これから私は2
こんな事になるのであればさっさと告白しておけば良かったとも思うけれど、後悔後先に立たずって奴だろう。詩織に想いを伝えることで今の関係性を壊すことを恐れて行動しなかったのは私だ。
事件が起きる前に告白していれば、関係性が変化していて麗華も誤解せず、あんな事は起きなかったかもしれないと考えることもあるけれど、伊織の事を考えれば悪化していた可能性もある。結局はわからないとしか言いようがない。
詩織への恋心を自覚してから何度も告白しようと考えたけれど、その度に振られてしまえば今まで通りではいられなくなる、そうなるくらいなら今のまま側にいたいとズルズルここまで来てしまった。
ただ、もし告白していて成功していた場合でも、今回の件で結局私は別れることを決意していた。間違いなく。その場合、今以上に別れる事は難しくなる気がするし、関係が変にこじれていたかもしれない。
それに幸せだった分、別れることが苦しく辛くなっていたはずだ。そう考えると告白していなくて正解だったのだろうか。そうも考える。それでも、生涯一度しかない恋であれば告白したかったとも思う。結局は私が行動しなかったせいでこうなったのだから仕方ないのだけれど。
考えてみると麗華は何故詩織に告白していなかったんだろう。私よりずっと長い付き合いだったのだから、告白する機会はあったに違いない。
「麗華って何で詩織に告白しなかったの?ずっと好きだったんでしょ」
「なんでって、そりゃね…」
麗華が言い淀んでいる。つい口から出てしまったけれどデリカシーのない質問だった。私も何で告白しなかったと聞かれても上手く答えることは出来ないと思う。
「ごめん。答えづらい事急に聞いて。気になったからつい。答えなくて大丈夫。私だってずっと告白していないしね」
「まあ、私は振られることが分かっていたからよ」
「そうなの?」
「そう。この話はこれでおしまい」
麗華には麗華の想いや考えがある。思い返せば、麗華とは生前殆ど話していなかった。だから、麗華がいつから詩織の事が好きだったのか、何故好きになったのか、どんな思いを持って接していたのか私は知らない。
優香さんはずっと前から好きだったと言っていたけれど、具体的にどのくらい前なんだろう。ただ、心の底から詩織の事を好きだったという事を知っているだけだ。
私よりもずっと前から詩織といた麗華。その麗華が振られると言い切ったのだから、それには根拠があるはず。そしてその事について言いたくはないようだ。まあそれは当然だと思う。私だって自分が振られる根拠なんて絶対に話したくない。無理矢理聞き出す訳にはいかない。
「わかった。そういえばね、私がお花見に誘ったのもね詩織と少しでも多くの思い出を作りたいって考えたからだよ」
「そっか」
「と言っても別に気を使って来るの止めるとかはしなくていいからね」
「そこは行くつもりだから大丈夫」
正直ちょっと来ないと言うことを期待していたけれどまあ仕方ない。
「そこまで決意が固いなら私が止めることは出来なそうね」
「あなただって同じ立場なら同じ選択をしていたでしょ?」
「…わからない。そうかもしれないけど、離れることが嫌でそれが間違っているとわかっていても側にいることを選ぶかもしれない。だからあんたはすごいよ。でもあんた本当に気が付いてないんだね」
「何の事?」
「秘密」
「なんでよ。教えてよ。さっきも秘密ってきになるじゃん」
「とにかく秘密。何されても言わないから」
「あっそう。まあいいけど」
「いずれって言っていたけどいつ離れるつもりなの?」
「別々の大学に行って自然に別れることが一番いいと思う。私も詩織も大学目指しているけれど、志望大学はまだ決まっていない。だから、詩織の志望大学を確認したらそれとは別の大学に行く。今すぐは絶対に良くないし、私ずっと詩織にべったりしているのに高校にいる間に離れるのも周りから怪しまれるだろうし。時間を掛けて詩織の様子を見ながらサポートして大丈夫だと判断出来れば受験勉強とか長期休みとか利用して少しずつ距離を置くの。それで大学に行って最初の方だけ少し連絡を取る。でも、詩織も新しい生活があるし、人間関係も出来るから私からの連絡がなくなってもおかしいとは思わないでしょ。勿論、詩織の様子を見ていて高校にいる間に離れた方がいいと判断すればなんとか離れるつもり。大学までに詩織が安定しなければ一緒の大学に行って就職をきっかけにする。私成績は結構いいから大体の大学なら受かると思うから」
「そこまで考えていたんだ。もし、詩織の行きたい大学があなたの志望大学でも諦めるの?」
「うん。いいよ。私そこまで無理していきたい大学もないし、詩織の為ならそのくらい諦める」
「そう。そうなんだ…」
自分の思いを吐き出すと少しスッキリした。ずっと考えていたことだけれど、自分の中でだけ考えていたのでいざ話すと言葉が溢れ出てきて驚いた。
もっと手短に説明するつもりだったのに止めることが出来なかった。いずれ訪れる別れの時を考えると、今でも泣きそうになってしまう。恐らく本当にその時が訪れたら一人部屋で泣く。暫くは立ち直る事は出来ない。
母の言う通りその後私は二度と恋をすることなくその後の人生を一人で終えると思う。寂しいけれど、これも私の犯した罪に対する罰だろう。
「あんたの考えはよくわかったよ。ここまで素直に話してくれたなら私も少しは話すか」
「別に話したくないことなら話さなくてもいいよ」
「いや話すと決めたし。時間あるなら聞いて」
「別にいいよ。時間は大丈夫」
「じゃあ話すよ。まあそこまで長くはならないとは思うから」
「わかった」
詩織と紗月の名前をよく間違えてしまいます。もし気がついた場合は教えて頂けたら幸いです。




