新しい日常形?
窓から入って来た麗華が机の上を見て声を掛けてきた。
「これ、『あなたの心臓鷲掴み♡』の最新刊?」
「そうだよ。12巻」
「新刊買うほどはまったんだ」
「うん。結構面白い」
「良かった。練伊部が生き返ったところ驚いたでしょ。まさか」
「あ、待ってそこまで読んでない」
「え、じゃあ何で新刊買ったの?」
「麗華が読むでしょ?」
「え?」
「読まないの?」
「そりゃ読みたいけど」
「じゃあ読めば。その為に買った訳だし」
「私の為に買ったって事?」
「半分はね。私といれば読めるでしょ。部屋の漫画は好きに読んでいいから」
「ありがとう」
「麗華はずっと暇でしょ?」
「まあする事無いし」
「だからせめてこの部屋くらいでは少しは好きな事出来たらいいなって」
「ありがとう」
「それとね、何かあった時私が優香さん殺すから」
「そう」
「その後、私の事を殺してもいいから」
「いやいいから。でも何で急にそんな事言い出したの?」
「一連の件、私は何も出来なかったし、覚悟も出来ていなかった。その負い目。私なりの覚悟。後、詩織が変わりたいって言ったでしょ。それで私も少しは変わらなきゃいけないかなって」
「それで考えた結果が人殺しな訳?」
「ちょっと違うかな。家族と詩織の為なら何でもやろうって改めて決めた」
「成程ね」
「一応言っておくけど、優香さんを殺したい訳じゃないかね。むしろどっちかというと殺したくない方だし。まあ、出来れば誰も殺す必要がなければそれに越したことは無いけど」
「あっそう。それでその後、私に殺していいって何?死にたいの?」
「まさか。絶対やだよ。でも、殺すなら殺される覚悟は必要でしょ」
「まあそれはそうね。でも私はあなたを殺す気はない。詩織を守ってもらわなきゃいけないしね」
「それはありがたいけれど、本当にお母さん殺しちゃうかもしれないよ。いいの?」
「いいよ。もしその時は私も手伝うから」
「え?本気?」
「紗月とは共犯みたいなものでしょ。それにあなただけに罪を背負わせる気はない」
「そう。でもお母さんだよ」
「前も言ったけれど、私は詩織の方が大切。それにあなた一人で人殺し出来るの?」
「…頑張る?」
「無理でしょ。私が身体を抑えているからその間に仕留めればいい」
「成程」
「まあ、流石にあいつも馬鹿じゃないから言いふらすことは無いと思うけど」
「同感。麗華はもし私が詩織の為に何かするなら手伝ってくれる?」
「今更それ聞く?あたり前でしょ。詩織の為なら殺人でも手伝うわよ」
「ありがとう。そのかわり私もあなたの頼みは出来るだけ聞くから。欲しい漫画とかあったら言って」
「ありがとう。じゃあカクテル・ミュージックで曲を作って」
「無理」
「おい」
「いや私は音楽のセンス無いから。前にやった時、詩織苦笑いしていた」
「言い方悪かった。私が作りたいからアプリだけ貸して」
「それならいいよ」
「アカウントできれば私の使いたいんだけど…」
「別にいいんじゃない。人気だったんでしょ」
「あ、母さんにあげちゃった。もしアカウントにログインしたらばれるか」
「いいでしょ。幽霊としている事知っているんだし」
「まあいっか。…まあまだ現世にいるってことくらいは教えてやるか。見ていないかもしれないけど。少しお金入ってくるし。親孝行してあげる。何かあった時はその時考える」
「そうだね。私も一緒に考えるよ」
「…このアカウント、警察把握しているかな?」
「あーあり得る。ちょっとお母さんに確認する」
「お願い」
母にメールを送って一時間。返信が来た。メッセージは短かった。『好きに使っていいよ』それだけ。母がいいというのだから遠慮は必要ない。
「いいって」
「良かった。あいつに使っていいって言っちゃってたから。駄目だったらまた迷惑かけてた」
その後、パソコンを使って早速一曲作ったけれど、私は途中でギブアップした。似た音を聞きすぎて頭がくらくらした。麗華は作りかけの曲があったらしくそれを完成させて投稿していた。もう麗華に任せて私は耳栓しながら漫画を読んでいた。幽霊にイヤホンはつかえなかった。耳にははまるのに音は出てくる。物は触れるのになぜだろう。
ちなみに最初は私が少しだけ作ってみたけれど、一言ゾンビの乾嘔大合唱と言われて止めた。なんだそれ。
もう少しでこの章は終わる予定です。




