翌日
時計を見ると10時ちょっと。寝たのが3時過ぎだったので7時間くらい寝ていたことになる。しっかり寝ることができたよう一先ずで良かった。
「おはよう。気分はどう?」
「紗月おはよう…。昨日の事って夢じゃないよね?」
「うん。そうだよ」
「そうだよね。やっぱり…そうだよね…。ごめん」
そう言うと詩織は部屋を飛び出した。
慌てて追い掛けるとトイレのドアを閉める事もせずに吐いていた。昨日は起きている事が現実ではないように感じていて、一晩経ってようやく麗華を殺してしまったという実感が出てきたのだろう。
ゆっくりと詩織の背中を擦る。吐くと言っても昨日の夜は何も食べていない。胃液のような液体が出ているだけだ。
少し経つと詩織はよろよろと立ち上がって部屋へと戻った。
うがいしなくていいのと聞きかけて止める。そんな事気にしている気分ではないのだろう。
暫くどちらも何も言わずに沈黙が部屋を支配している。何とか元気づけようとして声を掛ける。
「まあもうしちゃったことはしょうがないから、少しずつ切り替えていこう。すぐには難しいだろうけれど私もできることはするから。それに、私が主導で死体を処理したんだから私も同罪。一人で抱え込まないでなんでも言って」
「ありがとう…」
今言うべきではない事、間違ったことを言っている気がする。言ってすぐに後悔してしまう。何を言うべきなのか分からない。話題を変えよう。
「お腹空いてない?何か買ってこようか?台所と食材借りていいなら何か作るけど」
「ううん。いらない…。食欲ない…」
「そうだよね。気分が悪いならもう少し寝ていたら」
「大丈夫…。もう少し一緒に居て欲しい」
「勿論。ただ15時過ぎに母が帰ってくるから一度帰んなきゃいけないんだよ。ごめん。それに詩織のお母さんも今日かえって来るよね?さすがに泊まることはできないよね…」
「そうだね…。そうだよね…」
「ギリギリまで居るし、明日朝一でまた来るから」
「ありがとう…」
そうして私は14時半頃まで一緒に居た。
詩織は殆どの時間何かを考え込むようにうつむいて黙っていた。きっと、なぜこんなことになってしまったのかという思いや間違ったことをしてしまったことへの後悔、これからへの不安など様々な考えがまとまらずに渦巻いているのだろう。
私はあえて何も言わず背中を擦っていた。途中お菓子を差し出すと少しだけ食べたので少し安心した。
「明日また来るから、今日は無理しないで。お母さんには体調悪いって言えばいいと思うよ」
そう告げて家に帰る。できれば今日も泊まりたいが、詩織の母は決して悪い人ではないけれど、急に泊まりたいと言って許してくれる性格じゃない。変に説得しようとして怪しまれることも避けたい。泣く泣く帰る。