詩織1 ステラと麗華
詩織の心情編です。
私の家では昔犬を飼っていた。名前はステラ。シーズーでいつも元気いっぱいだった。物心つく前からいたその子は私にとっては家族だった。ずっと大好きで大切だった。今でも家のお仏壇にはお骨が置いてある。
ステラは中学2年生の時に亡くなった。12歳。病気だった。犬としては十分長生きだった。最後は静かに逝ったらしい。私は死に目に会う事が出来なかった。
ステラが死んだ時、私は麗華と旅行に行っていた。夏休みに泊まりで行こうと前から計画していた。
中学3年生からは受験が始まる。私の目指している高校は当時の成績では少し厳しい。だから、冬からは受験勉強が本格的に忙しくなる。その前に何としても行きたかった。
勿論、ステラが病気になったばかりなら行かなかった。けれど、動物病院に通い始めて2年。病状が悪くなってから半年近く。
二月前に一度危篤状態になっていたけど、そこから持ち直して少しだけれど元気になっていた。少しだけどおやつも食べられるようになっていた。家で注射もしていた。
だから、一泊二日なら大丈夫だと思った。私はステラに行ってきます。すぐ戻ってくるからね。そう声を掛けて頭を撫でて麗華と出掛けた。
旅行は隣の県のテーマパークに遊びに行った。とても楽しかった。一泊二日では全て遊びきる事は出来なかったけれど十分楽しめたし、見たかったパレードも見る事が出来た。
麗華には子供っぽいと言われたけれど、欲しかったキーホルダーを買えて喜んでいた。結局麗華も同じものを買い、お揃いだねと言い合った。お土産を買ってニコニコで帰って来た私を待っていたのは冷たくなっていたステラだった。
一日目の夜に急変しそのまま旅立ったと母に教えられた。私は現実を受け入れられず、何で教えてくれなかったの、急いで帰って来たのにと八つ当たりした。
母は何も言わずに泣いている私の背中を擦ってくれていた。伝えなかったのは家族の優しさだと自分でもわかっていた。ステラが体調を崩してから連絡したとしても間に合わない事は明らかだったし、そもそも夜に中学生の私が移動するのは危ない。麗華にも迷惑を掛ける事になる。
それであれば旅行中は楽しんで欲しいそう考えたのは分かっていたし、少し経ってから父から母がそう言って連絡しないと決めたと話してくれた。
ステラの火葬には立ち合い最後にお別れをいう事が出来た。
けれど、死に目に会えなかった事は今でも心の中に棘として残っている。
3日後、部活の練習があって学校へ行った。2年生しかいなかったから正式な部活動というよりも遊びがメインだったはずだ。
そもそも、周りの部活が夏休みも集まっているから自分達もという適当な流れだった気がする。そんな気分ではなかったけれど、このまま家に居ても気が滅入るだけだと思って行くことにした。
当時私は女子バスケ部に入っていた。バスケ部は人数も少なくて弱いし、本気で大会を目指すとかいう事もなかった。あくまで学校活動の一環でしている、そんな感じの部活だった。
スカウトされるくらい上手かった麗華も大会はどうでもいいというスタンスだったし。人数も少なかったけれど、皆仲が良かったし、居心地も良かった。
2週間振りに会った部活のメンバーは何も変わっていなかった。2週間しか経っていないから当然だけど。
皆の前では笑顔を繕っていたけれど心はステラの事から立ち直れていなかった。その事には誰も気が付かなかった。まあ、当たり前だ。正直私が部活のメンバーだったとしても気が付かなかったと思う。
けれど、練習前に麗華だけが「大丈夫」とこっそり話しかけてきた。周りに気が付かれないように体育館の裏に連れて行ったくれた事を憶えている。
麗華から見た私は明らかに生気を欠いた顔をしていたらしい。無理しているでしょ。休みなよと優しく声を掛けてくれた事がきっかけで私は糸が切れ泣き出してしまった。
麗華は何も聞かず、言わずに私の背中を擦ってくれた。結局その日は気分が悪くなってしまったと言って帰った。
麗華は練習に参加したけれど、終わった後に家に様子を見に来てくれた。そこでも麗華は何も聞かずに私が落ち着くまで一緒に居てくれた。泣いた事がきっかけで一先ずステラの事を吹っ切るきっかけになった。
思えばこれがきっかけで私が麗華を一番の親友だと認識した。その思いは今でも変わっていない。こんなに私の事を見ていて気に掛けてくれる人が家族以外にもいる。そう思うと嬉しかったし誇らしかった。
次の投稿は明後日の予定です。




