薬の材料
「手伝うよ」
私は継ぐ。一度道を踏み外した。それも詩織を巻き込んで。一度してしまったのなら後はもう同じような物だと思ってしまう。詩織には真っ当な道を歩んで欲しいし、天国に行って欲しいけど私はどうでもいい。
詩織との将来を諦めて投げやりになった部分もないとは言えないけれど、裏の世界は正直魅力的だ。そんな動機で犯罪に手を染めようとしている時点で私はクズなんだろう。
それでもいい。私は決めた道を進もうと思う。
それに私は薬や幽霊、霊媒師という未知の世界を知ってしまった。好奇心を抑えきれず、いずれ裏の世界に足を踏み入れる。そう感じる。それなら早い方がいい。
「わかった。じゃあ早速一つ教えてあげる」
「何?」
「薬の原料について」
凄く気になる。けれど、聞いてしまって大丈夫なのだろうか。
「それ言っちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫よ。聞いたところで今のあなたじゃどうしようも出来ないから。それに誰かに話しても戯言だと思われるのが落ちだから」
「わかった。じゃあ教えて」
「原料の一部にはね、妖怪が使われているの。あ、勿論妖怪以外も使っているけれど一番多いのが妖怪ね」
「はい?」
「まず妖怪がいるってことは学校で習っているよね」
「そりゃまあね」
「幽霊とか薬見ているから、今更妖怪がいる事には驚かないでしょ」
「いや…まあうん。…やっぱりすぐ受け入れるのは無理かな」
「勿論、妖怪を脅したり、無理矢理捕獲している訳じゃないよ」
私の意見はスルーして、話が進んでいく。もう受け入れるしかないのだろう。
「じゃあどうしているの?そもそも妖怪を使うってどういう事?」
「私たちはね、妖怪とかそういう人ならざる者達と業務契約をしているの。それで薬の原料を提供してもらう代わりに彼らが望むものを提供しているの。まあ色々ね。お金とか物とか住処とか住民票とか死体とか」
「そう」
ナチュラルに物騒な言葉が出てくる。まあ慣れていかないといけないのだろう。
「例えばだけどね、死体を蒸発させる薬には吸血鬼の血を混ぜているの。あれって正確には霧になって霧散しているのよ。吸血鬼って霧になって消えるでしょ。その特性を利用しているの」
「吸血鬼ってそういう存在だっけ?そもそも血があるの?」
「あるよ。妖怪とかそういう存在は人の想像によって変質していく存在なのよ。だから、昔と今では少し違う存在になっているの。昔の伝承と今の創作世界で触れられる存在は違うでしょ。それに多少なりとも影響受けているのよ。まあ後は色々混ぜてね。配合は企業秘密。後は魔法も使っているよ。他にも前話した惚れ薬にはサキュバスやインキュバスの体液を使っていたり、死体を溶かす薬には山姥の胃液を混ぜていたり色々あるのよ」
「そうなんだ」
それしか言えない。魔法まで出てきた。
「私も祖先がどういうきっかけでこの仕事始めたのかは分からないけど、代々築いた人脈があるからこそ今があるのよ」
「そっか」
「後これも言ってもいいか」
「何?」
またとんでもない事を言われる気がする。少し聞くのが怖い。
「これはあくまで憶測の事ね。片桐家の祖先には人外の血が入っていると思う」
「え?」
「霊媒師とか超能力とかそういう力を使える家系はそういう事が多いの。妖怪とかの一部の力を遺伝で受け継いでいたり、妖力が多かったりね。一代だけなら突然変異だけど、代々続く家系ならほぼ間違いない。続いていく内に血が薄れて行って力が使えなくなるのも特徴。片桐家が廃業していることからも間違いないと思うわよ。」
「なるほど」
そういえば、呪文に狐と言う字が入っていた。狐の妖怪とか精霊とか関係あるのかもしれない。
「もしかしたら私たちもそうかも」
「そうなの!?」
「いやわからない。祖先の事調べて全然分からないんだよね。呪いの事とかも。さっきも言った通りきっかけも分からないし。まあ苦無白の家系は能力使う家系じゃないし、血が薄れるとか関係ないから大丈夫でしょ」
なんか凄い話を聞いているようだ。着いて行くのが大変だ。憶えなきゃいけない事も多い。
「後、案外ね裏稼業やっている人は身近にいるのよ。私も表の顔あるしね。その内紹介していくから」
「わかった」
色々と変わっていく生活だけれど、今を大切にして生きていきたい。そう心に誓った日だった。
外国の妖怪もひとまとめで妖怪としています。




