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らなとの別れ

 母から指定されたカラオケボックスへ行くと既に田原(たはら)さんが居た。氷冷秘(ひさひめ)さんにカラオケの仕方を教える。そして4人で歌い明かした。何回か付き合いでカラオケに行ったことはあったけれどその時は余り歌わなかった。人前で歌う事は余り好きじゃない。恥ずかしいし。それに余り上手くはない。音痴ではないはずだけど。けど今日は別だ。氷冷秘さんの為にも盛り上げないといけない。

 麗華(れいか)も歌っていた。麗華上手い。結構多彩なのかも。田原さんも上手い。プロクラス。どっちも90点台後半当たり前で100点も何回か出している。凄い。

 氷冷秘さんはリズムに上手く載せられず点数は高くないけれど、声はとてもきれいだ。それにとても伸び伸びと歌っている。

 3人に比べると私は音を合わせる事に集中しすぎていると気がつく。そっちに集中しすぎてあんまりうまく歌えていない。少し恥ずかしくなるけど、氷冷秘さんみたいに堂々と歌う勇気はない。このまま歌おう。


 流行りの恋愛ソングを歌っている時にふと気が付いた。今日失恋したのは氷冷秘さんだけじゃない。私と麗華もだ。詩織(しおり)に好きな人がいる。それはつまり私達の恋が叶わなくなった事を意味する。

 そういえば麗華は振られる事がわかっていたと言っていた。好きな人がいる事を知っていたのかもしれない。それでもきっとどこかで詩織と付き合いたいと思っていた。死んで幽霊になってもその思いは消えない。私はそう思う。だって詩織の側にいる限り想いは消せないから。だって私がそうだから。もうこの先告白する事は出来ない、しないと決めたのに詩織と付き合う事を考えてしまう。むしろ無理だと思うからこそ強く。

 ここにいる3人は今日同じ人に振られた。きっと暫くは吹っ切れない。それならせめて自分の思いを歌おう。そして私は歌った。失恋の歌を。

 結局1時間半くらいじゃ歌い足りなくて家用のカラオケを使って家でも続きをする事にした。カラオケの機械は田原さんが持っていた。意外。もしかしてカラオケが趣味なのかもしれない。結構ノリノリで歌っていたし。

 歌い疲れたら、買ってきていたジュースを飲んでお菓子を食べて、適当な映画やアニメを見て。一晩中騒いでいた。

 

 朝6時。流石にそろそろ解散しようとう事でお開きになった。らなはこのまま荷物を纏めて昼過ぎの電車で帰るそうだ。

「ありがとう。楽しかった」

「私も。短い間だったけど遊べてよかった。またこっちに来るときは連絡して。遊びに行こう」

「その時は私も付き合う」

「絶対連絡する。紗月も麗華もまたね。田原さんもありがとうございました」

「いえ、こちらこそ楽しかったです。またお会いしましょう」

「はい」

「それではお送りします」

 いつの間にか来ていた(気がついた時は田原さん以外はびっくりして声をあげてしまった)北野(きたの)さんに連れられてらなは帰っていった。

「これでお別れか。一日くらいしか会っていないのにちょっと寂しいね」

「うん。台風みたいだった」

「そうだね。凄い勢いで。どっちかって言うと吹雪みたいな子」

「それ上手い事言ってるつもり?」

「うるさい」

 そんなくだらない話をしながら二人で少し笑い合った。今の寂しさを誤魔化すために。

 一晩で名前を呼び合えるくらいに交流を深めたのにもう別れてしまうなんて。一昨日までは居なかったからそれが普通のはずなのに寂しく感じる。

 1時間だけ寝て。朝は食べずに学校へ向かう。送ってもらう車の中でも軽く寝る。夜散々お菓子を食べたからかお腹は殆ど空いていない。

 眠気と戦いながら教室に入る。

「おはよう」

「おはよう」


 そう答えながら声を掛けてきた方を向くとそこには恥ずかしそうな顔をしているらながいた。


紗月に限らず苦無白は初恋するまで恋愛感情を抱かないので恋愛に関しては大体鈍感のつもりで書いています。恋愛感情を抱かないので直接告白でもされないと自分を恋愛対象として見られているとは思っておらず、自分が誰かを好きになった時は戸惑って変な行動に出る人が大半です。


まあそれはそれとして紗月は鈍感で麗華は何言ってんだと思いながら見ています。


次回更新ですが数日忙しいため14日投稿になる予定です。申し訳ありません。

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