麗華8 これから
想い人はやはり紗月だった。両想いだという事には気が付いていないようだった。
私は始めて知ったような振りをして詩織をからかった。
そして、今の関係を壊すのが怖いから告白する勇気がない、けれどいつかはしようと思っていると話してくれた詩織に対してありきたりなアドバイスをした。詩織はありがとうと笑っていた。
私は家でまた泣いた。それでも打ち明けてくれたことは嬉しかった。自分の感情に整理を付けるのが難しかった。
カクテル・ミュージックを始めたのもこの頃だった。失恋から気を逸らす為に何でもいいから打ち込みたかった。ブームになり始めていたカクテル・ミュージックを何となくで始めたところ、思ったよりもはまった。
ただの自己満足で作っていた曲が思いの外人気になると嬉しかった。自分の価値が他人に認められて嬉しくなった。それでも、心の傷は全く埋まらなかった。
詩織と紗月はお似合いだった。付き合うのであれば一生添い遂げるのだと確信していた。紗月であれば詩織を幸せにしてくれる、二人とも幸せになれると思った。
だからこそ、紗月がストーカー行為をしたと思った時は怒りで自制が聞かなくなった。最初、詩織からストーカーについて相談され時は、紗月の事は疑っていなかった。そもそも、その場には紗月がいたし。
私たちは3人で話し合ったけれど、解決策は何もなかった。あくまで詩織の主観でしかなかったし、証拠も何も無かったからだ。
丁度その頃、家伝の書を手に入れた。私は殆ど迷う事無く、術を使い詩織のストーカーを調べる事にした。勿論、詩織のプライベートを除く事には罪悪感があった。けれど、詩織の為だからと言い訳をして霊体化を行った。
けれど、何も掴む事が出来なかった。その焦りと、霊体化の疲れから私は追い込まれていた。
そんな時、詩織の『やっぱり、ストーカーは紗月だよね、何でこんな事をするんだろう。麗華に助けてほしい…』という呟きを聞いてしまい、私は強硬手段に出る事を決めた。
詩織に好かれているのにも関わらず、卑劣な行動で心を弄んでいると思うと怒りが抑えられなかった。今思うと完全に伊織の掌の上だった。いいように操られていた。
霊体化は伊織に見えていたのだから証拠が出てこない事は当然だ。呟きも私が聞いている事を分かっていてわざと聞かせたのだ。
私は伊織の思い通りに紗月をストーカーだと思い込んだ。ただ、私が詩織を刺そうとしたことは予想外だったはずだ。まあ、都合がいいと思われ殺されてしまったのだけれど。
伊織の事はムカつくけれど恨んではいない。いいように操られた事は本当にムカつくけれど、もし私が同じ立場だったら似た事をしていたかもしれない。
詩織を刺そうとしたのだから、殺されたことは仕方がないだろう。私も事情があったとはいえ伊織を封印したのだから似たようなものだ。死んだ事は自業自得だ。
そんな事よりも詩織に一生消す事の出来ない傷を負わせてしまった事の方が問題だ。幸せになって欲しい、心の底からそう思っていた相手に人を殺したという絶対に消えない過去を負わせてしまった。
詩織はこれから、自分が幸せになっていいのか悩みながら生きていくことになる。罪悪感は消える事はない。どうやっても罪滅ぼしをする事は出来ない。
その上、紗月にも一生後悔し、引きずる決断をさせてしまった。詩織の一生も紗月の傷も私は背負う事が出来ない。2人に償いたいけれど、どんな事をしても償うことは無理だ。
紗月は何があっても詩織の事を好きでいるだろう。そして、詩織も紗月の事を愛している。紗月は私の死がきっかけで自分が詩織にとって重荷になると考えている。
けれど、それは違うと私は知っている。人は死ねば終わり。
でも私は違った。幸か不幸か私は死んで幽霊になった。死んで終わりじゃなかった。だから二人の行く末を見届ける。どんな結末でも。それが私のすべきことであり義務であり責任だ。
麗華の過去編はこれで終わりです。
書いている時は長く感じますが、文字にしてみるとそこまで長くはないですね。
皆さんにとっては長かったでしょうか?
次の更新は明後日の予定です。




