氷冷秘さんとの密会
氷冷秘らな、そう名乗った転校生は白かった。髪の毛は黒いし、制服も紺色。目以外は別に白くはない。けれど纏っている雰囲気が白い。抽象的だけれどそう感じた。
背は私と同じくらいで髪の毛は首元まで。見た目は中世的で胸が無ければぱっと見では性別はわからないかもしれない。黒目が白く輪郭のみ黒い。その目以外は普通の人間にしか見えない。
静まり返った教室は理奈の「揃った!」という叫び声でいつもに戻った。
清水先生が理奈を注意して教室に笑いが起こっていたけれど、多分クラスのみんなが揃ったと思っていた。ナ組のラ行が揃った。これはどのくらいの確率なのか?わからないけれど奇跡に近い確率に違いない。というか多分転校が決まった時点で先生たちも名前でクラス決めたでしょ。
その後は言葉数少なく自己紹介してホームルームは終わった。
小学生の頃は転校生だと言えばクラス中大騒ぎだった。流石に高校ともなれば大騒ぎとはならないけれど、やっぱりホームルームが終わったらすぐに何人かの女子が話し掛けに行っていた。理奈とロナも話し掛けに行っている。恐らくナ組をピーアールしているのだと思う。友達が出来るのは私としても嬉しい。上手く行くといいな。
横目で様子を見ている分には普通に会話している。この調子なら問題ないんじゃないか。母の心配も杞憂で終わりそうだ。良かった。
それよりも氷冷秘さんをじっと見つめる詩織の方が気になる。気のせいだといいのだけれど目に熱がこもっている気がする。まさか一目ぼれなのか?詩織はこういう子がタイプなの?違うといいけれど、こういった子は今まで身近にはいなかったし。気になる。
「紗月、どうかした?」
「え?どうかって何が?」
「考え事しているみたいだった。それに氷冷秘さんの方見ていたけど」
「え?そんな事無いよ。キノセイダヨ」
「そう?」
どっちかというと詩織の方が見ていませんでした?凄く気になるんですけど?
「聞けばいいじゃん」
麗華、こっちの心を見透かしたように話し掛けてくるのやめてくれない?反応しそうになるの。まあわかっていてちょっかい掛けてきているのだろうけれど。
お昼休み。ナ組と詩織に今日はちょっと用事があるからと断りを入れて教室を出る。氷冷秘さんは先に先生と話があるからとお昼の誘いを朝の時点で断っていた。既に教室を出て行っている。
一応麗華も誘ったけれど「お母さんが紹介したいのは紗月だし私がいるのは変でしょ。また今度紹介して」と断られた。まあ麗華の言う事ももっともだ。
という事で私は一人で氷冷秘さんが待つ教室へと向かっている。母に指定された教室は旧棟3階の理科準備室。準備室と言っても授業で使うものは既に移しているので、開いている棚と備え付けの机と椅子があるだけだ。普段はまず使われる事のない部屋。旧棟は古く一階以外は殆ど掃除もされていない為、まず人が来ることは無い。ギシギシと鳴る階段をのぼり理科準備室をノックする。「はい」という声がしたので入ると氷冷秘さんがいた。
「失礼します。えっと苦無白紗月です。よろしくお願いします」
「氷冷秘らなといいます。お母様には里の皆お世話になっています。よろしくお伝えください」
「わかりました。私が何かしている訳ではないので敬語は止めて欲しいです。クラスメイトでもあるので」
「そうですね。じゃあタメ語で」
「うん。改めてよろしく。氷冷秘さん」
と、ここまでは順調だったけれど、この後が困った。話題が無い。こういう時って何を聞けばいいの?小学生なら好きなアニメとか食べ物とか聞けばいいけど、高校になってもそれ聞くの?
よし、ここは放課後カフェにでも誘おう。交流を深めるのにも丁度いいし。
「えっと」
「私は雪女」
「え?雪女?」
「そう。種族気になっているでしょ。まあ種族ってくくりに抵抗はあるけれど」
「あ、そうなんだ。教えてくれてありがとう。でもいいの?隠しているんじゃ」
「別に隠していない。それより紗月さんは詩織とどういう関係」
「え?詩織?」
何で詩織の名前が出てくるの?詩織の事知っているの?名前呼びなの?呼び捨てにする関係なの?そういえば詩織も氷冷秘さんの事見ていた。知り合いって事だよね?いつから?麗華が特に反応してなかったって事はかなり昔からの知り合いって事?
そんな事をグルグルと考えていると氷冷秘さんが少し近づいてきた。
「詩織との関係って言えない関係なの?」
「あの、友達です」
「嘘」
「嘘じゃないですけど…」
「目を見てればわかる。あなたも詩織も友達を見る目じゃなかった」
そんなこと言われても、確かに私は詩織の事が好きだけど…。詩織から見た私が友達じゃなければ何?共犯者かなあ?
というかどういう目なのそれ。そんな目で感情読み取れるものなの?観察眼凄くない?いつ見ていたのよ。私目は口程に物を言うって諺全く実感した事無いから嘘だと思っていたんだけど。
「そう言われて本当に友達です」
「…そう」
絶対納得してない!この反応。気のせいかもしれないけれど教室が寒くなっている気がする。氷冷秘さんの気迫に押されているせいかなあ。
「あの、氷冷秘さんは詩織と知り合い何ですか?」
「そうだけど」
どういう関係か聞きたいけど聞いていいのかなこれ?あと絶対寒くなってる!きのせいじゃないよこれ。だって息が白くなっているもん。窓も白くなり始めているし。
これどうすればいいの?氷冷秘さんが原因だよね?多分。
これそのままにしていたら凍え死なない?やばいよね!意を決して声を掛けようとした時だった。




