麗華の指摘と詩織と行きたい所
部屋に帰って本を置いた途端麗華が話し掛けてきた。
「あのさ、言いにくいんだけど」
「何よ、言いたい事あるなら言えば。はっきり言わないなんて麗華らしくないよ」
「別に、私だって気を遣うし」
気を遣う。成程さっきの事だな?
「先に言っておくけど私はね、積極的に作らないだけで友達はいるからね」
「ねえ、紗月ってさ自分は取ろうと思えば上手くコミュニケーション取れるって思ってない?」
「…そんな事ないよ」
なんか思ってた方向と少し違う所から刺されたんだけど?
「あのさ、言いたくないけどさ、コミュニケーションは普段から取ってないと無理だからね」
「わかんないじゃん」
「余計なお世話かもしれないけどさ、もうちょっと自分から取って行った方がいいと思うんだよね」
「必要なら自分から行くから大丈夫だよ」
「入試とか就活で面接あるでしょ」
「あるね」
「ああいうのってさ、ある程度質問内容決まってるじゃん。それでも練習するのに話の内容決まってない普段の会話をいきなり出来ると思っているの?」
「そんな事ないって言ってるじゃん」
「特にさ、紗月は流行りとか乗る気はないし、人に合わせてアニメ見るとかする気もないでしょ。自分から話題振る気もないし。それでもやっていけてるからいいとは思うけどさ、この先もそうとは限らないよ」
そろそろ言葉の刃が私の許容量を超えそうなのでやめて貰えませんか。
「大丈夫麗華、人間関係はお金で何とかなる」
そうサムズアップする私を見る麗華の目は冷え切っていた。
「……金の切れ目が縁の切れ目って言葉知らない?」
「勿論知ってるけど。でもさ別にそれでよくない?むしろさ、お金で切れない縁のほうが厄介じゃん」
「頭痛くなってきた」
「幽霊でも頭痛くなるんだ」
「実際に痛い訳じゃない。そんな気がするだけ。それで、理由は?」
「ほらさ、物やお金で切れる関係はさ、あとくされないじゃん。気楽だし。でもさ、家族とか友達とかそういう切れない関係はずっと着いてくる。私はさ大切な人は守りたい。けど、私が守れる人は多くない。それに多分だけど私がずっと付き合っていけるのは両手で収まるくらいだと思うの。ならその人たちだけを大切にしていけばいいと思うの」
「…なんか色々間違っている気がするし、考え過ぎだと思うけどまあいいや。取り合えず友達作りな」
「いるじゃん。詩織」
「ナ組は?」
「友達だね。…多分」
「紗月の友達の基準って何?」
「…5回遅刻してきてもまあいっかって思える人?」
「…友達の基準だよね?」
「…うん、そうだね。これで」
「そっか。うーん。そっかあ。ねえ趣味が合う人とか気が合う人は友達じゃないの」
「…友達だね。多分」
「多分なんだ。ちなみに遅刻5回はどういう理由?」
「遅刻してくるやつってムカつかない?あ不可抗力は別ね。3回されると殺気湧くよね。ほんと自分から誘っておいてさ、遅刻した上ろくに謝らないし。そのくせ次も平気で誘って来るの神経疑うよね。そもそもさ、遅刻するってのはさ、こっちの時間を無駄にして奪っているって事でしょ」
「ちょっと私怨混ざって来てるよ」
「あ、ごめん。兎に角さ、5回遅刻されても関係切りたくない相手は友達だと思うの」
「今の所それに該当する相手は詩織と家族以外にいるの?」
そう言われて考える。…いない?麗華はまあぎりそうかな?そう考えると私にとって例は友達になっていたのか。らなはどうなんだろう。友達なのは間違いない。だけど遅刻5回は許せるのかなあ?
「その様子だといなそうね。まあそんな気がしてたけど。紗月にとって話が合ったり一緒に居て楽しいと思えたりする相手はどういう存在?」
「……友達だね」
「…よしこうしよう。その遅刻5回は親友に格上げね」
「んー。まいっか。別に支障ないし」
「それで気が合うみたいな人は普通の友達って事で。紗月、あんた友達を作りなさい」
「やだ、めんどい」
「…そう」
「気が向いたら考えるから」
「まあなんか紗月はそれでいい気がしてきた」
最後に少しあきれた声で呟いた麗華は図書館で借りてきた本を読み始めた。
月曜日。私は学校に向かいながら詩織と話していた。何となく気だるい朝でも詩織と話すと気分が晴れる気がする。
「今日玲奈達とらなでカラオケ行くんだって。ナ組の交流会だって」
土曜日も遊びに行っていたのに?というからなカラオケばっかりじゃない?
「へえカラオケかあ。私もこの前行ったなあ」
「そうなの?紗月が?珍しいね」
「そうでもないと思うけど」
「誰と言ったの?」
「えっと、らな」
「意外。いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「まあ色々あって。実は親同士が知り合いだったみたいでこの前家に来たの」
「へえー。それでカラオケ行ったんだ。ちょっと嫉妬するかも」
「嫉妬?何で?」
「秘密」
「何それ」
「私達もカラオケ行く?」
「…遠慮します」
「えーらなとは言ったのに?」
「歌あんまり得意じゃないんだよね」
「えー充分上手いよ。後は少し音程合わせれば完璧だって」
詩織とは何回かカラオケに言った事はある。二人きりで行った事はないけどクラスの人やナ組の皆に誘われて行った。私は出来るだけ歌わずに盛り上げ役に徹していたけど流石に数曲回ってきてしまうので無難な曲を歌っていた。でもしっかり憶えられているの恥ずかしいんだけど。
「それ褒めてるの?」
「勿論」
「ならいいけど」
「気になるなら今度一緒に練習しようよ」
それは魅力的な提案だけどどうしよう。練習と言っても結局詩織の前で歌う事になるよね。
「それ以外にしない?」
「いいよ。何にする?」
「うーん。詩織は何がしたい?」
「紗月は?」
「私は特にないかなあ。詩織が行きたいとこ行こうよ」
「えーずっとそうじゃん」
「そんな事無いよ」
「あるって」
「無いけど」
「えーまあいいや。少し考えておいてね」
そう言って詩織は家の方に向かっていった。え?どうしよう。
この話は書いていて自分でダメージを受けました。
皆さんの友達の基準は何ですか?




