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麗華5 幸せについて

 小学生5年生の時には自分の恋心を自覚していたはずだ。けれど、それを伝えようと思ったことは一度もない。私は私に生きる意義をくれた詩織(しおり)には幸せになってほしかった。


 私と結ばれることが幸せに繋がるとは考えられなかった。私は誰かを幸せにする姿を想像することが出来 ない。私にとって幸せとは詩織(しおり)といる時間そのものだった。

 それ以外の幸せとは何か良く理解出来なかった。美味しい物を食べたり、面白いものを読んだり見たりすることで感じる幸せは分かるけれど、人と共にいる事で感じる幸せは理解出来ていなかった。

 詩織(しおり)といる事で幸せを感じる事は出来ても、詩織(しおり)を幸せにする姿を思い浮かぶことが出来ない。そんな私が詩織(しおり)と付き合うことはありえないと考えていた。


 そもそも、私と付き合うという場合は私の家族と関係を築く事になる。縁を切ったとしても血が繋がっている以上完全に繋がりを切る事は難しいだろう。法的に絶縁する方法はない。どれほど離れて生活していても、いつかは繋がりを再構築しなければいけないかもしれない。介護の問題なども出てくれば、あの父親は何としても私に頼ろうとするだろう。


 そう考えると、誰とも結ばれる事は考えられなかった。詩織(しおり)がとはなおさらだ。詩織(しおり)以外を好きになる自分は想像出来なかった。その詩織(しおり)と付き合うことは出来ない以上誰とも結ばれる事はない。中学生の時にはそう悟っていた。


 別に詩織(しおり)が欠点のない完璧な人だと思ってはいない。かなり呑気な性格だし、以外とがさつだ。鞄の中は余り綺麗ではないし、次の授業まで教科書を出しっぱなしにして慌ててしまっていることもよくある。テストは一夜漬けで何とかしようとすることも多かった。人に見られていない場所であれば、散らかっていても気にしないタイプだ。正直言ってしまえば成績も私の方がいい。中学ではずっと学年1位だったし。


 空気を読めない事を言うこともそれなりにあった。クラス内カーストを全然理解していないのに空気を読まずに発言してしまうので冷や冷やしたことも何回もあった。


 それに結構鈍感だった。私が周りになじめていない事に気が付いたのに、自分の事になると全然だ。特に周りから自分がどう思われているかは全くと言っていいほど気が付かない。隠していた私の恋心に気が付かない事は勿論、中学の頃に詩織(しおり)に想いを寄せている男子の気持ちにも気が付いていなかった。


 その子は周りから見てもすぐにわかるほどにアピールをしていたけれど、詩織(しおり)は全く気が付いていなかった。一度、詩織(しおり)になんとなく触れた事があったけれど、何の事?と聞き返された。誤魔化している風でもなく、完全に気が付いていないようだった。

 恐らく、直接好意を伝えなければ詩織(しおり)は気が付かない。その子は自分が優しいぜみたいなアピールをしていたから気が付かなかったのだろう。まあ、年頃の男子が好きと伝えるのは恥ずかしかったのだと思う。良くわかる。

 一応恋敵の男子に対して同情してしまった。直接告白していれば結果は分からなかったかもしれない。


 私だって詩織(しおり)程ではないけれど、友達も出来た。小学生の時、特に低学年の時はの頃は世界の中心に詩織(しおり)がいるように感じていたけれど、成長すればそんな事はないとわかる。

 世界は私だけに理不尽な訳ではないという事も知ったし、私よりも恵まれず苦しんでいる人は数えきれないほどいる。私の事を正当に評価してくれる大人も多い事もわかった。助けようとしてくれる人もいた。

 詩織(しおり)より勉強出来る人も、運動神経がいい人もいた。子どもの頃は詩織(しおり)と話を合わせたくて詩織(しおり)が見ているアニメを興味が無くても見ていた。でも、そんな事をしなくても詩織(しおり)は気にしないと気が付いてからは自分が好きなものを見るようになった。詩織(しおり)よりも漫画やアニメの趣味が合う人もいた。

 それでも、私にとって詩織(しおり)は特別だった。ずっと変わらず誰よりも大切な人だった。


 高校も私と詩織(しおり)は一緒だった。というよりも、私が詩織(しおり)と同じ高校を選んだ。進路に関しては詩織(しおり)と同じ所に行くという事しか考えていなかった。詩織(しおり)と同じ高校であれば、県外でも海外でも行っていただろう。なんとしても。仮に就職していたら私も同じ所への就職を目指していたはずだ。


 幸いな事に詩織(しおり)は比較的近くにある公立の進学校を選んだので助かった。なんなら中学よりも近かった。私も詩織(しおり)も成績(詩織(しおり)はかなりギリギリだったけど)は問題なかった。

 一番の不安は両親に反対されるのではないかという事だった。意外な事に母はあっさりと認めてくれた。


「わかった。行きたいとこに行きなさい」

 

 その一言だけだった。


「ありがとう」


 そういいながらも、高校の評判すら調べずに認める事によっぽど私に興味がないのだと思った。その頃には父親は家でほぼ空気だった為、母の許可さえもらえれば問題なかった。

 学費も母は何も言わず払ってくれた。バイトをし、全て自分で払うことも考えていたのでそこは助かった。世の中上手くはいかないもので高校では違うクラスになってしまった。


 詩織(しおり)との交友は変わらず放課後に続いていたけれど、私は大学進学と同時に家を出るつもりだった為、バイトを始めた。詩織(しおり)もクラブに入っていた為、あまり会える時間はなかった。それは辛かったけれど、仕方がないとも思っていた。


詩織(しおり)は高校で運命の出会いをした。それが紗月(さつき)だった。


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