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苦無白の由来

 どう説明すればいいのか結局決め切れないまま家に着いてしまった。

 麗華(れいか)は正直に話すしかないと言っている。私もその通りだと思うけれど、説得出来る気がしない。もし、出来なかった時、母は詩織(しおり)に対して何をするのだろう?穏当に済むとは限らない。

 何とか説得しないといけないと考えると気分が重くなる。朝、うきうきしていた事が遠い過去みたいに感じる。


 正直甘い物でも食べて気を紛らわしてから帰りたかったけれど、少しでも早く動いた方がいいと諦める。家の扉がいつもより重く冷たく感じる。

 玄関ではいつも通り北野(きたの)さんが出迎えてくれた。私が帰ってくるのはどうやって分かるのだろう?監視カメラは付いているけれど、四六時中見ている訳ではないだろうし。

 まさかずっと玄関で待機しているのだろうか。そんな風に現実逃避をしていると、麗華(れいか)が私が話そうかと聞いてきた。気を使ってくれたみたい。覚悟を決める。

 詩織(しおり)がしようとしている事に比べればこんな事大したことじゃない。大丈夫と答え、北野(きたの)さんに話し掛ける。


「あの、今日中に母と話したい事があって。詩織(しおり)も関わっている事なんです。北野(きたの)さんにも話さなきゃいけない事なんですけど」


何故か一瞬北野(きたの)さんが嬉しそうな顔をした気がする。けれど、明らかに困りごとを持ち込んでいるのだから気のせいだろう。


「承知致しました。ですが、紗月(さつき)様もご存知の通り奥様は現在忙しく、今日中となると難しいかもしれません。無論、最善を尽くしますが」

「わかっています。けれど、お願いします。急ですみません」

「私からもお願いします」


麗華(れいか)が頭を下げる。


「頭をあげてください、麗華(れいか)様。ともかくメール致します。相談内容を教えてください。再度、その内容を連絡致します。内容次第で、奥様も判断されるかと」

「わかりました」


元々話すつもりだったので、素直に全て話す。


「成程、そういう事であれば奥様も時間を作ってくださると思います。ですが、どのような決断をなさるかはわかりません」

「勿論、わかっています」


 北野(きたの)さんに連絡をお願いし、部屋に戻る。麗華(れいか)は着いてこなかった。明日の事を考えると不安になって落ち着かない。どうすればいいのか考えがまとまらない。

 30分くらい経ってから麗華(れいか)が戻って来た。


「少し、北野(きたの)さんと話をしていた。とにかく明日の事は安心して。私が何とかするから」

「何とかって、どうするのさ」

「それは…ごめん。紗月(さつき)には言いたくない。北野(きたの)さんには伝えた。あなたのお母さんにも伝わるだろうから、何とかなると思う」


 やはり、麗華(れいか)には何か考えがあったようだ。私に話したくはないとの事だけど、北野(きたの)さんには伝えたという事は今のままでは母を説得する事が出来ないと思っているのだろう。

 そして麗華(れいか)の考えている事であれば説得出来るとも。私に教えてくれないのは少し納得いかないけれど仕方がない。

 麗華れいかを信じる。


「わかった。信じるよ」


 17時過ぎ母から電話が掛かって来た。慌てて出る。


紗月(さつき)、話は聞いたわよ。そこに麗華(れいか)ちゃんもいる?一緒に話を聞いて欲しい」

「お母さん、ごめん。迷惑かけて。わかった。スピーカーにするね。麗華(れいか)もいる」

「気にしなくていいのよ。紗月(さつき)苦無白(くなしろ)の由来って教えてないよね」

「え?ああうん。知らないけど」


 え?何の話?今する話なの?関係ないよね? 麗華(れいか)もどうしていいのかわからずふわふわしている。


「何だと思う?」

「いやわからないけど、地名とか?」

「不正解。他の回答は?」

「むかし苦無を使っていたとか?」

「先祖が忍者って事?それはそれで面白いね。でも不正解。答えはね、家の方針よ」

「方針?どういう意味?」


()()()を。つまりは苦しませる事無く殺すという事。死ぬときくらいは苦しまないように殺しますと言う意味を込めて名乗ったらしいよ」

「殺し屋の癖に自己主張強くない?」

「そうよね。まあ、誰だって苦しまずに死にたいよね」


 ようやく母の言いたい事がわかった。要は脅している。殺し屋を引退したとは言え、必要であれば殺す、そう伝えているのだ。


 もし、家族に危害が及ぶなら、片桐(かたぎり)優香(ゆうか)を殺す。そう伝えている。私ではなく、麗華(れいか)に。その時に邪魔をするなと伝えているのだ。敢えて聞かせているという事は、反抗した時には対処出来るという事だ。


 しかも、私がいる今話したという事はいつでも出来る。という事だろう。確かに麗華(れいか)には現状母に対する対抗手段がない。精々姿を現して他人に姿を見せるくらいだ。そのくらいであれば誤魔化せるのだろう。

 私を人質にする事は出来るだろうけれど、そうしたら詩織(しおり)がどうなるかわからない。だから麗華(れいか)にはそれは出来ない。


「大丈夫。何もしない。受け入れる。そう伝えて」

「良いの?本当に?」


 麗華(れいか)は少しだけ悲しそうな顔をした後、はっきりと言い切った。


「私にとって詩織(しおり)は、母親よりも大切な人だから」

「わかった。大丈夫だって」

「そう?何の事か良くわからないけど、大丈夫なら良かったわ。まあ、世の中簡単に死ぬ事は無いから。まあ、世の中誰に話聞かれているかわからないから、変な話はしない方がいいよね」


 よくわからない曖昧な言い方ばかりしているのは、誰が聞いているかわからないからと言いたいようだ。まあ、電波を使っている以上、盗聴の危険があるという事だろう。


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