私、明日麗華の家に行くの
話も終わり、お花見もお開きかなと思い始めた頃、詩織が重い口調で話始めた。
「紗月、あのね、話さないといけないことがあるの」
「何?」
「私、麗華の家に行くの」
予想外の事を言われて戸惑う。
「えっと、なんで?いつ行くの?」
「明日。麗華のお母さんに伝えたい事があるの」
詩織の目は真剣そのものだった。考え抜いた上で決めたことなのだろう。私はどこまで踏み込んでいいのかわからない。
「紗月には絶対迷惑かけないから」
「わかった。応援するって言い方が正しいのかわからないけれど、応援している」
「ありがとう。私が麗華を殺したってことを伝えるつもりなの」
「え?」
更に予想外の事を言われた。驚いてしまい固まってしまう。私はどうすればいいのだろうか。
「止めさせて」
いつの間にか横に来ていた麗華が話し掛けてくる。この反応、麗華も知らなかったようだ。これが最近詩織の考えていた事なのかもしれない。
止めることが正しいのだろうか。頭の中が混乱し、考えがまとまらない。
「言う事変えてごめん。それは止めた方がいいと思う」
「勿論、わかってかっている。私だけの問題じゃないし、迷惑かけないなんて口先だけは何とでも言えるしね。信じられないのは当然」
「詩織の事は信じている」
「ありがとう。麗華のお母さんは死んだことを知らなければ、麗華の帰りを一生待ち続けることになる。だから、私が殺したことを伝える。証拠は何もないし、麗華が防犯カメラに写っていない理由は説明できない。だから信じてもらえないかもしれない。だけど、伝える責任が私にはある。その結果恨まれても、憎まれても、信じられずに嘘つきとされても私は受け入れなきゃいけないと思うの。勿論、紗月の事は絶対に何も言わない。約束する。一緒に来てもらってもいい。でも、止めないで欲しい。これは私がしたことに対する私なりのけじめだから」
どうするべきなんだろう。麗華の言う通り、止めることが正しいとは思う。止めるべきだ。詩織の事は信用しているけれど、伝えた結果何が起こるかは分からない。家族にも迷惑を掛けるかもしれない。
それでも、詩織の言うことも一理あると思う。何も知らないままの優香さんは麗華の事を一生引きずることになる。
それを止めるのも私たちの責任かもしれない。そう考えると詩織の事は止めるのではなくむしろ支援するべきなのかもしれない。
考えがまとまらない。どうしていいのかわからない。詩織は憎まれても受けいれると言っていたけれど、言外に殺されても受け入れると言っている気がする。
それは優香さんにというだけではなく、私にも。行った後ではなく、行く前に話すという事はそういう事なの?
詩織の意志は可能な限り尊重したいけれど、危害が及びそうなら何としても止めるべきだ。でも…。
頭の中で止めるべきだという考えと、止めるべきじゃないという考えがグルグルと回っている。私があんなことを提案したせいでという考えまで出てきて収拾がつかない。何が正しいのかわからない。どう答えるべきなのかわからない。詩織は私が発言するのを黙って待っていてくれている。
切羽詰まった私は、麗華にヘルプのサインを出した。優香さんを訪ねた時に決めていたヘルプサインだ。伝わるかは賭けだったけれど、麗華は応えてくれた。
「詩織に行っていいって伝えて。そのかわり、自分も着いて行くって言って」
麗華の答えはさっきまでとは逆だった。いいのかと思いつつも麗華の事だ。何か考えがあっての事なのだろう。信じる。
「わかった。止めはしない。けど、私も着いて行く。でも詩織の事を信じていな訳じゃないよ」
「勿論分かっているよ。ありがとう。着いて来てくるのは心強いよ。我儘言ってごめんね。勝手に話も進めていたし」
「気にしなくていいよ。詩織のしたいようにして」
「ありがとう。明日10時に行くって約束しているけれど、用事とか大丈夫?」
「大丈夫だよ。じゃあ9時半頃詩織の家に行くね」
「わかった。待っている」
10時約束だと、少し早いかもしれないけれど、遅れるよりはいいだろう。
話をした後は、流れで別れた。時間は13時を過ぎていた。麗華は私に着いて来ている。恐らく明日の事で話があるのだろう。
私も聞きたい事がある。詩織の事を母に伝えなければいけない。どんな反応をするのだろうか。絶対に止めろと言うかもしれない。
私が止めるのは難しいとわかれば、実力行使に出るかもしれない。その場合私に止めることは出来ないだろう。それでも、伝えないわけにはいかない。
次何かあれば伝えると約束しているし、何かあった時に伝えるのでは遅い。何とか説得しないと。でも、説得材料はない。
出来る事なら自分の力だけで解決したい。私がしたことが原因なのだから、私が解決するのが筋だけれど今の私にはその力はない。
だから、迷惑かける事を承知の上で母の力を借りる。親を頼れるのは子供の特権だ。勿論、その特権を考え無しに振り回していれば、怒られるし、最悪見捨てられる。それでも今の私には素直に話す事しかできない。
そもそも、勝手に死体を処分したことが今の事態を引き起こしている。母の言う通り薬を使う前に連絡していればよかった。この前考えた事がまた蘇ってくる。
母に連絡していた場合伊織がどのような手段に出るかは分からないけれど、少なくとも麗華は怒らないはずだ。詩織の為であれば、麗華は自分の死体がどのような辱めにあっても許すと思う。
まあ、どれだけ想像を働かせても、既に起きてしまった事。そう無理矢理割り切って進んでいくしかない。今考えるべきことは、母をどう説得するかだ。
私はどうすればいいのか悩みながら家に帰った。
38話のタイトルを変更しました。




