帰り道のキーホルダー
今日は短いエピソードがもう一つ投稿されます。
家を出た帰り道。気まずい空気の中詩織が私に謝って来た。
「ごめんね。迷惑かけて」
「何言っているの。元々は私が言い出した事なんだから悪いのは私だよ」
「違うよ。紗月が何を言おうと受け入れたのは私。最後に決めたのも私」
話が続かない。何と話しかけていいのか分からない。優香さんとの話し合いでは私も何かを言うべきだったと思う。私も当事者なのだから。でも、何も口出しする事が出来なかった。
詩織は私の事は何一つ言わなかった。どうすれば良かったのだろうか。何か言うべきだったという後悔だけが、頭の中でグルグルと回っている。
恐らく、母は優香さんを盗聴・監視するだろう。何か行動を起こそうとすれば、最悪殺すのだろう。
もしかしたら詩織の事も監視するのかもしれない。出来ればそれは止めて欲しいけど。今日の話を外に明かさないか見張る為に。そして、優香さんが何か行動に移せば実力行使に出るだろう。
麗華は昨日優香さんに会いに行ったのだと思う。詩織が殴られた時、明らかに優香さんに話掛けていた。昨日の内に今日起こる事を伝え、何もするなと伝えたのだろう。その対価に何を言ったのかは分からないけれど、会うことを嫌がっていた優香さんに自ら姿を見せた。どんな思いでその決断をしたのだろうか。母も家族を守る為に何でもする覚悟だろう。私だけが何の覚悟もせずにいた。
何か話しかけようと詩織の方を見るとポケットに手を入れている。そういえばチャイムを押す前にもそうしていた。私の視線に気がついた詩織が弱弱しく笑いながら話し掛けてきた。
「ごめん。態度悪いよね」
そう言いながらポケットから手を抜き、握っていた物を開いて見せてくれた。そこにあったのはキーホルダーだった。見覚えのあるキーホルダー。麗華の部屋にあって詩織のスクールバックの中にあったキーホルダー。
描かれている絵は既にはがれかかっているけれど、有名な遊園地の人気キャラクターだって事はわかった。
「これね、麗華とお揃いなの。昔一緒に買ったんだ。今日、勇気を貰いたいなって。持ってきたんだ。おかしいよね。麗華にあんな事をしたのに勇気を貰おうなんて」
「それは違うよ。絶対。麗華は詩織の事守りたいって思っているよ。きっと麗華も頼ってもらって喜んでいると思うよ」」
私にはわかるから。麗華の顔を私だけは見えるから。
「もしそうなら嬉しいな。そう思っちゃう」
そう言った詩織の目には涙が浮かんでいるように見えた。
「何かあったら相談してね。何時でもいいから」
私は最後にそう言う事しか出来なかった。




