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麗華4 変化

 詩織(しおり)の側にずっといたい。隣にいたい。声を聞いていたい。話していたい。心からそう思うようになった。同時に詩織(しおり)の側にいる事で詩織(しおり)がどう見られるかを考えるようになっていた。

 私の家を変えることは出来ない。そして家のせいで周りから変な子だと思われている私の現状も変えることは出来ない。


 そんな私が詩織(しおり)の側にいる事で詩織(しおり)まで変な子だと見られることはあってはいけないことだ。私はそう考えた。それ以降私は学校の勉強を頑張った。元々サボっていた訳ではないけれども、今まで以上に力を入れた。

 学校や社会のルールも絶対に守るようにした。掃除や給食当番なども何も言わずに淡々とこなした。成長するにつれ、見た目にも気を使うようになった。

 とにかく私への見る目を少しでも改善出来るように努力するようになった。そうしなければ詩織(しおり)の側にいられなくなると思い込んでいた。そのおかげもあって少しずつ話し掛けてくれる子も出てきた。


 崇拝であり信仰だった。もし当時、詩織(しおり)がグレて犯罪に手を染めていたら間違いなく私もそうしていた。判断基準の全てを詩織(しおり)中心としていた。それほどまでに依存していた。幸い、詩織(しおり)に相応しい自分でいようと変化を続けたおかげで人間関係も変化した。


 色々な人と話すことで私も変化していった。詩織(しおり)に全て依存していたのに対し、段々と広い視野を持つことが出来るようになった。今なら、詩織(しおり)が犯罪をしようとすれば止めるだろう。

 

 詩織(しおり)とはその後も放課後に遊んでいた。3年生になるとクラス替えがあり、私と詩織(しおり)は同じクラスになった。それでも関係は変わらなかった。

 変わらずに毎日じゃないけれど、放課後に会い話をする。そんな事を続けていた。詩織(しおり)は誰とでも仲良くなれるのでクラスでも友達が多くいた。休み時間やお昼はいつも誰かと話していた。


 けれど、学校で私に話しかけてくることはなかった。やはり人前では私と話したくないのかと少し悲しく思っていたけれど、放課後に話せるからそれでいいと思っていた。

 ある日そのことについてつい聞いてしまった。問い詰めたかった訳じゃない。つい口から出てしまった。


詩織(しおり)ちゃんってクラスじゃ話しかけてくれないよね」


 言った後、ハッとして詩織(しおり)の顔を見る。気を悪くしていないだろうか。言ってはいけないことを言ってしまったのではないか。もう話してくれないのではないか。そんな後悔が頭の中を巡っていた。けれど、詩織(しおり)は気にする様子もなくあっけらかんと答えた。


「うん。だって麗華(れいか)ちゃん他のみんなと一緒に話すの嫌いでしょ」

「え?」

「クラス替えした日みんなで集まって最初に自己紹介したでしょ。その時、詩織(しおり)ちゃんなんか嫌そうだったもん」

「そうだっけ」

「うん。その後も他の子に話し掛けられた時、あんまり嬉しそうじゃないもん。クラスでも話し掛けていいなら、話し掛けるよ」


 私は嬉しかった。詩織(しおり)は私の事を良く見ていてくれたのだ。両親も先生も見てくれていない私の事を誰よりも見ていてくれた。私の心はいっぱいになっていた。今思うと両親から貰えなかった承認欲求を詩織(しおり)に満たしてもらっていたのだろう。


「うーん。クラスじゃいいかな」

「やっぱりー。話したくなったらいつでも話し掛けて来てね」

「ありがとう。そうするね」


 結局クラスで話し掛ける事はなかったけれど、私の詩織(しおり)への思いはより強まっていった。

 中学でも私は詩織(しおり)の側にいた。クラブも詩織(しおり)と同じものに入った。バスケットボールなんて微塵も興味なかったけれど、詩織(しおり)が選んだから私も入った。

 幸いな事に3年間クラスも同じだった。中学の時に引っ越したけれど、同じ地域内だった為、詩織(しおり)と同じ中学に行くことが出来た。


 引っ越すと聞いた時、一番不安だったことは、詩織(しおり)と離れる事だった。それほどまでに私の中には詩織(しおり)への思いで溢れていた。詩織(しおり)のことばかり考えていた。私の生きる理由そのものになっていた。詩織(しおり)のいない世界を考えると怖くなった。


 何もしていない時の3割くらいは詩織(しおり)の事を考えていたと思う。我ながら考え過ぎだと思うし、他の人に言えば引かれていたと思うけど、思考を抑える事は無理だから仕方がない。

 正直に言ってしまえば、詩織(しおり)と会っていなければ犯罪をしていたと思う。家への嫌悪感から万引きなどの犯罪をし、変な人達とつるんでもっと酷い悪さをしていたと思う。自暴自棄になり、自分の事も他人の事も大切に出来ない人間になっていただろう。


 私は成長するにつれ、父親に対し反撃をし始めた。父の暴言を録音し、叩かれている所をビデオで隠し撮りした。それを使い、警察や会社にばらすと脅した。元々、子どもにしか当たることの出来ない小心者だった。

 一度、キレて殴って来たけれど、軽く頬を叩き返しただけで驚いた顔をして呆然としていた。

 それ以降は私を避けて生活をするようになった。ここまで情けないとは思っていなかったけど。

 家にいる時間は相変わらず最悪だったけれど、詩織(しおり)の側にいるために出て行くつもりはなかった。父はもう同じ家にいるだけの他人だと思うようになっていた。話すこともない。すれ違う時も相手の顔を見る事も無かった。


 母ともあまり話すことは無かったけれど、それでも一応はこちらを気にかけてくれる事はわかっていたので嫌いにはなれなかった。心を許すことは出来なかったから、頼ることは出来なかったけれど。

集めた証拠を使えば、施設に入ることも出来ただろうけど、その場合生活に制限が掛かるかもしれないし、近くに無かった為、違う学校に行くかもと思うと胸が苦しくなった。考えただけで吐き気がした。


 私の詩織(しおり)への感情は次第に恋慕が含まれていった。

麗華の過去編は8(後4話)で終わると思います。

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