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特捜騎士リボリアム  作者: 鈴木りゅう
一章:特捜騎士誕生編
11/53

第二話「モグログの魔手」3


どうやら全4回に収まりそうです。




    *



「……ぅ…」

「……父上……!」


 身体の痛みを感じながら、領主サルトラは目を覚ました。


「……トマック?お、お前何故ここに……」

 サルトラは辺りを見回すと、幌馬車の荷台だと気づいた。外は暗くてよく見えないが、この荷台を引いているのが馬ではないらしいことはわかった。


「お目覚めですかな、サルトラ様。」


「ん……貴様、モグログとやらの。」


 行者台からのそりと、青白い肌の男が顔を覗かせた。モグログのキメラ魔人、忍び寄るものサズーラである。


「既に鉱山街ボミロスに到着しております。もちろん住人にはおとなしくしてもらっておりますよ。

 間もなくあなた方の処刑場です。準備ができるまで、どうぞごゆるりと。夜明けと共に、ご子息共々お命を頂戴いたしますゆえ……。」


 そう言って恭しく頭を垂れるサズーラに、トマックが身体を起こし言う。

「そうはいくか。きっとリボリアムが来る。お前らがどんなに強くても、相手になんかならないぞ!」


「む……りぼりあむ?それは、騎士様ですとかそういう……?」


 聞き慣れない名前に首を傾げるサズーラ。


「そうだ!」

 ちがう。


 違うし、トマックも勢いで答えたのですぐに「いや、違うな?」と思いはしたが、サズーラも「~とかそういう?」と曖昧な表現をしたので、まぁ騎士みたいなもので間違いないかと思い直した。

 隣で聞くサルトラも「何故リボリアム?」と一瞬思ったが、彼の不明な出自を思えば、マザーの関係者なのだろうと予想はついた。


「……いずれにしろ、ただの人間が我々の敵足り得るとも思えませんな。帝都に名高いかの『近衛銃士(ピストリア)』に匹敵するとなればわかりませんが、それとて……」

近衛銃士(ピストリア)より、強いぜ、きっと。」


 トマックは強い瞳で言い切った。


「…………覚えておきましょう。」


 サズーラにはにわかに信じがたいことである。結社や自分どころか、配下のキメラ魔獣ネガコルポスすら、倒せる人間がいるのかどうかと評している。それこそ先ほど口にした、帝国最強の戦力と言われる皇帝直属の私兵、『近衛銃士(ピストリア)』くらいのものだろう。


 そして自分なら、その近衛銃士(ピストリア)ですら下せると思っている。


 しかし、先の少年の強い瞳は、無碍に笑い飛ばすには早計かと思わせる確信に満ちていた。自分たちの最終目的は、なんとしても成功させねばならない悲願である。ほんの小さい不確定要素ではあるが、頭の片隅に留めておく事にした。



   *



 時刻は夜。リボリアムは予定より若干早く、鉱山街ボロミス近郊に到着した。夜だというのに、あちこちで篝火が焚かれている。


「……」


 リボリアムは耳を澄ませた。BRアーマーを構成する頭部センサーヘルムは、外界のあらゆる情報をもたらす。街中の音だけを集中して聞き出すことも出来るのだ。


 住民たちの歩く音や話し声が聞こえる。こんな夜中に街が騒がしいというのはありえない。つまり……

「やはり奴らはここに来た。急がないと……ベルカナード、ここからは俺一人で行く。」


 そう言ってベルカナードから降り、近くの茂みに分け入っていく。鉱山街の周囲は森になっており、そこから回り込んで山に入り、高所から探るつもりだ。


「ベルカナードはここで待っててくれ。馬では森を思うように進めないし、見つかる可能性も高い。」


 そう告げられた相棒は不服そうにしていたが、納得したのか、街道の隅に移動し、座った。


 そうしてリボリアムは一人、森へ分け入り、山へ……登山道も何もない急斜面を上っていく。 


「アクティブタイム……残り、12時間。少し使いすぎたか……。マノ・ターバインも残りわずか。……なんとかするしか、ないが……!」


 斜面を登りながら、時々街に目を落とし、様子を見ていく。住民らしくない連中もちらほら見つけている。住民の見張りをしたり、抵抗する鉱山夫を投げ飛ばして制圧したりしている。その誰も、山の方は気にしていないようだ。 そして何度目かの確認で……


「───見つけた!」

 

採掘場の上方、見晴らしのいい場所に、二本の棒が立てられている。今まさに、領主サルトラとトマックがそこに、縛り付けられようとしていた。



 ───処刑場。


 サルトラとトマックが縛られる場には、他に10人程度の人影があった。そのうち一人はボリアミュートを襲撃した、忍び寄るものサズーラ。もう一人は、あの黒鎧の戦士である。


「よくぞやり遂げた。サズーラ、我らが輩よ。」

 黒鎧が言葉をかけ、サズーラは静かに礼で応える。顔を上げ、黒鎧に言葉を返す。


「しかし油断はできませぬ。そこの御嫡男殿によりますれば、近衛銃士(ピストリア)を凌ぐ戦士が、助けに来る、と。」


「……近衛銃士(ピストリア)?」

じろりと黒鎧がトマックを見やる。


「まさか。」

「子供のたわごとではありましょうが、念のため。」

「うむ。……『闇の目』よ、念のためだ。周辺を警戒しろ。」

 黒鎧に指示された男『闇の目』は頷き、周囲を注意し始めた。


 その横から、よろめき、柱に縛り付けられながらも、サルトラが口を出した。

「貴様が……モグログとやらの首魁か。」


 黒鎧はサルトラに向く。優雅さを感じさせる、余裕ある立ち居振る舞いであった。


「いかにも。この暗闇の世に、あまねく光をもたらす。光の結社モグログを束ねる任を預かる、闘神官(ウォリアモンク)アイネクライブである。」


「光の結社か……聞き間違いであってほしかったな。」


「ご不満かな?」


「我々を殺し、その後も多くの命を踏みにじる連中が光だなどと。少なくとも、道化の才は無いな。」


「っふっふっふ。やはり我らとお前達では認識に齟齬があるようだ、人間の貴族よ。」


「……なに?」


 まるで、自身は人間ではないとでもいうかのような言葉に、サルトラは眉根を寄せる、


「我らが神が復活した暁には、お前達貴族を始めこれまで民を虐げてきた者共を家畜とし、救われるべき者達のための世を作るのだ。」


「建国……」


「違う。”開座(スローン)”への、新しき、世界だ。」


「スローンだと……!?」


 アイネクライブはそう言い、あふれる決意を表すように、拳を握った。


 『開座』。それは魔術師や神官など、魔導・神学を志す者達が時折口にする言葉である。魔導にあっては、究極の到達点。神学にあっては、概ね神への謁見方法であると言われる。

 だが、その内約ははっきりしていない。人それぞれ、流派それぞれで解釈され、『スローン』という発音も魔術師側が扱う呼称の一つに過ぎない。これはすなわち「まだ何もわかっていない」……言い換えれば、「夢物語」と同義である。


 強大な力を持つ帝国を相手に、辺境の領主とはいえ貴族を手にかけんとする組織の首魁としては、あまりにそぐわない言葉であった。「世界征服、人類抹殺」などと言われた方がまだ理解できた。


「お前達は、一体どこから……」

 サルトラが二の句を告げられず、思わずこぼれた言葉に黒の戦士が反応したその時。



「───む!?」

 周囲を見渡していた『闇の目』が、微かな光を闇に見た。


 夜の森は、例え月が出ていても暗く、黒い。その岩肌の陰に、月明かりを反射して白く光るものを見つけたのだ。

 サズーラや黒鎧の戦士のように、人のようで人ならざるその者が闇に目を凝らすと、それはどうやら人の頭のような形……鎧兜だった。


「いたぞーーっっ!!」


大声が処刑場に響く。指された指の先を、全員が振り返り見た。



    *





次回更新は明日0:00の予定……

更新できるといいな(まだ1行も書いてない)

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