第三話「疾走する鋼鉄の騎馬!」4
*
その数秒後、聖女の村近郊───
消えた時と同じ閃光と衝撃波が発生し、山の木々が震え鳥達が飛び去った。そして消えた時と同じスピードで、ベルカナードMk-Ⅱに搭乗したリボリアムが出現する。
「すごい、ホントに着いちゃった。」
周囲を確認しながらリボリアムが言う。ここは、最初にリボリアムが徒歩で来た道である。先の閃光と衝撃波が出てしまう関係で、直接村へ来ることはできなかったのだ。
だがその村では、悲惨な光景が広がっていた。
「む、村の人達が!」
村人たちが、外でまばらに倒れて呻いている。
リボリアムは近くの倒れている人に駆け寄り、抱き起した。
「大丈夫か!?しっかり!」
「うぅ~~~ん……ぅぅ……へ、へびが……へ、び……」
「蛇……?」
とにかく治療をしようと、その人の身体をセンサーで調べる。
外傷は無し。体温も正常。体内に異物も無し。呼吸やオドは少し乱れているが、深刻なものではない。
「外傷無し??」
自分で調べていて変に思った。つまりこの倒れている村人たちは、『特に異常がないのに苦しんでいる』ということだ。いや、苦しんでいる以上何か原因があるはずだが、今のところ見当もつかない。
「……だめだわからない。一体どうすれば!」
「せ、せいじょさま……! せいじょさまを……!」
「!」
村人たちはうなされているようだが、それでも聖女の身を案じている。
と、家々から、ちらほらと子供達がこちらに近づいてきている。
「君たちは……」
「……とうちゃん……」
「!……君の父ちゃんか?この人。」
近づいてきた子供の一人は、リボリアムの問いにコクンと頷く。リボリアムが周囲を見渡すと、どうやら子供たちは無事なようだ。それに、村人の数が少ない。聖女シプレやアンザイの姿も無い。となると、聖女と一緒に連れ去られたのだろう。
「……よし、攫われた聖女様や村の人達は、俺が助ける。君たちは倒れている人たちを家に運んで、毛布をかけたりして、温めてやってくれ。重いかもしれないが、みんなの力をあわせれば、きっとできる。」
子供達はリボリアムの指示に、まばらに頷いた。
「よし。聖女様さえ無事なら、この人たちもきっと治る!だから待っててくれ。」
リボリアムと子供達が頷き合うと、リボリアムはベルカナードMk-Ⅱに跨る。
正面のランプが光り、電子音がピコピコと鳴る。機械語だ。
「ん?どうやって探すって?そうだな、魔力の残滓を追う……とか?」
頭部センサーヘルムに、ベルカナードから文字が送られる。
「魔力探知結果……無しか……」
ベルカナードは既に、周辺の魔力を探知していたらしい。無駄のない相棒である。
そして再びの機械語と文章。
「……限定拡張システム……へぇ!ますます凄いな。驚かされっぱなしだ。よし、やってくれ!」
リボリアムが許可を出すと、ベルカナードMk-Ⅱの各部が光り、車体に今まで無かった部位が新たに出現した。
それを見た子供たちは驚きの表情だ。
これはBRE-V01……ベルカナードMk-Ⅱの機能の1つである。本機には自己修復機能及びその材料が積載されているのだが、これを使って追加の部品を作ることで、用途外のことに対応するものだ。使い終えたら、再び材料に戻して積載し直すので、材料はほぼ無駄にならない。ただし魔力の消費が大きいので、多用はできない。
リボリアムはベルカナードで走り出す。すると車体がふわりと浮き上がり、空を飛んだ!
「わぁ……!」
子供たちは再び驚いた。キラキラ光る人が、キラキラの馬に乗ったと思ったら翼が生え、空まで飛んだのである。
その姿は、希望そのものであった。
*
空飛ぶベルカナードMk-Ⅱに乗って、地上を探索していくリボリアム。するとすぐに……
「見つけた!」
見慣れない魔獣が、荷車を引いている。荷台の上には聖女シプレ、アンザイのほか、たくさんの人が寝かされている。手足を拘束もしていないのは不用心な気がするが。
「ベルカナード、お前は何ができる?」
問いかけると、頭部センサーヘルムの内部ディスプレイに返答が帰ってくる。機能一覧だ。
「攻撃機能……『機魔術』……うん、ちょうどよさそうだ。よし行くぞ、ベルカナードMk-Ⅱ!」
合図とともに、リボリアムは上空から回り込む。ベルカナードMk-Ⅱの前面装甲から、パチパチと光が瞬いた。
パパパパン!パァン!パァン!!
すると地面に小規模な爆発が起こる。
「な、なに!?」「む!?」
戦闘で手綱を握っていたモグログのキメラ魔人サリネと、隣に座るガンドマが狼狽えた。
「今のは、『爆破』!?」
「どういうこと!?誰の仕業!?」
サリネが周囲を見渡すが、誰もいない。
その時、ガンドマが気づいた。
「む!……上だ!!」
空飛ぶ鉄の馬に乗って宙を駆ける金色の戦士。
「あんなものまで……!忌々しい奴め!ぬぅ!?」
リボリアムに横合いから強襲され、モグログの二人は荷台から退避した。
「モグログ!聖女様と、村の人達を返してもらうぞ!とぅあっ!」
リボリアムが空飛ぶベルカナードから降り、荷車の行者台に降り立つ。荷台のすぐ隣に聖女シプレが寝ていた。
早速彼女の状態をスキャンしてみると、村人たちと同じ状態であった。すなわち、外傷も何もないのに苦しんで……
いない!
彼女はパチリと目を開き、ガバっと起き上がった!
「せ、聖女様!?」
「ど、どういうこと!?」
リボリアムだけでなく、彼女を攫ったキメラ魔人サリネまでもが驚いている。
二人が驚いていると、シプレはサリネを睨みつけて言った。
「おじいちゃんに酷い事したわね!わたし、怒ったから……!
わたしの力は小さいけど、あんた達を絶対ゆるさない!怪しげな新興宗教の企みなんて、叩き潰してやるわ!!」
「せ、聖女様!?!?」
突然人が変わったようにまくし立てるシプレを見て混乱するリボリアム。それを見てシプレは「あっ」と口に手を当てた。
「いけないいけない。お淑やかじゃないわよね。コホン。……リボリーさん、わたしたちを助けられるのはあなただけ。でも、わたしはあなたをほんの少しだけ助けてあげられるわ。まずは、あの二人からわたしと、村の人達を守って。5分間!」
「5分……?わ、わかった!」
聖女シプレの聖女らしからぬアグレッシブな勢いに圧されたが、ともかくリボリアムはモグログの二人に向き直った。モグログの二人、ガンドマとシプレも戦闘態勢に入った。
とはいえ、相手は2人、こちらは1人。以前、黒鎧の男アイネグライブが言ったように、『1人であること』はリボリアムの明確な弱点である。そしてそれは、相手もしっかり理解している。言ってみれば、リボリアムの後ろに寝かされている者達はみな、人質に等しいのだ。
「金鎧!」
モグログの上級キメラ魔人ガンドマが、サリネの前に立ちはだかる。
「同志の敵とはいえ、今は捨て置こう。聖女も大事だろうが、その他の連中もさぞかし大切だろう!かぁッッ!!」
ガンドマが気合と共に『爆破』を放つ!リボリアムは荷車の前に立ち腕を広げ、全身でそれを受け止めた!
ドガガガァン!!
「くっ!」
BRアーマーの頑強な装甲にダメージは無いが、これではいつか犠牲が出てしまう。そう考えていたその時
ヒュゥゥーーーーーーーーーン!
「うおお!?」
ベルカナードMk-Ⅱが、ガンドマに突撃を仕掛けた!不意打ちで吹っ飛んだガンドマはなんとか受け身を取り、よろめきながら立ち上がる。
「!……ベルカナード!」
「BBBBBB!」
「……わかった!そっちは頼んだぞ!」
地面に降り立ったベルカナードは拡張されたパーツを引っ込め、ガンドマと対峙する。
「むぅぅ、珍妙な馬め!」
ガンドマは再び眼光を光らせ、『爆破』を放つ。するとベルカナードの前面も瞬き、『爆破』を放った!
二つの魔法が中心で作用し、爆発する!
「!?……さっきのは、そこな馬が使ったのか!我らの術を……そんな馬鹿な!」
「驚いたか!そいつは並の人間より、ずっと多芸だぞ!さて……」
ガンドマとベルカナードMk-Ⅱが共に走り出し、肉弾戦に突入したのを確認すると、リボリアムは残るヘビ女、ネガセルパンのサリネに向き直った。
「お前の相手は俺だ!」
「ガンドマ様!……金鎧とて!」
すると、リボリアムの周囲の茂みから、あの赤いツチノコが無数に這い出てきた。
「…………」
ツチノコが次々にリボリアムに噛みつく……と思いきや、そのまま全身に絡みついてきた
「……な、なんだ?」
敵の意図は見えないが、とにかく引きはがそうとする。だが、剥がすより絡みつかれる量が多く、視界が塞がれてしまう。それだけかと思い、ヘルムに取りついたツチノコを剝がそうとするが、何か硬いものを掴み、ツルリと滑って取れなかった。
「こ、これは!?どういうことだ!?」
実感としては、絡みついている筈のツチノコが、何か別のものになっている。ガラスか陶器のようだ。強く叩かないと壊れないかもしれない。
「っほほほほ!」
「こ、これは……一体……!?う、動かない……!」
そうこうしているうちに、他に絡みつかれているところも固くなってきた。おかしい。BRアーマーのパワーなら、陶器だろうと岩だろうと粉砕できるはずが、それができない。
出力表示は現在、70%まで上がっている。これ以上出力を上げると、活動時間が心配になる。70%と言えば、鉱山街で上級キメラ魔人と戦った時以上だ。
リボリアムは戸惑うが、原因がわからない。
「どうやら上手く効いてるね?金鎧……!さぁ、死ねぇ!!」
「ぐ、ぐああ……!?」
ガブリと、ヘビに噛まれたような痛みがそこかしこからする。つまり、BRアーマーの装甲を貫いているということだ。
あわや絶体絶命。そう思った時、リボリアムのセンサーヘルムが異常を知らせていた。
否。そのディスプレイに表示されている結果を、リボリアムは異常と感じた。
視界が塞がれたので赤外線センサーを使ったのだが、自分の周囲には、あのキメラ魔人サリネと、後ろの聖女や村人たちしか動いている者はいない。つまり、あのツチノコが存在しないことになる。
「こ、これは……まさか!」
リボリアムが気づいたとき、後ろから声がした。
「無垢に生きる聖獣の友、慈悲をふりまく偉大な乙女よ……今我に一時その力貸したもう……」
「聖女様……?」
「これは、呪文?だが、何の……」
リボリアムもサリネも困惑する。聖女は癒しの魔法を使うが、出自が本人にもわかっていない謎の力の筈だ。
だが、呪文を唱えている。
一般に、呪文を使う場合は3つの系統に分けられる。
万物に存在する精霊の力を引き出す精霊魔法。
体内魔力を練り上げ様々な現象を引き起こす魔学呪文術。
神・あるいは悪魔に身を捧げ、その権能の一端を借り受ける魔法。神ならば神聖魔法、悪魔ならば黒魔法とそれぞれ呼ばれる。
聖女のそれは、特定の個人を指していた。
キメラ魔人サリネは、その個人に思い当たった。
「聖獣の友……まさか、『永遠の乙女シャロット』!!?」
それは、数多の人々が信仰する生命の女神であった。
「まやかし払い、かれらの身に祝福を!『妖精の春風』!」
聖女シプレが捕らえられた人達に手をかざすと、一迅の風が吹いた。すると───
「……う、……はっ!?」
まず、がばっとアンザイが起き上がった。そして次々と、倒れていた人達が起き上がる。
それを見て、リボリアムは確信した。
「やはりそうか!『機魔術』、システム構築……『幻惑解呪』!」
センサーヘルムの双眸が緑に輝く!すると、リボリアムを覆っていたツチノコ、それが硬化した陶器のような塊も、最初から存在しなかったかのようにかき消えた!
「何!?わたしの魔術が!」
「村に倒れていた人たちも、体に外傷がなかった。幻や悪夢を見せていたんだな!
村で師範が斬ったやつらも、俺にまとわりついたものも、俺達自身が見ていた幻だったわけだ。……トライラム・キャリバー!」
種が割れれば、何のことはない。BRアーマーがそう簡単に貫かれるわけもなし、幻惑が解ければ、五体満足のリボリアムや村の人達だ。
「さぁみんな、逃げるんだ!こいつらは俺が仕留める!」
避難を促すと、次々村へむかって逃げ出す。聖女シプレも祖父に連れられ、避難した。だが、その中でアンザイだけはその場に残った。
「リボリー!」
「師範!?逃げないんですか!」
「ワシはいい!それより、見せてみろ。お前の剣を!」
アンザイの言うことに何か感じるものがあったのか、リボリアムは強く頷き、相手に向き直る。
「サリネ!退却だ!作戦は失敗した、退けい!!」
「ガンドマ様……!いいえ、わたしはやれます!!」
「サリネ……!ええい!」
ベルカナードMk-Ⅱの見事な後輪バイクキックを躱し、ガンドマはやむを得ず退却する。
残るは、サリネというキメラ魔人1人。
「プラズマモード!」
リボリアムは、左腕の武装ヴァリアブル・トライラムを剣状に変形させ、その刃を輝かせた。
キメラ魔人サリネは、口の中で何か呪文を唱えている。
リボリアムが踏み込む!相手が何をしようと、無敵のBRアーマーがある限り何も恐れるものは無いのだ。
「魔界の業火よ!『猛絶黒炎』!!!」
サリネはそのヘビの大口から、黒い火炎を吐いた!
リボリアムは黒炎に包まれる。センサーヘルムのディスプレイは黒一色に染まるが、リボリアムは脚を止めない。それが例え地獄の業火だろうと、血飛沫荒れる本物の地獄だろうと、人々を守るため、彼は決して止まらない。
リボリアムの気迫に、サリネは炎を吐き続けながらも狼狽え、足を一歩退いた。
「でああああああああああ!!!!」
「う、ぅあっっ……!!」
ズバッッ……!
すれ違いざま、リボリアムの左腕が振り抜かれた。
「…………!!」
そしてその太刀筋を、アンザイはしかと見た。
「ああ、あああ~~~~~……!ガンドマ、様~~……!」
ズガァァァァァァァン……!!
キメラ魔人、ネガセルパンのサリネの胴が両断され、上半身が地に落ちたと同時に、その身体が爆発し、木っ端微塵に吹き飛んだ。
*
…………
……
───山中。
岩の上に座り込むガンドマ。その足元に、緑の蛇が這い寄った。
それは1匹2匹と数を増やし、やがて人の頭ほどの大きさの塊になった。
ガンドマはそれを拾い上げ、森の闇に消えていった…………。
*
「本当に行くんですか?その……ボリアミュートに来た方が……」
「ごしんぱい、ありがとうございます。でも大丈夫です!しばらくは、この人たちについていきます。」
そう言って笑う聖女の隣には、あの冒険者二人組、頭部の眩しい方オーベンと無精髭の方セザム。そして女戦士と女神官がいた。
聖女シプレは、このまま村にいてはまた村人たちを巻き込むということで、旅に出ることになった。両親も祖父も、村の人達でさえ心配し止めたのだが、シプレの決意は変わらなかった。
今回の事で縁を結んだ人達を辿って、一通りの領を巡るつもりなのだという。
そうして、聖女は旅立っていった。
リボリアムには疑問があった。キメラ魔人サリネの幻惑術を破った時の聖女シプレは、明らかに普段の彼女ではなかった。もっと大人びた……というより、あれを見てからは普段の姿が『猫を被っている』風に見えた。
ただその疑問も、こうして離れてしまえば確かめようがない。
「……大しだお嬢さんだ。」
「ええ……。」
リボリアムは現在、頭部センサーヘルムだけ外している。他は一度外すと、マザーの工房に戻らないと再びつけることはできない。そうでなくてもBRアーマーの下は裸なので、おいそれとは脱げないが。
隣に立つアンザイはリボリアムに向き、神妙な顔つきをした。
「……リボリー。お前の剣、見させでもらった。」
「あ……ハイ。」
「……まぁまぁだ。だが、まだまだ修練が足らんな。……ふぅ~~。そごはこれがらの実戦で磨かれるだろうが。」
「……は、はぁ。」
何が言いたいのだろうか、今日のアンザイは妙に歯切れが悪い。少なくともリボリアムはそう感じた。というか、剣を見せたと言っても、リボリアムが振るったのは最初で最後の一太刀だけだったのだが。
「……」
「………師範?な、何かあるんですか?」
「うむ…………だが、その、なんだ……。あの一刀は……ボリアミュート剣術の神髄があった。何があっても振り抜く覚悟。英雄ボリアムが説いだ、最後の教えだ。
……それができたお前には、師として贈り物の1つもすてやろうと思ってな。」
「贈り物……」
「お前のあの一刀。これからは、英雄ボリアム最後の剣……『ファイナリィボリアム』と名付げるがいい。」
「!……そ、そんな。俺の剣にそこまでの」
「いいのだ!お前は……これからの平和を担っていくんだろう。その鎧を着て。
もちろん今は、その名にふさわしくない。だが磨き続ける内に、きっと完成されてくる。これはそんな願いを込めだ、ワシからの願いだ。受け取れ!」
師の言葉に、リボリアムは鼻の奥がグッとした。
「……はい!」
*
また一つ、光の結社モグログの野望を打ち砕いたリボリアム。
だが、暗黒の野望はまだ終わっていない。
新たな相棒と、師からの技を得て、人々の真の平和を取り戻すため……これからも戦え、リボリアム!
つづく
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─次回予告─
帝都から派遣されてきた、か細い女性。体力なし、剣もなし。この女性は一体何者なのか?
七転八倒、リボリアムやモグログも巻き込み、てんやわんやの逃走劇!
まさか、この人が……?
次回、特捜騎士リボリアム
『あんたが近衛銃士?』
お楽しみに。
遅れに遅れた第三話ラストです。バトルだけだし3000字くらいかな~~とか思ってたら結局同じくらいの字数になりましたね。勉強になります。
あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次の話どうしよ。(更新は未定です)(来週日曜夜かも)
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では、よい一週間を。