告白1 「私が麗華を殺しました」
日曜日。運命の日。不安と寝不足で頭が痛い。今日は北野さんと田原さん二人ともいた。軽めの朝食を済ませて、準備をする。と言っても、特に用意するものはない。
気持ちの準備がまだ出来ていない。正直出来ないと思うので、兎に角気持ちを落ち着かせる。時間が来たので家を出る。足が重い。
田原さんから、キーホルダーを渡された。中に盗聴器が入っているとのことだ。外から見ている分には全然分からない。カバンに付ける。2人は後から車で来るそうだ。詩織は緊張しつつも強い決意を秘めた目をしていた。当然麗華もいる。
「おはよう」
「おはよう。今日は無理言ってごめんね。付き合ってくれてありがとう」
「気にしなくて大丈夫だよ。詩織のしたいようにしていいから」
「ありがとう」
いつも詩織と歩くときは何かを話すけれど、今日は無言だ。不思議な緊張感が漂っている。空気が重い。空気を和ませようとしても何を言っていいのかわからない。結局何も話せないままただ歩く。家に近づくにつれ空気がより重くなっていく。
麗華は私に安心していいからと何回か言ってきた。麗華なりに気を使ってくれているのがわかる。片桐家まで15分くらいしか歩いていないはずなのに、1時間以上経っている気がする。それくらい時間が長く感じた。
途中で北野さんからメールが来た。既に片桐家の近くに着いており待機しているとのことだ。
玄関の前で詩織は大きく一呼吸してズボンのポケットに手を入れた。私には何かを握ったように見えた。その後、私を見てきた。私は無言で頷いた。詩織はもう一度大きく呼吸するとチャイムを押した。数秒後、はいと女性の声で返答があった。
「おはようございます。電話でお話した、鈴原詩織です」
声が上ずっている。
「ああ、直ぐ開けるね」
「ありがとうございます」
恐らく、人生で一番緊張している。麗華の死体を処理した時よりも。詩織もそうなのかもしれない。手が少し震えている。麗華も心なしか緊張しているように見える。
直ぐに玄関が開いて、優香さんが出てきた。この前会った時と同じに見える。正直、やつれていなかったことに安心した。ただ、目元が少し赤く見える。麗華の件で寝不足なのかもしれない。
「おはよう。鈴原さんは初めましてだよね?苦無白さんは久しぶり」
「はい。おはようございます。初めてです。今日は時間を作っていただいて」
「ああいいから。入って。少し散らかっているの。ごめんね」
「お邪魔します」
「お邪魔します」
優香さんの声は以前よりも明るい。若干安心すると共に、これからの事を考えると胃が痛くなる。
「鈴原さんは麗華と昔から遊んでいてくれたのよね」
「はい。そうです。ずっと仲良くさせてもらいました」
「仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、とんでもないです」
リビングに向かいながら、詩織と優香さんは話している。これから何が起きるか知らない優香さんは和やかに話し掛けている。
「そういえば、私煙草やめたのよ」
「…え?あ、そうなんですか。いいことだと思います」
「あなたのおかげよ」
「いえ、とんでもないです。あの時はすみませんでした」
「あのくらいはっきり言ってくれた方が良かったから。ありがとう」
「紗月、片桐さんと会った事あるの?」
「あ、うん。ちょっと用事があってこの前お邪魔したの」
「そうなんだ」
急に話し掛けられて反応が遅れてしまった。その上、以前訪ねていたことが詩織にばれてしまった。どう誤魔化せばいいのか。まあ、今は目の前の難局を乗り越える事だけを考えよう。
リビングに着くと嫌でも私の心臓の鼓動は早くなる。これからどうなるのだろうか。結局昨日ずっと考えていてもどうなるか分からなかった。楽観的に考えてみても無理だと自己嫌悪に陥るだけだった。
「お茶入れてくるね」
そういって優香さんはキッチンに立つ。詩織の様子を伺うと、こちらを真っすぐ見つめてきた。その目を見て私もようやく決意を固める。元々詩織のしたいようにしていいと言ったのは私だ。後は成り行きを見届けよう。
優香さんが紅茶を淹れてくれたのを見て私たちも運ぶのを手伝う。
「ありがとね」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
これで全員席に着いた。いよいよ始まる。
「今日お邪魔したのは伝えなければいけない事がある為です。紗月は私が無理を言って着いてきてもらっただけです。本当は私が一人で来なければいけなかったけれど、勇気がありませんでした」
いきなり本題に入る紗月。私は下手に口を挟まずに一先ず成り行きを見守る事にする。
「そうなの。麗華の事かしら」
「その通りです」
「そっか、もしかして麗華から何か連絡があったとか?鈴原さんには何でも話していたみたいだし。仲良くしてくれて本当にありがとうね」
優香さんは微笑んでいる。微笑えんでいるのに言外に何も話すなと言っている気がする。今ならまだ引き返せる。適当な事を言って帰る事が出来る。そうしろと言っている気がする。
それでも詩織は、詩織は優香さんを見据えながら一度大きく息を吐いて本題を切り出した。
「私が麗華を殺しました」
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