振られだ!
ただ泣いているんじゃない。思いっきり泣いている。ギャン泣き状態だ。え?この状態でここまで歩いてきたの?他の人に見られてない?それなら可哀そうだけど。
「あの、取り合えず中に入って」
「お邪魔します」
一先ずリビングに通してペットボトルのジュースとハンカチを渡す。これどう話し掛ければいいの?
「ありがとう」
「涙拭いて。大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「なんか抑えきれないって感じで玄関前で泣き始めた」
それなら一先ず他の人に見られてはなさそうだ。良かった。まだ泣き続けている氷冷秘さんを見守る。見守ると言っても何と声掛けしていいのかわからず落ち着くのを待っているだけだけど。ギャン泣きしている人を見るなんて何年振りだろう。
体感15分。実際には5分。人厳密には雪女だけどが泣いているのを見るのは気まずくて時間の流れがゆっくりに感じる。
落ち着いた氷冷秘さんに声を掛ける。
「大丈夫。何かあったの?」
「うん。ハンカチありがとう。洗って返すから」
「気にしなくていいよ。そのまま洗うから」
そう言って回収する。まあ洗うのは私じゃないけれど。
「それで?何で泣いたの?」
「振られた」
「え?」「何?」
「振られだ!」
目に涙をためながら叫ぶように氷冷秘さん。振られたって事は失恋したって事だよね?詩織に。本当に告白したんだっていう驚きと詩織が振ったのという驚き。詩織は直ぐに振る事はしないで少し考えさせてみたいな感じで対応すると思っていた。そして真剣に考えて答えを出すと。
「ふ、振られたの…?」
「うん、最初にさ、理科準備室で告白したらごめんなさいって」
え?あそこで告白したの?つい麗華と顔を見合わせてしまった。氷冷秘さんそれは駄目じゃない?雰囲気とか何もないし。
「最初はあそこで告白するつもりなんてなかったんだけどさ、詩織、私の事を憶えていてくれた。嬉しくて。忘れられているって思っていたから。それで告白しちゃった」
テンション上がっちゃったんだね。詩織も氷冷秘さんも凄いな。よくそんな昔の事憶えているなあ。
氷冷秘さん振られた事思い出したのかまた涙がこぼれ始めた。さっきとは違うハンカチを渡す。
「私さ、目が白いじゃん?ぞれで皆ど遊んで貰えなくてさ、遠巻きにされてだしさ、でも詩織だけは私の目が可愛いって綺麗だって言ってくれたの。いつも遊んでくれたし。ずっともう一度会いたいって思っていたの」
そっか。氷冷秘さんにとって詩織との思い出は大切な物だったんだ。ずっと忘れないくらい。
「ぞれでとりあえず再開を祝って、どっか行こうって誘ってボウリング行ってカフェ行って服買いに行って」
凄い何か所も行っている。振られた直後に遊びに誘うの凄いメンタルだ。私にはまねできない。そして詩織も行ったんだ。気まずくなかったのかなあ。
「帰りにもう一度告白じたの」
「え?」「嘘でしょ?」
もう一度告白したの?もう一度?数時間前に振られていたのに?氷冷秘さんのメンタルが凄すぎる。真似できないとかいうレベルじゃない。凄すぎる。
「最初はさ、雰囲気とかあんまりよくなかったかなって、それでデートして交流を深めて帰り道に告白したの」
振られたの雰囲気の問題じゃなくない?まあそんな事言えないけれど。
「その時にね、好きな人がいるって言われだ」
え?好きな人?詩織に好きな人?詩織に?好きな人?詩織に好きな人がいるの?
嘘でしょ?本当に?衝撃が凄い。泣きそうなんだけど。私一人だけなら間違いなく泣いていた。
そっか…。詩織には好きな人がいたのか。誰なんだろう。羨ましい。
「私はね、本命じゃなくてもいいし、二股でもいいし、身体だけの関係でもいいからって言ったんだけど友達でいたいって」
凄い事言ってるなあ。
「そっか。振られたんだね。この後どうするの?」
こういう時に慰めるのも、頑張ったねって言うのも間違っている気がする。相手を貶めるのも絶対に無し。それなら話を聞いて、気分転換に付き合うのがいいと思う。
「帰る」
「そうだね。もう遅いし、転校してきたばっかりだしね。今日は帰って寝て」
「違う。里に帰る」
「え?」
「明日の朝一に帰る。詩織に振られちゃったし。もう居る意味ないから」
それいいの?って思うけれど私が言えることは無い。
けど、折角転校してきたのに振られた記憶だけで帰るのは勿体ない。悲しい記憶だけではなく、少しでも楽しい思い出も持ち帰って欲しい。
「ねえ、明日帰るならさ、今から何処か遊びに行かない?」
「え?」
「折角知り合えたのにもう別れるなんて寂しいじゃん。何処か行きたいところとかないの?」
「それならカラオケ行ってみたい…。人前で歌った事無いから上手いかわからなくて詩織は誘えなかったの」
「良し。じゃあカラオケ行こう。今夜はオールだ」
「未成年は無理だぞ」
「あ、そうか」
「…だよね」
「北野さんか田原さんが参加してくれれば22時まで行ける。それか清水先生」
「そっかその手があった。先生は忙しいでしょ。お母さんに連絡してみる」
「カラオケから帰ったらここでおやつでも食べながら騒ごうよ。映画でも見る?」
「いいねそれ。そうしよう」
「氷冷秘さんはどう?」
「うん。私もしたい」
「じゃあ決定だ」
早速母に連絡すると田原さんが来てくれることになった。
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