第一話「わんぱく小僧と新英雄(ニューヒーロー)!」
初投稿です。よろしくお願いします。初回放送は豪華に1時間スペシャルです。
本日中にすべて投稿されます。
帝国歴99年。
人々は魔法と武力を手にし、魔獣の脅威を打ち倒し、国々が統合された。
ここに至り、ようやく平穏が訪れたこの大地に、暗雲が迫る───
爆発が巻き起こり、人々は悲劇の声を上げた!
鉤爪、毒牙、恐るべき異形。怒号、愉悦の瞳、死を運ぶ恐ろしい笑い声がこだまする。
人々の涙の前に、今、一人の戦士が立ち上がった!
無骨な金に煌めく、全身鎧の姿。
その左腕は盾であり、弓であり、剣である!
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特捜騎士 リボリアム
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それは、いつかの話。
それは、見ていた。
空が黒から赤く、やがて青になってゆく。これは「朝」だ。地上はだんだんと光に照らされ、姿がはっきり見えてくる。あれは岩山。あれは鉱山。あれは街。声を上げる鳥。動きだす人間達。そして、ここが……深く広がる、大森林。あの街の人間達がずっと切り開いてきても、尚生い茂り続ける魔性の森。
それらは───それは、思っていた。そろそろ街に、行ってみたいと。
そして、それは姿を現した。朝日に白髪が煌めいていた。
*
第一話「わんぱく小僧と新英雄!」
*
「構え!!」
勢いのある野太い声が、訓練場に響いた。
「1の型、チャージ!」
「「「おおおおっっぜあぁっっ!!!!」」」
「…………」
やけに訛った野太い声に合わせて、男達が数歩踏み込み、木剣を振るう。少し離れたところに、歳のころ12ほどの少年がそれを座って見ていた。赤髪とそばかすが特徴的な、まさに元気小僧といった雰囲気であるが……少年は明らかにつまらなそうに訓練を見ていた。
「構え!!……1の型、チャージ!!」
男達は、野太い声に合わせて立ち位置を整え、同じ動きを繰り返している。剣術の型稽古である。
稽古する彼らの年齢はバラバラだ。上は30手前、下は15、6といったところか。
野太い声の主も男だが、稽古する者達と比べて一回り以上年上だ。初老と言ってもいいだろう。
帝国の辺境ヴァルマ領の主都、開拓街ボリアミュートの領主邸、その野外訓練場での稽古風景である。
「この1の型は、多くの剣術と比べて少し毛色が違うが、実践に基づいて理が作られた、我らがボリアミュートの誇る伝統剣術の基本形である!帝国正当剣術を基本とした、応用の剣術。我らが領では、凶暴な大森林の魔獣達に対抗できる突破力こそ何より求められる!1の型が1000回繰り返せて、ようやく使い物になるのだ!よいな、トマック!」
「え~~~……」
「…………なにが「え~~~」だ!領主たるサルトラの次男として、少しはまじめにやらんか!ほれ、リボリーの奴を見ろ!お前に似て無礼だし子供っぽいが訓練は真面目だし、この頃は良ぉなってきた。お前が拾ってきたんだろう。」
そう言って指したのは白髪の青年。他の者が黒髪や青髪の中、一人だけ白髪なので目立つ。が、それ以外の体格などは目立っていない。
───なお、野太い声の男はかっこよく指南している風だが、そのひどい訛りのせいでどうにも間抜けに思えてしまう。───
「リボリアムだよ、ちゃんと呼んでやれよ!」
「似とるのは髪色だけじゃい、そんな奴に、英雄ボリアムの名を与えるとはトマック……わかっとるのか?我らが街ボリアミュートの元になった名前だぞ?」
「知ってるよだからその名前つけたんだろ。」
と、そこに白髪の青年が近づいてきた。
「まぁまぁ坊ちゃん。俺も一緒にやるよ。いいだろアンザイ師範?」
リボリアムと呼ばれた青年は木剣を差し出す。トマックと呼ばれた少年はしぶしぶそれを受け取ると、二人で型をし始めた。
「1の型!」
「1のかた!ふぃ゛い゛ぃぃ~~~~……!!」
が、男達に比べて年下なせいもあり、木剣もサイズが合っていない。結果、かなりへろへろな素振りとなった。野太い声のアンザイ師範もこれには眉間に皺が寄る。
「トマック……この流派は確かに疲れるし、木剣も重いだろうが、せめて気合いくらいはもうちょっと入れでみでもいんじゃないのか?」
「だって剣術って疲れるし、1000回なんてやってらんないよ。」
子供の素直な感想に大人達も青年達も苦笑い。誰もが通った道なので、気持ちも分かるのだ。
「黙らんかいっ。このアンザイ、守備隊指南役とすて、お前の親父である領主サルトラの親友とすて、お前を立派に鍛えねばならん!お前の兄貴は頭がいいが身体は弱い。なら、健康なお前が鍛えで守ってやらにゃいかん。すんなんでは兄貴を支えでやれんぞ!」
「なんだよっ兄貴兄貴って!剣術なんかいんないッッ!」
「あっこら!」
トマックはそう吐き捨て、ささっと修練場を飛び出して行ってしまった。まだ遊びたい盛りの子供である。そして、あまり大人の言うことを聞かないわんぱく坊主でもあった。
「あ~らら。……師範、俺、追いかけるよ。」
「ああ、すまん、頼むぞリボリー。」
白髪の青年リボリーが、その後をマイペースに走って追いかけた。
*
さて、訓練場を飛び出したわんぱく坊主。広大な領土を有する帝国の一領主の子であるが、野生あふれる領土を開拓する土地柄、他の貴族の子よりもかなり大らかな教育方針で育てられている。道行きがてら平民達に気安く挨拶するくらいには。
「よっ行商人さん、売れてるかい!」
「こっこりゃあ領主様の坊ちゃん!恐れ入りまさぁ!」
「ははっまだまだ堅いね!」
だが、それに付き合わされる、街に慣れてない行商人さんにとってはたまったものではない。貴族の子が気軽に話しかけてくるなど、悪い夢以外の何でもない。
ここでそんな哀れな行商人さんに助け船が通った。
「あらあらトマック坊ちゃん、あんまり余所者をからかいなさらんで。ほら、果物でもどうです?」
「あれ、ダンウィのおかみさん!?どうしたんだ店番なんて!ダンウィのおっちゃんは!?」
「うちの旦那は仕入れ。……今日は調子が良くてね。たまには表に出ないと気が参っちゃうんですよ。」
このおかみさんは普段、店番をしていない。体が弱いらしいのだ。近所づきあいがあり、この事情を知っている身としては不覚だった。自身の行動で余計な体力を使わせてしまい、トマックは恥じた。
「そっかぁ。……あ、日陰にいなよ、オレが悪かったよ。
……果物ちょうだい。ベリー、適当に一包みで。」
「はぁい、まいどあり。……ぴったり15C」
「15ね。はいチャリチャリっとね。ありがと、体気をつけてね!」
この街の住民は、開拓村という土地柄、皆たくましい。元は初代領主が筆頭となり、自ら住民達を率いてパワフルに開拓していった土地で、そのせいか歴代領主と住民達の距離感が近い。最も最近は双方弁えを覚え、最低限他の貴族に見せられる程度の距離感と上下関係を構築しつつあるが。
この土地柄、トマックも貴族がらみとは関係なく、街にも友人達がいる。
近所の平民に幼なじみの女子がいる貴族男子というのは、おそらく帝国中見渡しても片手で数えるくらいだろう。
「よっジンナ」
「あれぇ?トマック。今日剣術してるんじゃなかった?」
家の軒先に座り、ぼんやり空を眺めていた女の子、ジンナ。トマックより少々年下、青髪のショートにそばかす以外は可愛いくらいしか外見的特徴はない、可愛平民女子である。
領主の子を相手に呼び捨て・タメ語で話す、なんとも気安い間柄だ。
「逃げてきた。やってらんないよ。……今からさ、モルダンじいさんのトコ行くんだけど、一緒にいく?」
「うんいく。」
「ジンナぁ~?掃除おわったのー!?」
トマックとジンナが話していると、奥からジンナママの声が聞こえてきた。
「おわってるよー!トマックと遊びいってきまーす!」
ジンナは出来る子だった。
ジンナママの「終わったんだ……」という呟きを背に、二人は街の奥まった所に住む、ヘンテコじいさんの家に向かうのだった。
その後ろ姿を、あの白髪の青年は黙して眺めていた。
*