいどうやって街に入った!」


「フハハヂャヂャ!人間共の街に入るなど造作もないわ。それより貴様、さっきリボリアムと言われてたな!?貴様が、あの金鎧か!」


「!? ……ああ、そうさ?いつでも街に入れる割には、情報収集はお粗末だな!もう1ヶ月は経とうってのに、そこらへん、あんま変わってないな?」


「ククク問題ないさ、ここでお前を始末すれば、ヂャヂャアア!!」

「うっ!?」


 台詞の途中で腕を振るってきたスポーノスを剣で受けるリボリアム。やはりものすごい腕力である。だが何とか止めた。

 キメラ魔人の腕は、醜いぶよぶよの皮膚から、植物の鋭い葉ともっとい髪とも見える体毛がまばらに生えており、それがなんとも不潔に映る。

 傍目には巨大で醜悪なネズミのようだが、合成獣(キメラ)というからには他の魔人と同じく、複数の生き物を掛け合わせた存在なのだろう。


「ヂュ!ヂュン!」

「う!? うおっ!!」


 例え攻撃を受けられても、そのキメラ魔人は上級だ。何気なく振るわれるだけの腕でも致命傷である。

 リボリアムは何とかその攻撃を逸らすことで凌いでいた。時には反撃も忘れない。


「ぜあああっ!!!」

「ヂュヂュッ!?」


 リボリアムの剣を受けるスポーノスも、その予想外の力にたたらを踏む。

 リボリアムは直感した。相手のキメラ魔人は戦いに慣れていない。こちらの剣術に対応できていないようだ。

 前回戦ったヘビ女ことサリネも、幻術に特化しており接近戦では何も出来ていなかった。

 反対にその上司と見られるガンドマという男や、黒鎧のアイネグライブ、忍び寄るものサズーラは、かなりの使い手だった。特にアイネグライブは、何らかの魔術まで使用していた。それもリボリアムが不利になるようなものを的確に。


 つまり奴らモグログは、一口にキメラ魔人と言っても戦闘力……というより、個々人の『分野』が、こちらが思うより多彩にあるのだろう。

 そして───

(このネズミ男は、戦いに特化していない。どうにかして坊ちゃんを追いかけたいが…… だが、それでも強い!)

 どうやらネズミ男の狙いはあの女性のようだ。女性はかなり強い魔法を使うが、それでもネズミ男には通じていない。女性が犯罪者であってもみすみす殺させるわけにはいかないが、こいつに対抗するにはBRアーマーが要る。だがここを離れたら、女性やトマック達が追いつかれるには時間の問題だ。


「く、どうする……!」


 その時である!


「リボリィィー!!」


 声と同時に、上空から割って入る影。それは剣を大振りにネズミ男へ叩きつけ、さらに横の路地から走り現れた男達が剣を叩きつけ、ネズミ男を怯ませた!


「ぐぬぬ!?」」


「班長!みんなも!」


 現れた男達は、アービン班長をはじめとしたリボリアムの同僚たち、6班の面々である。


「まだいるぜ!『纏いつく靄(クリングヘイズ)』!」

「むむ!魔術か!」


 ネズミ男の後ろから、リッキーが飛びつき魔術を使う。これは相手の視界を奪うもやを出す魔法だ。

 ネズミ男に魔術が利いているのを確認し、アービン班長はトーマス、ヘルマンと列を組んだ。


「リボリー、坊ちゃんは?」


「班長、トマック坊ちゃんはあの女性を追いかけてます。」


「そうか。ここは引き受ける、お前は坊ちゃんを追え!耐えるだけなら、何とかしてみせる。」


「わかりました、お願いします!」


「無駄だ!!」

「うわ!?」


 ネズミ男が大きく飛び上がり、リボリアムに襲いかかる!それをなんとか避けるリボリアム。見えていないはずのネズミ男は、性格にリボリアムの方に向き直った。


「なんだぁっ!?視界は塞いでんのに!!」


「怯むな!合わせぇ!!!」


 アービン班長かけ声に合わせ、3人一斉に横から剣を叩きつける。


「ぜぇぇ~~~~ああッッ!!!」

「むぐ!?ヂュゥゥ~~~ン小癪な!」


 やはり目は見えていないらしく、先程よりは格段に動きが制限されている。


「今だ、行けリボリー!」


「了解!」


 こうして6班の援護を受け、リボリアムはトマック達を追っていった。



    *



 ───領主邸


「なんだ、今の音は?」


 トマックの父、この領を納めるヴァルマ領主であるサルトラ辺境伯は、外の微かな異変を聞き逃さなかった。

 だいぶ遠くからだが、爆発のような音がしたのだ。


 それから暫くして、街の守備隊から報告が入った。

 女が魔法で暴れ回っている。と、そのほかに───


近衛銃士(ピストリア)?」


「は、そうではないかと、6班が話していたと証言があります。」


「……それはいくらなんでも……早すぎるぞ?確かに帝都に要請はしたが……」


「あの現場には、私も居合わせていました。確かに、ものすごい魔法でした。うちの守備隊の腕利きでも、あの魔法は使えませんでしょう。」


「そんなにか。」


「間違いありません。」


「………………」


 サルトラは暫く考えていたが、やがて結論を出した。


「とにかく近衛銃士なら、こっちに来るように計らえ。なんらかの書簡は持っているはずだ。騒ぎが続いているなら、続報も寄越すように。以上だ。」


「は!」


 サルトラとしてはにわかには信じられないことだったが、この目で見ていない以上は正確な判断も下せない。

 今の伝令は第一報であり、これからより詳しい情報も入ってくるはずである。

 今は、現場の判断に任せるしかないのだ。

 また、少し心当たりのある事もあった。


「まさか……?…いや、まさかな…………」

 誰もいなくなった部屋で、サルトラは1人ごちた。



    *



「おねーさん!」

「!」


 子供の声に、女は足を止め振り返った。

女は疲労困憊。足に来ていてもう走りたくはなかった。トマックはそうでもなかったが、ジンナの方は息が上がっている。


「はぁ、はぁ、ぼうや……ぜぇ、ぜぇ……」


「ねートマック、あたし疲れちゃった……もうかえっていい?」

「あ、うんいいよジンナ。危ないからな。」

「あ~~~~、あとよろしく……あとでいろいろ教えてね。」


 そう言うとジンナは帰り、改めてトマックと女は向き合った。


「なぁおねーさん、あのキメラ魔人と、何かあったの?」

「きめらまじん??ハァ……あの化け物のこと?知らないわよ……」


「そうなの?でも殺すって言ってたしな……」


「まったくなんなのよ……いくら私が天才だからって、ワケわかんないまま殺されるなんてたまったもんじゃないわあ。」


 ここでトマックはあることに気づいた。近衛銃士なら、いくら相手が化け物だからと言っても、躊躇することはないのではないか?


「おねーさん、なんで戦わないの?さっきみたいなスゲー魔法、いっぱい使えるんだろ?」


「そりゃ使えるけど、こんな狭いとこでやるのは流石の私も遠慮するわ。もっと広い場所なら、あんなバッチイの遠慮なくぶっ飛ばしてやるのに……!」


「あ、そうか、そう言うことだったのか!……よぉし、なら任せな!」


「え?」


 トマックは女の手を引き路地を進んで行くと、かなり閑散とした広い場所に出た。


「ここは水汲みの井戸と広場なんだけどさ、水はだいたい朝に汲むから、今は空いてんだ!ここならどう!?」


「いいわね……うん、悪くないわ。よぉし、ここであのネズミ男と賊どもをぶっ倒して、ゆっくり休ませてもらおーじゃないの!」


「賊……?そういえばおねーさん……」


 トマックはわんぱくだが聡明だ。なんで女がリボリアム達に魔法を放ったのかが疑問だった。そして理解した。女が賊でない限りは、勘違いをしていたのだろうと。


「坊っちゃぁ~~~~ん!」


 そこへ折良く、リボリアムが現れた。

 女はもう疲れていたのと、どうやらこの子供と彼らは親しいようだったので、身構えてはいない。

 リボリアムも、女とトマックが親し気にしているのが見えたので、剣は収めている。


「リボリアム!」

「坊ちゃん、無事か。」

「うん……あ、そうだ!今のうちにマザーんとこ行ってきなよ!BRアーマー、ないと困るだろ?」

「え?」

「ここは平気だ。このおねーさんが、あのキメラ魔人を何とかできるってさ。」

「ええ??」


 言われてリボリアムは、女を見た。


「……なに?言っとくけど、アンタらの凡人よりは戦えるわよ。天才のあたしにかかれば、化け物の一匹や二匹、相手じゃないわ。」


「ずいぶんな余裕だな。あいつは大型の魔獣より遥かに強いぞ?」


「魔獣ね……ま、飛竜くらいまでだったらイケるわよ。」


「…………」


 にわかには信じられないことであるが、山で見せた魔法も、さっき見せた魔法も確かに威力はあった。それにあれだけの規模の魔法を連発しても、彼女はケロッとしているようだ。

 あのネズミ男を倒せるかどうかはともかく、確かにそこそこ戦えるのかもしれない。


「わかった。キミに任せよう。俺はあの化け物と戦うための、特別な鎧を着てくる。しばらく坊ちゃんを守り、持ちこたえてくれ。坊ちゃんも、危なくなったらすぐ逃げるんだぞ?」


「わかった!」


「鎧って……ま、いいけど。その前にあたしが決着つけてやるわ。」


 若干の不安はあるが、とにかく時間稼ぎをしてくれれば問題ない。

 リボリアムはこの場を怪しい女とトマックに任せ、マザーの工房へ急ぐのだった。



    *



1週空いてしまいました。楽しみにしてくださっている方には申し訳ない。

生活が大変ですが、それはともかく次回更新は来週木曜0時の予定です。

第4話ラストになると思います。お楽しみに。


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