騙士瞞死玉恣意 2 無駄な話
しまった。予想しておくべき質問だったのに。虚を突かれた私は固まってしまった。
「え、何でって」
間抜けな言葉が出てしまい更に言葉に詰まってしまった。最悪な状況だ。なんて答えればいいの?騙士瞞死さんは雇用関係にある(正確には母とだけど)。なら私の事を見極めたくてもおかしくはないけど。
「あーごめんね。気にしないで。ちょっと気になっただけだから。ほらさ、世の中は色んなお仕事あるでしょ。こんな危険なお仕事しなくてもいいわけで。おばあちゃんとしては心配になっちゃうの。無理しているんじゃないかなとかね」
おばあちゃんと言っているけれど20代にしか見えない。この人は何歳なんだろう。そんな疑問が頭を過るけど今はそれどころじゃない。
「ありがとうございます。無理しているつもりはないです」
「それならいいんだけど。でも本当に無理しちゃ駄目よ。この世界は結構残酷で不平等だから。やめたくなったらいつでも相談してね。何なら私からお母さんに話してあげるわよ」
そう言って私の目を覗き込んでくる騙士瞞死さん。席を隔てているはずなのに距離が近いように感じる。まるで吸い込まれるみたいに私も目を見てしまう。らなとは真逆の真っ黒な黒目。まるで光を吸い込むような眼。不思議と見てしまう。
「紗月ちゃんそんなに見つめられたら照れるなあ」
「あ、すみません。つい、眼がとても綺麗で」
「嬉しいわぁ。そんなこと言われた事初めて。それでどうなのかしら。あ、あまり答えたくない事だったかしら。だったらごめんね。おばあちゃんあんまりデリカシー無いのかしら。気を付けなくちゃ」
「大丈夫ですそんな事無いです。でも一つ聞いていいでしょうか」
「勿論。何でも聞いて」
「何故そんな事を知りたいんですか?私が頼りない事はわかっていますが」
「あーそんな事無いわよ。おばあちゃんあなたが継いでくれるならこんなに心強いことは無いわ。でもねさっきも言った通り無理しそうで心配だったから。余計なお世話だったみたい。ごめんなさいね」
「そんな事無いです。ありがとうございます。でもさっき言った通り私は大丈夫です。私なりに色々考えて決めた事ですから。こんな答えじゃ不安でしょうけどやれるだけはやってみます。もしそれでも無理ならその時は力になってくださいね」
「まあ嬉しいわ。おばあちゃん頼られると本当に嬉しくなっちゃう。何でも相談してね」
「ありがとうございます。気を使っていただいて」
「ほら私って紗月ちゃんよりも少しは色々知っているから。例えばこの前の刀場屋さんの件の裏側とか知りたくない?」
「裏側ですか?」
「そ、裏側。何で雀ちゃんの元に妖刀が行ったのかとか」
「何でですか?」
正直興味ない。でも私が関わった事だし、聞いておいた方がいい気もする。これ聞いて怒られないよね?
「あ、一応言っておくとお母さんには怒られないと思うよ。私から教えたって言っておくから」
やっぱ心読めるでしょ。
「妖刀はワープすると思う?しないの。じゃあ何で雀ちゃんの元に行ったのでしょうか?」
「誰かが運んだ」
「せーかい。じゃあ誰が運んだんでしょう?」
そんなこと言われても私にはわからない。だって刀場屋さんの人間関係知らないし。
「わかりません」
「素直でいい子ね。おばあちゃんそういう子に弱いの。正解は依頼主よ。そもそも依頼主は刀場屋家の人が全滅すると思って刀を預けたの。理由はわかる?ちなみに恨んでるとかじゃないよ」
恨みじゃない?それなら何で?伊藤梼刀到との話を思い出す。こいつらさえいなくなれば思い残すことは無い。それなら。
「怨霊を成仏させるため」
「正解。いい子ね。依頼主は刀コレクターなの。妖刀を持っているのは怖い。でも伊藤梼刀到最後の一振りは手元に置いておきたい。それならどうしよう。そうだ。恨みを晴らせば霊は成仏するんじゃないか。名案だ!連携している研ぎ師は一人じゃないし依頼する頻度は減っている。刀場屋が居なくなっても問題ないじゃないか。3人の命で名刀が手に入るなら安い物だ。ってね。最初から知っていたのよ。伊藤梼刀到の恨みも刀場屋との因縁もね。凄く有名な話だし。知っていた上で無理矢理押し付けた」
「そうなんですね」
「ただ、安久苛さんもその事に気がついていた。だから一人山奥に籠って刀を研ぐって言ったけど本当は折るつもりだった。ミスだって言ってね。身体を乗っ取らせそうになって抑え込む為にってね。その代償に腕の一本くらいは差し出すつもりでね。折られたら困る依頼主さんは夜中にこっそり持ち出して雀さんの枕元に置きました」
「それが経緯ですか。それでその後はどうなったんですか?」
「それはどっち?」
「どっちもですがどちらかと言えば刀場屋さんですね。私が関わったのはそっちなので」
「依頼主とは縁を切って普通に生活いているよ。裏稼業から完全に手を引くことは出来てないけど苦無白が無理矢理何かを強制することは無いからね。依頼主の方も変わらず。思惑とは違っても伊藤梼刀到は成仏した。目的は達成。めでたしめでたし」
「信用は?依頼した方の信用は無くならないんですか?」
「権力があるからね。暫くはそのままでしょ。ただ紗月ちゃんの言った通り信用は失った。権力があるうちはいいけどこの後はどうなるかな。それは未来予知でも出来なきゃわからないよね」
「教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。そうだ!余計なお世話しちゃったお詫びにもう一つ紗月ちゃんに関わる事を教えてあげよっか。昨日私が受けた仕事に関わる事なんだけど」
「…大丈夫です」
「あらいいの?」
「母が私に話さないのならそれは話す必要が無いと判断しているからだと思います。もし必要になるなら話してくれると思います。だから今私が効く必要はないです。刀場屋さんの話は私が関わったので聞いた方がいいと判断しましたがその話は関わる事が無いと思うので」
「あなたの好きな人が関わる話でも?」
「え?」
騙士瞞死さんはとんでもない事を言い出した。




