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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
15/53

第三話「疾走する鋼鉄の騎馬!」2




ちょっと遅れましたね。ごめんなさいね。

ちょっと長いです。

切りのいいところまで詰めたら多くなっちゃった……




    *



 帝国───正式名称、「大アバンジナ帝国」。とはいえ、この大地に「帝国」の名を関する国はもうここだけなので、みな普段は「帝国」とだけ呼ぶ。

 ヴァルマ領は、その帝国の南端に位置する領地である。ボリアミュートが最南端の人里で、そこから南はご存じ、前人未踏の大森林。領内には西から東に貫くように山地があるので、主立った街はそれを迂回するように、北・東・南に集中している。山地と言っても、登頂できないほど険しいものは少ないので、ガッツのある商人は通ったりするし、その間に人里も無いわけではない。もちろん西にも人は住んでいて、先日の鉱山街ボミロスなどは南西側に位置している。


 件の村は、ヴァルマ領の中心から少し南。山地の中の小さな里である。


 村内にはいくつかの家屋があるが、その中に一つ、周囲より二回りは大きい屋敷がある。

 そこから、10幾人かの列が並んでいる。並ぶ者は口々に「楽しみだ」「早く順番来ないかな」等、和気藹々とした言葉が飛び交っている。



 所は変わり、余所者向けの宿の一室。

「おお……!手が、手が動く……!あ、ありがてぇ!ありがてぇ……!」

「ほぉ~、ついにやったかい旦那、めでたいねぇ」

「ああ、聖女様様だよぉぉ……グズッ」


 その右手をいたわるようにさする男は、涙ぐみ鼻声になってもなお感謝の言葉を述べている。

 そこへ、コンコンと戸からノックが聞こえ、宿の主人が顔を出した。


「ああ、あんたがた。腕はどうだす?直っただすけ?」


 泊まり客だった二人の内、泣いていないほうが応える。


「おお~見てくれこの通りよ!ほんに聖女様の噂は本当だった!旦那も引退しないで済む!冒険者家業が続けられるんだぁ有り難いね。」


「そりゃよかっただすぇ!あー……、治って早々で悪いんだンが、早く里から出てった方がええだすえ?その聖女様が、なんだか不吉な予言をなさったんでェ。」


「不吉な予言?」


「ああ、聖女様は治すばっかりでなく、たまに予言もしなさるンす。だいったい不吉なことだから、里の連中も気をつけてんだす。」


 それを聞いて、泣いていた方の男が立ち上がった。


「そんなら、俺達に出来ることはねぇか?この通り冒険者としてまだまだやってけそうだ。力仕事があるなら手伝うぜ。」


「お、おお~、いいんだすけ?そんなら、もしものためにいてくれるとありがてぇだす。」


 宿屋の主人の言葉に、力強いガッツポーズと頼れる笑みで、冒険者の男達は応えた。


 …………………………


「……ここかぁ。」


 噂となっていたその村に、背に大荷物を背負った白髪の青年が訪れていた。リボリアムである。

 彼はいつもは朗らかな気風だが、しきりに疲れたように眉根を寄せながら進む。装いは守備隊の軽鎧、腰に長剣。

 そして、財布は軽かった。


「事情はわかるけどさぁ、自費は無いよぉ……」


 げんなりした顔でそうぼやく。無理もない。だが、これは領主側の責任ばかりではない。


 リボリアムは、ヴァルマ領の領都ボリアミュートの守備隊兵士である。少なくとも、領内では相当の高給取りである。


 だが、同時に彼は領主の息子トマックに付いて人間を学んできた。トマックは貴族の中ではだいぶ庶民的だが、それでも庶民と比べれば日々の生活は贅沢である。買いたい物は好きなだけ買い、要らない物は買わない。そもそも子供なので生活用品を買う必要もない。それは経費を使って執事やメイド長が商人に注文するものである。


「買い食い控えとけばよかった……」


 リボリアムは、そんなトマックの感覚を真似てしまった。ので、端的に言えば浪費家であった。体を動かすのでただでさえよく食べる上、身体作りのために新鮮な肉も乳も野菜も良くとる。これらはボリアミュートでは割高だ。同僚の兵士だって兵舎食堂のスープやパンで済ますことが多い。同僚も上官も、アンザイ師範すら「あいつよく食うよな」と思っている。そのおかげで目覚めてから数年でリボリアムの体格は劇的に良くなっているので、一応無駄ではない。ただ……


「風呂も入りたい。せめて沐浴したい……」


 自室は風呂付きの高給賃貸、炭や薪はもちろん自前で買う。服も訓練でダメになりやすく、買う頻度は多い。そこまでいくと最早、兵士と言えど気楽な生活が続けられる環境ではなくなった。

 こんな暮らしのため、生活費は常にカツカツであった。そう、トマックの影響で、心根や体格や技能は戦士として理想的に育っているが……生活能力がガタガタなのである!

 なんなら街を出てから3日目の今の方が、普段より金を使っていない。お金がないので、ここに来るまで貸し馬も借りなかった。徒歩である。


 そんな寒すぎる懐事情に凍えながらとぼとぼ歩いていると、目の前に槍の穂先が差し出された。


「「止まれ!」」

「およ!?なんだなんだ!?」


 リボリアムを止めたのは、宿屋に泊まっていた二人組の冒険者だ。頭部の眩しい男と、無精髭の男。その内無精髭の方が、リボリアムの鎧を見て怪訝な顔をする。


「ん?その鎧……お前さんは領都の兵士か?なんでこんなとこで一人で?」


「ああ……うん、そうだ。俺はリボリアム。ボリアミュートの守備隊兵士さ。ここの村の、聖女様の噂を調べに来たんだ。先に───」


 と言い掛けたところで、頭部の眩しい方が反応した。


「聖女様を……調べに?……おいセザム。こいつ怪しいぞ。」

「まぁ待てオーベン。……兵士さん、悪いがどこも悪くないってんなら、しばらく立ち寄らん方がいいぞ。聖女様が不吉な予言をされてな。そしたら一昨日あたりから、この辺に見慣れない魔獣が出始めた。俺達も警戒してるんだ。」


「……予言?……見知らぬ魔獣……!」


 セザムと呼ばれた無精髭の男の言葉に、リボリアムは引っかかりを感じた。


「その話、詳しく聞かせてくれ!最近、ボリアミュートがおそわれたんだ、それに関係あるかも知れない。」


 その時、リボリアムの背後の茂みがわずかに揺れた。それを敏感に察知した眩しい男オーベンが、頭を煌めかせながらリボリアムの後ろに回り込んだ!


「つぇあ!!」


 揺れた茂みの根本辺りに向かって槍が突き出される!迷いのない鋭い一撃だ。


 槍の先の茂みが揺れるが、オーベンの槍に手応えはない。だがその奥では「スァーっ!」という、蛇の威嚇音のような声が確かにした。


「いるな、あいつだ!」


「今のが、見慣れない魔獣?」


「そうだ。お前さんも兵士なら、手伝ってくんな!2、3匹殺しゃあビビっていなくなる!」


 リボリアムは「よおし!」と意気込んで荷物を下ろし、剣を抜いた。

 茂みをで剣で払い、視界を確保する。と、それはすぐに見えた。


「赤いヘビ??トカゲ?」

「そいつだ!」


 オーベンが叫ぶ。試しにリボリアムが斬りかかって見ると、予想以上の俊敏さで飛び跳ね、避けた。その全体像は……赤い身体に黄色いトゲのような鱗を持ち、手足が無いが「胴体」はある、そして尻尾がヘビのような生き物だった。これは、そう……マザーのデータにあった超文明時代の珍獣、ツチノコ(想像図)に似ているか。ツチノコにしては尻尾(?)が長いが。


 跳ねて後ろの茂みに消えたツチノコ(仮称)だったが、次の瞬間5匹に増えて飛びかかってきた!


「うおぁ!?!?!」


 これにはリボリアムも仰天し、思わず逃げる。


 だがこの行動は冒険者二人も見慣れないようで、オーベン達も困惑している。

「なんだこいつら!」

「今日は多いな!?」


 ツチノコ(仮称)達は、茂みからいっぱい飛びかかり、急いでまた下がる……というパターンを繰り返す。跳び掛かりが速い上、色んな箇所に向かってくるのでやりにくい。


 らちがあかない状況の中、後ろから檄が飛んだ。


「ええい!なにをしとるかリボリー!!」


 聞き覚えのある大声と訛り。振り返った所にいたのは、アンザイ師範だった。近くの民家からそのまま真っ直ぐ走ってくる。


「あ、師範!」


「ん?」

「あぁ、あの人か。走って平気なのか??」


 どうやら冒険者二人も見知っているようだ。

 そう。今回の調査はリボリアム一人ではない。リボリアムと違って私生活に質素を心がけているアンザイは、ちゃんと馬を借りて一人さっさと到着していたのだ。


「どけい!ボリアミュートの剣とは、こんなぁモンだ!」


 言うなりアンザイはロングソードを抜き、神経を尖らせる。茂みの揺れを感じたと同時に、踏み込んだ!


 直後にツチノコ(仮称)が飛び出すーーー


「とぅああッッずぇああッッ!!」


 アンザイは絶妙なタイミングで飛び上がった。その高さ実に人一人分以上空に舞い、天地逆の体勢から剣を振るう!

 ツチノコ(仮称)はこれまで、地に立つ人間相手に飛びかかり攻撃をしてきた。今回もそうだ。故にその軌道に獲物はおらず、横から白刃が振るわれた。


 狙い違わず、その剣はツチノコ(仮称)の首や胴を切断し、6匹中4匹をしとめた。


 仲間の死を目にし、残ったツチノコ(仮称)は慌てた様子で、森に引っ込んでいった。


 瞬きする間もない攻防に、リボリアムは目を丸くしていた。


「師範……やっぱすっげぇ……」

「おお、ありゃあ相当だ。」

「い~いモン見れたなぁ。」

 リボリアムのみならず、3人揃って感心の声を上げる。


 けたその言葉にアンザイはため息を付き、血糊を拭って剣を納めた。アンザイからしてみれば今の3人は、小物にまごつくボンクラ共であった。

 とはいえ、ヘビ型の小さい魔物というのが戦いにくいというのもわかる。大森林の魔獣は大型が多いので、ボリアミュート剣術の技はそれに対抗するようなものが多く、逆に今回のような小物への対処法は最低限だ。それでも有効活用すればツチノコ(もうツチノコでいい)の対処くらい問題ないはずなのだが。


 つまりリボリアムの剣は、まだ未熟なのである。

 それを再確認したアンザイは、リボリアムに向き直った。


「いいかリボリー。剣は相手に合わせて使う!

 ───今なら!相手は無数の小物、加えて反撃を受けたら逃げ出す手合い。ならば多少狙いが荒くとも、振って当てればよかったのだ。」


「な、なるほどォーーッ!ありがとうございます師範!」


 リボリアムは目から鱗がポロポロ落ちた。コンタクトレンズを10枚重ねて着けてたのかと思うほどだ。

 剣を学んで数年だが、実戦を重ねなければ見えないこともあるものだと実感していた。


「……本当にお前が金色こんじきの勇者なのか、ワシは疑わすくなっとるわ!」


 金色の勇者とは、BRアーマーを着込んだリボリアムの異名である。鮮烈なデビューを果たした英雄を人々はこぞって讃えた。

 その正体を知るのはまだ少ない。守備隊の同僚・上官でも、ヘルムを外した所を見ているのは極一部だし、鉱山街の人々もその顔は見ていない。


 魔獣を追い払い一息ついたところで、冒険者の無精髭の方セザムが話しかけてくる。

「助かったよアンザイの旦那。そっちのリボリー?のあんちゃんも。……二人、知り合いだったんだな。」


 アンザイが答える。

「まぁな。このボンクラが馬を借りる金さえあったら、一緒に来れていたんだがな。リボリー、帰ったら猛特訓だぞ!」


 痛烈な言葉に、リボリアムは「そりゃないよぉ」と渾身のショボ顔をするが、アンザイは全く取り合わなかった。


 ……………


 件の聖女の屋敷への道を、リボリアムとアンザイが歩いている。

「俺……が、来るのを?」

「そうだ。」

 聖女との面会取り付けは、2日前に着いていたアンザイが行っていた。その時は会えず、担当の者が言うには聖女はこの件を予見しており、もう一人が来た時点で会うと言ってきたらしい。

 首を傾げるリボリアムだったが、とにかく会えるというなら好都合である。長そうな順番待ちをしなくてもよさそうだ。

 なお、聖女の不吉な予言は当然、今並んでいる人々にも伝えられている。それでも残ると言う物達だけ残っているのだ。


 ということで、不満げな目線を浴びつつも意気揚々と順番待ちの列ををすっとばして歩き、聖女に面会という段となった。


「どういう人なんだろうなあ。」

「なんでも、女神のように美しい娘ということらしいぞ。」



     *



 その少し前。

 小綺麗に掃除された一室。山村にある屋敷なので、とても豪華とは言えないが、精一杯の垂れ布などで飾りたてられたその部屋で、青い仄かな光が収まってゆく。


「お、おお……これで、この子はもう大丈夫なんです、か……?」


「はい、もうだいじょうぶです。今日一日やすんで、明日になったら、げんきに走れますよ!」


 『聖女』シプレは、鮮やかな水色や翠の衣装に身を包み、朗らかに笑った。

 小さな手で、目の前のさらに小さな手を軽く握って揺らしている。


「いままで苦しかったね。これでみんなとあそべるよ。」

「もういたくない!ぱぱもういたくない!」

「あ、ああ……そ、そうかぁ~~~、よかったなぁ!さ、お姉ちゃんにありがとうって言おうな?」


「ありがと!おねーちゃん!」


 父親の男は、涙声で何度もお礼を言いながら、子供と退出していった。入れ替わりに、細身の老人が入ってくる。

言ってしまえばド田舎の山村の中にあって、老人の身なりはパリッとしていて、部屋と同じように小綺麗だ。


「シプレ。ご苦労様、まだ疲れてないか?」


「うん、大丈夫おじいちゃん。たぶん今日、えらいひとがくるとおもうよ。」


 老人はシプレの前に吸い飲みと水差しを置いた。

 吸い飲みの中には既に水が入っており、シプレは両手で持って、んくんくと飲んだ。


 ”聖女シプレ”は、元々ただの町娘シプレだった。両親と町で暮らしていたが、母が胸を患い、療養のために祖父のいるこの村へ来たのだが、母の病状が重くなり、あわやと言うところで奇跡を授かり『聖女の魔法』に目覚めた。

 ただの町娘であったシプレには、魔法の心得など無い。

 まして”シャロット教”が得意とする治癒魔法など使えるはずがない。”生命の女神シャロット”の熱心な信者であれば、教わる事無く魔法が使えるという事例もあるが、シプレは信仰してすらいない。


 これはまさしく奇跡であった。

 さらにそれを授かったのを境に、シプレはかなり聡明になったようだ。よく気が利くし、凶事を予見した時どんな対応をとったらいいかを、わかりやすく教えてくれる。


 老人にとって元より宝物のようであった孫娘は、今や村のみならず、多くの人に必要な存在になってしまった。

 村の名士であった老人は複雑な思いだったが、体裁を整え、『聖女』を頼って来た者達に門戸を開いている。

 両親も老人も、できればこのような役柄を演じさせたくはなかったが、世にこのような奇跡があるのはきっと何か大きな意味があるのだろうと、今のような状況にしていた。


 聖女シプレとその祖父が一息ついている部屋で、ヘビの威嚇音のような音がした。


「……?」


 二人は顔を見合わせた。最初は気のせいかと思ったが、2回3回と続けて……どころか、どんどん多くなってきている。


 息をのむシプレをかばうように祖父は抱き寄せ、部屋の中央から周囲を警戒する。音はそこかしこから聞こえ、やがて赤い鱗と黄色い角を持つヘビのような魔獣が、戸棚の後ろやカーテンの裏から、微妙に空いた部屋の隙間から、次々と這い出てきた。


「ひぎゃあああ!?!?」

「シ、シプレ、じっとして!」


 ヘビがそうとう怖いらしく、思い切り悲鳴を上げるシプレを祖父がなだめる。

 やがて、一部のヘビ達が集まり、こんもりと山になった。そのヘビ山から、声がした。


「あら、可愛らしい聖女さん……。」


女の声だ。どこかもったりとしていて、少々の年齢を感じさせる。声だけ聞けば安らげそうな印象だが、ヘビ山から発せられているという状況は、ただただ不気味で恐ろしかった。


「ひぃいぃぃぃぃウネウネしてるぅぅ……」

「な、なんだ!?こっこれは!」


 ドガッッッ!!


「おりゃあ~~!!」「どうした!?」


 ドアがブチ破られ、リボリアムとアンザイが飛び込んできた!


「う、うわ!?なんだこりゃ!?」

「無理に手を出すなリボリー、二人を守れ!」


 素早くシプレの前後に立つ二人。ヘビ山(よく見れば村の入り口で戦ったツチノコだ)に引くリボリアムだが、アンザイの指示で慎重な位置取りをする。

 無数にいるツチノコ達も、積極的に襲ってくる気配はない。


 身構えていると、ヘビならぬツチノコ山の声がぞわぞわと人の形を取っていき……全身がヘビのような鱗で覆われた、さながら”ヘビ獣人”といった風貌の女が現れた。


「……! モグログのキメラ魔人!」


「あら、ご存じなのね?じゃあ、あの街の守備隊かしら。いかにも私はモグログのキメラ魔人、ネガセルパンのサリネ。そっちの方は私のかわいい子たちを殺してくれた恨みがあるわね……」


 指摘されたアンザイだが、動揺することはない。

 今は全方位を包囲されている。いつどこから飛びかかってくるかわからない。最悪なのは一気に全てから飛びかかられる事である。その最悪に備えてアンザイは気を張っている……が。


「ぐ……っ!」


「師範!?」


「あらぁ?うふふ怪我してるの?」


 アンザイが構えを崩し、膝を着いた。

 まだボリアミュートで受けた怪我が治っていないのだ。相手はモグログの上級キメラ魔人。その攻撃を受けたのだから当然である。怪我を負った状態でなお、先ほどはツチノコ相手に剣を振るっていたのだ。


「うっふふふ、いいわねぇ。苦しそうな顔。どのみち今日はまだ聖女様は頂かないの。それまで、こわ~い日々を送るがいいわ……っふっふっふっふ……っほっほっほっほっほっほっほ……!」


 その言葉通り、ネガセルパンのサリネはまた身体をツチノコ山に変え、無数のツチノコとともに部屋のそこかしこから出て行った。


 それを見届けて、聖女シプレは息をついた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……ふぅ~~~~……」

「あ、あの化け物はいったい……」


「あれは、モグログという賊の構成員です。ボリアミュートも、やつらに襲撃されて……」


「なっなんと、領都も!?」


 ボリアミュート襲撃は大事件だが、その知らせが各地に知れ渡るにはまだ時間がかかる。報告の最優先は帝室。そして次が有力貴族や領内の主立った街の代官。そこから各地へお触れが回るのだ。


 膝を着くアンザイが苦渋の声を出す。


「くっ情けない……!」

「師範、無理しないで、休みましょう!」

「ふぅ……そうは、いかん。敵は、また来る……」


「いいえ、休んでだいじょうぶです。」


「え?」


 落ち着いたシプレが、リボリアムとアンザイの前に来る。そしてアンザイに手をかざし、仄かに青い光をその手に灯す。


「リボリ……さん?」


「は、はい?」


「あなたはすぐ、お家に帰ってください。」


「え……?それは、どうして……?」


「わかりません。でも、そうしたほうがいい予感がします。できるだけ早く。いますぐにでも。」


「……」


 聖女シプレの手から光が消え、リボリアムに向き直る。

「しはんさんはもうだいじょうぶです。ひとばん寝ればなおるでしょう。

 そして、この村をすくうには、あなたの力がひつようです。いますぐに、いってください!」


「……聖女様……」


「行け、リボリー。」


「師範。」


「確かに、この聖女様の言うとおり、身体の痛みが引いてきてる。……しばらくはワシらに任せて、お前は、ワシの馬ぁ使って戻れ。”アレ”を着て戻ってこい!」


 目の前で聖女の奇跡を目の当たりにし、アンザイ師範の懸念も消えた。ならば、リボリアムのすべき事は。


 リボリアムは強く頷き、外に飛び出した。



    *





シプレは8歳前後くらいです。


今週中に続きを出せたらなと思ってます。そしてそこで切りよく三話終了したい!



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