告白2 どうして
二日空いただけで久しぶりの気がします。
きっと言ってはいけない、運命の一言を詩織は言った。
空気が凍り付いて音が消えたように感じる。部屋の空気と反するように優香さんの笑みはきえない。微笑んだまま詩織に話し掛ける。
「えっと、どういう事かしら?」
「そのままの意味です」
「本気?」
「はい。本気です」
「どうして殺したの?」
「麗華が私を刺そうとしてきたからです。それで、気が付いた時には刺していました」
「何故麗華はあなたを刺そうとしたの?」
「それは、私がある友達と付き合っていると勘違いしていたみたいで、別れろと言っていました」
「勘違いってことは、付き合ってはいなかったって事?」
「その通りです」
「何故麗華は勘違いしたの?」
「それは分からないです」
「何故あなたとその友達を別れさせようとしていたの?」
「分からないです」
「いつ?」
「3月×日の火曜日です」
「麗華が最後に防犯カメラに映っていた日ね」
「その通りです」
「何時頃?」
「15時過ぎです」
「何処で?」
「それは言えません」
「あなたの家?」
「違います」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ何処かの建物?」
「違います」
「外って事?」
「その通りです」
「その場には誰がいたの?」
「私と麗華だけです」
「目撃者は?」
「いません」
「死体はどうしたの?」
「処理しました」
「誰と?」
「一人で処理しました」
「死体は一人でどうにか出来るようなものじゃないよね。それにあなた多分免許持っていないよね。一人じゃ運べないでしょ」
「免許は持っていません。でも、私一人でしました」
「その場で埋めたって事?」
「違います」
「燃やしたの?海に沈めた?山に埋めた?それともバラバラにして棄てたとか?」
「違います。どうしたのかは言えません」
「今、麗華の死体は何処にあるの?」
「何処にもありません」
「どういうこと?」
「理由は言えません」
「埋めたりしたってことだよね」
「違います。方法は言えないですが完全に死体を消しました」
「そんな事普通出来ないよね?魔法でも使ったの?」
「方法は言えないんですけど、出来たんです。…魔法ではないはずです」
「麗華を刺した後、助けようとはしなかったの?」
「頭が真っ白になってしまって…。何も出来ませんでした」
「警察とか救急車呼ぼうとは思わなかったの?」
「それも、頭が真っ白になっていて出来ませんでした。冷静になった後でも怖くなって通報はしませんでした」
「何で麗華の死体を片付けようと思ったの?」
「それは、自分の為です。これからの事を考えると怖くなりました」
「処理って意味わかって言っている?母親に向かって処理ってあなた言っているのよ」
「勿論分かっています。他になんて表現していいのか分からなくて。すみません」
「この事、ご両親は知っているの」
「何も知りません」
「知ればなんていうと思う?」
「怒ると思います。そして罪を償えと言ってくれると思います。私と一緒に罪を償ってくれると思います」
「正しい事を言ってしてくくれるご両親なのね」
「はい」
「なのにあなたは償う気は無いのね」
「すみません」
「私が警察やご両親に話してもいいの」
「出来れば言わないで欲しいです。けれど、止める権利はないです」
「警察は信じると思う?」
「証拠は何もないので信じないと思います」
「証拠ないことに胡坐かいているの?」
「そういうつもりではありません」
「殺した場所や処理した場所を警察が調べれば証拠出てくる?」
「何も出てこないはずです」
「凶器は何処にあるの?服とかは?」
「それも全部処分しました。方法は言えないです」
「あなたが殺したって証拠は何かあるの?」
「何もないです」
「麗華の足取りは消えているらしいの。途中から監視カメラに映らなくなっているんだって。なんでかわかる?」
「わかりません」
「どうして?一緒に居たんでしょ?」
「はい。でも分からないです。麗華とは一緒に行った訳じゃないので」
「待ち合わせしていたって事?」
「そんな感じです」
「あなたは何処かの監視カメラに写っている?」
「何処の監視カメラにも映っていないです」
「なんで?」
「理由は言えません」
「ふざけているの?」
「本気です」
「さっきから言っている事が滅茶苦茶だって自覚している?」
「…勿論、わかっています」
「非現実的なことばかり言っている事もわかっている?」
「わかっています」
「もう一度聞くけどふざけているの?それとも馬鹿にしている?」
「違います。本気です」
「どういうつもりで、この話をしに来たの?」
「それは…あなたに伝えなければいけないと思ったので」
「それはなんで?娘が居なくなった私への哀れみ?」
「違います」
「私をからかって悲しむ様子でも見るつもりだった?」
「違います」
「じゃあ、私に許してもらって自分の罪の意識を薄める為?」
「違います」
「もういいだろ。しつこい」
麗華が聞いていられないという風に呟いている。
当然二人には聞こえない。私が言葉を挟む隙がないほど二人だけで会話が進んでいく。言葉が一つ積み重なっていく事に身体が重くなっていく気がする。
詩織は真っすぐに優香さんの目を見つめ言葉を紡いでいく。優香さんは僅かに笑みを浮かべながら穏やかな声で話をしている。一見すると、穏やかだけれど、私は息をするのもためらうほどの圧力を感じていた。詩織が感じている圧はどれ程なのか。想像もつかない。
「何で今更私に話をしようと思ったの?」
「それが私の責任だと思ったからです」
「麗華が死んでいるって伝える事がそう?」
「その通りです」
「あなたの言う責任って何も証拠はないけれど、私が殺しましたって親にいう事?罪を償うでもなく」
「…そうですね。そういうことになります」
「罪を償う気はないの?」
「本当に申し訳ないですが、罪を償うことは出来ません。証拠が何もないので警察等に自首しても、いたずらと判断されて終わりです。また、それによって迷惑を掛けてしまう人がいます。私だけの問題ではないので。本当に申し訳ないです」
「紗月さんは無関係なのよね」
「その通りです」
「なのに、こんな話をする場に連れてきたの?どういうつもり?」
「私が着いて来てほしいとお願いしました。心細かったので」
「そんな理由で無関係な友達を巻き込んでいるのよね?それについてはどう考えているの?」
「紗月には申し訳ないと思っています。紗月は何も言わないと信じていますし、言ったとしても証拠は何もないので信じられないと思います。…仮に紗月が何かしたらそれは仕方がないことだと思います。受け入れます。勿論、優香さんにもです」
「そう。身勝手なのね」
「その通りです」
私は二人に圧倒されて動けずにいた。麗華の死体を片付けようと言ったのは私だと言いたかった。言うべきだと思った。でも言えなかった。
母と詩織との約束を守ったと言えば聞こえがいいかもしれないけれど、口を挟めなかっただけだ。何度も口を挟もうとしても結局出来なかった。
だから、優香さんが立って詩織に近づいた時も、何も反応せずに、出来ずに座っていた。
一応日付は決めてあるのですかが、プロットを数年前に作ったまま放置していて今の日付と合わないので誤魔化しています。




