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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
13/53

第二話「モグログの魔手」5



「なんてやつだ……」

「全くもって。だが、ここまでだな。」

 サズーラのつぶやきに、アイネグライブが応じる。


 敵の群れに取り押さえられ、リボリアムは膝をついていた。


 この街に配置したキメラ魔人、キメラ魔獣、使役する魔獣、占めて200体余り。実にその8割が、かのリボリアムによって切り裂かれた。


 敵を倒しながらリボリアムは少しずつ進み、近づいてきていたが、結局大して距離を詰めることはできなかった。


 センサーヘルムに表示されたアクティブモード残り時間はあと5分、出力は0.1%。これはアクティブモードを切らさないためのセーフモードであり、ろくに戦えるものではないが……リボリアムの意思ではどうにもならない。

「く……坊ちゃん……!」



「リボリアム……」

 トマックは力なく呟いた。


「ともあれ、これで当初の目的は達成できる。ちょうど夜明けだ……鉱山街の住人達も、ちょうど来たようだな。」

 アイネグライブが言う。処刑場と化した鉱山入口付近の広場には、山を背にした高台で二本の柱に領主サルトラ・トマック、そしてモグログ上級キメラ魔人達。広場の中心に大量の魔獣・魔人達の死骸と、取り押さえられたリボリアム、取り押さえる魔人達。

 そしてその後方、街のほうからちらほらと、おっかなびっくり様子を見に来た鉱山街の住人達。

 

 当初の予定では、夜明けに伴って街中のキメラ魔人達が住民を先導し、処刑場に連れてくる手筈であった。無数の魔獣に囲まれ、恐怖と共に処刑が実行される筈であった。その無数の魔獣がリボリアムによって大半を失うことになったのは、大きな痛手であった。

 アイネグライブとしては、リボリアムによる大損害は痛かったが、結果としてより絶望感のある演出ができたと思うことにした。地面に撒き散らされた死闘の爪痕、力及ばず膝をつく騎士。光景としては十分に衝撃的だろう。

 

 懸念があるとすれば、巫女モラドの予見した凶兆『モグログの目的を阻む大きな障害』である。それが今膝をつくリボリアムであるとするならば、領主達を処刑した後、確実に奴も殺さねばならない。

 今は膝をついているが、あの鎧の男をここで取り逃がし、本気でモグログと対峙すれば……上級キメラ魔人とも渡り合えるあの力は、下手すると帝国全土とやりあうよりも脅威と成り得るのだ。


 鉱山街の住人達がざわめく中、アイネグライブは目線で指示を送る。

「これより、領主サルトラと、その嫡子トマックの処刑を執り行う!!」


「領主様だ……」「ああ、サルトラ様……」「トマック様が……でも……」「トマック様って、()次男じゃなかった……?」「だ、だよな?俺もご嫡男は見た事ねぇが……」


 そんなざわめきを、アイネグライブの耳が拾った。

「……? 次男……?」



 その時。

「っふっふふふふ……はーっはっはっはー!!」


 トマックが大きくわざとらしい笑い声を上げた。


 これに狼狽えたのはサズーラだ。

「ト……トマック様!?御身はもしや……!」


「そうだ、俺は次男だ!!!嫡男のマサキ兄上は、まだボリアミュートにいるさ!!

 兄上は普段から表には出ない。だから子供は俺一人だと思う人も多いんだ。引っかかったなモグログ!!」

 

「ば、馬鹿な、あなたはあの時、迷わず囮になったというのか!」

「そうだ!俺は勉強不足だったかもしれないが……お前らは情報不足だったな!!」


「……これはやられたな、サズーラ。」

「…………は…。 全く、申し開きもございません……。」


 大きくうなだれるサズーラ。

 しかしながら、こうしたトラブルに対応するのも組織経営としては必要だ。アイネグライブは民衆に向けて声を張り上げた。

 

「聞け!民たちよ!!どうやら、我々はこの小さな勇者に、一杯食わされたようだ!その勇者を助けに来た戦士にも苦戦させられた。だが、我らモグログはこれを打ち倒した!

 そしてこれからやることも変わらない。今日ここで現領主は処刑する!!

 さぁ、しかと見よ!!!我らモグログの夜明けだ!!」

 

 アイネグライブが柱の真ん中に立ち、剣を高く掲げる。一太刀で二人の首を刎ねるつもりなのだ。

 

 再び不安のざわめきが広がる。



「リボリアム……」


「坊ちゃん……」


 二人の視線が交差する。


 先程まで堂々としていたトマックは今、唇を震わせ、目を潤ませていた。


「坊ちゃん!!!」


「リボリアム!お前は生きろ!!お前は、俺の思った通りのすごいやつだ!!必ず、こいつらを───」


 アイネグライブが動く。


 リボリアムの脳裏に、トマックとの思い出が押し寄せる。

 

 最初に出会った時。白い髪を綺麗だと言ってくれた。

 言葉遣いや文字を手ずから教えてくれた。

 失敗をして落ち込んでいた時、声をかけてくれた。

 一緒に犬をこっそり飼おうと悪だくみしていた。

 悪いことを咎めた時、裏切り者と言われた。

 兵士になると行ったとき、嬉しそうにしてくれた。

 訓練でへばっている時、励ましてくれた。


 リボリアムはトマックから、人間を学んだ。


 そして今ではこう思う。

 人間を、トマックを、自分は守らなければならない。


 友達を、救わねばならない!



 リボリアムの胸に、赤い炎が燃え上がった。それは心ではなく、物理的な熱く、赤い炎だ。


 リボリアムは人間ではない。

 マザー4の作った、人造人間BR……『バイオティクスロボ№004』である。

 タンパク質の筋肉、カルシウムの骨。その体は大部分が人間を模して作られているが、そうでない部分もある。

 

 心臓の代わりとして組み込まれている神秘の宝玉『紅星の瞬き(マーズコア)』が、リボリアムの感情の高ぶりによって、その秘められた力を発動させる。

 それは強大な魔力を以て、BRアーマーに、性能の限界を超えた超パワーを与えるのだ。


 BRアーマーの各所のランプが明滅し、全身に走るマナエネルギーラインが赤く輝く。

「うおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!」

 リボリアムの雄叫びと共に胸部装甲が開き───白い閃光が瞬いた



 振り下ろさんとしたアイネグライブの右腕が宙を舞った。 



「ぐぉあ!?」

 呻くアイネグライブ。何が起こったのかもわからない。だが原因は明らかに、先ほどまで取り押さえられていたあのリボリアム以外にはない。

 さらに。


 ズバ!ズバズバ!! ズバーッ!!


 白い閃光が続けざまに迸り、そこかしこから火花が上がり、腕や首が白い爆発を伴って吹き飛ぶ。


 ズバッ!ズバッ!

「う!?」

「おお……!?」


 白い閃光はトマックとサルトラを縛っていた縄を的確に切り裂き、二人は自由になった。


「リボリアム……!?」


 トマックがリボリアムを見ると、白い閃光が出ていたのは胸からのようだ。開いた装甲の下には半球のような金属が見えるが、『何かが出そうな穴』はない。あの白い閃光がどんな仕組みで出るのか、想像もつかなかった。


「トマック、逃げるぞ!」

「は、はい!」


 逃げようとする二人の前に、サズーラが立ちはだかった。

「逃がすか!!サルトラ殿、御身の命だけは、この場でもらい受ける!」


 ズバーーーッ!!!


「うぉあーーっっ!?」


 そのサズーラの近くを、また白い閃光が走る。

 直撃はしていないが、どうにも近づけない。


「くぅぅ、奴は一体……何だというのだ!?」


 ヤケになって叫ぶサズーラ。


 当のリボリアムはまだ取り押さえられているが、構わず白い閃光を出している。それを止めようとして前に出る魔人や魔獣を、そのまま閃光で切断し、吹き飛ばしている。


「……いや、あれも狙い撃っているわけではないのか!?ならば!」

 リボリアムの状態を確かめると、再びサルトラ達を手に掛けるべく構える。

 ───そこへ猛烈な勢いで突っ込む、大きな影が迫っていた。


「お命頂戴!!」

「ヒヒィィン!!!」

「ぬ!?」

 

「ベルカナード!?」

 リボリアムが飛び降りていた斜面から、同じルートでベルカナードが近づき、一気に駆け下りてサズーラに突撃を仕掛けたのだ。


「な、ぐわぁぁっ!!?」


 突撃をまともに受け、サズーラは吹き飛んだ。


「ベルカナード、お前もここに!?」

「ヒン……ブルルッ」

「乗れってこと?」

「トマック、乗るぞ、急げ!」


「おのれ次から次へと。そこな馬は、私の『爆破ボルムス』で致命傷だったはず……!」

 立ち上がったサズーラは、ベルカナードを睨みつけて言った。


 サルトラはトマックを、駆けつけた忠義の馬に乗せ、自身も跨り手綱を取った。

「ハッ!」

 サルトラが手綱を弾き、ベルカナードがその場から離脱し始める。


「おのれ逃がすか!!」

 サズーラほか、多数のモグログの魔人達の目が輝き、爆発が次々起こる。

 

 ベルカナードは疾風のごとく駆け、それらを躱していく。岩肌が真正面に見え、あわや逃げ場なしと思いきや───

 馬体を横倒しにしながら岩壁を駆け、大きく回り込んで反対側の崖に、そしてそこから駆け下り、集まっていた鉱山街の住民達の元へ到着した。

 住民たちから歓声が上がる。

 

 一方リボリアムは、張り付いた残り僅かな敵をパンチで叩き潰し、蹴りで叩き潰し、左腕のトライラム・キャリバーで切り捨てる。

 進もうとするリボリアムの前に残った数体の戦力が集まるが、リボリアムが横蹴りと共に放った衝撃波で、まとめてバラバラになってしまった。


「モグログ、覚悟!!」


 そう叫ぶや、BRアーマーの両足、の所々が赤く光り、膨大な魔力が炎となって噴射された!


「と、飛んだ!?」


 驚きの声は誰であったのか……。

 リボリアムは再び、モグログの一味と対峙した。


「……アイネグライブ様。ここは私めにお任せを。」


「サ、サズーラ……」


「こうなったのもひとえに私の責任。この命、刺し違えてでも!」


 アイネグライブは、無くなった右腕を庇いながら逡巡する。……ややあって、喉奥から絞り出すように声を出した。

「………忍び寄るものサズーラ。わが(ともがら)。しかと役目を果たせよ。」 


 その言葉を合図に、サズーラを除く11人は山の先へと走り逃げる。

 それを黙って見ているリボリアムではない。


「逃がすか!」

「いいえ逃げさせてもらいますよ!!」


 そうしてリボリアムと組み合うサズーラ。先程ならば難なく投げ飛ばせていたサズーラが、今はかなり拮抗している。


「上級キメラ魔人の力……とくと!!ご覧あれ!!」


 サズーラの肉体が膨れ上がり、リボリアムを振り回す。

 変異が終わるとそこには、爬虫類のような鱗と、肉食獣のような手足を持つ怪物が立っていた。

 身の丈実に2.5m。


「…………」


「ふしゅるるるぅ~~~……!」


 お互いがお互いの姿を、目に焼き付けるように確認し、暫し。

 先に動いたのは、リボリアムだった。


「トライラム・キャリバー、プラズマモード!」


 左腕のトライラム・キャリバーが青白く光り、光の刀身となる。

 双方走り出し、リボリアムは左腕を、サズーラは右腕を振るう!


 ゴキィン!!


「うっ!?」


 リボリアムのトライラム・キャリバーが弾かれた。いや、正確には、サズーラの腕を斬ってはいる。突き出した光の刃によって、サズーラの右指の何本かは深く切り裂き、切断したものもあったはずだ。

 だがサズーラはそれに構わず腕を振り抜き、リボリアムの攻撃を弾いたのだ。


 負けじとリボリアムは2撃目を入れるべく、左腕を振り下ろした。だがこれもサズーラの太い右腕の半ばまでしか斬り込むことができない。

 その隙にサズーラは左腕を振るい、リボリアムの側面にクリーンヒットした!

 大きく跳ね、岩壁に激突し、激しい土煙が上がる!


「…………」


 BRアーマーは相変わらず頑強で、今の一撃にも傷一つ、凹み一つない。だが、着ているリボリアムにはかなりの衝撃だったようで、足元がふらついていた。

 それにどうやら、胸に燃える赤い炎の、出力が落ちてきているようだ。これは長時間維持できないものであるらしい。


 リボリアムは、左腕を構え直した。

「……ハイ・プラズマモード……!」


 トライラム・キャリバーの光が増し、かのキメラ魔獣ネガコルポスを両断した、光の剣が姿を現した。


 リボリアムが、地を蹴る!

 同時に両足から、先と同じように赤い炎が噴射される!


「………!!」


 その気迫を感じ取ったサズーラも両腕をしならせ、腕鞭の体勢に入った。


 リボリアムがサズーラの間合いに入り、すぐさま腕鞭が振るわれる!リボリアムはこれを躱し、あるいは切り裂き、ぐんぐんと間合いを詰める。そして───




「お、見事……し、しかし……!」


 サズーラの胴体が斜めにずれ落ちようとしている。

 勝負はついたかに見えたが───


 光の剣を振り抜いたリボリアムの腕を、サズーラの巨大な腕ががしりと握る。

 サズーラの体から煙が上がり、赤く燃え上がり───



 ───ドガァァァァァァァァン!!!!



「!……リボリアム!!」


 巻き起こった大爆発に、トマックが叫ぶ。

 これまで、モグログの一味が『爆発』を扱うところが何度もあった。だがそのいずれもリボリアムに……BRアーマーにダメージを与えたことはなかった。

 だが今の爆発は文字通り桁違いの規模だった。遠く離れたトマック達の顔にも熱風が届いたほどである。空に巨大な火柱がそびえ立っていた。





 爆炎が小さくなってもなお赤々と燃えるその光景に中に、陽炎のごとく人影が動いていた。



 その人影は炎の奥から、悠然とこちらに歩いてきていた。



 炎の中から、金色の鎧戦士が現れた。




「リボリアム!!」


 

「勇者だ……」

 誰ともなく、声がした。周囲の住民から、大歓声が上がった。



    *



 鉱山街の入り口で、リボリアム達3人と1頭はボリアミュートからの援軍を待つことになった。

 昼になっても来なければ、馬車を借りて直接帰ることになっている。

「はぁ~~、一時はどうなるかとおもったよ。ありがとうリボリアム。」

「坊ちゃんのおかげさ。坊ちゃんがいなかったら、最後に力を出せていなかった。」

「ベルカナードも、ありがとな。ここまで来るの大変だったろう。帰ったらブラシしてやるからな!」


「………」


 どさっ……


 トマックに声をかけられたベルカナードは、突然倒れ伏してしまった。

「!? べ、ベルカナード!?どうした、おい!」


 混乱する3人。

 リボリアムはすぐさま、ベルカナードの状態をスキャンした。

 肉体の方は問題なさそうだが……


「これは……オドの体内含量が低い、なぜこんなに!?」

 肉体を維持するための魔力が、ベルカナードは著しく低かった。これでは、生命活動を維持できない。

「リボリー、何とかならないのか!?」

 問い詰めるサルトラ。リボリアムは、力なく首を横に振った。

「………無理です……。俺の使える魔力も無いし、それに、この状態に効く魔法なんてわからない……!」


「そんな……」


 リボリアムは気づいた。ベルカナードは、回復魔法をかけたあの時から、既にこの状態だったのだ。

 肉体は修復されたが、不足するオドを補うため、無意識にマナを取り込み続けるようにしていたのだ。その副作用で無限とも思える体力を発揮したり、キメラ魔人を轢き飛ばす力も発揮できたのだろう。

 だがおそらくその方法も続けるには限度があり、緊張が解けたのも相まってついに……ということなのだろう。


「ベルカナードは、坊ちゃんを助けたい一心で……ここまでやってきたんだ。

 ものすごく、強い心だ。……勇者というならベルカナード、お前こそがまさに勇者だ……!」


 リボリアム、トマック、サルトラが次々に声をかけ、励ましたり誉めたりを繰り返す。

 それをじっと聞きながら、ベルカナードはゆっくりと瞳を閉じていった。


 トマックは、声を上げて泣いた。



    *



 その後、まもなくしてやってきたボリアミュートから援軍が到着し、事後処理などが始まった。

 リボリアムはそこで初めてヘルムを脱ぎ、軍を率いていたアンザイ師範ほか守備隊の同僚達を仰天させた。

 

 こうして、リボリアム初めての戦いは終わった。

 だが、光の結社モグログとの戦いは、始まったばかりである。


 人々の真の平和を取り戻すため、戦えリボリアム!



                              つづく



=====================================



 ─次回予告─



 のどかな山村に、奇跡の聖女が現れた。

 病を癒し、災害を予言するその聖女を目当てに、山村はかつてない賑わいを見せる。

 だがそこに、モグログのキメラ魔人の影が再び現れる。


 急げリボリアム! 聖女を救えるのは、君だけだ!


 次回、特捜騎士リボリアム

『疾走する鋼鉄の騎馬!』


 お楽しみに。





長くなりました。ここまでお読みいただきありがとうございます。


とりあえず年内更新はこれで終了です。

次回更新は未定です(いつもの)


良ければフォロー、ブクマ、感想していってください。

特に感想とかお待ちしています。

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