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詩織2 悩み

 麗華(れいか)にはどんな事も相談出来た。家族と同じくらい信頼していた。

 だから紗月(さつき)を好きになった事も相談した。まさかあんな事をするとは想像していなかった。それでも麗華(れいか)は一番の親友だという思いに変わりはない。変わらなかった自分に少し驚いた。


 麗華(れいか)を殺してから少し経った後、優香(ゆうか)さんが働いていると聞いていたスーパーマーケットにいった。家からは少し遠くて普段は行かない店。母から特売に付き合って欲しいと言われたから行った。

 正直、優香(ゆうか)さんを見るまでその事は忘れていた。大分前に一度麗華(れいか)から聞いただけだったし、優香(ゆうか)さんを見たことも数回だけだ。それも写真だった。

 それでも、棚に向かって何かの作業をしている優香(ゆうか)さんを見た時にすぐに麗華(れいか)のお母さんだと分かった。雰囲気がすごく似ている。私は優香(ゆうか)さんを見て立ち止まっていた。


 母に話しかけられてその場を去ったものの、優香(ゆうか)さんの顔は私の脳裏に焼き付いていた。一見平然としていたけれど、悲しそうな苦しそうな顔をしているように見えた。

 私は中学の夏休みの時、バスケットボールの時に麗華(れいか)が私が悲しんでいる事に気が付いてくれた事を思い出していた。ステラが死んだ時の事も。

 優香(ゆうか)さんは麗華(れいか)が死んだ事を知らないまま生きていく。それはどれだけ苦しい事なのだろうか。いつまでも麗華(れいか)が帰ってくるのを待ち続けるのだろうか。それとも忘れて生きていくのか。忘れられる訳がない。きっと待ち続ける。


 麗華(れいか)があの日、何故私を刺そうとしたのか私には分からない。いくら考えても答えが出ない。けれど、殺す気はなかった。そう確信している。包丁を出した時からわかっていた。きっと殺す気はないって。勿論、向けられた包丁は怖かったけど、麗華(れいか)に対しては何もする気はなかった。

 なんとなく、刺されるのだろうと思っていた。なのに気が付いた時には麗華(れいか)を刺していた。麗華(れいか)紗月(さつき)と別れろと言っていたけれどあれが本心とは思えない。

 麗華(れいか)は私のどんな小さな変化にも気づいてくれていた。だから、紗月(さつき)と付き合っていない事は気が付いていたと思う。それに、麗華(れいか)の目には憎しみを感じなかった。もう麗華(れいか)に本心を聞くことは出来ないけれど、きっとあの行動は私の事を考えて事だった。

 根拠は何もないけれど、私はそう信じている。それともこれは現実逃避なのだろうか?わからない。答えは出ない。


 刺してしまった事に関しては麗華(れいか)が悪い。正直そう思う。けれど、その後の事は自分で決めた事だ。

 紗月(さつき)は提案したけれど、決して強制はしなかった。私の意志に委ねてくれた。そこで警察を呼ぶことも出来た。家族に連絡する事も。それが正しい道だったはずだ。けれど、私はそこから逃げた。

 紗月(さつき)が家に薬を取りに行っている間、私は少し冷静になっていた。その上で決めた。

 家族の為、自分のせいではないからと言い訳して責められる事から逃げた。だから後の事は私の責任。そう思うと同時に麗華(れいか)のせいでこんな事になったという思いが湧いてくる。これは多分一生消せない。


 刺した時の事を思い出そうとしても思い出せない。身体の感覚が無くなったような意識が消えたような不思議な感覚。今までも何回かあった。例えば、ナンパされた時。気が付くと逃げ切っていた。息が切れるほど走っていたはずなのに覚えていない。火事場の馬鹿力かと思っていた。

 けれど、もしかしたら違うのかもしれない。何となく自分が自分でないような感覚。ただもうどうでもいい事。私が殺した。その事実は変わらない。それだけが重要な事。


 麗華(れいか)を殺したことから数日で立ち直りつつある自分が何度も怖くなる。段々とあの日の言い表せない感覚が自分の中から消えていく。何度も吐きそうになったのに日に日に少なくなっていく。

 ご飯の味を感じなかったのにいつの間にか戻っていた。悪夢を見る事も減った。人を親友を殺したという事から簡単に立ち直りつつある自分の事が怖くなる。


 紗月(さつき)といると心が落ち着く。離れたくないという気持ちが強まっていく。そんな自分に自己嫌悪する。紗月(さつき)といる資格はない。でも一緒に居たい。自分がどうすればいいのかわからなくなる。そんな様子を気にかけてくれる紗月(さつき)と更に離れたくなくなる。そんな自分がより嫌いになるというループが続く。


 紗月(さつき)が何故あんな薬を持っているのかは分からない。それに紗月(さつき)は私に隠して何かをしている。最近は私に隠れて何かをしている。

 紗月(さつき)の前で寝るつもりもないのに二度も眠ってしまった。いくら精神的に疲れていても絶対にそんな事はしない。何をしているのかは分からないけれど、きっと私の為なんだろう。正直怖い。けれど、それでも離れたくない。


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